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一夜限りのイトケンバトルサウンドの祭典がここに!
「One Night Re:Birth Again supported by SQUARE ENIX」ライブレポート
(2014/1/19 03:08)
作曲家伊藤賢治氏が率いるバンドによる一夜限りのライブイベント「One Night Re:Birth Again supported by SQUARE ENIX」が1月18日、新宿文化センター大ホールにて開催された。
伊藤賢治氏は、スクウェア・エニックス時代に、「サガ」シリーズや「聖剣伝説」シリーズなどを手がけ、2001年に独立。独立後もゲーム分野を中心に精力的に作曲活動を続け、近年では「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー)の楽曲を手がけたことで知られる。
あらゆる楽曲の中でもとりわけバトルサウンドの評価が高く、ギターとドラムを中心としたわかりやすいメロディラインは俗に“イトケン節”と呼ばれ、今なお多くのファンを獲得し続けている。
今回実施された一夜限りのライブ「One Night Re:Birth Again supported by SQUARE ENIX」も、そのバトルサウンドを中心にしたライブコンサートとなっており、2月26日に発売を予定しているアレンジアルバム「Re: Birth II/ロマンシング サ・ガ バトルアレンジ -閃-」で収録される新曲を中心に全19曲が演奏された。今回演奏された曲目と出演者は以下の通り。
【One Night Re:Birth Againセットリスト】
・必殺の一撃~死闘の果てに メドレー (サ・ガ2 秘宝伝説)
・バトル1 メドレー(ロマンシング サ・ガ~ロマンシング サ・ガ3 & ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
・四魔貴族バトルメドレー (ロマンシング サ・ガ3)
・Believing My Justice (ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
・Battle #5 (サガ フロンティア)
・下水道 (ロマンシング サ・ガ)
・七英雄バトル (ロマンシング サ・ガ2)
・邪聖の旋律 (ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
・クジンシーとの戦い (ロマンシング サ・ガ2)
・Battle #1(サガ フロンティア)
・ラストバトル(ロマンシング サ・ガ2)
・ラストバトル(ロマンシング サ・ガ3)
・決戦!サルーイン (ロマンシング サ・ガ)
【アンコール】
・呼び醒まされた記憶 (ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
・バトル2 (ロマンシング サ・ガ3)
・Last Battle-Asellus- (サガ フロンティア)
・バトル2 (ロマンシング サ・ガ)
・熱情の律動 (ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
・オープニングタイトル-ピアノソロ- (ロマンシング サガ -ミンストレルソング-)
【出演】
キーボード:伊藤賢治、バイオリン:土屋玲子、ギター:寺前甲、ギター/キーボード:上倉紀行、ベース:榎本淳、ドラム:山内優、マニピュレーター:和田貴史、ボーカル:岸川京子
スペシャルゲストには、伊藤氏と切っても切り離せない存在である「サガ」シリーズプロデューサーの河津秋敏氏が招かれ、「サガ」シリーズ制作当時の昔話に花を咲かせた。また今年は「サガ」25周年ということで、新規プロジェクトが進行中であることが明かされた。それではさっそくライブの模様をレポートしたい。
ライブは、伊藤氏が手がけた楽曲の中でももっとも古い「サ・ガ2 秘宝伝説」のバトルメドレーを皮切りに、「ロマンシング サ・ガ(以下、ロマサガ)」から「ロマンシング サガ -ミンストレルソング-(以下、ミンサガ)」までの通常バトルを集めたバトルメドレー、そして「ロマンシング サ・ガ3」の四魔貴族バトルメドレーという3つの定番メドレーからスタートした。
メドレー曲はいずれも通常バトルをメインにした比較的短い楽曲をつなぎ合わせ、たっぷり聞かせるアレンジに仕上がっており、メンバー紹介を挟んで、「ミンサガ」から、これぞイトケンサウンドの代表格と言った感じの熱量十分のバトル曲「Believing My Justice」、そして「サガ フロンティア」屈指の名曲「Battle #5」の演奏が始まる頃にはスタンディングオベーションが始まり、会場の熱気は早くも最高潮に達した。曲が終わると早くもフィナーレかのような大喝采と歓声に包まれた。
