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世界のトッププロゲーミングチーム「Fnatic」と考える日本のe-Sportsの未来

日本のe-Sportsを盛り上げるために、事業者、選手はどうすれば良いのか

9月18日~21日 開催(一般公開日 20日~21日)

会場:幕張メッセ1~9ホール

入場料:

前売り 1,000円

当日 1,200円

小学生以下無料

 東京ゲームショウ2014の「EIZO / MSI / SteelSeries」共同出展ブースでは各社の様々なデバイスとゲームが展示されており、プロゲーミングチーム「DeToNator」や「Galactic」のメンバーもブースを訪れ交流することができた。

 しかしこのブースの目玉はなんといっても、世界的に有名なプロゲーミングチーム「Fnatic」のマネージャーPatrik “cArn” Sattermon氏がゲストとして訪れていたことだ。

 「Fnatic」は「League of Legends」、「Counter-Strike: Global Offensive」といったタイトルで世界トップクラスの実力を持つチームで、Facebookの「いいね!」数は162万件を越えるなど世界中にファンを持っているチームだ。

 ビジネスデーの9月19日には座談会が開催され、Patrik “cArn” Sattermon氏と日本のe-Sportsのキーマンとの対談が行なわれた。本レポートではその座談会の模様をお送りする。

日本のe-Sports市場を盛り上げるための施策とは

Fnaticチーム最高責任者Patrik “cArn” Sattermon氏
ライアットゲームズCEOの乙部一郎氏
「Alliance of Valiant Arms」運営プロデューサーの井上洋一郎氏

 まずは 「Fnaticチーム最高責任者Patrik “cArn” Sattermon氏から見た世界のeSports事情」と題し、各国のe-Sports市場の状況や、国内のe-Sports市場に対するイメージなどをざっくばらんに語った。

 参加者はPatrik “cArn” Sattermon氏、「Alliance of Valiant Arms」運営プロデューサーの井上洋一郎氏、ライアットゲームズCEOの乙部一郎氏だ。なお座談会は一問一答方式で行なわれたため、それに近い形で記していく。

――世界規模で見るとe-Sportsは勢いのあるジャンルです。世界では多くのイベントが開催されていますが、その盛り上がりをどのように感じていますか?

Patrik “cArn” Sattermon氏:実際に世界の大会に参加しましたが、実際にe-Sportsが盛り上がっているのは肌で感じています。

 例えばゲームに全く興味のない私の母親ですら、「Fnatic」の試合を見ているくらい、ゲームをしない層にまで広がっている様に感じています。

 更に世界中で行なわれているゲーム大会も、大きなスポーツスタジアムを使って、しかもその座席を満席て埋め尽くすくらい観客が来ているという状況を見ても、e-Sportsは盛り上がっていると思いますね。

――それでは日本のe-Sportsについてどの様な印象をお持ちでしょうか? また今後何か期待していることはありますか?

cArn氏:e-Sportsに限って言うとまだ爆発的にヒットしている、という状況ではないと思います。

 ただ、この日本には才能のあるゲームプレーヤーは居ると感じています。これから日本でe-Sportsを爆発的に普及させるためには、周りの支援や、応援が必要になります。今日もライアットゲームズのCEOが来られていますが、「League of Legends」が正式に日本でサービスされると、何か変わるのではと思いますね。

――PCゲーム市場の未来についてどのように考えていますか?

乙部一郎氏:PCゲームは日本ではまだそれ程広がっていなかったと思います。ただ我々の提供している「League of Legends」などでは、新しい楽しみをお伝えすることができると思っています。

 PCゲームというカテゴリの中でどれくらいシェアを取れるかではなく、新しいe-Sports的な体験が世の中に受け入れられると、もっと大きな市場になります。

井上洋一郎氏:「AVA」が2008年にサービスインした時、PCのトレンドはノートPCが多く、PCゲームという視点で見ると厳しい状況でした。その状況から見るとFPSタイトルはそこそこ成長してきたと思いますし、現在も成長を続けています。「AVA」というタイトルだけで見てもそうです。

