全力で「ブラウザ三国志」をプレイしたkawango氏、空前のユーザーオフ会を主催
つぎ込んだお金は数百万円? Mixi第9ワールドの激闘を振り返る

4月24日 開催




 4月24日、株式会社AQインタラクティブとONE-UP株式会社が開発・サービス展開するブラウザゲーム「ブラウザ三国志」のオフラインイベント「第九サーバ 天下統一記念パーティ」が開催された。会場は東京・水天宮にある一流ホテルの大ホール。立食パーティ形式で行なわれた歓談の場には100人を超える関係者が集まった。ゲームのユーザーが企画し、ユーザー自身が実施したオフ会としては規格外の費用をかけた催しである。

 このイベントが開かれた経緯は相当に特殊だ。その始まりは「ニコニコ動画」でおなじみの株式会社ドワンゴの社員たちが「ブラウザ三国志」にのめり込み、全力でプレイしたことに端を発する。彼らは日常業務の傍ら、Mixi第9ワールドに「ドワクエ」なるゲーム内同盟を結成。その盟主はkawango氏だ。その正体はドワンゴ代表取締役会長の川上量生氏だが、本稿では本イベントの趣旨に従い、“kawango”と表記する。

 会長の肝入りで「天下統一」を目指すことになった同盟「ドワクエ」は、課金アイテムを無尽蔵に利用しながら瞬く間にMixi第9ワールドを席捲。他の有力同盟を蹴散らし、勢力を拡大しながら制覇勝利まで1歩というところまで迫った。残念ながら最終的には天下統一は「ドワクエ同盟」の手から転がり落ちてしまったものの、4カ月のゲーム期間を終え、そこに様々なドラマ、伝説が生まれた。こうして同盟メンバーが分かち合ってきた労苦をねぎらおうと、盟主kawango氏が今回のオフ会を企画したというわけだ。

 会場には「ブラウザ三国志」開発元のAQインタラクティブ/ONE-UPからは開発ディレクター瀧澤法弘氏が「ゲストとして」招待されていたほどなのだが、あくまでユーザーメイドのオフ会である。「ブラウザ三国志」がユーザーサイドでこのように盛り上がってしまった経緯も含めて、この奇妙な事象を本稿でレポートしよう。

【会場の様子】
100名あまりの「ブラウザ三国志」ユーザーが集まり、ゲーム内では同盟やライバルであった仲間たちと交流を楽しむ。「ドワクエ」関係者のほか、「土佐藩」の盟主など、Mixi第9ワールド有力同盟関係者が大勢来ていたようだ



■ 「ドワクエ同盟」はとんでもない重課金ユーザーの群れだった

「皆さん楽しんでいってください」と簡単な挨拶をしたkawango氏
ユーザーのオフ会でこの料理
「ドワクエ」が戦いを繰り広げたマップ状況

 AQインタラクティブが開発とサービスの展開を手がける「ブラウザ三国志」は、複数のゲームポータルやSNS上でプレイできる戦略志向のブラウザゲームだ。三国志というテーマを生かした内政・戦争と、コレクション欲を刺激する武将カードシステムが魅力となっているゲームで、「ドワクエ」同盟が存在するMixi上のバージョンだけでも50万人以上のプレーヤー数を誇っている。

 今回開催されたオフ会は、そのユーザーのひとりであるkawango氏が中心となって企画・主催したものであり、法人である株式会社ドワンゴが設営を担当しているものの、やはり形としては純然たるユーザーメイドのイベントだ。そもそも、こういったオフ会を開催するに至った経緯からして面白い。

 kawango氏によれば、Mixi上でゲームアプリが続々と出てきていた昨年末、何か面白いものはないかと物色していたのがきっかけだったそうだ。数あるアプリのなかで「ブラウザ三国志」が選ばれた理由は、単純に「面白そうだったから」というもので、ごく純粋なゲームユーザーとしての関心から全てが始まっている。そして、「やるなら極めるまでやる」というのがドワンゴ流ということらしく、そのプレイぶりは常識外れなものになった。

 まずkawango氏が、社内でゲームに強いコアメンバーに声をかけてプロジェクトがスタート。そのほとんどは「ニコニコ動画」の企画開発に携わるメンバーだ。しかし、当初「ブラウザ三国志」をやりこんでいた者は少なかったため、戦力の増強とノウハウの獲得を図り、社外のゲーマーにも声をかけて「ドワクエ」同盟を結成。この時点で集まった10名弱ほどのメンバーが核となり、凄まじいプレイぶりを展開していく。

