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想像以上にガチだったサムスン+OculusのVRシステム「Gear VR」

“簡易版VR”と侮る無かれ。Oculus Rift DK2を超える映像品質を確認!

9月18日~21日 開催(一般公開日 20日~21日)

会場:幕張メッセ1~9ホール

入場料:
前売り 1,000円
当日 1,200円
小学生以下無料
サムスン電子ジャパンのブース

 ソニーの「Project Morpheus」に、Oculus VRの「Oculus Rift DK2」とVRゲーミング・プロトタイプの展示が花盛りなTGS 2014。そこに思わぬダークホースが出現していた。サムスンとOculus VRが共同開発したスマホ装着型のVRシステム「Gear VR」だ。

 「Gear VR」は9月3日に正式発表されたばかりの新しいVRシステムだ。Oculus VRが開発するヘッドセットに、サムスンの最新タブレットGalaxy Note 4をドッキングすることにより、ユーザーにVR体験を提供するというもの。これがサムスン電子ジャパンのブースで体験可能となっていたので、さっそく試してみたところ、想像以上に素晴らしいデキだったのだ。

低遅延&スムーズなヘッドトラッキング。映像品質は「Oculus Rift DK2」を上回る!

日本未発表のウェアラブル端末の展示も
TGS出展の主役「Gear VR」
体験待ちの大行列
「ユニティちゃんライブ」

 TGS初出展となったサムスン電子ジャパンは、ホール2に小規模な展示コーナーを設置。ここでは国内未発表の「GALAXY Note Edge」や腕時計型ウェアラブル端末「Gear S」などスマホ・タブレット系の最新製品も展示されてたものの、最も大きくフィーチャーされていたのはOculus VRとの共同開発による「Gear VR」だ。

 ブース内ではメインステージが「Gear VR」体験コーナーとなっており、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン謹製のデモ「ユニティちゃんライブ TGS 2014」(コミックマーケット86で公開された2D版は、こちら)や、バーチャルシアター型のVR「シドニアの騎士」の2系統のデモを体験できるようになっている。もちろん長蛇の列で、ビジネスデイにもかかわらず1~2時間待ちという盛況ぶりだ。

 スマホ装着型のVRガジェットというとGoogle Cardboardのように既存のスマホと組み合わせる安価で簡易なものが多数発表されているが、「Gear VR」の違いは、ヘッドセット側に3DOFのヘッドトラッキングセンサーが内蔵されており、Oculus VRこだわりのVR体験品質を提供する、という点である。

 実物手にとって見ると、外寸は「Oculus Rift DK2(以下『DK2』)」を一回り小さくした感じで、素材は軽量のプラスチックが多用されていることもあり、DK2よりもはるかに軽い。レンズ部のつくりはDK2に似ているが、顔に接するパッド部分の作りは浅く、メガネ着用での利用はできない。そのかわり上部にピント調整ダイヤルがあり、筆者のような視力0.1以下のユーザーでも裸眼でくっきりとした映像が見れるなど、軽量化とユーザビリティを追求した作りだ。

DK2より一回り小型で、ずっと軽量。黒いパネルは取り外しでき、そこにGalaxy Note 4をセットする
DK2とは大きく異る作り
装着する筆者。ピント調節が可能で、眼鏡なしでもクリアな映像が見られる

 いざ装着。DK2と異なり、後頭部に固形の固定具が存在することもあり、かなりガッチリとした付け後心地だ。Galaxy Note 4の端末を内部にはめ込んで使用する形態のため、画面を直接するタッチする代わりに、ヘッドセット側面に用意されたボタンでタップ操作を代用するという仕組みもある。

 眼前に広がるのはDK2とほぼ同等の視野角(水平96度)のVR映像。そして驚いたのがそのトラッキング性能の高さだ。頭を旋回させていろいろな方向を向いてみたが、感覚からいうと遅延の少なさはDK2と同等。かなり気をつけて観察しても、遅延の存在に気づかないレベルだ。