 市場は決して小さくないので、コミュニティを1つのコンテンツだけではなく、色々なコンテンツで共有できれば、もっと拡大していくでしょう。また拡大していくためのコンテンツがもっと大きくなっていけば、市場が広がると思います。みんなが協力して作れればまだまだ伸びていくと思います。

cArn氏:今後どうすれば良いのか、という質問に対しては、海外と比較して、その差をストレスに感じて無理に追いかける必要はないと思います。

 まず大切なことは、キチンとそれぞれの国において、アマチュア、セミプロ、プロというレイヤーを作り上げること。そして何よりも大切なことは、ゲームをプレイしていて楽しいという体験を、ソーシャルメディアなどを活用して周りに広げ、一緒にプレイする仲間を増やすことです。

――市場として注目している国や場所はありますか?

乙部氏:ライアットゲームズの場合は世界で15以上のオフィスがあって、様々な国にサービスを展開しています。

 最近注目しているのはトルコの市場で、トルコオフィスは凄く成長しています。PCゲームがほぼない状況から始まったのですが、昨年は200以上のトーナメントが組まれ、6,000以上のチームが参加する状況まで成長しました。日本でもそれに近い状況にできないかとも思っています。

井上氏:私の場合は日本でサービスしているので、日本で頑張るしかないんですが、1つのタイトルだけで頑張っていても限界があります。いかににe-Sports文化、対戦ゲーム文化、PCゲーム文化を作っていけるかが重要だと思います。これからはそれが次のステップだと思います。

cArn氏:1つの国を選ぶとなると難しいですが、エリアだと東南アジアに注目しています。「Fnatic」には150万人以上のファンがいますが、その中の10万人はフィリピンというほどです。フィリピンであったり韓国であったり、e-Sportsが広がりやすい環境ができています。

 東南アジアには「League of Legends」や、「Dota 2」が楽しめるゲームセンター(日本で言うインターネットカフェ)が沢山あり、お金がなくてもちゃんとPCゲームを楽しめる環境ができあがっているので、環境としては爆発的に広がる用意はできていると思います。

 「Fnatic」としては、対抗するほど強いチームが東南アジアから出てくるのではないか、と脅威に感じています。また我々もグローバルなチームなので強いプレーヤーが東南アジアに居ればチームをそちらまで広げても良いと考えています。もちろん日本もその中の1つです。

乙部氏:先ほどゲームセンターの話が出ていたのですが、e-Sportsを考える時に「日本のプレーヤーは対人戦を好まない」とよく言われます。しかし、アーケードゲームでは以前から対戦ゲームがありますし今も人気があります。

 最近では賞金がある大会も開催されていますので、e-Sportsとは呼ばれていませんが、あの風景が日本的なe-Sportsであると思います。今それらを楽しんでいる方は、我々が提供しているPCゲームでも楽しんで頂けると思っています。

――日本のe-Sports市場を盛り上げるためにやらなければいけないことは何かありますか?

乙部氏:課題は沢山あると思います。PCゲームの歴史もそんなに長くないので、初心者用のガイドも整えないといけないし、イメージも変えていけなければいけません。

 特にe-Sports系のタイトルは「友達とプレイすることで初めて楽しい」という面があるので、友達を誘っていける場所、機会が必要だと思います。

 海外のライアットのオフィスで言うと1月で200以上のオフラインイベントを開催して、広めていったという側面もあります。日本で同じ規模でやるのは難しいですが、友達を誘っていく機会を作るのは重要かと思います。

井上氏:対戦ゲームの文化はアーケードゲームから始まっていると感じています。アーケードゲームには非常に良いコミュニティがあって、それを僕自身も体験してきたので、オンラインゲームでも具現化したかった、というのがスタートです。

 そのためには日本全国で集まれるような、友達を呼べるようなスポットを作っていく必要がある、と思って「AVA」では頑張って来ました。

 1番大事なのはコミュニティの場だと思っています。ゲームはもちろん大切で、トッププレーヤーが活躍できる大会の場などはもちろん必要ですが、コミュニティがないとそれを見てくれる人は居ないので、以下に友達をコミュニティに入れて、それを広げていけるかが大事だと思います。