 まず、ありとあらゆる課金アイテムを駆使した。その使いようは底の抜けたバケツの如しで、月に何十万円という単位。kawango氏はともかく、社員メンバーもはまりにはまって月給の20%ほども「ブラウザ三国志」につぎ込んでいたというのだから仰天する。こうして、1回600円のガチャシステム「ブショーダス」を回しまくり、ゲーム内でレア、スーパーレアとされる「R」、「SR」の武将カードを大量に確保。一般ユーザーなら1枚出れば一生大事にするというレベルのカードを、失敗すればカードが失われる「合成」にも使ってしまうというのだからケタが違う。

 こうして圧倒的な戦力密度で大暴れを開始した「ドワクエ同盟」では、「城内に大量破壊兵器を隠し持っているおそれがある」、「SR武将の合成に失敗したのは貴国の陰謀によるもの」といった、言いがかりに等しい宣戦布告文をkawango氏が起草するなどして、対抗勢力を次々に撃破、あるいは吸収合併した。被害者となった大手同盟の盟主は「テスト勉強中に攻めこむのやめて下さい。KYですよほんとに」と会場で訴え、笑いを誘っていた。

 こうして、「全員トータルで500万以上は使ったかも」(kawango氏)という、重課金ユーザーの群れとなった「ドワクエ同盟」は、目標である天下統一まであと1歩のところまで迫った。しかし、普通のユーザーにとって最後の砦となった「土佐藩同盟」との戦いを戦争で決着することができなかった。互いの拠点が遠すぎて戦争に時間がかかりすぎ、互いに決定打を与えられなかったのである。

 こうして天下統一を目指す最後の戦いは、盟主同士の「じゃんけん」という一騎討ちによって決まった。これに「ドワクエ同盟」は敗れたものの、実質的に「ブラウザ三国志」を極めたという自負もあってか、意外と爽やかな幕切れだったようだ。



■ Mixi第9ワールドに築き上げられた数々の伝説

「ドワクエ」が残した伝説の数々を紹介

 会場では数名の同盟関係者が登壇し、スライドを用いて「ドワクエ同盟」での戦いぶりをプレゼンテーションした。その中で、ドワンゴ統合情報システム部に所属するyamashiro氏が披露した数々の伝説、逸話は特に面白い。

    ・2秒でNPC城(孫権)を攻略した
    ・半日でトップ20の同盟を攻略した
    ・課金が異常(給料の20%を投じる者も)
    ・戦争すると「R」、「SR」のレア武将が飛んでくる
    ・それすら合成素材にする
    ・戦争が起こったと認識した時点で配下にされた
    ・配下にした大手盟主を引退、就職活動に追い込んだ
    ・抵抗したら友好同盟に土地を根こそぎ奪われた
    ・拠点は1万CPを使って即完成

 などなど、ケタ違いの内容。犠牲となった盟主の皆さんにはご愁傷さまというほかないが、そのねぎらいもあって、多数のライバル同盟関係者も本オフ会に招待されており、kawango氏ら「ドワクエ同盟」メンバーと歓談を楽しんでいたようだ。

 さらにyamashiro氏が披露したのが「ブラウザ三国志」の戦略プレイの側面を強力に支援する外部ツールを開発したという話だ。説明によると、このツールは「同盟内の誰が、いつ、どこに、どれだけの兵力を送ったか」などの戦略情報が即座にわかる機能を持っており、メンバーの個人サーバーで運用、同盟内で利用していたという。社員の技術力も結集して、「ドワクエ同盟」が大人気のないまでに全力でゲームに取り組んだ様子が伺えるエピソードだ。

「ドワクエ」のgensan氏が披露した「出る死ぬ砦」のエピソード。最前線に砦を作ったら一晩で落とされており、「なんで自分だけ……」と思いつつ、援軍や籠城設定にも気を配って砦を作り直すもまた落とされる。頭に来て八方手を尽くし、防備万全の砦を築いたら終戦。そんな経緯で、最前線の危険な位置に砦を作り即失うことを、「ドワクエ」内では「gensanする」と呼ぶようになったそうだ



■「こんなに愛されたワールドは他には無いんじゃないかな」。開発ディレクター瀧澤法弘氏インタビュー

開発ディレクションを担当する、ONE-UPの瀧澤法弘氏
会場のユーザーから寄せられた沢山の要望に答えた

 会場に招待されていた「ブラウザ三国志」開発ディレクターの瀧澤法弘氏も、このようなイベントが開催されたということは大きな驚きであったようだ。筆者はその瀧澤氏にインタビューを行ない、イベントの感想をはじめ、今後の「ブラウザ三国志」についてなど伺ってみたので、その内容をお伝えしておこう。

── 今回、「ドワクエ同盟」のメンバーがものすごいお金をかけていたということですけれども、運営側としてその動きには気づいていましたか?

