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「BitSummit 2015」にてSCE吉田氏がインディーゲームについて講演
稲船氏や五十嵐氏らはインディー精神、水口氏と飯田氏はVRを熱く語る
(2015/7/13 11:13)
7月11日と12日の2日間、インディーゲームの祭典「BitSummit 2015」が、京都市にあるみやこめっせにて開催された。
「BitSummit」は2013年から開催され、今年で3回目。国内のみならず海外からの多数のインディークリエイターや報道陣を招いているのが特徴で、今年はインディー開発者を支援するIndie MEGABOOTHも主催に加わった。
会場内に設置されたステージでは、国内のクリエイターやプラットフォーマーなど、多彩な顔ぶれによる講演が行なわれた。その中からいくつかをご紹介しよう。
SCEWWS吉田氏が基調講演。日本のインディーはVRで世界へ出よ!
SCEワールドワイドスタジオ プレジデントの吉田修平氏による基調講演では、SCEがどのようにしてインディーに注力してきたかが語られた。なおSCEは本イベントのスポンサーでもある。
初代プレイステーションはソニーという大企業が世に送り出したものではあるが、ゲーム業界は新規参入。当時はオモチャ的なものとして見られていたゲームだが、「大人も含めて誰でも楽しめるエンターテイメントにしていこう、という気概を持って仕事していた」と吉田氏は言う。
そのためには、新しいタイトルと新しいクリエイターを呼び込む必要がある。そこで「ゲームやろうぜ!」や「PlayStation C.A.M.P!」といった企画を立て、新たなゲームと開発者を発掘してきた。同社は昨今、インディーゲームの支援を強化しているが、「会社のカルチャーとして、インディーや新しいクリエイターをサポートするのは自然なこととして取り組んでいる」という。
吉田氏は個人的に、様々なメディアのストリーミング放送に顔を出し、お薦めのインディーゲームを紹介して回っている。またBitSummitのようなインディーゲームのイベントでも、面白そうなゲームを見つけてはPSプラットフォームで出さないかと話をしているそうだ。「人と人とのつながりが非常に大事。Twitterなどで積極的にコミュニケーションをとっていく」という。開発部門のトップとは思えないフットワークの軽さだ。
最近のPSプラットフォームと言えば、VRヘッドマウントディスプレイ「Project Morpheus(プロジェクトモーフィアス)」が注目されている。これに関しては、SCEジャパンアジア ソフトウェアビジネス部次長の秋山賢成氏が壇上に呼ばれ、「『Morpheus』でゲームを作りたい人は声をかけて欲しい。開発ツールも提供していく」と説明。吉田氏も「今からだと、来年の発売(2016年上半期発売予定)に間に合うようなゲームを作れるはず」と積極的な参加を呼びかけた。
講演の最後に吉田氏は、“日本でインディーシーンを発展させる3つの戦略”を語った。1つは海外の良作インディーゲームを多数発売すること。「日本はゲームをデジタル(ダウンロード)で買うということが習慣になっていない。毎週良いゲームを出すことで習慣化したい」という。
2つ目は、日本の著名クリエイターを海外市場に送り込むこと。「日本のクリエイターは質と量が素晴らしい。Kickstarterでも大成功している。海外でも日本のゲームで育った人がいっぱいいる。日本のクリエイターに直接海外に出て行って欲しい」と語った。
3つ目は、国産のバーチャルリアリティコンテンツ。「日本にはバーチャルアイドルやキャラクターなどを自然にたしなむ文化があるが、欧米では気恥ずかしいのか手を出してこない。日本のクリエイターにしかできないもので世界に出て行って欲しい」と日本の文化性を交えて語った。
世界からは遅れている、孤立化していると言われる日本発のゲームだが、自由な発想ができるインディー開発者と「Project Morpheus」を始めとしたVRによって、再び世界を驚かせたいという思いが吉田氏の講演から伝わってきた。インディーでは既に「Oculus Rift」によるVRコンテンツの開発が盛んに行なわれているが、彼らと「Project Morpheus」の融合が図られるのか、その結果として何ができるのか。発売までの動向が楽しみだ。
