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角川ゲームスとSCEJの人材発掘プロジェクト

「Project Discovery」授賞式を開催

3月20日 開催

会場:ソニー・コンピュータエンタテインメント SSJ品川ビル

SCEJの河野弘プレジデント

 角川ゲームスとソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンは、人材発掘プロジェクト「Project Discovery」の授賞式をソニー・コンピュータエンタテインメント SSJ品川ビルにて開催した。

 「Project Discovery」は、PlayStation Vita用の新規IPを構成するシナリオやキャラクターデザインといったアセットを一般から公募したプロジェクト。コンセプトは「みんなと創る、あなたの物語」。ユーザーがシナリオ、キャラクターデザイン、ボイス、楽曲といった得意分野を持ち寄ることで、新しい作品を創出する才能を発掘・発見する両社の共同企画。

 2012年12月7日に締め切られ、応募総数は516通。本日は「シナリオライター部門」、「グラフィックデザイナー部門」、「サウンドディレクター部門」、「ボイスアクター部門」について授賞式が行なわれた。なお「パッケージ部門」は該当者なし。

 SCEJ プレジデントの河野弘氏は「本プロジェクトは、1年くらい前に角川ゲームスの安田社長に持ちかけられた『作り手を盛り上げるような、未来のゲームクリエイターたちに何かチャンスを提供できないだろうか? 何か考えませんか?」という話がキッカケで今日に至ったという。

 続けて「ゲーム業界が盛り上がる場を提供することは以前から興味を持っていたし、さまざまな取り組みをしていた。『ぜひ一緒にやらせてください』と話し合い、決めたことがいくつかある。ひとつは、シナリオ、グラフィック、楽曲、キャラクターデザインなど、幅広い分野を募集すること。もうひとつは、我々プラットフォーマーと、さまざまなクリエイターに場を提供し運用されている角川ゲームスさんとタッグを組んでやらせていただくこと。もうひとつは、個人だけでなくリンク募集も受け付けること」と説明した。

 前述のとおり応募は2012年12月7日で締め切られたが、4日前の時点では応募総数は少なく、安田氏からそれをきいた河野氏は「少数精鋭でいくのかな? と少々心配になった」とというが、ギリギリまでクオリティ向上に努めたいという応募者の心情のあらわれだろうか。期限が迫るにつれ応募が見る見る増えていき、最終的に516通まで膨れ上がったという。

4部門の最優秀・優秀賞に賞品贈呈

 授賞式には、特別審査員として株式会社ロボット 代表取締役社長の加太孝明氏、ufotable 代表取締役社長の近藤光氏、ベイシスケイプ 代表取締役社長の崎元仁氏、株式会社角川書店 デジタルコンテンツ部/電子書籍部 部長の芦尚文氏、ゲストプレゼンターとして声優の藤田咲さんがそれぞれ出席した。

加太孝明氏
近藤光氏
崎元仁氏
藤田咲さん

 受賞者は「シナリオライター部門」、「グラフィックデザイナー部門」、「サウンドディレクター部門」、「ボイスアクター部門」について、最優秀作品「Excellent Prize」と優秀作品「Spirit Prize」がそれぞれひとりずつ。また、特別賞として「ROBOT賞」がシナリオライター部門からひとり選出された。受賞者は以下のとおり。

【シナリオライター部門】
Excellent Prize:恩田竜太郎さん(応募作:だいだいダイスキ!)
Spirit Prize:押石八兎さん(応募作:非接触型恋愛)

【特別賞 ROBOT賞】
Special Prize:北野梅花さん(応募作:鉄観音高校紅茶道部活動記録 ~決戦は学園祭~)

【加太孝明氏のコメント】

 私どもは多少ジャンルが違うんですが、映画やアニメーションの制作を行なっており、面白いストーリーや優秀なクリエイターとコラボレートするチャンスを求めておりました。今回、応募者のみなさんにエールを贈りたく審査に参加させていただきました。

 1作品ずつ寸評を申し上げます。恩田さんの「だいだいダイスキ!」は、ロボットの少女と人間の少年の初めての恋愛について描かれたものでした。初々しい恋愛を描きながら、どこか遠いノスタルジックな感傷も感じさせてくれました。個人的に、作中に「ロボット制作会社」が出てきて、ちょっと嬉しかった思いがあります。

 続いて押石さんの「非接触型恋愛」は、潔癖症の少女に対する少年のあふれんばかりの想いが、厚い壁を突き破り最後は想いを遂げる物語でした。少年の自意識過剰ながらストレートな想いと作品描写の勢いがあいまって、みずみずしいエネルギーが生み出されていました。

