「Game Tools & Middleware Forum 2009」東京会場開催
マイクロソフト、SCEは次のステップへ
株式会社ウェブテクノロジ、オートデスク株式会社、シリコンスタジオ株式会社、Dolby Japan株式会社、株式会社ボーンデジタルら5社が主催するゲーム開発者向けセミナー「Game Tools & Middleware Forum 2009(GTMF2009)」が、6月15日、東京・大手町サンケイプラザにて開催された。
「GTMF」は、主催5社をはじめ、株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフト株式会社、 日本ヒューレット・パッカード株式会社などが協賛の元、ゲーム開発者向けのセミナーや各種開発ツールが展示されるイベント。今年で7年目を迎える「GTMF」だが、例年は東京会場からの開催となったが、今年は2月の福岡会場より始まり、大阪、そして東京での開催となった。
今年のGTMFでは、昨年のような基調講演こそなかったものの、現行機への開発環境などが落ち着きだしたソニー・コンピュータエンタテインメント、マイクロソフトは新しいステップへと進めていき、ミドルウェア開発陣は、開発ツールの堅調なバージョンアップなどを示していたのが印象的だった。
本校では、マイクロソフト、ソニー・コンピュータエンタテインメントのセミナーをメインに紹介していく
■ マイクロソフト、「Xbox LIVE の活用でゲームの魅力を最大化!」
「Xbox LIVE」による機能概要と活用法を解説 「プロジェクト NATAL」用のSDK配布時期についてはノーコメント
マイクロソフト株式会社 ホーム&エンターテイメント事業本部 ゲームコンテンツ推進部 ディベロッパーアカウントマネージャー 緒方貴宏氏 |
2009年4月に日本での販売台数が100万台を超えたXbox 360では、同社の緒方氏よりXbox 360とPCというクロスプラットフォーム展開を行なっているオンラインコミュニティ「Xbox LIVE」の活用例を紹介した。
緒方氏によると、マイクロソフトは現在、ビジネス面での「AM」、テクニカル面でのXNA、タイトル開発のコンシェルジュとしての「DAM」、テストの窓口、コンテンツの配信「RM」の4部署において、サードパーティによるゲームタイトルの開発サポートを行なっているといった説明をはじめ、同社の協力なコミュニティーサービスである「Xbox LIVE」の魅力について説明。
Xbox 360のダッシュボードからオンライン時のフレンドやプレーヤーの状態を表示する「リッチプレゼンス」を紹介し、同機能で詳細な内容を入れた場合の良し悪しを説明しつつ、これらがうまく機能することで、タイトルを持っていないユーザーに興味を持たせたり、タイトルを持っているユーザー同士の話題となる要素としてプレー中のステータスなどを入れるといったメリットを説明。
また「Xbox LIVEストレージ」によるユーザー作成コンテンツの共有、タイトルからのアップデートや配信など、グローバルタイトルストレージなども「Xbox LIVE」の持つ巨大なストレージの紹介などを行なった。またXbox LIVEでは、発売前にはXbox 360で使用できるアイコンやテーマ、体験版といったプロモーション活動が行えるといった内容をはじめ。発売後はダウンロードコンテンツやマーケットプレースの活用方法などを紹介。
レースゲーム「Forza Motorsport 2」を例にたとえ、ユーザーが作成した痛車なども大量にストレージに置かれているといった内容や、「テストドライブ アンリミテッド」では、ゲーム中にマーケットプレースからアイテムを購入できるようにしており、プレーしながらダウンロードコンテンツを購入することも可能だといった方法も紹介た。
そのほかにもNew Xbox Experienceにて実装されたアバター機能を使ったゲームの紹介や、ゲームリワードの実績以外にもゲームのキャラクターコスチュームをアバターリワードとして配布したり、アバターが着用できるアクセサリーなどの展開も予定しているという。
セミナーの最後には、先日の「E3 09」において発表された「Project NATAL(ナタール)」についても触れ、コントローラーを必要としない次世代インターフェイスなども紹介していた。セミナー後の質疑応答で「『Project NATAL』のSDK配布などの予定次期は?」という聴講者の質問に、緒方氏は「ノーコメントです。とはいえ『Project NATAL』は机上のプレゼンではなく、実機に触れています」とコメントしていた。ちなみに「NATAL」の由来は、開発者の1人がブラジル出身であり、思い入れのあるナタール市から取ったらしい。