インディースタジオを立ち上げた3氏が語るインディーの意義
comceptの稲船敬二氏、ArtPlayの五十嵐孝司氏、インティ・クリエイツの會津卓也氏という、インディーゲーム業界で注目を集めるスタジオの代表者が集まったパネルセッション。五十嵐氏はKONAMIで「悪魔城ドラキュラ」シリーズのプロデューサーを務めた後、現在のスタジオを立ち上げるため退職。クラウドファンディングサイト「Kickstarter」で2Dアクション「Bloodstained: Ritual of the Night」の開発資金を募り、550万ドル以上を集めている。
最初の話題はこのKickstarterの件。「こんなにお金が集まるとは思わなかった」と素直な驚きを語った五十嵐氏だが、元々はパブリッシャーを探し歩いていたが見つからず、やむなくクラウドファンディングに頼ったという形だ。
これだけのお金が集まる企画なのに、なぜパブリッシャーが見つからなかったのか。五十嵐氏は「プレゼンすると、どこの会社さんもいいと言ってくれる。でもお金の話になると首をかしげられる。2Dゲームは安く作れると思っている節があるが、私がやっているタイプのゲームはお金がかかる」という。
同様の経験があるという稲船氏は、「パブリッシャーはどう変わっていくべきか」という問いかけに対し、Kickstarterで巨額の開発費を集められている実績を踏まえつつ、「パブリッシャーが本当に面白いゲームかどうかの適正な判断ができるのかという問題がある。パブリッシャーがわからないものでも、『これが好き』、『面白そう』という声とともにすごい金額が集まっている。つまりユーザーの方が判断能力が高い。パブリッシャーはその能力をつけないと売り上げが立たない」と語った。
五十嵐氏はゲーム会社の姿勢の変化を指摘。「昔のゲームは過去がなかったので、みんなが未来に向かっていたし、経営陣も未来に向かって投資していた。でも道ができると、『今こういうゲームが売れているから、こういうのを作って』という。経営陣は過去という保証にしがみつきたい。でもクリエイターはみんな未来を見ていて、方向性が違う」と述べた。
長年デベロッパーを続けてきた會津氏は、「パブリッシャーはゲームでお金をもうけようという方々。インディーは自分を表現するゲームを作りたい。ここに大きな差があって相容れない。その間を取り持つのが私の仕事」と語った。
続いて、それぞれの立場から日本のインディーに向けてのアドバイスが送られた。稲船氏は「生活苦から自分のやりたいことを曲げる、やりたくないことをやるのが、インディーを壊していく。やりたいことをやらなければインディーじゃない。自分達のやりたいことを自分達のリスクでやっていく。それ以外の仕事はコンビニでバイトするくらいの気持ちでやらないといけないと思う」と厳しいコメント。
続けて、「やりたいことを1つはやり続けること。うち(comcept)に誇れる部分があるとしたら、自分達がやりたいゲームしか作っていないこと。パブリッシャーから仕事をいただいても、言われたとおりに作っているんじゃなく、自分達が作りたいゲームをパブリッシャーさんと作っていく。だから全てオリジナル。オリジナルをどこまで作り続けるのかのチャレンジ。挑戦し続けるのがインディーには必要で、そうでなければサラリーマンになったほうがいい。その気持ちは持ち続けて欲しい」とエールを送った。
五十嵐氏は、「インディーになりたてなので皆さんに教えて欲しいくらい」と謙遜しつつ、「自分が面白いと思うものを作らないと、誰も面白いと思わない、とずっと思い続けている。自分が面白くなるためにはどうするかをいつも考えている。インディーならそこをもっと突き詰められる」と語った。
會津氏は、「長く大手の下でやっていたが、クリエイターのエゴを前面に押し出して作っている作品はインディーと言っていいと思って作っている。給料をもらっている社員はインディーの人間じゃない、というわけじゃない。自分達のエゴを出してガツンと伝えられるゲームがインディーだと思う。周りの意見に流されないゲームをガンガン作ってくれれば、インディーが盛り上がるのでは」と述べた。