ONE-UP株式会社 企画プロデュースグループ ディレクター 瀧澤法弘氏:そうですね、とても大きな課金をしているというのは耳に入ってきましたね。それで実際、その中でもすごい課金をされているkawangoさんですら自分のことを「3位」だと言っていましたので、本当に凄いサーバーだなと思いました(笑)。

── そういった流れで、「ドワクエ同盟」が今回のパーティを主催したわけですけれども、ゲームの中でも外でも盛り上がっている、この状況についてどう思われますか。

瀧澤氏:本当に嬉しいですね。特に、ユーザー主導でここまでして頂けるとは、本当にありがたいなと思っています。

── ゲームのほうでは、「ドワクエ同盟」と「土佐藩同盟」の戦争が、あまりにも時間がかかって泥沼化してしまうので、じゃんけんで勝者を決めたという経緯がありますが、これについて開発側としては「システム上の問題」、あるいは「狙い通り」、どちらの捉え方をしていますか?

瀧澤氏:そうですね、天下統一のためにはある程度外交が必要であるというのは、我々としても考えているところでして、他のワールドでも同様に、話し合いでひとつの同盟が統一するということもありました。ただ、開発者としては少々不本意なところもありますね。最後はやはり戦争で決着して欲しいなという考えもありますので。ただ、概ね3カ月くらいで砦が落ちて、最後の1カ月でその砦を奪い合うという形になるんですけれども、4カ月という期間の中では仕方のない部分もあるかなとは思っています。

── 日本史で言うと「関ヶ原の合戦」のような、天下分け目の戦いをシステム的に表現するといったことはあるのでしょうか?

瀧澤氏:アップデートの可能性のひとつとしてはあると思います。しかし、それまで天下統一に縁のなかったプレーヤーにとっては、楽しみにくいアップデートになってしまうかとも思いますので、そのあたりのバランスはなかなか難しいところですね。

── 今回、ドワンゴ関係のメンバーは重課金者として、いわばドーピング的にゲームを展開したわけですが、それと争った「土佐藩同盟」などはそこまで課金せずにプレイしているわけですよね。課金アイテムについては、どのようなバランスを考えているのでしょうか。

瀧澤氏:課金アイテムはあくまで「より便利になるためのもの」として位置づけていますので、いくら課金したといっても、絶対的に有利とはいかないまでのバランシングを心がけています。過去の例ですと、ワールド内の総合ランキング1位のユーザーさんが非課金者だったということも、少なからずあります。「ブラウザ三国志」は時間をかけて賢くプレイすれば、課金者にも負けないという設定になっていると思います。

── 課金者、非課金者、どちらもヒートアップできるのは良いことですね。その「ブラウザ三国志」の今後のアップデートの方向性について教えてください。

瀧澤氏:今、とても大きなアップデートを考えています。それが、続編という形になるのか、大幅アップデートという形になるのかは未定です。近いうちの予定としましては、Mixiバージョンではないのですが、通常バージョンのほうで「プレミアムワールド」といったものを考えています。そちらでは、全てのワールドのプレーヤーが、武将カードを持ってきて同じワールドで戦えるようになります。レベルは引き継がないのですが、一部パラメーターを引き継ぐような形です。「ブラウザ三国志」が好きなユーザーさんの決戦ワールドという感じですね。

── 最後に、今回のお祭り騒ぎについて、ご感想をお願いします。

瀧澤氏:本当に多くの方々が集まっていただいて、こんなに愛されたワールドは他には無いんじゃないかなというふうに嬉しく思っています。ありがとうございました。



 取材の後、パーティ会場でゲスト登壇した瀧澤氏。会場に集まった大勢のヘビーユーザーからの質問や要望を聞き、開発としての立場から的確に答えていた。そして「こんな機能が欲しい」、「ここを改良して欲しい」という要望に前向きな応答をするたび、会場は大きな歓声に包まれる。「ブラウザ三国志」がユーザーから深く愛されているゲームであることを感じさせる一幕であった。


武将カード「UC 曹操」に、スキル「覇王の進撃」を付与する合成を披露した「土佐藩」のライト氏。連続で合成を成功させ、スキルレベルを一気に4まで上げるという強運ぶりを披露した。多くの課金をせずに「ドワクエ」と渡り合えた理由は、この強運にある?

(2010年 4月 26日)

[Reported by 佐藤カフジ ]