CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

 

SCEJによる「PlayStation Move」タイトル開発事例

コントローラーを「ペン」や「網」に見立てた4作品を紹介


8月31日~9月2日 開催

会場:パシフィコ横浜



ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 エグゼグティブプロデューサーの池尻大作氏。プレゼンテーションにも「PSM」が使われていた
何かに見立てるという発想でタイトルを企画

 10月21日に発売を控えるプレイステーション 3用コントローラー「PlayStation Move」(PSM)。「CEDEC 2010」では、「PlayStation Moveタイトルの作り方(SCE JAPANスタジオの場合)」と題したセッションが開かれ、ファーストパーティータイトル4作品を題材に、「PSM」用タイトル開発のポイントが語られた。

 まず株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 エグゼグティブプロデューサーの池尻大作氏は、「PSM」のタイトル開発において特に大事にしたこととして、「直感的で誰でもプレイでき、見ていて楽しそうなもの」、「体を動かす健康的なイメージ」、「ユーザーが覚えることを極力なくす簡単さ」、「みんなで遊ぶとより楽しい」という4点を挙げた。池尻氏は「これに注力すれば、PS3用としては比較的ローコストなタイトル制作ができるのでは」と語った。

 SCE JAPANスタジオでは、アイデアがかぶらないよう、部やチームを超えた横断的なプロジェクトチームを結成。「PS3の拡販につながるような、気軽に手にとってわかりやすいタイトルを作ろう」というのが目標として開発が行なわれた。そのためには、コントローラーを何かに見立てるのが素直な使い方だと判断し、「ペン」、「ライト(懐中電灯)」、「網」の3つに見立てたゲームが開発された。




■ 「ペン」で音を奏でる「Beat Sketch!」

ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 プロデューサーの椎名寛氏

 第1の使用例「ペン」を使ったタイトルは「Beat Sketch!(ビートスケッチ)」。ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 プロデューサーの椎名寛氏は、絵描き歌をゲームにしようと考えた。音に合わせて絵を描くという目標設定もあり、UGCの可能性にも期待した。しかし海外では絵描き歌に似た遊びがなく、歌詞の翻訳もニュアンスが難しい。そこで発想を逆転し、「絵を描くことで音を奏でる」というコンセプトにした。

 テレビの画面をキャンパスに見立てて、コントローラーに自由に絵を描ける。何かを描くと効果音が鳴り、2小節でループするBGMにその音が入る。描けば描くほど音が重なっていくという仕掛けだ。ペイントソフトとしても基本的な機能は入っているが、あくまで楽しみながら体を動かす、ラクガキツールとして作っているという。描いた絵は静止画として保存できるほか、動画としてYouTubeにアップロードも可能。さらに複数人に競い合うゲームモードなども用意しているという。


最初は「絵描き歌」を想定していたものの、海外展開が難しく断念。「絵を描くことで音を奏でる」というコンセプトで、ラクガキを楽しむソフトになった



■ 「ライト」で照らして影を動かす「無限回廊 光と影の箱」

ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 アソシエイトプロデューサーの鈴田健氏

 2つ目の「ライト」を使ったのは、影を操るゲーム「無限回廊 光と影の箱」。影の上を歩く人をゴールに導くというルールで、コントローラーをライトに見立てて光を照らし、角度を変えて影を動かす。ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 アソシエイトプロデューサーの鈴田健氏が説明を行なった。

 発想はわかりやすいゲームだが、光の動かし方が難しかったという。プレーヤーがオブジェクトに回りこむように動ける「惑星軌道」であれば角度を大きくつけられるので、影を大きく動かせるが、操作感覚が掴みづらい。逆に正面から照らす角度を変えるだけの「スポットライト」にすれば、感覚は掴みやすいが、影の動きが小さくなる。結局、現実の「ライト」をそのまま見立てるのではなく、2つの手法のいいところを取る形で、現実にはないがゲーム的に解釈して実装した。