インディーという言葉の定義は何かという議論もあれば、Kickstarterは話題性や応援・寄付的な意味でお金が集まりやすいという見方もある。ただインディーゲーム開発者を名乗り、日本から世界へ向かっていこうとする方々が業界の先駆者であり、「こういうやり方もあるんだ」ということを示してくれる存在であるのは確かだ。稲船氏がKickstarterを使ったことで話題になった「Mighty No.9」も9月18日に発売されるだけに、これからの動きも注目していきたい。
水口氏と飯田氏が思い描いたゲーム世界に近づくVR技術
「Rez」や「ルミネス」を開発した水口哲也氏と、「アクアノートの休日」などで知られる飯田和敏氏によるパネルセッション。冒頭、2013年に亡くなった飯野賢治氏の原案を飯田氏が引き継ぎ、飯野氏が率いていたワープのスタッフとともに開発している「KAKEXUN」が紹介された。
「KAKEXUN」は掛け算をテーマに、数字を使わずビジュアルで表現するゲーム。リズム感のあるBGMとともにアーティスティックな印象を持った作品で、そのイメージから水口氏は「Rez」を連想したようだ。水口氏は「『Rez』は僕の中で1つのスタートで、今はライフワーク。『Child of eden』は精神的にはその続編。そのイメージを常に持ちつつ、また新しいことを考えている」と語った。詳細については「言うとまずいことがたくさんあるので……」と含みを持たせたところを見ると、既に何かが動いているようだ。
そんな水口氏が「今日はVR(ヘッドマウントディスプレイ)の話をしたかった」と切り出した。「セガでバーチャリティというのをやって、任天堂にはバーチャルボーイがあった。でもバーチャル的なものは出ては消えていく。ただ今回の波はもう本物。1回消えて廃れるということはないだろうというのが、僕らの共通の直感。今の自分が20歳くらいだったら、間違いなくVRに行っている」と述べた。
飯田氏がそれを受け、「短期的な流行り廃りではなく、VRにかけるといいと思う」と答えると、水口氏はさらに持論を展開。「VRはゲームだけじゃなく放送のあり方も変えるし、人と人とのコミュニケーションも変える。映画がどの場所にカメラを置いてどう切り取るかという表現手法とは全然違う。映画がゲーム的に、ゲームが映画的にぐちゃっと混ざる。そこに最初から飛び込まないとダメだと思う。スマホもいいけど、それは全部やめてVRにいっちゃえと思う。今は過渡期だけど、あっという間に来る」と語った。
続いて飯田氏がVRについて、「今のテクノロジーは視覚情報に頼っているが、この先は別の知覚で行くと思う。聴覚、あるいは別の感覚に訴えるもので」と述べると、「サウンドも、その場を作るという、立体的なところに行く。サウンドもレンダリングするものになる」と水口氏。
さらに水口氏は、「クリエイティブにやりたいことの制限がなくなったということにすごく興奮している。今までは頭の中にどんなイメージがあっても、小さい画面に切り取って閉じ込めなければいけなかった。VRを使うことで、どの世界のどの時代のどんなクリエイティブなイマジネーションも、最初はリアルなものから入ってくると思うけれど、ファンタジーや魔法のようなものに置き換わっていく」とVRへの期待を語った。
飯田氏も「チルスポット(ゆっくりくつろげる場所)が作れればいいと思う。森や川を越えるのが第1弾」とコメント。またVRについて、「VRはつながりの中で意識の拡張が起こるかもしれない。UFOを1人が見たといっても信じないけれど、300人が見たら、UFOがある前提の話になる。錯覚を多くの人が共有したら、それをベースにしたクリエイティブを考えていかなければならない。そういう危険があるけれど面白いと思う」と語った。
最後に聴講者へのメッセージとして、水口氏が「年末か来年には、いろいろ新しい発表ができるのでは」と語ると、飯田氏は「僕も来年何かして、『KAKEXUN』もやって、ロートルになった我々が頑張る年にしましょう」とコメント。すると水口氏は「若い人と仕事したい。VRはそれくらいフラットになれると思う。若い人のメンターが欲しいので、一緒に仕事したい人がいたら声をかけて欲しい」と呼びかけた。
独特な世界観を生み出すことで高い評価を受けてきた両氏だが、それでも従来のデバイスでは表現力不足を感じていて、VRの表現力に強く惹かれているというのが面白い。今のところは可能性に過ぎないが、いずれは技術の進歩が解決してくれる話でもある。その時代をユーザーとして待つのも、開発者として関わるのも楽しそうだ……というのがVRの持つ魅力なのだろう。