Game Developers Conference 2012レポート
【GDC 2012】次の億万長者パブリッシャーは誰だ?
「フリー・トゥ・プレイ」モデルが生み出す可能性を探る
「The Rise of Free-To-Play Core Coming」というセッションでは、オンラインゲームのベンチャーキャピタル会社Benchmark CapitalのMitch Lasky氏がフリー・トゥ・プレイ(F2P)のビジネスモデルについて講演を行なった。
Lasky氏は「F2Pはコアビデオゲームビジネスを崩壊させる」と語り、その可能性を概説した。“フリー・トゥ・プレイ”はアジアではすでに長い歴史を持つビジネスモデルだが、アメリカでは近年大きな注目を集めるようになっており、今年のGDCではF2Pに関するセッションが数多く行なわれた。この講演はその中でもソーシャルゲームのエッセンスを非常にわかりやすくまとめてあったので紹介したい。
■ なぜフリー・トゥ・プレイのビジネスモデルが効果的なのか?
Benchmark CapitalのMitch Lasky氏 |
F2Pはこれまでの価値を破壊するマーケット戦略であり、ゲームだけではなく音楽業界、テレビ、新聞など既存のビジネスモデルがネット上の無料サービスに置き換わってきた。ゲーム業界では“サービスとしてのゲーム”という考え方が生まれた。これまでのゲーム開発は、まず開発を行ない、その終盤からマーケティングをして発売するというものだった。しかし、F2Pではある程度開発が進んだ段階でゲームはβバージョンとしてリリースされ、ユーザーのフィードバックをもとに改良しながら、開発、マーケティング、流通が同時に行なわれていく。
パッケージは発売直後にそのほとんどを売り上げるが、ソーシャルゲームは発売直後から少しずつユーザーを増やしていく。パッケージゲームに比べて間口が非常に広く、入ってきた大量のユーザーの中からお金を払ってくれるユーザーが選別されていく。
沢山のビジネスモデルがF2Pと有料のモデルを両立している。その例としてLasky氏はDropboxを上げた。Dropboxはダウンロードするだけで2Gまでのデータを無料で預かってくれるクラウド型のストレージサービス。2G以上のデータを扱いたい場合には、2つの有料プラン(月額9.99ドル/50G、月額19.99ドル/100G)が用意されている。
ゲームの場合、F2Pは広告モデルからスタートした。ゲーム画面の中に広告を入れたり、企業サイトに誘導して会員登録することでポイントが出に入るようなモデルなどがあった。そこに主にバーチャルアイテムの購入を目的とした少額決済のビジネスモデルが登場した。
なぜF2Pモデルが次世代のビジネスモデルと言えるのか、Lasky氏はその理由を、今回のGDCで何度も見かけた図で説明した。縦軸はがユーザーが支払ってもいいと思う金額、横軸がユーザーの数の放物線グラフ。北米で“40時間/50ドル”と呼ばれる一般的なパッケージモデルは、放物線の中に納まる四角形として表すことができる。
ゲームの価格が50ドルの場合、それ以上支払う能力があるユーザーでも、50ドルしか支払わないし、50ドルを高いと感じる人は最初から除外されてしまう。だが、F2Pの場合、1,000ドル払えるごく一部の人も、5ドルしか払いたくない多くの人もユーザーにすることができる。これはつまり、アメリカと中国のように貨幣価値が違う国で、まったく同じサービスを提供できるということだ。
これまでのようにプロモーションに何百万ドルも支払うのではなく、フリーゲームの持つ力が顧客を引き寄せ、ブランドを作り、バイラル性やコミュニティを生成していく。そのためには柔軟性のある販売方法や、バーチャルアイテムの価格設定が必要になる。
ゲーム以外の業界でも、ネットの無料サービスが旧来のサービスに置き換わってきた | Dropboxでは2Gまでは無料でサービスを利用できる | 初期のビジネスモデルは、広告で料金を賄うというものだった |
アイテム課金はより効果的なマネタイズの方法として使われるようになった | これまでの「40時間/50ドル」ゲームのユーザー | F2Pでは全体をユーザーにできる |
■ フリー・トゥ・プレイビジネスのこれまでの流れ
F2Pは当初はアジアでのみ通用するビジネスモデルだと思われていた |
F2Pゲームは2005年から2009年まで、主に東アジアのコアゲームの中で使われていたが、この当時は西洋のゲーム業界はそれが自分たちの商圏でも通用するかどうかについて懐疑的だった。だがソーシャルゲームが登場し、「FarmVille」(Zynga)のような大ヒット作や、モバイルゲームがまずはカジュアルゲームの文やで、西洋でもF2Pやバーチャルアイテムのビジネスモデルが成功することを大々的に証明した。