 ROBOT賞に選出させていただきました「鉄観音高校紅茶道部活動記録 ~決戦は学園祭~」は、部活動を中心とした少女の日常を描きながら、熱い青春ものとなっていました。登場人物がそれぞれ生き生き描かれていて、1本の映画を観たような爽やかな印象を抱きました。

 それぞれ甲乙つけがたい魅力をもった作品が応募されましたが、そのなかでもこの3作品は優れたものだったと思います。

【グラフィックデザイナー部門】
Excellent Prize:飴えりかさん
Spirit Prize:nakazyさん(授賞式は欠席)

【飴えりかさんの応募作】【nakazyさんの応募作】
タイトル:銃娘(1)
タイトル:オンライン侍
タイトル:銃娘(2)
タイトル:狙撃手

【近藤光氏のコメント】

 SCEJと角川ゲームスさんが「Project Discovery」というプロジェクトを立ち上げるというお話をきいて「またアグレッシブなことを始めるんだな」と思いました。

 僕らはアニメーションを作っている集団です。アニメーション制作には、だいたい100~200人くらいのスタッフが関わってきます。基本となる部分はシナリオやキャラクターデザイン。キャラクターデザインが決まり「これでいく」と決めたら、100~200人が皆その絵を真似て、艶や躍動感を表現しようと昼夜問わず頑張っていく。とても大事なものだし、それだけ多くの人の人生が関わっていき、それを観て喜んでくださる人たちがいっぱいいる。皆があこがれる役職で、とても責任重大な場所だと思います。

 それを、SCEJと角川ゲームスさんが後押ししてくれる。このふたつがコラボレートして前に進む。5年、10年前には考えもしなかったことが次々と起こっていく時代。その第1回目を授賞された方は、とてもラッキーだと思います。

【サウンドデザイナー部門】
Excellent Prize:東原一輝さん(応募作:風の~melody~/Racing a Machine 他)
Spirit Prize:橋口礼さん(応募作:Introduction / Soul of Soldier)

【崎元仁氏のコメント】

 僕は今回、選考にあたり“曲”以外のことは一切排除しました。性別、年齢、経歴をまったく知らず、直感的に(選考)。今日ここに来て会うのが楽しみでしたし、本当をいうと、このまま飲みに連れて行って色々話をききたいんですけど(会場笑)。

 これはクリエイターに限らず、僕たちはずっと競争して生きていかなきゃいけない。特に社会人、エンタメの世界は競争が激しい。そんなとき、がむしゃらになりふりかまわずできることって、僕は凄く重要だと思うんです。今回、選考した曲は一様にレベルが高くて、技術的な脚切りをする気マンマンではあったんですけど、それにひっかかる人もあまりいなかった。

 本プロジェクトはコンテスト、オーディションみたいなだと僕は思っていまして、先行きどれくらい伸びる可能性があるのかを重視して選考させていただきました。このふたりは、そういった意味では伸び代を凄く感じる人たち。技術的な問題は、勉強すれば(習得)できることなんですね。高いPCやソフトを買って扱える、というのは全然偉いことでもなんでもなくて、より長い時間“自分にしか作れないものを創ってきた人”が、長く生き残れるんですよ。

 そういうのって実に地味な訓練をしなきゃいけなくて、実際なにかひとつのものを見たとき、自分がどう感じるのか。他の人たちがどういうふうにいっていて、自分が全体のなかの立ち位置、どのへんにいるのかを見極めていかなきゃいけない。きっと、このおふたかたはそういうことをずっとされてきたんだろうなぁと思っていたんですが……結構お若いですよね(笑) 凄い人がいるんだな、と思いました。

 せっかくこういう機会で集まれたわけですし、ぜひ(受賞者の)みなさん仲良くして“コンペ仲間”というか、いいお友だちでありライバルという関係になって欲しいと思います。僕たちはこういうことをずっと続けていくしかありませんので、どうせだったら明るく楽しく長続きできるように。楽しくやることが長続きの秘訣になりますので、そんな機会になるといいなと思います。

【ボイスアクター部門】
Excellent Prize:川上晴香さん(応募作:後輩・同級生・妹)
Spirit Prize:堀龍也さん(応募作:爽やかな青年・「君」の人生の創造主が「僕」だったら)

