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【CEDEC 2014】メモリの発達が急加速!かたやCPU・GPUは行き詰まりに?

後藤弘茂氏が語る、2020年までのゲームハードウェアトレンド予想

9月2日〜4日 開催



場所:パシフィコ横浜



参加費:15,000円(デイリーパス)〜

PC Watchでお馴染みのテクニカルジャーナリスト 後藤弘茂氏

 CEDEC 2014の最終日、弊誌姉妹誌PC Watchでおなじみの後藤弘茂氏による講演が行なわれた。「2020までのゲームハードウェアトレンド予想」と題された本講演では、テクニカルジャーナリストとして半導体の側面から切り込み続ける後藤氏の知見から、今後数年におけるゲームハードの発展予測が披露された。

 後藤氏は同様のテーマでCEDEC 2011においても講演を行なっており、今回の講演はそのアップデート版ということになる。現況としては、CPU・GPUといったプロセッサの性能向上ペースは鈍化している一方、メモリ技術は今後数年で長足の発達が見込まれるという。

半導体の高性能化は行き詰まり。アーキテクチャ面での改良が見込まれる

アーキテクチャの統合が進んでいる
モバイルも追い付いてきた

 講演はまず、現状の確認から。昨年から今年にかけてPS4、Xbox Oneと出揃った今世代機だが、いずれもCPUコア数個に、多数のGPUコアを組み合わせ、メモリ空間を共有するというヘテロジニアスなシステムアーキテクチャを採用している。AMD Kaveriのような最新のPCアーキテクチャも同様だ。これに加えて近年はモバイル機器でも同様のアーキテクチャが採用されるようになり、モバイルとゲーム機との境界がますます曖昧になっている。

 この理由は明確だ。半導体の集積度がおよそ2年で2倍になるというムーアの法則が急激に鈍化し、単純な集積度の向上やクロックアップでの性能向上が困難になったため、アーキテクチャ上の工夫が必要になってきたからだ。後藤氏によれば、この状況は回路幅が90nmを下回り始めたあたりから顕著になっているという。

 つまり、トランジスタの構成要素が原子レベルまで微細化した結果、量子力学的な振る舞い(トンネル効果など)が支配的になり、リーク電流(回路から漏れ出して演算に使われず無駄になる電流)が増加した。回路がシュリンクするほどにこの影響は高まるので、電力効率は悪くなり、消費電力・発熱の増大が避けられない。その結果、シリコンチップ上にフルに回路を乗せられず、一部余らせるしかないというダークシリコン問題も深刻になっている。

ムーアの法則が鈍化しつつある
微細化によるリーク電流の影響が顕著に
90nm以降は微細化による性能向上が鈍化。微細化を進める毎にシリコンウェハーの加工にさらに高度な技術が必要となりチップ面積あたりのコストが増すため、世代が変わっても価格性能比が高まりにくいという問題も出てきているという
当面のカンフル剤となる3Dトランジスタ技術
統合ボルテージレギュレーター

 と、ここまでは3年前の講演でも語られた部分だが、どうやら現状は当時の予想よりも悪くなっているという。このことはIntelの14nm、各ファウンダリの20nmプロセスの投入の遅れや、業界指標となるロードマップにおいて、回路のスペックが以前期待されていたよりも保守的になっていることなどに現われているという。

 短期的には、Intelが最新CPUで採用しているFinFETのような3Dトランジスタ技術が救世主となる。この技術では電子の通り道となるゲートを大型化できるため、諸悪の根源であるリーク電流が劇的に低減する。これによりしばらくはさらなる微細化の恩恵を受けることが可能となるが、しかしそれも遠からず天井が見えている(5〜7nmから先の技術が不鮮明)ということで、半導体業界はなんとなく「先が見えない状況」にあるという。そこで、アーキテクチャ面の改良による性能の向上に力が注がれるという流れになっているわけだ。

 例えばIntelのCPUで使われている、ユニット毎の電力供給を細かくコントロールする統合ボルテージレギュレーター、NVIDIAがARM CPUコアのDenverで採用しようとしている動的なコード最適化などは、その努力の一例だ。また、ダークシリコン部分に、それぞれの処理内容に特化したオフロードエンジン(動画エンコーダや、将来的にはレイトレースエンジン等)を実装して、効率的に処理負荷を分散する試みも進んでいる。

 そしてもちろんシステム全体の設計としては、複雑なアルゴリズムを実行できるCPUと、単純な処理を大量のデータに対して行なえるGPUの連携を高めることがカギのひとつであり、PS4、Xbox Oneでも採用されたヘテロジニアスなシステムアーキテクチャが各カテゴリで標準化しつつある。これはモバイルでも既定路線であり、今後しばらくは性能向上に貢献していくという。

 しかし現状では、「CPUとGPUがあまりにもかけ離れている」ことがCPUとGPUをより緊密に統合化していく上での障害となっており、完璧な統合というのは当分できそうもない。業界としてはそのギャップを如何に埋めるかが技術上のチャレンジとなっているとのことだが、これがなかなか難題であることも「先の見えなさ」の原因になっているようだ。

繰り返し実行されるコードをバックグラウンドで最適化する
トレンドとなっているヘテロジニアス・システム・アーキテクチャ
GPUはここ数年28nmプロセスに留まっていたが、まもなく次の段階の微細化へ進む。電力効率を改善しつつ、CPUコアとの統合へと向かう

メモリ帯域はテラバイト/秒へ。遠からずHDDもなくなる?