コアゲーマー向けのオンラインゲームにもF2Pモデルが増えてきて、コアゲームの開発費を十分賄えるマネタイズが可能だとわかってきた。だが、古参の大手企業はまだ迷いを捨てきれず、従来の課金方法とのハイブリッドを採用したりもした。その例として挙げられた「Team Fortress 2」(Valve)は、カートゥーン風のキャラクターで戦うFPS。2007年に発売された当初はパッケージでの販売だったが、2011年にSteamから無料でクライアントをダウンロードできるF2Pモデルに移行した。
そしてついに西洋でも最初から無料で始めるゲームが表れ始めた。その中で特に大成功を収めているのが「League of Legends」(Riot Games)だ。もとは「Warcraft III」のMODである「DotA」を使ったインディーズゲームだったが、今では法人化して全世界で1150万人/MAUにサービスをする屈指のオンラインゲームメーカーとなった。
Riot Gamesは社是の中で「F2Pは、既存のブランドを取り払い、無名の新興企業の参入を容易にする」、「無料のタイトルでも、高い品質と面白いゲームを提供するなら、コアゲーマーはバーチャルグッズを喜んで購入するだろう」、「DotAのユーザーは非常に多く、情熱的で、面白いゲームに飢えている」、「真のF2Pは“すべて”を提供すべき」と語っている。「League of Legends」は、あまり高額の課金をせずに遊べるゲームとして日本でも一部のファンに人気がある。
そしてまた、Riot GamesはF2Pモデルのリスクについても語っている。まずF2Pはあくまでもカジュアルゲーム向けの手法であること。開発費が高くなると、それを補うためにより高収益のマネタイズが必要になる。会社としてそれに依存してしまうのではなく、次世代のトップに立つための次のビジネスモデルを構築していかなくてはいけない。そのためにはDotAに依らない独自の開発をする必要がある。
「FarmVille」の成功で、バーチャルグッズが西洋諸国でも通用することが証明された | 「Team Fortress 2」は2011年にクライアントが無料化されて、アイテム課金ゲームになった | 「League of Legends」は世界中でヒットしている |
■ ソーシャルゲームを成功させるための10のポイント
「誰もが大金持ちになれる可能性がある」とベンチャーキャピタルらしい鼓舞をした |
最後にMitch Lasky氏はソーシャルゲームを成功に導く10の要因を紹介した。
1.クラウドサービスのための大規模インフラ
2.グローバルなイーコマースのためのシステム
3.サードパーティーをまとめるプラットフォーム
4.積極的な顧客の絞り込み
5.ソーシャル市場のマーケティング
6.データの分析と素早い解析
7.バーチャルアイテム販売のためのマーチャンダイジング
8.ユーザー獲得のための価格のバランス
9.しっかりしたカスタマーサービス
10.最も重要なのは、F2Pのための素晴らしいゲームデザイン
インターネットが、これまで消費の中心だった人以外にもプレーヤーの裾野を広げた。ソーシャルゲームの開発会社は巨大企業へと成長している。会社を大きくして、複数のタイトルを同時にサービスすることでイーコマースや、クラウドのインフラにかかる費用を分散すことができる。ユーザーが集中することで、顧客獲得にかかるコストも低くすることができる。また、単体のゲームが失敗した場合のリスクを軽減し、投資を集めやすくするというメリットがある。
現在はSNS以外にも沢山のプラットフォーマーが市場に名乗りを上げている。Riot Gamesは中国最大の通信会社Tencentと提携。Valveが運営するゲームのダウンロードサ―ビスSteamやElectronic Artsのゲーム通販サイトOriginでも自社開発のソーシャルゲームをはじめとしたF2Pのゲームを扱っている。Zyngaが発表した独自のプラットフォーム展開など、現在もその数は増えている。この中で誰が覇権を握るかはまだ見えていない。パッケージビジネスを崩壊させるような次の巨大パブリッシャーになるチャンスはすべての企業にある。
成功のための10の要因と、次々に現れたF2Pの新興パブリッシャー。「Haeken」は今年の12月にサービスを始める期待のF2Pゲーム。サイバーパンクな都市を舞台にしたインディーズ製作のロボットFPSだ |
□「GDC 2012」のホームページ(英語)
http://www.gdconf.com/
(2012年 3月 11日)