例年のXNAを中心にしたセミナーとは変わり、今回はどちらかというとマーケティング寄りの内容となった |
■ ソニー・コンピュータエンターテインメント、「SCEの最新技術情報アップデート」
Unreal Engine 3+Physics Engineによる高速物理演算やPLAYSTATION EYEを使ったミドルウェアなど
株式会社ソニー・コンピュータエンターテインメント ソフトウェアプラットフォーム開発部 部長 豊 禎治氏 |
株式会社ソニー・コンピュータエンターテインメント ソフトウェアプラットフォーム開発部 部長 豊 禎治氏によるセミナーでは、PS3におけるSPUの様々な活用法や新しい開発ツールなどが紹介された。
今回のSCEセミナーで豊氏は、同社が提供しているPS3向けタイトルのノウハウをライブラリ化した「PLAYSTATION Edge」と、これまで同様「グラフィックスでの活用法」に加え、「グラフィックス以外でSPUを使った活用法」などを紹介。
まず「現在はグラフィックスのほうがリッチになっているため、PS3ではSPUを使ってGPU側を助けてSPU側にグラフィックス処理を肩代わりしてもらう」と説明し、SPUを使って処理を行なう事例として、レンダリングの前処理をSPUに行なわせることで描画性能を向上させる「Edge ジオメトリ」、複数SPUを協調動作させ複数のキャラクターに複数アニメーションを適用する「Edge アニメーション」、SPUの余った時間を効率的に利用する「Edge ポスト」などを紹介していた。
「Edge ポスト」は、発売中のFPS「Killzone2」で実際に使用われたシステムを元に作成されており、GPUを使わずSPUを使って効率的にフルスクリーンでポストエフェクトを行なうといった手法を提示。デモンストレーションでは、カメラ視点を移動することでのモーションブラーや被写界深度など、SPUの空き時間を利用して処理を行なうことができ、GPUの処理をレンダリングに専念させることができるといった事例を紹介していた。
またSPUを使った事例では、スクリーンのピクセルの数だけシェーディングを行なう処理をSPUを使って行なう「Deferred Shading」を紹介。ポリゴン数などが複雑な場合、この処理を行なうことで効率的なレンダリングが可能になるという。
SPUを利用した様々な開発事例とサンプル。今後より充実したものが提供されていくという |
そのほかにもSPUを使ってファー(毛)の挙動計算を行なうといった技法も実験的に作られており、デモでは、人型のモデルを利用して、ファー部分での表現をSPUでリアルタイム処理で実行。ふさふさとした表現を再現していたが、試しに作ったものであるため現行バージョンでは最適化を行なっておらず、SPUを5個も使用しており、ブラッシュアップは必要だと前置きをしていた。
そのほかのSPUの活用方法には、代表的なものでPathfinding(経路検索)の処理を行なうAIや、物理演算の「Physic Effect」、インターフェイス部分では「Libface」、プロシージャルによる樹木の生成などを紹介。これの処理は、SPUに実行させることでPPUへの負担を減らすことができることが紹介されていた
PPUを使わずSPUで行なう物理演算「Physics Effect」は、サンプルコードの中にはマルチプラットフォーム展開も踏まえた多機種への移植なども可能なほか、Epic Gamesのゲームエンジン「Unreal Engine 3」とSCEの「Physics Effects」を組み合わせたものをデモとして公開。2つを組み合わせることで、高速な物理演算シミュレーションを可能にすることができるという。
また、ライセンシーであれば現在提供されているものを使用することで「Unreal Engine 3」側のライブラリとSCEが提供するライブラリを切り替えることで、とりあえず試すことも可能。豊氏によると測定結果では、オブジェクトの破壊やクロスレンダリングなど、物理演算部分だけで5、6倍の速さになり、「Unreal Engine 3」に組み込んだ場合の全体の処理速度はおよそ2倍になるという。