GDDR5への移行が急速に進む
超広帯域を持つスタックドDRAM
メモリ帯域は1テラバイト/秒へ

 CPU・GPUを取り巻くこういった現状を踏まえ、今後のプロセッサ業界はムーアの法則を守れなくなりつつあり、「本当に先が見えない状態」にあるという後藤氏。しかし光明もある。メモリ技術については、今後数年で急激な発展が見込まれるというのだ。曰く、「今、メモリが1番おもしろいんです」と。

 メインメモリに使われるDRAMについては現在、ハイパフォーマンスコンピューティング分野、GPU分野を皮切りにGDDR5への移行が進んでおり、PCのメインメモリも2015年にはGDDR5が支配的になっていく。これに加えて2016年までには、ポストGDDR5と目されるスタックDRAM HBMというメモリ技術の投入が期待されるという。

 HBMは、TSV技術(シリコン貫通電極、DRAMダイを積層的に接続する技術)に基づくDRAMで、チップ当たり1,024ビット(DDRは16〜32ビット)という広帯域のバスインターフェイスを持つ。これにより帯域あたりの電力を大幅に減らすことができ、GDDR5の倍以上となる1テラバイト/秒以上の高帯域が実現可能だ。

 モバイルの分野でも、TSV技術を用いたDRAMであるWide I/O2が登場見込み。これにより過去2年で2倍に進化してきたモバイルのメモリ帯域は、まもなくデスクトップPCに追いつきそうだとのこと。コスト面で不利な点もあるようだが、時間の問題という認識だ。

 そしてSSD等に使われているフラッシュメモリも急激な進化が見込まれている。微細化による容量拡大を果たしてきた従来のNAND型フラッシュメモリはすでに限界にあるというが、2013年にデビューした新世代の3D NANDはメモリセルの積層数を増やすことで容量は増大している。現時点でワンチップ16GB、将来的にはワンチップ128GBというふうに、およそ2年で2倍ペースで容量を拡大していく予想図が示された。

 NANDの容量が爆発的に拡大していくということで、後藤氏の予想では近い将来にHDDが役割を終える。また、現在複数のモデルが開発中とされる次世代の不揮発性メモリが、最終的にはDRAMの役割に取って代わるという予想も示された。

 まとめると、CPUの性能向上ペースは3Dトランジスタ技術の普及で一時は持ち直すが、やはり次第に鈍化する。CPUとGPUの完全な統合は当分先となる。その一方、メモリは新技術が次々に投入され、帯域幅・容量とも急ピッチで進化していく。というのが後藤氏の描く近未来のシナリオだ。

モバイルDRAMは急速に高速化
NANDは積層化により大容量化を続ける
フラッシュメモリの大容量化によりHDDが役割を終了
各種研究されている次世代の不揮発性メモリ。データを抵抗値で記録、高速に動作する

 こういった半導体の進化シナリオが、ゲームシーンにどういう影響をあたえるか考えてみたい。

 現在、ゲームの動作パフォーマンスを規定するのはおおむねグラフィックス描画の負荷だが、そこではほぼ常にメモリ帯域の不足がボトルネックとしてつきまとっている。これが解消に向かうことで、CPU・GPUの能力がさほど上がらなくても、システム全体のパフォーマンスは向上を見ていくはずだ。

 また帯域幅に余裕が出てくることで、PC、ゲーム機、モバイルを問わず、4K、8Kといった超高解像度環境が意外と早く現実的になってくるかもしれない。こういった超高解像度は、VRヘッドセットにおける体験品質の向上に効果的であろう。VRでは視野の大半を映像で覆うため、フルHD程度では画素密度が不足するからだ。

 さらに少し先、次世代不揮発性メモリの台頭でストレージとワークメモリという区別すらなくなることになれば、ロード時間というものが事実上なくなることも期待できる。従来ではありえないようなスケールの広大さ、密度感を持つゲーム世界も実現可能になるかもしれない。

 目先においては、モバイルの急速な性能向上ペースは当分維持されるため、今後数年で据え置きゲーム機やPCとの差がますます詰まっていく。次世代のモバイルゲーム機は据え置き機相当の性能を持つようになるだろうか。そうなればゲームとのつきあいかたもますます変わっていくだろう。楽しみだ。

メモリの扱い方が根本的に変わることで、「コードをデータのところへ持っていく」というアプローチも
少なくともシリコンチップの限界は見えてきたが、新素材でのブレークスルーも期待されている

(佐藤カフジ)