GDC 2011レポート

新興ゲーム業界を制したゲームエンジン「Unity」の日本戦略
グリーとの提携を実現し、もはやライバル不在の一強時代の到来か!?


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 昨年のGDCにて、弊誌では「ミドルウェア戦国時代!」と題し、安価なライセンス価格でモバイルゲームを中心とした新興ゲーム業界に向けて大いに競争する2社のゲームエンジン企業をご紹介した。Unity、そしてGarageGamesのTorqueエンジンだ。

 今年も、これら気鋭のゲームエンジンがしのぎを削っていると期待して向かった今回のGDC Expo。しかし、そこにGarageGamesのブースを見つけることはできなかった。、このカテゴリーでは、さらに存在感を増したUnityのブースがあるのみだったのだ。

 世界中のゲーム開発者が集まるGDC Expoへの出展は、ゲームエンジン企業にとって極めて重要な露出機会と言える。そういった場に姿を表さないことが、すなわち競争に敗れたという結論には必ずしも繋がらないが、少なくとも会場で受けた印象では、Unityの一人勝ちが起きた、と見えたのが正直なところだ。

 それに加えて、Unityは日本市場がらみの重要な提携を複数発表しており、日本のゲーム開発者にとっても無視することのできない存在になりつつある。このような流れもあり、本稿ではUnityに注目してお伝えしたい。



■ 日本企業との提携を相次いで発表、ゲームエンジン以上の存在へなりつつあるUnity

Unityのブース。常にたくさんの人でごった返していた
Android対応を果たしただけでなく、「Xperia PLAY」向けに最適化されたゲームをUnityで作成できる

 「Unity」は、米サンフランシスコに本拠を置く企業、Unity Technologiesのゲームエンジンだ。統合型のゲームエディターによる抜群の開発環境をベースに、各種の優れたミドルウェアライブラリをインテグレート。幅広いプラットフォームに対応し、ワンソースマルチプラットフォームの開発を可能にする。その上でライセンス費用が非常に安く、独立系デベロッパーの幅広い支持を集めていることが最大の特徴である。

 GDC ExpoでのUnityは、エンジン系企業としてはEPIC Games、Crytekに並ぶ大きなブースを出展しており、オープンな空間に多数のデモマシンを設置、自由に開発ツールを試せる環境を提供していた。そのUnityで最近の大きなニュースには、日本絡みのものが多い。ソニー・エリクソンの「Xperia PLAY」向けのゲーム開発・配信での提携、そしてグリーとの技術提携だ。

 ソニー・エリクソンとの提携は、ゲームのパブリッシングに関するものだ。Unityは「UNION」という、独立系デベロッパーに向けたパブリッシング代行部門をスタートしている。開発者がUNIONに高品質なゲームを登録すると、Unityの専門部隊が最適なプラットフォーム、配信チャンネルへの移植・配信を代行して、効果的なマネタイズを実現するというものだ。ソニー・エリクソンの「Xperia PLAY」はその最重要配信チャンネルのひとつとなる。専用のAPIとプラットフォーム最適化により、各開発者による「Xperia PLAY」向け推奨ゲームの効果的な開発とパブリッシングを支援するという内容だ。

 グリーとの提携では、Unityで開発するゲームにGREEプラットフォームの機能を簡単に組み込める「Unity Plugin for GREE」が、グリーの開発パートナー向けに3月1日より正式に提供開始されている。これによりグリー向けゲームの開発者は、Unityで開発したゲームに容易にGREEのソーシャル機能や決済機能を組み込むことができるという。

「Unity Plugin for GREE」を使って作られた「Cosmo Lightning」というゲーム。フレンドリストなどグリーの機能を簡単に呼び出せる

Unityの日本担当ディレクター大前広樹氏

 ここ数カ月の間に立て続けに行なわれたこれらの提携には、ひとつの大きなきっかけがある。モバイルプラットフォーム向けのゲーム開発を行なってきた日本の独立系デベロッパー、KH2Oの代表である大前広樹氏が、Unityの日本地域担当ディレクターに就任したことだ。

 大前氏は以前よりUnityのユーザーとして開発・普及活動を続けてきており、昨年9月に行なわれたCEDEC 2010にて、UnityのCEO、David Helgason氏と直接面会。そこで日本担当ディレクターの役割を提案され、やや迷いつつも引き受けたという。大前氏としては、以前より個人的にUnityを国内の開発者に勧めてきた活動に「公式」の支援を得られるようになり、Unityとしては日本市場のことがよく見えるようになりと、お互いにやりたいことが合致して、このようにスピーディに物事が進んできた、ということのようだ。

 このほかUnityでは、次期バージョンに向けてAllegorithmicのプロシージャルテクスチャー技術「Substance」の統合を進めており、技術的にもますます強力なソリューションになりつつある。さらに、Unityは公式サイト上で「Unity Assset Store」というサービスを開始。デベロッパーが開発を完了したゲームの使用アセットを、このストア上で販売することができるのだ。他の開発者は格安でこのアセットを購入することができ、さらにゲーム開発の敷居が下がるという寸法である。