「libface」の説明では、プレイステーション 3 および PLAYSTATION Eyeを利用した画像認識技術を紹介。顔の認識技術はソニーのコンパクトデジタルカメラに使われている「スマイルシャッター」機能などを応用したものとのことで、「libface」では頭の傾きや、瞼の動き、口の動きなどを検出し、画面上に表示させたキャラクターの顔をリンクさせるといったことができる内容が紹介された。また、「libface」は、目、口などの顔のパーツの位置も検出でき、目がよっている人であればキャラクターも顔の特徴に応じたパーツの反映ができるほか、男女の性別検出もできるという。これらの技術を応用するとアバタークリエイションなどで被写体に似たキャラクターも容易に作成可能だという。
コンパイラには、これまで使われてきたGCCのほかに、同社が買収したイギリスのSN システムズが開発した「SNC」へとシフトするといった内容が説明された。SNCを利用すると「コンパイルの時間」、「実行速度」、「コードサイズの減少」など既存のGCCに比べ倍以上の速さでビルドできるという。また、GCCとの互換性の部分では、現状のGCCオブジェクトも使用可能ではあるが、一部のソースに限り手を加えることも若干は必要ではあるといった説明がされていた。今後SCEでは、GCCのサポートは継続しつつも、PPUのコンパイラの性能改善はSNCに注力するという。なおSNCの導入事例には、セガの「龍が如く3」、Bethesda Sofworksの「Fallout 3」、SCE「Killzone 2」などが挙げられている。
「Sulpha Audio Debugger」は、視覚的に音のデータを表示できるデバッガーで、エラー情報を含むすべてのMultiStream API呼び出し、音データのロック、解放といったところも監視できるほか、音の発生源などを視覚的に認識でき、5.1chなどでの多重音声のデバッグに役立つようになっているという。
そのほかにもSCEの今年の取り組みとしては、Low Level APIの実装、BulletエンジンSPU実装への組み込み、ソフトボディ、クロスレンダリングの最適化、シーン試作支援ツールの作成などが挙げられていた。
セミナーの最後には、開発用プレイステーション 3「デバッギングステーション」をベースに低価格化、小型化、軽量化された「Mini Dev Tool」が紹介された。同機はメインメモリがプレイステーション 3同様512MBになっているほか、普通の開発ツールと同じように利用可能。デバッギングステーションと違う点では、ネットワークゲームなどに用いるソケットとデバッグPCへ接続するためのイーサポートがそれぞれ個別にあるほか、プレイステーション 3同様の2.5インチSATA HDDなどを内蔵している。
細かい機能改善が施されてはいるものの、Performance Monitor Pinやコミュニケーションプロセッサなどは排除されており、このためデバッグ時に若干パフォーマンスを取られてしまうなど弊害はあるが、これまで価格帯が高いといわれてきた開発ツールが大幅に削減されることになるため、新規参入を検討しているデベロッパーには嬉しい話かもしれない。
GCCとSNCによるビルドなどの測定比較。数値でもわかる通りかなりのパフォーマンスアップが見込める |
■ Bug Track Systemやそのほか事例
スタジオソリューションズ有限会社 伊藤正氏 |
株式会社ボーンデジタルによるスタジオソリューションズ有限会社 伊藤正氏による「ゲーム開発におけるテスト作業の情報共有~株式会社AQインタラクティブ様の事例から~」では、同社のBug Tracking Sytem「Testing Studio」の導入事例を紹介。
株式会社カプコン 第二グラフィック制作室デザイナー 平林良章氏 |
カプコンの「バイオハザード5におけるリアルタイムムービーの制作フローについて」においては、同社の第二グラフィック制作室デザイナー 平林良章氏が登壇し、数々の事例を紹介。カプコン社内、日本国内のCGスタジオ、ロサンゼルスにあるCGスタジオの3つのスタジオ間で、どのように「バイオハザード5」のカットシーンが作成されていったかについての解説が行なわれた。内容については、弊誌連載「西川善司の3Dゲームファンのための「バイオハザード5」グラフィックス講座(前編)」と「西川善司の3Dゲームファンのための「バイオハザード5」グラフィックス講座(後編)」を参照してほしい。
□「Game Tools & Middleware Forum 2009」のページ
http://www.webtech.co.jp/gtmf2009/
□ウェブテクノロジのホームページ
http://www.webtech.co.jp/
□オートデスクのホームページ
http://www.autodesk.co.jp/
□ボーンデジタルのホームページ
http://www.borndigital.co.jp/
(2009年 6月 16日)