あまりの熱狂ぶりに、伊藤氏はその後行なわれたトークで「もう終わっていい?(笑)」とジョークを飛ばすほどで、バトルサウンドのみのライブコンサートだけに、盛り上がり方が半端ではない。その来場者の熱さにただただ驚かされた。
伊藤氏がトークで話題にしたのは「ロマサガ1」で下水道のシーンで使われている「下水道」について。イトケンファンなら誰しも知っている名曲だが、バトル曲ではない。しかし、ユーザーアンケートを採ったところ、「下水道」のアレンジを求める声が圧倒的で、今回新アルバム「Re:Birth II -閃-」にもアレンジバージョンが新規収録されることになった。ライブでは、その新アレンジを早速聴くことができた。
「下水道」の新アレンジは、「ミンサガ」バージョンではなく、「ロマサガ」の原曲に近い感じで、主旋律はほとんどアレンジを加えずにシンプルに鳴らし、ギターのソロパートを中心とした前奏と間奏がたっぷり加えられている。曲の紹介で伊藤氏が「賛否両論有ると思うんだ」と発言したとおり、ファンの間でも評価が分かれそうなアレンジだ。演奏後伊藤氏は、「下水道」について「タイトルどうにかなんなかったかな(笑)。すまなかったなとこの曲に対して思う」とコメント。この曲に対する思い入れの強さを伺わせてくれた。
ここでこの曲を「下水道」に設定した張本人、河津秋敏プロデューサーがスペシャルゲストとして登場。名前が呼ばれると、河津氏は、一般客が座っている客席からのそっと現われて来場者を驚かせた。河津氏は、感想を聞かれて「『サ・ガ2』の曲から入ったので懐かしかった」とコメントし、逆に伊藤氏に「サ・ガ2」のようなゲームボーイの曲のアレンジはどうなのかと質問した。
伊藤氏は「サ・ガ2」の「必殺の一撃」などの楽曲は1990年に入社3カ月ぐらいで作った曲だったことを明かし、当時は、ゲーム音楽を作ること自体がビギナーで、全くやったことも聴いたことも無く、そもそも3和音で曲を作ることすら知らなかったという。
このため伊藤氏は、はったりを含めて、コンピューターサウンドが作れるとアピールしてスクウェアに入社したという。河津氏によれば、伊藤氏の上司だった植松伸夫氏(「ファイナルファンタジー」シリーズのコンポーザー)は「良いのが入ってきたよ」と言っていたという。
余裕が出てきた河津氏は、スマートフォン向けのカードRPG「エンペラーズ サガ」の人気投票のネタを引き合いに、伊藤氏の女性関係の進展に関する情報を引き出そうとして失敗したり、ステージから伊藤氏の写真を撮ってTwitterにアップしようとしたり持ち前のひょうきんな一面を覗かせた。
そして今年は「サガ」25周年ということで、「サガ」シリーズについて色んな展開を考えていることが河津氏から明かされ、伊藤氏にも楽曲を書いてもらうことを検討しているという。河津氏は、具体的なタイトルについては言及しなかったものの、2013年後半は伊藤氏の楽曲をひたすら聴いていたという。シナリオを書き始めるときは曲がないので、過去の曲を聴いてテンションを上げていき、シナリオを書いているうちに曲が出来てくると、それを聴いてまたテンションを上げていくのが河津氏のシナリオを書くスタイルなのだという。つまり、河津氏は、新規タイトルのシナリオ製作にはすでに着手しているようだ。
さらに2人は思い出したように、「ロマサガ」では、アルベルトとシフのテーマ曲が最初は逆だったことを明かした。伊藤氏はアルベルト向けに勇ましい曲を書いたが、河津氏はアルベルトには若々しい曲が似合うため、合わないと考え、逆にしたという。この間のいきさつは河津氏自身は覚えておらず、「覚えてないね(笑)、『何これ?』とか情け無用に言ってしまうことが多くて」と反省の弁を述べた。
続けて河津氏は、現在計画している次回作の楽曲について、「『ロマサガ』のタイトルや四天王の曲はカッコイイ、これからも凄い曲を書いて貰えれば助かります」と伊藤氏に話を向けると、伊藤氏は「他社のタイトルでもバトル曲を中心に頼まれるが、本当はバラードが好きで、バラードを書きたいというと『またまた~』と言ってきやがるんです」と応じ、河津氏はプロデューサーの立場から「バラードは使いどころが難しい。長いシーンじゃないと使えないが、ぜひ書いてもらいたい。使いどころを作るし、泣ける曲やラブソングも書いてもらえるといい。沢山、何十曲も頼むつもりです」と大きな構想の一端を披露し、次回作がフルスペックのタイトルであることを明らかにした。正式発表が楽しみだ。
ライブ後半では、バイオリンの土屋玲子さんが登場。「ロマサガ2」の「七英雄バトル」、
「ミンサガ」の「邪聖の旋律」、「ロマサガ2」の「クジンシーの戦い」の3曲を、主旋律にバイオリンを使った大胆なアレンジでたっぷり聴かせてくれた。
とりわけ印象的だったのは「邪聖の旋律」。原曲はパイプオルガンがコーラスを使った荘厳な曲だが、アレンジでは疾走感はそのままに、美しい主旋律をバイオリンとギターが交互に務め、がらりとその印象を変えていた。「ミンサガ」では、ディスティニーストーンを守るボスとの戦いでこの曲が使われるが、戦いを避けるのが基本の「サガ」シリーズにおいて、この戦いだけは回避できず、常にギリギリの死闘が繰り広げられるため、当時の死闘を思い出して、ついつい感動してしまった。
