E3 2011レポート
「Devil's Third」クリエイター板垣伴信氏インタビュー
“2013年の早いうち”に発売! 東京ゲームショウで大々的に出展か!?
E3 2011開催直前に1つの奇妙な動画がユーチューブ上に公開された。お笑い芸人レイザーラモンHGがヴァルハラゲームスタジオに潜入し、同社で開発されている新作アクションゲーム「Devil's Third」を取材するというもの。今となってはリークなのか、意図的なものかは不明だが、奇しくもそれは後日、E3のTHQブースの大型モニターに映し出されたものとまったく同じ映像だった。
ゲームクリエイター板垣伴信氏率いるヴァルハラゲームスタジオらしいと言えばらしいが、そもそもこの動画は何なのか、せっかくのE3の機会に出展を見合わせたのはなぜなのか、そしてなんと言っても「Devil's Third」の開発は現在どのような状況なのか。「Devil's Third」は今回E3への出展を見合わせたものの、板垣氏自身はE3会場入りし、メディアの取材に応じていた。そこで弊誌でも板垣氏に率直な疑問をぶつけてみた。
なお、E3終了後の6月10日にはトレーラーのロングバージョンが公開された。未見の人はもちろんだが、すでに見ている人も、ロングバージョンはよりディープな情報やお笑いネタが詰まっているので再度見てみるといいだろう。
【「DevilsThird」“レイザーラモンHG”トレーラーロングバージョン】 |
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■ “レイザーラモンHG”トレーラーはいったい何だったのか?
インタビューに応じていただいたヴァルハラゲームスタジオ CTOの板垣伴信氏 |
「“レイザーラモンHG”トレーラー」ロングバージョン。内容的にはすでに公開されているショートバージョンと同じだが、ロングバージョンではお笑い的要素がたっぷりとゲーム素材が少しだけ見ることができる |
――「Devil's Third」に関して、E3直前にレイザーラモンHGが登場するティザー映像を公開されましたが、あれはなんだったのでしょう?
板垣氏: E3でもTGSでも同じなんだけど、ショウ出展用のバージョンを作ると丸1カ月ぐらい時間を取られちゃうんですよ。毎年毎年15年近くやってきたけど、PRとしてはともかく、開発の効率としてはあまり良くない。あとE3ってどこ見ても同じような映像ばっかりでしょう? それでTHQのトップのDanny Bilsonさんと相談したんだけど、彼はハリウッド監督だった人で、クリエイティブでマスに直球にアピールするハリウッドのメソッドを細胞レベルで持っている。面白けりゃいいじゃないってことで、お笑い番組を作りました。
――昨年E3での発表から1年経ちますが、その間のメディアやゲームファンの反応はいかがでしたか。
板垣氏: お客さん的には、板垣が始めたかという感じですね。
――どのような反応が多かったですか?
板垣氏: 励ましていただく声が多かったです。業界の方からもずいぶん応援して頂いています。聞き応えのある話で言えば、「ヴァルハラが成功しないようでは日本のゲーム業界は終わり。だから頑張ってくれ」と。まあこの場合、応援というより日本のゲーム業界の悲鳴といった方がいいか。
――ヴァルハラは今後スタッフも増やしていくとおっしゃっていましたが、今は何人くらいいらっしゃいますか。
板垣氏: 増やしすぎてしまって今は少し止めています。今60~70人の開発体制です。僕らにしか作れないところを作るには十分な数ですね。
――「Devil's Third」の開発の進捗はいかがですか?
板垣氏: いまお店で売ってるつまらないゲームの完成度って何%だと思います?
――その質問に答えるのは難しいですね。
板垣氏: でしょう? そういう意味ならすでに100%に近いですね。ただやっぱり作り込みが大事ですから、それに量の問題もある。シューターというジャンルは、オフしか遊ばないオフ専の人もいるし、対戦しか遊ばない人もいる。だからリプレイバリューもボリュームも、どっちも必要なんです。だから、ゲームのメカニカルな部分としての面白さはすでに100%に近いけど、しっかりした製品を作るという意味ではまだ20%、30%という部分かなあ。
――東京ゲームショウでお話させていただいた時には完成度は11%ということでした。
板垣氏: そうでしたかね。まあ、じっくり作っています。
――4年、5年ぐらいは掛かりそうな雰囲気ですね。
板垣氏: それはない(笑)。「Devil's Third」シリーズの第1作目なのでじっくりという表現を使いましたが、4~5年というスパンで考えてみれば、その間に何本か出ていると思いますよ。
――第1作目はいつお披露目できますか。
板垣氏: 来年のE3には出るだろう、いや、東京ゲームショウにも出るだろうね。
――じゃあ2012年に出ないかもしれない?