 コミュニティの力を借りながら一緒にやっていくというスタイルが重要だと思っています。

cArn氏:日本でもトッププレーヤーとして活躍されている方がいらっしゃると思いますが、私の考えるプロフェッショナルはゲームが上手いだけでなく、行動として示さなければいけません。

 慕ってくれているファンに「これがe-Sportsだよ」ということを伝えられるように、自分自身が伝道師になっているような気持ちで振る舞って欲しいと思います。

【フォトセッション】

トップ選手同士の対談。プロを目指すプレーヤーへのメッセージ

「AVA」トップクラン「DeToNator」のDarkよっぴー選手(向かって左)と「Galactic」のSyaNha1選手(向かって右)

 続いて「Patrik “cArn” Sattermon氏からのアドバイス - プロを目指すゲームユーザーへ」と題し、今度は主にプレーヤーに対するメッセージ、そして選手同士の対談が行なわれた。

 参加者はPatrik “cArn” Sattermon氏、「AVA」のトップクラン「DeToNator」のDarkよっぴー選手、「Galactic」のSyaNha1選手が登壇した。

 まず会場では、司会者からcArn氏に対して「cArnさんは選手としては引退していますが、選手当時活動されていた時のポリシーや、プロゲーマーとして必要な考えがあれば教えてください」と質問があった。

 cArn氏は「FPSですので、『AIM』が上手であることはもちろん重要ですが、変化に対応できる柔軟な姿勢が重要だと思います。私が大切にしていたのはチームのメンバーに対するリスペクトです。勝った時は当然楽しいです、ただ負けるときもあります。負けた時に泣くのではなく、なぜ負けたか考えられるような連携ができていたので、それが大事なことだと思います」と答えた。

 その後、対談は選手同士で質問が交わされていった。

Darkよっぴー選手:cArnさんがゲームを始めたきっかけ、プロを目指そうと思ったきっかけを教えて下さい。

cArn氏:私がゲームを始めたのは11才の時でした。その時はもちろんヨーロッパにもe-Sportsという文化がちゃんとできていませんでした。ただ私には当時プレイしていた「Counter-Strike」に対する情熱がありました。誰よりも練習して、誰よりもプレイしました。

 大会にはもちろん賞金などはありませんでしたし、賞金目当てでもありませんでした。ただゲームが楽しかったのでその為にプレイしていました。ですのでプロゲーマーとして生活していくとはまったく考えたことがなかったです。

SyaNha1選手:FPSで相手と戦う時に作戦を準備しておいて戦う戦い方と、臨機応変に戦う方法があります。「Fnatic」ではどちらを選択していましたか?

cArn氏:事前に準備しておくことは大事です。ただ予想していたとおりに話が進むこともないので、その時に考えていたことが上手く行かなかった時に、チームメンバー全体が次に何をすれば良いのか、というのが準備できている状況に持っていけるのが大事です。

 結論としては、その両方を組み合わせるのが大事だと思っています。

 今度は日本のe-Sports界で活躍されるお2人に伺いたいのですが、日本で活動するに辺り何がストレスになっていますか? 例えば両親の反対なのか、学校や仕事と両立ですとか。

SyaNha1選手:実は就職活動で一時期チームを離れていた時期がありました。まだ日本ではe-Sportsだけで生活していくのが困難ですので、他のことをしながら活動していく必要があります。それが1番のストレスですね。

Darkよっぴー選手:自分はまだまだ技術的に成長の余地があると考えていて、練習時間が取れればもっと強くなれる自信はあります。ただ今は仕事をしながらプレイしているので、なかなか時間が取れていません。自分の中では割りきってプレイしていますが、更に時間が取れればもっと強くなれるのに、と思う時はあります。

cArn氏:私も7、8年、ゲームと仕事を両立させていました。その中でも言い訳せずに練習する時間を取って強くなって来ましたので、きっと仕事をしながらでも成功できると思いますし、それを願っています。

【フォトセッション】

(八橋亜機)