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Riot Gamesのe-Sportsにおけるこれまでの取り組みが公開
3つの信念で「League of Legends」をスポーツを超える存在に!
(2016/3/20 07:51)
「League of Legends」のサービスがいよいよ日本でもスタートした。その開発・運営元であるRiot Gamesとは日本法人ができてからのわずか数年お付き合いだが、未だかつてない非常にユニークな企業風土を持つゲームメーカーだ。
まず第一にメディアの前にできるだけユーザーに最初に情報を届けたいユーザーファーストの企業であり、特定のメーカーのデバイスが有利と誤認させる恐れを避けるため推奨デバイスは認定しない。そして国内大手のストリーミングサービス「ニコニコ生放送」も有料ユーザーが優先されるという理由から中継サイトから弾いている。その決断は驚くばかりだが、そのポリシーは一時的なものでも何でもなく首尾一貫している。
そのこだわりの根源にあるのは、「League of Legends」はスポーツであるということだ。e-Sportsでもなく、バスケや野球と同列のスポーツとして「League of Legends」を見て、それらを乗り越えようと努力している。つまり、彼らは「League of Legends」をゲームとしてだけ、e-Sportsタイトルとしてだけ見ておらず、志の時点で他のゲームとは違うわけだ。今回のGDCでは、Riot Gamesのそうした取り組みが紹介されたのでご紹介しておきたい。
セッションスピーカーを務めたRiot GamesのDustin Beck氏は、元ゴールドマンサックスという異色の経歴を持つ人物で、2012年に投資会社からRiot Gamesに入社。現在の役職はChairman of the LCS(League Chanpionship Series)で、最高幹部のひとりだ。
Beck氏はそういう輝かしいキャリア、肩書きを感じさせない、熱い心を持つスポーツファンだった。セッションは、1988年のワールドシリーズの映像からスタートした。ギブソン選手が2アウト、2ストライクまで追い込まれてのホームラン。記憶に残る映像だという。バスケ界の英雄であるコービー・ブライアントなども例に出し、「誰もがスポーツの、何かのファンだ」と熱っぽく語りかけた。
Beck氏自身も子供の頃からゲーマーで、小さいときは兄弟を相手に対戦を楽しみ、長じてからは「Warcraft」や「Rainbow Six」に夢中になった。いずれも今のe-Sportsの走りとなるゲームだが、「Warcraft II」はBattle.netで2位になるほど、「Rainbow Six」でもランクインするほどの実力者で「それは楽しい想い出だ」と振り返った。
そしてそれらの系譜に連なる最先端のe-Sportsタイトルである「League of Legends」は、世界最大規模のe-Sportsタイトルというだけでなく、もっとも盛んな地域のひとつである中国ではナンバーワンのe-Sportsではなくナンバーワンのスポーツとして何百万人ものファンを獲得している。なぜそこまで成長させることができたのか。今回のセッションではRiot Gamesが重要視している3つのポイントが披露された。
1つ目は「CONSISTENT(一貫性)」。スポーツであるからには、そのファンが決まった時間に観戦でき、参戦するゲーマーがそれで生活できなければならない。Beck氏がRiot Gamesに加入した際、「League of Legends」の大会は乱立状態にあり、Riot Games側で管理が難しい状態にあったという。そこでRiot Gamesでは公式大会「League of Legends Chanpionship Series(LCS)」を立ち上げ、それ以外を原則として廃止した。これによりいつ誰が試合するのかが一目でわかるようにした。
NBAのコービー・ブライアントが試合の勝ち負けに関係なく、生活が保障され、かつリーグ内で試合に集中できることと同じように、e-Sports選手たちも副業無しで試合に集中できる環境を整えた。現在は世界中に13のリーグが存在し、それぞれにファンが付き、毎週試合が行なわれ、誰もが平等にトッププロになるためのパスが開かれている。これが彼らのいう一貫性となる。
2つ目は「INCLUSIVE(排他的ではないこと)」。これは筆者が冒頭で取り上げた、ライアットゲームズが「ニコニコ生放送」の有料視聴を許容しなかったことと直接繋がってくる話だが、オンライン視聴は無料でなければならないと考える。数年前まではHDストリーミングは有料だったものの、基本プレイ無料のビジネスモデルに合わせて視聴を無料とする決断を行なった。
オフライン大会についても同様のポリシーを採用し、需給バランスを無視して安く設定してある。つまり、Riot Gamesは大会そのもので儲けるつもりがまったくない。Beck氏は、アメフトの頂点であるスーパーボウルに行ったことがある人に挙手させた。パラパラと手が挙がったのを見て、少ない理由はスーパーボウル自体がプレミアムなイベントであり、チケットが高額に設定されているからだとし、それに対して「LCS」は開かれたイベントとして、安い価格設定にした。実際、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行なわれた2015年サマースプリットのイベントチケットは、わずか35ドルで販売。理由は、「LCS」を観戦する層は若い人が多いため、そういった人でも買えるようにするためだという。素晴らしい理由だ。
