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ゴール達成は通過点! 「シェンムーIII」鈴木裕氏インタビュー

目指せオープンワールド! 「これまでとは違う評価基準」も盛り込む

会期:6月16日~6月18日(現地時間)

会場:LA Convention Centre

話題のKickStarter「シェンムーIII」のページはこちら

 PlayStationカンファレンスで突如として発表された、鈴木裕氏による「シェンムーIII」のKickStarterプロジェクト開始宣言は、E3 2015の中でも最高のサプライズの1つだった。

 続編の発売が大きく期待されながら、前作の発売から14年の月日が流れている「シェンムー」。広大な街を自由に歩き回り、ミニゲームやサブストーリーを楽しむことができるゲームシステムは、「オープンワールド」の始祖と言われ、商業的にこそ振るわなかったものの、業界に与えた影響は計り知れない。

 KickStarterが開始されるやいなやあっという間に目標額の200万ドルを達成するという大人気ぶりで、アクセス過多のため当該ページが落ちた、100万ドル達成の最速記録を打ち立ててギネス世界記録に認定されたなど、早速伝説を作りつつある。

 今回は、そんな渦中の人物、鈴木裕氏にインタビューを行なうことができた。現在、鈴木氏の心境や、「シェンムーIII」の構想について伺ってきたので、こちらをお送りする。ちなみに「シェンムー」第1作の成り立ちについては2014年のGDCにおける鈴木氏の講演が詳しいので、こちらも参考にしていただきたい。

「シェンムーIII」はストーリー指向型か? オープンワールドか?

Ys Net代表取締役社長の鈴木裕氏
公開された「シェンムーIII」のスクリーンショット

――まずは目標金額の達成、おめでとうございます!

鈴木裕氏: ありがとうございます。……しかし楽ですね日本人は(笑)! 英語のインタビューが多かったのですが、通訳入りだと時間がかかってしまいますからね。

――達成した瞬間の心境はいかがですか?

鈴木氏: KickStarterは初めて利用するので、まだ感覚が良くわかっていないのですが、「シェンムーIII」のページがクラッシュした、達成までのスピードが1位だったといった話を聞くと、良かったなと思いますね。

――PlayStationのカンファレンスで開始宣言するというのも印象的でした。

鈴木氏: SCE(Sony Computer Entertainment)さんには何か協力いただけないかということで、私の方から話を持っていきました。手前味噌なのですが、SCEさんは「シェンムー」は歴史上重要だし、皆が望んでいるので「III」をやるなら協力すると言ってくれたのです。

 その時、最初のミーティングから上の立場の方が対応してくれました。私としては、SCEさんは真剣に話を聞いてくれているな、「シェンムー」が大事にされているんだなと感じてました。

――なぜKickStarterを選んだのでしょうか?

鈴木氏: カンファレンスで公開したトレーラーでも「in your hand」と言っていますが、皆と共に作っていくという仕組みが理由です。「シェンムー」に関して最も多い要望は「ストーリーの続きはどうなっているのか」なのですが、独特なオープンワールド的な要素も楽しみたいという要望もあります。

 でも両方だといつまでたってもスタートできないので、まずはストーリーを追いかけるタイプのゲームを出そうと。出すと出さないのでどちらがいいかと考えた時に、出すほうがいいのかなと。KickStarterは拡張性がありますから。

――まずはストーリー主体のゲームからスタートということですね。

鈴木氏: ミニゲームやアルバイトの増加、またエリアの拡張などは、ふんだんに盛り込もうとすると資金がかさむので、それはストレッチゴールの達成に合わせて追加していきます。まだ資金が確定していないので具体的な内容については話せないのですが、もし低いままで留まったとしても、それにあわせて良いゲームを作る予定です。

――資金はどこまで行ってほしい、というような数値はありますか?