 PC、Macから各種コンシューマーゲーム機、そしてiOS、Androidへの対応も果たし、ワンソースでマルチプラットフォームにゲームをパブリッシングできる開発ツールとして成熟し、さらにはパブリッシング、アセットの流通と、ゲームエンジン以上の存在になりつつあるUnity。続いてインタビューの模様をお伝えしよう。


プロシージャルテクスチャー技術「Substance」。数キロバイトのファイルで2,048×2,048ドットのような巨大で詳細なテクスチャーがリアルタイムに生成される。パラメーターの変更でテクスチャーの柄を非常に細かく、自由に調整することが可能で、既存の画像から逆算して「種」となるデータに落とし込むことも可能。テクスチャーを計算で展開する処理は、スマートフォンで利用可能なほど高速だという。Unityの次期バージョンから実装予定で、その際にはUnity Asset Storeで600種類のテクスチャーが1枚5ドル前後で公開されるという



■ CEO David Helgason氏&日本担当ディレクター大前広樹氏インタビュー

UnityのCEO、David Helgason氏

──Unityは日本向けの提携を積極的に進めていますね。

Unity Technologies CEO David Helgason氏:私たちにとって日本市場はまだ小さく、成長の途上にあります。これまで私たちには日本市場にコミットするための十分な時間もリソースもありませんでしたが、日本市場をカバーしてくれる素晴らしいスタッフを得られたことで、状況は変わりました。

 元々私たちはこのような大きな契約ではなく、無数の開発者をサポートする会社としてスタートしました。ですから日本への第1歩としていきなりオフィスを設立するようなつもりもなかったのです。しかしそこに、Unityを良く知り、ゲーム開発をよく知る方がいましたので、自然な形で日本市場に入っていくことができました。

 そしてグリーとの話し合いをしました。素晴らしいプラットフォームには素晴らしいゲームが必要だと思います。どんなプラットフォームも、ゲームポータルとしていきなりスタートするのではなく、良いゲームが存在することによってゲームポータルになっていくのです。無数の開発者が存在するUnityでは、それが自然に成し遂げられるのではないかと期待しています。我々としても、素晴らしいパートナーを得ることができたと思っています。

──グリーの他にも、ソーシャル系サービスとの提携を考えていますか?

Helgason氏:Unityを使ったゲームはすでに、多くのソーシャルネットワーク上で見ることができます。MySpace、韓国のCyworldなどでは自然にUnityのゲームが登場しています。Facebookはまだできていませんが、やはり重要だと考えています。

──日本市場はUnityにとって重要だと考えていますか?

Helgason氏:いや、正直なところ「まだ」重要ではないです(笑)。というのも、いまのところ日本でのビジネスはまだ小さいんです。しかし、これから変わっていくと考えています。ですので「これから」重要なマーケットになっていくと思います。

 ご存知のとおり日本には世界中のどこよりも多数のゲーム開発企業があり、非常に巨大な産業を構成しています。また、本当に大きなゲーム会社がいくつもあります。日本の会社の多くは技術に自信があるようですし、我々がその世界を無理に変えようなんて考えは持っていません。しかし、既存のマーケットでうまくやってきた人たちが、例えばiOSやAndroid、あるいはWebに進出しようという際には、我々のエンジンが技術上の問題を解決したり、クリエイティビティを発揮するための助けになると思います。

 実は昨年の9月、CEDECに招待されて行ってみたら、Unityを使っている人はあまりいないだろうなと思っていたところ、すごくたくさんの人が使っていることがわかって、本当にビックリしました。そういう事もあって、これから日本のデベロッパーとうまくやっていけるような気がしています。

──CEDECで講演した際のフィードバックは非常にポジティブなものだったのですね。

Helgason氏:はい、本当にポジティブでした。Unityを使っているたくさんの会社や人々に出会うことができましたし、その時はiPhone向けなど小規模なスタジオで使っている人が多かったのですが、講演には予想もしていなかった大きなスタジオの人々が来てくれて、大きな刺激になりました。

日本での最近のユーザー数統計をその場で調べてくれた

──日本でどれくらいのUnity開発者が存在するかは把握していますか?

Helgason氏:実は昨年9月にリリースしたUnity 3.0にGoogle Analyticsが乗ってまして、使っている人の数が見れるんですよ。今ちょっと調べてみますね(iPhoneを取り出す)……。出ました、いま日本では9,000人くらいの人が使っているようですね。これは学習に使っている学生や、趣味で使っている人など、無料版のユーザーも含まれています。いくつかの大学の授業でもUnityを使用していると聞いていますよ。

──ひとつ気になっていることが。UnityのAndroid版はどういった実装になっているんでしょうか? Androidアプリは基本的にJava VM上でJavaコードが走るという構成ですが、それではゲームエンジンとして必要なパフォーマンスが出ませんよね。Unityはネイティブコードで走っているんですか?

