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【夏休み特別企画】ミャンマーゲームマーケットレポート(マンダレー編)
ついにミャンマーにゲームショップを発見! このわずかな芽をどう育むべきか?
(2013/9/2 00:00)
ついにミャンマーにゲームショップを発見! このわずかな芽をどう育むべきか?
そうした中、マンダレー滞在2日目にしてついにゲームマーケットの象徴的な存在であるゲームショップを見つけることができた。しかも2店舗も。1店舗はタイから流れてきたという比較的真新しいゲームショップで、もう1店舗は古くから店舗を構えている中国系のゲームショップだ。
ゲームハードはすべて並行品で、欧米のほか、遙々日本からも来ている。周辺機器は並行品もあれば、広州、深センあたりから流れてきたらしいバルク風の偽物もあった。ゲームソフトはすべてコピーかと思いきや、PS3やPS Vitaのタイトルは本物の並行品も置いている。そしてハードの修理にも対応している。つまり、PS3やXbox 360の海賊版を遊ぶために必要なプロセスとなる改造もしてくれる。ここには新興国にある海賊版を前提としたゲームショップの機能がひととおり揃っていた。
ハードは輸送代ということなのか若干のプレミアムが付いていて、PS3の250GBモデルが400,000チャット(約4万円)、PS3の限定モデルが520,000チャット(約52,000円)、PS Vitaが260,000チャット(26,000円)。ソフトはPS2/Xbox 360版が1,000チャット(約100円)、PS3版はHDDへの直コピーで1本3,000チャット(約300円)といった感じだ。筆者が訪れた際、いずれもお客がいてバインダーを開いてコピーソフトの価格交渉をしていた。大賑わいという感じではなさそうだが、そこそこの固定客はいるという印象を受けた。
これらのゲームショップと、市内にあるコピーソフト屋やレンタル屋は、コピーソフトを売り物にしているという点では似たような商売をしていると思われがちだが、実はまったく異なる商売をしている。ゲームショップはゲーム専門店なので、当然ゲームの品揃えが豊富であり、取り扱っているプラットフォームも多いが本質はそこではない。
市内のコピーソフト屋は、PS2やWindows向けのゲームディスクのイメージデータを焼いたものか、iOS/Android向けのアプリデータ、あるいは単に旧ハードのエミュレータを詰め込んだものばかりだ。すなわちハードの改造をせずに、ソフトウェア側だけで何とか動かすことができるばかりなのである。
これらのコピーソフトは、アジアの片隅にある工場で、PCに接続されたDVDライターとプリンターが24時間稼働する形で生成され、何千枚、何万枚という単位で、陸路、海路を通じて新興国向けへ出荷されていく。ミャンマーで見かけた99%のコピーソフトがそのようなプロセスを経て届けられたものだ。
なぜ陸路/海路か、なぜ新興国なのかというと答えは簡単で、もはや物理的なディスクメディアが売れるのは、それ以外の選択肢がない新興国に限られるし、新興国の人々に買って貰うためにはコストを限界まで落とす必要があるからだ。かつてはコピーの魔窟だった中国や台湾、シンガポール、タイなどは、経済成長に伴いコピーはすっかり姿を消したが、これはそれらの国や地域からコピーがなくなったわけではなく、提供形態が物理的なディスクから、ネットからのダウンロードに変わっただけだ。ミャンマーはネットが遅すぎて、あるいはPCが高すぎて買えないため、その選択肢が採れないだけである。こうした実態を見ると、海賊版の撲滅は、啓蒙活動や業者の摘発では無理だということがよくわかる。根本的に海賊版を無くすには、ビジネスモデルを変えるしかないのだ。
一方、ゲームショップは、ポートフォリオとしてそれらのコピーソフトも扱いつつ、コピーソフト屋が扱っていないPS3やXbox 360、PSPのコピーソフトなども扱っている。これらのソフトは、単にコピーしたディスクをハードに挿入するだけでは動かない。海賊版が動くようにするためにハードをハックする必要があるし、PS3のゲームはBru-rayには焼けないため、HDDにコピーする必要がある。
つまり、このビジネスを展開するためには、ゲームハードに関してある程度の知識を備えたエンジニアと、そこまでしてでも何が何でも遊びたいというコアなゲームファンの両方の存在が必要不可欠になる。だから、新興国でワンセット揃ったゲームショップを見ると、「ああ、ここにゲーマーがいるのだな」ということがわかるわけである。どのみち、“糞味噌の海賊版ビジネス”に違いはないのだが、「こんなところにもゲーマーがいる!」とわかるのは嬉しいものである。個人的にはこの芽を詰んでしまうのではなく、マーケットに合わせたビジネスモデルを提案し直し、市場的に正しい方向に伸ばしていくことが大事だと思う。
余談だが、今回のミャンマー視察ツアーではひとつ仕掛けを用意していた。ニンテンドー3DSを持ち歩いて、すれ違い通信でミャンマーの3DSユーザーとすれ違えるかチャレンジするというものだ。試しに上海でトライしたところ、ChinaJoyの会場では、さすがにコアなゲームファンが来場しているためか、簡単に1回あたりの上限である10人を集めることができた。ちなみに、すれ違ったユーザーは名前は明らかに中国風だが、居住地は日本、あるいは東京としている人が多く、中国滞在中に数十人ほどすれ違ったが、居住地を中国としているのはわずかひとりだった。
それでミャンマーではどうだったかというと、ヤンゴンでは見事にゼロだったが、マンダレーでは“東京都のとも”さん、つまり日本人旅行者とすれ違っただけだった。この1点だけをもって何かを断定するつもりはないが、ミャンマーにはニンテンドー3DSはまったく普及していないという、当たり前過ぎる事実は指摘できそうだ。