2曲終わったところで土屋さんとのトークが行なわれた。土屋さんは日頃ゲームはやらないそうだが、今回弾いた伊藤氏のバトルサウンドについて「興奮します。戦ったような気持ちになる」とコメント。次に演奏する「クジンシーの戦い」は、土屋さんのバイオリンアレンジが新たにアルバムに収録されるということだ。
演奏に入る前に今回伊藤氏と一緒にMCを務めた上倉氏が、「これクジンシーのための曲ではないのに、なぜこの曲名?」とクールな突っ込みを入れると、伊藤氏は若干しどろもどろになりながら、「自分はゲームが下手で、ゲームのモニターチェックをやっても序盤で躓くので、クジンシーぐらいまでしか行かなかった」と告白。このため、伊藤氏はクジンシーの曲だと勘違いしてこの曲名を付けたというが、ものの見事に違っていたというのが真相だという。「当時はあまりこだわらなかった。のんびりした時代でした」とコメントし、笑いを誘っていた。
バイオリンアレンジ「クジンシーの戦い」は、主旋律のほとんどをバイオリンが務めるという大胆なアレンジになっていたが、意外にも非常にマッチしていた。ぜひ新アルバムで直接確認して欲しい。
続いて新アレンジとなる「サガフロ」から「Battle #1」が演奏された。アンコールでも「サガフロ」のラスボス曲「Asellus」のアレンジが演奏されるなど、新アルバムでは、「サガフロ」アレンジが多いのが特徴となっている。
伊藤氏は、これまで「サガフロ」の楽曲は、難しい曲が多く、演奏するのが大変なのでアレンジを意図的に避けていたが、ようやくやる気になったのだという。「サガフロ」は主人公全員分のバトルサウンドが存在することで知られるが、そのきっかけは当時のディレクターの「プレイステーションだし、全員分聴きたいねえ」という軽い一言だったという。伊藤氏は少しカチンと来て、すったもんだがあって意地で作ったという。また、当時はプログレを知らなかったため、植松氏に聞いてオススメの曲を聴いたり、学びながら作ったという。ちなみに「サガフロ」においても「ロマサガ」と同じBm(Bマイナー)を踏襲しており、「サガ」シリーズは伊藤氏の中でBmで統一されているのだという。
ライブの締めくくりは、伊藤氏のバトルサウンドの中でも屈指の人気を誇るラスボスバトル3連発。伊藤氏はフィナーレらしくオールスタンディングを要求し、観客もそれに応え、怒濤の勢いでバスドラが鳴り響く中、「ロマサガ2」、「ロマサガ3」、そして「決戦!サルーイン」が立て続けに演奏された。メンバーのパフォーマンスと観客のスタンディングオベーションがひとつとなり、未曾有の一体感が生まれた。やはりライブは素晴らしいと思えた瞬間だった。
続いて伊藤氏が「一度はけて、それからがある」と口を滑らせたアンコールが始まったが、「ミンサガ」から三邪神シェラハのバトルテーマ「呼び覚まされた記憶」を皮切りに、伊藤氏単独によるオープニングタイトルのピアノソロまで実に6曲が演奏され、ボリュームたっぷりだった。
アンコールに合わせてバイオリンの土屋氏が衣装を変えて再び登場し、さらにアンコールだけのサプライズゲストとして「ミンサガ」で「熱情の律動」等の声楽曲を務めたボーカルの岸川恭子さんが登場。来場者にはこれで「熱情の律動」が演奏されることが確定的となり、伊藤氏も来場者の興奮を察して「『熱情の律動』やるよ!」と呼びかけ、大歓声がわき起こった。
度肝を抜いたのは、「熱情の律動」の前座として演奏された「ロマサガ」の「バトル2」。いわゆる汎用の中ボスバトルだが、お馴染みの主旋律を丸ごと岸川さんのボーカルが務めるという前代未聞のアレンジで、岸川さんが伸びやかな歌声で担当パートを歌い上げると曲中にも関わらず大きな拍手に包まれた。この「ロマサガ」の「バトル2」は、新アルバムに収録されるということだが、残念ながら岸川さんアレンジはライブ限定ということで、岸川さんボーカルバージョンは未収録となるようだ。
続く「熱情の律動」では、岸川さんの圧倒的な声量による情熱的なボーカルとフラメンコ調のメロディラインがピッタリとハマり、フィナーレらしい大盛り上がりを見せた。
最後は、伊藤氏がピアノソロでオープニングテーマを演奏。自身が好みだというバラードアレンジでしっとりと弾ききり、自身の手でライブを締めくくった。伊藤氏自身のバラード好きを裏付けるようなフィナーレだった。
「One Night Re:Birth Again」で演奏された新アレンジは、2月26日発売のバトルアレンジアルバム「Re: Birth II/ロマンシング サ・ガ バトルアレンジ -閃-」に収録される。ライブに参加して感動した人はもちろんだが、残念ながらライブに参加できなかった人は、ぜひこのアルバムでライブの興奮の一端を味わってみてはいかがだろうか。