 頭を振った際の残像もほとんど感じられない。おそらく、DK2と同じ仕組み(黒挿入によるインパルス駆動エミュレーション)や、トラッキング予測によるスクリーンワープ機能を実装しているのだろう。筆者が体験したのは、一般向けに公開されていたものとは違うデモで、海中を漂う魚類やクジラ類を観察する「theBlu」というものだったが、近傍を通過していく魚たちをヘッドトラッキングで追いかけても全くブレないし、ゴーストもないのだ。

 そして1番感動したのは映像の緻密さ。「Gear VR」とペアで使うGalaxy Note 4は1440p解像度の有機ELパネルである。1080pのDK2よりもひとまわり解像度が高い。DK2でモロに感じられる画素間のスキマによる網目感(Screen Door Effect)はかなり低減され、無いとはいわないが、ほぼ気にならないレベルに近づいている。色収差補正の誤差による色ブレもほぼなく、得られる画質はDK2のものを大幅に超えている。

映像出力中のレンズ部。解像度が1440pとなることで、DK2に比べて網目感が大幅に軽減している

認識の改めと、「Gear VR」、「DK2」、「Morpheus」の特性比較

右側面に配置されたスマホ簡易操作用のボタン類
レンズ部の隣にある小さなLEDらしきもの。何らかのセンサーだろうか?

 というわけで、“まあ、どうせスマホを使う簡易版だしソコソコの品質だろう”などと考えていた筆者は完全に考えを改めることになった。「Gear VR」のVR品質はガチだ。Oculus VRと、本製品の開発チームを率いるJohn Carmack氏の本気を感じるデキだ。これならユニティちゃんだって、DK2よりぐっと鮮明に楽しめる。

 少なくともノン・インタラクティブ系のVRコンテンツを視聴するなら、現時点ではDK2以上のクオリティが得られるデバイスであることは間違いない。特にバーチャルスクリーンに3D映画を映し出すシアター型のコンテンツにおいては、「GearVR」のほうが圧倒的に高品質の体験が得られるはずだ。

 「Gear VR」の課題としては、まず端末性能による制限が挙げられる。現時点では、Galaxy Note 4とのペア仕様を前提としているため、その能力内でフレーム落ちしない3D映像を出力する必要がある。このため、DK2等のPC向けのVRシステムに比べれば映像の3Dレンダリング品質は限定されることになる。VRコンテンツではフレーム落ちは絶対に許されない。そこはアプリ製作の工夫次第といったところだろう。

 もうひとつの課題はポジショナルトラッキングが存在しないこと。DK2やMorpheusを使用すればわかるが、ユーザーの頭の位置をVR空間内に反映できるポジショナルトラッキングは、“そこに居る感”を増幅させ、VRオブジェクトの存在感や、コンテンツのインタラクティビティを大幅に上げる。「Gear VR」はノンインタラクティブコンテンツでの使用を前提にしているふしがあるので、この点は製品版でもそのままにはなりそうである。

 最後の課題としては、高解像度化で低減されたとはいえ。完全に無いとはいえない網目感である。この点においてはソニーの「Project Morpheus」のほうが現時点では上である。Oculus Riftの製品版1号ではこの点でさらなる改良が施されるだろうか。可能性としては異なるパネルを採用する方向もあるかもしれない。

 といった感じで、「Gear VR」はスマホ利用の簡易VRと侮るべきものではなく、カッティング・エッジの「DK2」や「Morpheus」と並べ同列に比較できるレベルのVRシステムだ。モバイルデバイスの性能向上による発展の余地は大きく、VRゲーミングのシステムとしても今後大いに注目が必要となるガジェットになるだろう。

 今回展示された「Gear VR」は開発者向けのプロトタイプだが、製品化の際はワールドワイドでの展開が予定されているという。ただしサムスン電子ジャパンの広報担当者によれば、日本国内での展開は現時点では未定とのこと。視聴型VRは日本ならではの人気コンテンツが確立する可能性が高いはずなので(ステージで踊りまくるユニティちゃんがその未来を暗示している、のだと思う)、ぜひサムスンには「Gear VR」の国内本格展開を目指して欲しいところだ。

(佐藤カフジ)