 またコントローラーの精度がよすぎるのも悩み。影を適切な形で止めなければならないが、どうしても手の震えが伝わってしまい、繊細な動きを求められるゲームであるのに、ぴたっと止められない。この対策として、コントローラーの動きをゲームに反映するのを遅らせ、遊びを作った。精度が高いゆえに悩み、反応を遅らせることで対策するというアプローチが面白い。


コントローラーで光を当て、影の上を歩く人をゴールに導くゲーム。光の扱い方に苦慮したが、ゲーム的な実装で解決した



■ 「ライト」で照らして影を動かす「フリフリ!サルゲッチュ」

ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 シニアゲームデザイナーの飯島貴光氏

 3つ目の「網」を使うゲームは、おなじみ「サルゲッチュ」シリーズの最新作「フリフリ!サルゲッチュ」。ソニー・コンピュータエンタテインメント 制作部 シニアゲームデザイナーの飯島貴光氏は、「コントローラーを、ピポサルを捕まえるゲットアミに見立てれば、リアルなサルゲッチュができるのではないか」と発想を説明した。

 本作が過去作品と異なる点として、「1人称視点になったこと」、「プレーヤー自身がゲッチュする」、「ピポサルはプレーヤーが持っているバナナを奪いに向かってくる」という3点がある。向かってくるピポサルに向かってゲットアミを振って捕まえるという、実に直感的な内容になっている。なおゲームは自由に移動できるアクションではなく、オートスクロールのライド方式に変更されている。


近寄ってくるピポサルをゲットアミで捕まえる、シンプルな体感型アクションゲームになった



■ 「何にも見立てない」普遍的な使い方で遊ぶ「街スベリ」

ゲームのアイデアだけでなくテイストも他とは違う「街スベリ」

 何かに見立てる3タイトルのほか、「何にも見立てない」タイトルとして、「街スベリ」が紹介された。オフィスチェアーにまたがったサラリーマン風の男性が、椅子を滑らせて街中を疾走するという、テイスト的にも独特なスピードアクションである。

 本作は前述のとおり、コントローラーを何かに見立てたわけではなく、純粋にモーションコントローラーとして扱う。上下に振ると足で地面を蹴って加速し、左右に動かすとカーブ、振り上げるとジャンプ。前に突き出すと加速するブースト技を使用し、下げるとブレーキをかける。非常に直感的でわかりやすい操作形態だ。

 ところが「振り上げる」という操作が意外と開発を悩ませた。肩の上まで高く掲げる人もいれば、肘を曲げて上げるだけの人もいる。飯島氏は「2人とも正しく操作していると思っているのに、うまく動かないとストレスになる」と説明した。この対策には、1cm単位の調整を行なってアジャストしていくほか、チュートリアルで正しい動きを絵で伝えるといった工夫、感度設定のオプション項目を用意することといった解決法を示した。


「PSM」を純粋にモーションコントローラーとして見た例。操作は人によって感覚の違いがあるので、そこを埋めるアプローチが必要



■ 「PSM」はアイデアで勝負できる、日本人向けのプラットフォーム

 最後に池尻氏が再度登壇し、「PSM」における開発の注意点をまとめた。まずコントローラーの自由度が高まった分、「逆にゲームにはシンプルなルールや簡単な操作系にすることが重要」という。またモーションによる操作は人によって幅が広く、そこを吸収するには「トライアンドエラーやユーザーテストに時間をかける必要がある」と語った。

 SCE JAPANスタジオで開発されたタイトルの開発チームは、いずれも15~30名程度とPS3にしては小規模な開発になっているという。また注目すべき点として、今回紹介された4本がいずれも海外で発売されることを挙げた。「海外ではゲーム性が理解されず、日本でしか売られていないゲームは多くある。『PSM』は言葉で説明しなくても操作できるので、そういう部分はあまり感じない。日本のデベロッパーのアイデア力は期待が高く、我々に向いているプラットフォームなのでは」と説明。続けて「まずはファーストパーティーがゲームを出して普及に努めるので、安心して開発して欲しい」と述べ、来場した開発者に「PSM」への参入を呼びかけた。


アイデア次第で比較的小規模・低予算でゲームを開発でき、しかも世界に打って出られるという点をアピールした

(2010年 9月 3日)

[Reported by 石田賀津男]