板垣氏: THQの資料にも出ているから、言ってしまっても良いでしょう。2013年の早いうちですよ。
――東京ゲームショウのインタビューでは、Wiiの新型機に高い関心を示していましたが、今回Wii Uが正式発表されました。対応プラットフォームにWii Uは加わりますか?
板垣氏: 良く覚えていますね(笑)。THQさんと検討しているところです。前向きに考えています。僕としては超前向きです。
――実際触られているのですか。
板垣氏: これからですね。
――触られてから決めると?
板垣氏: そういうことでは決めません。1番大事なのはお客さんです。僕のゲームは非常にバイオレントなので。Wii Uは裾野が広いかどうかです。ハードコアゲーマーもいる状況かどうかというのはマシンの性能で決まるわけではないです。メタな要因がたくさんあるんですよ。
――ゲームクリエイターとしてWii Uを見たとき1番気になる部分は何ですか。
板垣氏: 任天堂さんのカンファレンスで見た限りですが、日本を意識したアーキテクチャだなと思いました。日本は家が狭いでしょう。テレビがいくつも置けない。だから日本はポータブルに流れていった。子供がテレビを占有するならまだしも僕らの年代のようなハードコアゲーマーが、子供の見たい番組を差し置いて、テレビでゲームを遊ぶというのはちょっと考えづらい。だからWii Uの、テレビを取られてもコントローラー側の液晶でゲームを続行できますよというコンセプトは、据え置きゲームハードが昔ほど売れなくなった日本市場向けの対策なのかなと感じました。グッドアイデアだと思いますね。
【スクリーンショット】 | ||
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トレーラーではレイザーラモンHGがヴァルハラゲームスタジオ社内を覗き回り、様々な情報をゲットしていく |
■ 「Devil's Third」のゲームのメカニズム。板垣氏「今のシューターに疑問」
――先日公開されたトレーラーでは、「Devil's Third」は東京ゲームショウをお楽しみにというメッセージがありました。東京ゲームショウではどういったコンテンツが見れるのでしょうか。
板垣氏: 今のところ「Devil's Third」のゲームのメカニズムがわかるプレイ画面を僕が説明しながらお見せしようと思っています。プレイアブルではなくクローズドになると思います。今の時代ですからプレイアブルはとどめで良いと思っています。そこではあくまで情報を発信する場として考えています。ただのシューターではないし、ちょっと新しいジャンルですから、どんなゲームなのかを感じていただくためのデモを行なおうと考えています。本当はいくつか爆弾を落とそうかなと思ってたんだけど、時期的に早いかなと。
――爆弾ですか。爆弾のヒントだけでも教えていただけませんか。
板垣氏: 僕は小学生の頃から戦争の本ばかり読んでいるんだけど、用兵論上、今のシューターに対しては疑問を感じるところがありますね。あるいは戦場で1番怖いものは何かとか、戦場で1番人を不安にさせるものは何かとか、そういったものが描かれていないと思うのです。
――兵士の心理描写ということですね。
板垣氏: 兵士が何に負けるかということですね。今のシューターのほとんどは、戦争ごっこというか、エアガンを使ったサバイバルゲームみたいで。そういう意味では、リアリズムをまったく感じない。もちろんゲームには嘘は付き物だけど、いまのシューターの嘘の付き方はちょっと僕的にはNoです。
――恐怖を感じたり興奮を感じたりする要素をパラメータに反映させるのですか。
板垣氏: 僕はそういうベタなことはしない。ゲームの中のシステムによってもちろんゲームシステムは担保されているのだけど。ゲームの中のキャラクタが恐怖しているシステムでは面白くもなんとも無いのです。遊んでいる人が不安になることが問題なのであって、今あなたの不安度は82%ですから集弾率が下がりますということではない。言い古された言葉だけどヴァーチャルリアリティだと言えば話が早いかな。
――バーチャルリアリティという点で、Xbox 360 KinectやPlayStation Moveへの対応も検討していますか?
板垣氏: 無茶振りしますねえ(笑)。Kinectは考えていないです。元々カジュアルでファミリーというのが根底にあります。僕が作るゲームは日本ではZレーティングになるだろうし、アメリカであればMatureになるだろうし。KinectでMatureでZってタイトルはありますか? 大変ですよ、ずっと動いているのは。
――ゲームの操作はコントローラーで行なうということですね。
板垣氏: そうです。スタンダードコントローラーが1番です。
――板垣さんのゲームファンは、「Devil's Third」の具体的なゲームのメカニズムを知りたがっています。シングルプレイに関して、どのようなアクションに楽しめるのかもう少し詳しく教えてください。
板垣氏: アクション要素にシューターがついているのではなくて、シューターに対してアクション要素がついているだけです。アクションの部分というのはククリナイフや日本刀も出れば、スレッジハンマーもあります。現実世界で、目の前の気に入らないやつをぶっ殺したいと思ったら、手持ちの物で殺すでしょ? 鉄砲があれば鉄砲撃つし、ナイフがあればグサッとやる。何もなけりゃ素手で殺すしかない。要するに格闘術と剣術、そして射撃術のハイブリッドということですよ、このゲームは。
――複数人による協力プレイは用意されているのですか。
板垣氏: いや、キャンペーンは1人です。
――主人公に加えてヒロインらしき女性のキャラクターがいましたが。
板垣氏: プレイアブルなCO-OPではないということです。プレーヤーはあくまで男で、彼が主人公です。ああ、ただ結構女性は出てきますね。好みのキャラをヒロインだと思ってください(笑)。
――ちなみにゲームの舞台はワシントンD.C.だけなのですか。
板垣氏: それはまだ秘密です(笑)。
――世界を転戦するようなイメージですか?