【藤田咲さんのコメント】

 (授賞コメントを求められて感涙した)川上さんの純粋な涙を見ていたら、養成所にも通っていなかった頃、芝居に対して情熱をもって向かっていた気持ちを思い出しました。素人の頃ってオーディション自体全然少なくて、間口も全然なくて、それでも「情熱があふれているんです!」、「やる気はあるんです!」という状況が続いていて……。で、こういうふうに「Project Discovery」というひとつのチャンスがあって、それに対してたぶん多くの若者が……まだ若者じゃない方もいらっしゃるかもしれないんですけど(笑) 自分に負けない、挑戦していく姿勢をもって取り組んでくださった方が多かったと思うんです。

 そのなかで、チャンスをつかむ。自分の未来を輝かせるために必要なことだと思います。「ふたりともチャンスがつかめてよかったなぁ」というか、そういうふうに思いました。やっぱり、やる気のある人たちが輝いていく世界が素敵だなと思うので、今の熱意や情熱を忘れずに、これからも芝居に打ち込んでいただきたいなと……こんな上からいって申し訳ないと思うんですが(笑)。

 今回授賞されなかった方も、ちょっとの差で負けてしまったという方も多かったと思います。あきらめないで、このプロジェクトがどんどん続いて、より多くの方にチャンスを与えてくださる場になるようみなさんに提供していただきたいなと思います。そんな人たちが多く輩出されるなか、私自身も成長して、より情熱をもってがんばっていきたいなと思います! 本当に、この会に呼んでいただいて、私も初心に戻れて凄く嬉しいです。

【「Project Discovery」受賞作ムービー】

パイロット版を今秋に配信予定 ~プロジェクト第2回の開催も決定!~

 応募者全体に対するメッセージを求められた角川書店 デジタルコンテンツ部/電子書籍部 部長の芦尚文氏は「今回、非常に多くの作品が応募されました。ひとつひとつの作品から情熱、熱意を感じました。惜しくも選考に選ばれなかった作品のなかにも、可能性が感じられるものが多くありました。めげずに新しいチャンスに向かってがんばってもらいたいと思います。角川書店は昔からメディアミックス戦略を得意としておりまして、小説化、映像化、ノベライズ、コミカライズをやっておりますが、今回の作品に触れ合ったことで、ゲーム関連も発展的にビジネスに取り入れたいと強く感じました。可能性を感じることができ、このプロジェクトを発展的に進めたいと個人的にも思っております」とコメント。

 続いて登場したのは、SCEJ パブリッシャーリレーション部 NBPセクション ディレクターの浅野高志氏、角川ゲームス開発本部/副開発本部長 ゼネラルプロデューサーの田中謙介氏。

 両氏は関係者各位へのプロジェクトに対する支援に感謝を述べるとともに、最優秀賞の受賞者が制作に参加するパイロット版の制作決定をアナウンス。SCEと角川ゲームスが共同開発したPS Vita向けゲームエンジン「Discovery Engine」を採用。田中氏によれば「このエンジンを使えた短期間で優れた述べるゲームを開発できる」という。PlayStation Storeにて今秋配信予定。

 角川ゲームス 代表取締役社長の安田善巳氏は「日本を代表する各分野の権威に『あなたは魅力・可能性がある』とSCE本社で表彰を受けることは、滅多にないこと。この時代にコンシューマゲームの制作に参加できるのも、皆様にとって嬉しいことではないかと思います。私も気持ちは若いんですが、それなりに歳なので(笑)。一言だけ申し上げますと、ゲームという仕事は、他のエンターテインメント同様に必ず結果が出ます。とても厳しく、辛い仕事になります」と表現。

 続けて「実際に物を作っているときも、苦しさ、辛さ、悔しさの連続。映画と同じように、その期間がとても長い。そういう仕事ではありますが、それを吹き飛ばすくらいユーザーの方に評価していただける喜びは、このうえないものがあります。もし、そういう覚悟、気持ちでこのお仕事を幅広い進路のひとつに考えていただけるのであれば、我々はこのプロジェクトで“キッカケ”をご提供できたのではないかと思っています。あとは皆様次第です。この後パイロット版をみなさんと制作しますが、一緒に楽しくがんばっていきたいと思います」と受賞者にアドバイスとエールを贈った。

 挨拶の最後に安田氏は「Project Discovery 2(仮称)」の開催を明言。詳細は事務局から後日改めて発表するとしている。

芦尚文氏
田中謙介氏
浅野高志氏
安田善巳氏

(豊臣和孝)