鈴木氏: これは、多ければ多い方が良い(笑)。今のまま終わると、ストーリーを追いかけていくタイプのになるのですが、みなさんが求めているのは「GTA(Grand Theft Auto)」シリーズのようなオープンワールドのゲームだと思います。

 オープンワールドというのは、ストーリーを進めてもいいし、街に滞留したい人は滞留するしといったように、遊びの選択肢を増やすということです。選択肢をどんどん増やすとなると、どんなにお金があっても足りません。

 ただ待っていた皆さんの思いもありますし、世界はなるべく広げておきたい。なので、皆さんの協力が必要になります。資金があればあるほど、期待に添えるようなものになっていくと思います。

――オープンワールドの始祖というイメージが強いですから、そこは期待されるでしょうね。

鈴木氏: 資金の規模が違うので、「アサシン クリード」や「GTA」のようなものを想像されると困ってしまうんですね。

 ただ、「ハングオン」でも「バーチャファイター」でも、それまでとは違うことをやってきました。「シェンムーIII」でも、これまでとは違う評価基準で見てもらえるようなものを考えています。

 「シェンムー」シリーズの特徴は、東洋のスピリチュアルな部分だったり、人との関わりだったりします。KickStarterの資金がどれくらいまで行くかわかりませんが、それにあわせて、最も効果が高く、新しいアプローチの手法を取ろうと思います。

――開発メンバーもこれから集めるのでしょうか?

鈴木氏: メンバーの中心はネイロさんになるのですが、お願いしたいなと思っている信頼できる方はいます。資金がこれだけ集まったらあの人に頼もうとか、そういう人が何人かいますね。

当初の構想では、「シェンムーIII」は芭月涼と玲莎花の関係性を深く描く予定だったという。その構想も制作に活かされるようだ

――少しお話が変わるのですが、SCEWWSプレジデントの吉田修平氏がTwitterで、鈴木さん、スクウェア・エニックスの橋本真司氏と一緒にいる写真をアップしていました。とても良い写真でしたが、その時は何を話されたんですか?

鈴木氏: あれはカンファレンスの直後だったので、その話でしたね。「シェンムーIII」、「ファイナルファンタジーVII」のリメイク、「人喰いの大鷲トリコ」の発表といずれも大歓声で、日本のゲームがE3をあんなに盛り上げるなんて久しぶりなんじゃないか、日本のゲームがまた注目されて良かったと話していました。

 私、実はKickStarterの開始に合わせてTwitterも始めることにしたのですが、始めたばかりなので色々なことがわからないんですね。なので、吉田さんにTwitterの使い方を聞いていました(笑)。

――とても良いエピソードだと思います。Twitterはいかがですか?

鈴木氏: フォロワーの方が「シェンムーIII」発表時のリアクションを収めた動画のURLを送ってくれたんですね。その中で放心状態になっている人取り乱す人がいて、こういう人たちに支えられているんだなと感動しました。

――KickStarterの支援の報酬には、10,000ドルで鈴木さんと食事ができる権利というものがありましたが、3人の枠が一瞬で埋まっていましたね。どのようなお話をされる予定ですか?

鈴木氏: あえて3人に絞ったのは、それぞれどういう思いがあるかわからないので、ひとりひとりにかける時間をたっぷり取って、その思いを受け止めるためです。どういう話というよりは、その思いを受け止めたいと思っています。

――他にお話できることはありますか?

鈴木氏: PlayStationカンファレンスに出たということで、SCEさんから資金的な援助はあるのかという質問が良くあります。これまで言えなかったのですが、開発費については資金的な応援をしてくれることになっています。もっと言うと、他にも資金調達の予定があるのですが、それでも足りません。資金が足りないからこそ、KickStarterを始めました。

――そのバックアップは頼もしいですね。では、最後に読者にメッセージをお願いします。

鈴木氏: 「シェンムーIII」がゴールを最速で達成したというニュースをご存知かと思いますが、これは終わったという意味ではなくて、最低ラインを通過したという意味です。より充実し、パワーアップした「シェンムーIII」を作るためには、今から皆さんの力が必要です。プロジェクトは7月17日まで実施していますので、どうぞよろしくお願いします。

――ありがとうございました。

(安田俊亮)