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個展「悲しいゲーム」の虚無感あふれるゲームを体験レポート

「ゲーム性を排除したゲーム」の真意を作者 奥田栄希氏に聞く

10月17日〜11月21日 開催

入場料:無料

 アーティストの奥田栄希氏による個展「悲しいゲーム」が、10月17日より開催された。期間は11月21日までで、入場料は無料。

 「悲しいゲーム」展は、弊誌でも既報のとおり、「ゲーム本来のゲーム性を排除」したゲームを集めた個展となっている。今回は開催日初日に開催場所のTakashi Somemiya Galleryに伺い、実際にゲームをプレイしてみた。また作者の奥田氏にも話を聞くことができたので、あわせてお伝えしたい。

「クソゲーにもならなかった悲しいゲーム」を体験!

アーティストの奥田栄希氏
「デッドゲーム」イメージ

 「悲しいゲーム」展は、3つのゲーム作品と、1つの映像作品、またいくつかの平面作品で構成されている。

 中でも最も注目すべきは、実際にプレイすることができる3つのゲーム作品だ。展示ではファミコンにオリジナルの「悲しいゲーム」のカセットが挿さっており、モニターに映像が出力され、ファミコンのコントローラーを使ってプレイできる。

 個展名にあるとおり、ここに並ぶのは「クソゲーにもならなかった悲しいゲーム」(奥田氏)たちだ。例えば「デッドゲーム」という作品は、空中を思わせる2D画面には中央に1つだけ「LIVE」と書かれたブロックがあり、その上に操作可能なキャラクターがいるというもの。プレーヤーは左右への移動とジャンプ操作が可能なのだが、キャラクターがブロックから離れれば落ちるしかない。しかし下に落ちても死亡はせず、また画面上からキャラクターが降ってくる。

 以降は降下のループを繰り返すだけだが、そこで移動してまたブロックの上に乗れば停止できる。「LIVE」ブロックは下から叩けそうに光っているが、足場がないため叩くことはできない。ブロックを離れて落ちる以外にできることはなく、落ちても何も起こらないという、もどかしさと空虚さが漂う作品だ。

【展示風景】
プレイできる3つのゲームのほかに、平面作品などが並ぶ

「シューティングゲーム」展示風景

 他の2つの作品はそれぞれ「ゴールゲーム」、「シューティングゲーム」と名付けられており、同様に永遠に終わらない、あるいはゴールが絶対にないデザインになっている。これらのゲームには、ゲームがゲームであるためにあるべき手応えというものがまるでない。

 確かにキャラクターは操作できるし、見た目は往年のゲームを模しているのだが、操作すればするほど虚無感が募ってくる内容で、それ以上のものはない。ゲームとしては確かに破綻しているが、その不毛さこそにプレイしたくなる魅力がある不思議な体験だ。

 なお「ゴールゲーム」、「シューティングゲーム」については、ここではあえて内容に触れない。何も知らないままに体験した方が面白いと思うので、ぜひ実際に触れてみて、その空虚さを味わっていただきたい。

 ちなみに映像作品の方はファミコンゲームの「バグ画面」を再現し、連続で見せていく「GLITCH」という作品となる。こちらはプレイはできないが、ファミコンに「GLITCH」と書かれたカセットが挿さっており、本来唾棄すべき「バグ画面」だけがあえてファミコンから出力されるのが面白い。平面作品の方は、この「GLITCH」の1画面を出力したものとなっている。

「ゴールゲーム」イメージ
「シューティングゲーム」イメージ

「100%商品価値のないゲーム」を芸術作品として提示

パッケージアートも当時のものを意識して作られている。ゲームファン心をくすぐる仕上がりだ

 もともと絵画を勉強していたという奥田氏は、画面の左右が繋がっている状態は空間として捉えた時に歪んでいるとしか言えないし、画面の端とブロックに挟まれて死亡するといった状況は表現として突飛で、そうした2Dゲームの空間の約束事とも言える「歪み」に、絵画以上の表現の可能性を感じたのだと、一連の作品制作のきっかけを話してくれた。

 なお「悲しいゲーム」作品のコンセプトには、「ゲーム性を排除したゲーム」というものが掲げられている。「ゲーム性」という言葉の定義は人によって異なるほど曖昧だが、真意としては「商業作品としてのゲームをまったく目指さないもの」を意識しての言葉選びだったそうだ。

 「悲しいゲーム」がファミコンに挿さり、実際に動作している姿は空虚感の塊で、ゲーム史にぽっかり空いた真っ暗な穴を見ているようだ。100%商品価値のないゲームができあがったらどうなるか、というのが「悲しいゲーム」の狙いであり、またその落差こそが芸術作品としての価値になっている。これらの作品は販売されており、例えば「デッドゲーム」は20万円(税別)で購入できる。

 作品はファミコンで動作する完全な1点もので、パッケージアートまで独自に作られている。アプリなどで配信されるものではないため、実際にプレイするには今回のような個展に赴くか、手に入れるしかないのも一般的なゲーム宣伝のアプローチとは真逆で非常に良い。

 なお奥田氏の今後だが、「ゲーム」をコンセプトとした作品は模索中の段階で、今後もしばらくは制作を続けていくそうだ。開催は今後約1カ月続くので、興味があればぜひ足を運んでいただきたい。

(安田俊亮)