板垣氏: 世界漫遊記にしても仕方が無いから、ストーリー的に必要なところに行きますよ。
――「モダンウォーフェア」シリーズのように各地を転戦するのですか。
板垣氏: 「モダンウォーフェア3」は凄いゲームですねえ。衝撃的と言って良いレベルです。ただあのゲームが世界を漫遊する理由は、僕の分析だと、ストーリーの要請と言うより販売戦略でしょうね。各国のAFVやら武器などを登場させられますから。僕も含めてミリオタにはたまらんでしょう(笑)。またシューターはアメリカだけでなくUKや色々なところで売れてますから。自分の国が舞台だったり、自国の軍が主役になっているチャプターがあったら、もっと売れちゃう。だから各地を転戦するんじゃないかな。まあ、格闘ゲームのキャラの国籍がゲームの売れる国を一通り網羅するのと同じようなもんですね(笑)。
――「Devil's Third」ではそれを意識していない?
板垣氏: そうです。どこの国の人でも楽しめるように作りますが、何にしてもストーリーの方が大事ですね。今回は。
――マルチプレイの実装について伺います。「Devil's Third」はどのような仕様になりますか?
板垣氏: 既に遊ぶ事ができます。どんどん人数は増やしたいし、正確性を高めていきたい。
――最大の対戦人数は?
板垣氏: 32人までいけたら良い仕事といえるのではないかな。
――アクロバットなアクションができるシューターで多人数プレイというのはなかなか想像ができないのですが、どういった風景を想像すれば良いですか?
板垣氏: いやいや、普通に殺し合うだけですよ(笑)。攻撃の3本のハイブリットがあります。ガン、刀、マーシャルアーツ。それらを駆使しながら戦う。
――マーシャルアーツがガンに勝つというのはなかなか難しいように思いますが。
板垣氏: あなたの後ろから襲い掛かったら簡単に殺せるでしょう?
――互いが離れた状態から距離を詰める方法は?
板垣氏: 去年のトレーラーを見てもらえばわかるのですが、立体的な動きができますよね。立体って事は死角が多いってことです。というか、それが現実世界なんですけどね。
――マルチプレイのゲームモードにはどういったものがあるのですか。
板垣氏: たくさん入れたいですね。他のシューターについているモードはもちろん盛り込むつもりです。俺たちのゲームプレイでなければ作れないようなモードももちろん入れます。
――具体的にどういったモードですか。
板垣氏: それは東京ゲームショウでお見せします。
――音楽や声優は誰が担当しているのですか?
板垣氏: ハリウッドです。声優もハリウッドです。モーションアクターもホンモノ。
――今回の「Devil's Third」はシリーズの第1弾に過ぎないとのことですが、全体像を教えてください。
板垣氏: それはまだいえない(笑)。すごいことを考えています。ゲームはいえないけど、漫画や映画といったトランスメディア展開は考えています。
――メディアミックスは映画・アニメ・グッズ等ですか?
板垣氏: アニメはやはりジャパニメーションですからね。アニメではなくて小説はあるかもしれない。背景設定がかなりリアルなジオポリティクスに基づいているんだけど、ゲーム中に説明したって伝えきれない。他のメディアで説明するとか、知りたい人はそちらを見てねということを開発当初から考えています。
――「Devil's Third」を通じて1番伝えたいメッセージは何ですか。
板垣氏: 闘争ですね。コンフリクトです。
――ユーザーさんにメッセージをお願いします。
板垣氏: かつては世界の延期王と呼ばれた板垣ですが、今回はじっくり作っていますので良いものができますよ。任せてください。
――ありがとうございました。
今回は新素材はなしということで、こちらは東京ゲームショウで公開されたゲームの舞台を描いたイメージイラスト |
□Electronic Entertainment Expo(E3)のホームページ(英語)
http://www.e3expo.com/
□THQのホームページ(英語)
http://www.thq.com/
□ヴァルハラゲームスタジオのホームページ(日本語)
http://www.valhallagamestudios.com/
(2011年 6月 14日)