また、イベントでは、選手とファンの距離をできるだけ縮め、選手にサインして貰ったり、一緒に写真を撮ったりということが可能なようにしている。Beck氏は、「LoL」の世界でもっとも有名なトッププロであるFAKER氏がファンと記念撮影をしている様子を紹介。
ちなみにゲームイベントとしては最大規模を誇る「LCS」だがBeck氏自身は、規模より質が大事だとし、2014年の韓国大会を境に規模を意図的に縮小している。これはオンラインで観戦しているユーザーも含めて観戦の質を上げるためで、人気に合わせてむやみやたらに規模を拡大していくことは方針に反するようだ。
そして質を上げる一環として、選手にフォーカスを当て、より手軽にファンになれるようにストーリーを提供する。それによってエモーショナルな繋がりを選手とファンの間で醸成させていく。これが彼らのいう排他的ではなく、開かれたものの意味するところとなる。
そして3点目が「HIGH QUALITY(ハイクオリティ)」。ファンにとってそのゲームのファンであることが自慢になるような、人に伝えたくなるような存在にまで高めるために、イベント運営のクオリティアップに努めたという。
その具体例が自社による配信スタジオの開設だ。e-Sportsにしっかり取り組む事へのコミットメントとして2013年に初めてスタジオを設けた。その後、規模の拡大に合わせて2014年にマンハッタンビーチ、2015年に本社向かいに移設。現在もまた新たなことができないか考えているという。
またクオリティは人材についても適用しうる。Beck氏は自身がゴールドマン・サックス出身ということもあって、優秀な人材の重要性を理解しているが、有能なだけではダメだという。重要なのはゲームに対して情熱を持っており、とりわけ「LoL」をはじめとしたe-Sportsに理解がなければならないという。
実際、以前、日本法人のディレクター齋藤亮介氏にインタビューした際、それまであまりゲームの経験がなかったことから「LoL」の習熟するのに苦労したと語っており、役割にかかわらず、e-Sportsへの情熱を求めるところは全社的に統一されているという印象だ。
Beck氏は理想的な人材として、Jatt氏を紹介した。Jatt氏は2011年に「LoL」のプロプレーヤーとして有名になり、2012年にはRiot Gameに入社してゲームデザイナーとなり、現在はシャウトキャスターとして「LCS」の実況解説を担当しているという。彼は非常に高いプロ意識を持ち、それぞれのポジションでベストを尽くし、「LCS」のために貢献しているという。
ハイクオリティの大会運営を実現するために高い意識で望んでいるRiot Gamesだが、当初は周囲にはその想いがなかなか理解されなかったという。一例として挙げたのが2013年のWorld ChanpionshipをロサンゼルスのStaples Centerで開催したときのエピソードだ。Beck氏がStaples Centerの担当者に、その年の10月に大会を開きたいと相談したところ、社名もゲーム名も、ゲーム大会をこのスポーツアリーナで開催するということすべてを信じて貰えなかったようだ。しかし、ふたを開けてみると、チケットは即時完売、イベントは大成功した。その後の快進撃はよく知られるところだ。
この数年の間に、Riot Gamesの「League of Legends」での取り組みは、ゲームからe-Sports、e-Sportsからスポーツとなり、一般のTVやスポーツ専門チャンネル「ESPN」でも取り上げられ、映像配信チャンネルのTwitchをAmazonが買収し、プロスポーツ選手の中にも、「LoL」の熱狂的なファンが現われだした。
Beck氏の今後の目標は、親や祖父の世代がスポーツに向けた情熱と同じところまでe-Sportsを引き上げること。ただ、従来のスポーツとe-Sportsは、前者がただ観戦するだけなのに対して、e-Sportsはデジタルな存在としてオンラインチャット等でお互いにコミュニケーションを交わしたり影響を及ぼし合うことができる点が違うという。その上で、すべての層にe-Sportsの興奮を届けることが今後のチャレンジだという。
Beck氏は、今が盛り上がりのピークではなく、まだ始まったばかりだと考えている。e-Sports選手が、他のスポーツのプロ選手と同じように、キチンとしたプロ契約を交わせるように、子供がFAKER選手に憧れて、プロの道を目指したいと考えたときのキャリアパスを整備すること、そして自分が1988年のワールドシリーズのギブソン選手のホームランで感じた忘れられない感動をe-Sportsで届けたいと語り講演を終えた。
筆者がライアットゲームズとのコミュニケーションで感じた良い意味での違和感は、まさ全社的なものであることがわかり、もっとこの会社を応援したいと思った。日本でも「LJL 2016 Spring SPLIT Final」が、日本を代表するスポーツアリーナである国立代々木競技場第二体育館で開催される。彼らの取り組みに注目していきたいところだ。