Helgason氏:Unityはネイティブコードで走っています。ごくわずかのJavaコードも含まれていますが、ほとんど全部C++です。具体的には、Androidのアクティビティ(オンスクリーン状態にあるアプリケーション)とつなぐ部分だけがJavaです。Unityで全部ネイティブコードで処理してレンダリングして、画面を出すところだけJavaという感じです。

──NDK(Native Development Kit)を使っているということですか?

Helgason氏:そうです。ですのでAndroid OS 2.0以上が必要になっています。

──NDKでそれをやるとはほとんど魔法ですね。

Helgason氏:技術とは魔法そのものです(笑)。

──技術面でいうと、UnityはこれまでPhysX、Umbra、RakNet、Beast、そしてSubstanceと多くのミドルウェアを統合してきました。今後また新たなミドルウェアを統合する予定はありますか?

Helgason氏:わかりませんね(笑)。ただ、私たちは可能性のあるミドルウェア企業と常に話し合いをしています。これにはビジネス的に難しい部分もあって、ご存知のとおりUnityのPro版は1,500ドルで購入でき、フリー版はタダです。それにバンドルするということですから、ミドルウェア企業にとっては問題ですよね。その中で私たちとしては良い取引ができるよう考えていますが、たいていはとても複雑なものになりがちです。ですのでそうホイホイとはいかないわけです。

 しかしその反面で素晴らしいこともあります。私たちはミドルウェアを非常に深く、密接に統合します。拡張機能というよりは完全にUnityの一部になるんです。例えば物理エンジンのNVIDIA PhysXですと、PhysXのプログラムインターフェイスをそのまま出すのではなく、物理計算の数学の部分など、深い部分でUnityに入れてしまうわけです。

──今後のUnityを通じてどのような戦略を展開していこうと考えていますか?

Helgason氏:新しい戦略のようなものは考えていないんです。私たちの戦略はこれまでと同じように、ゲーム開発者をより生産的にして、より成功を納めやすくして、ハッピーになってもらうこと。そしてもっと多くの人々がゲームを作れるようにすることです。

 それに関していうと、最近発表した大きなことがひとつあります。今年、UnityからFlashにゲームをエクスポートできるようにします。これにより、ブラウザ上で動作するFlash 3DのゲームをUnityで作れるようになります。作ったゲームがどこででも動くようになるわけで、非常にエキサイティングなことだと思いますよ。

大前氏は、Unityを通して日本のゲーム開発者を幸せにできれば、と考えてこの役割を請け負ったようだ。KH2Oの本業であるゲーム開発も継続中とのことで、多忙な日々を送っているようだ

──大前さんにもお話を伺いたいと思います。現在、Unityの日本担当ディレクターという肩書きをお持ちですが、具体的な役割について教えてください。

大前広樹氏:昨年11月からやらせていただいています。簡単にいうと、Unityの彼らは日本のことをそんなによく知らないんですね。そこで、どうすれば日本でUnityを使いたい人にリーチできるのか、どうすれば日本市場の可能性、日本の開発者が持っている可能性にアプローチできるのかということを考えて、Unityと日本の開発者の方を橋渡しするようなことが役割だと考えています。

 また、Unityには無料版もあるわけですよね。個人の方とか学生さんなども使えるツールですので、そういう方達にどうやって提供すれば、こういうと変かもしれませんけど、皆が幸せになれるのかなと、そういうことを考えてやっています。もちろん企業さんから各種のお問い合わせやご相談をを頂いたら答えさせていただいています。でもそれだけじゃなく、日本にUnityを浸透させていく、エバンジェリスト的な役割も込みという感じですね。

 私自身、Unityを使ってゲームを作るのはすごく面白いと思ってます。それで、Unityを使えば日本にあるクリエイティビティみたいなものがいい感じに発揮できるような気がするんですよね。

──なるほど。本当にUnity好きが嵩じて、という感じですね。当面の目標みたいなものはありますか?

大前氏:そうですね、今のところのフォーカスは、まず企業でUnityを使いたいというところにお手伝いすることです。例えばグリーさんのように、SDKを作るお手伝いをさせていただいたりとか、あるいはあるゲーム開発企業さんからUnityを使ってゲームを作りたいんだけど、という話をいただいて、お手伝いさせていただいたりとか、そういうことを第1段階としてやっています。

 まあ、まだ自分ひとりでやっていますので、もし100社とかから話が来たら死んじゃうわけですよ(笑)。だからまずは、出来ることからやっているという感じです。あと最近、グローバルゲームジャムという、48時間でゲームを作るという世界同時多発イベントがありました。その東京会場に参加した際、参加者70名の方に、期間内限定でフルに使えるUnityのPro版を提供させていただきました。私自身も参加して、Unityを使って48時間でゲームを作ったんですよ。

──ぜひそのゲームをプレイしてみたいと思います。ありがとうございました。

(2011年 3月 7日)

[Reported by 佐藤カフジ]