モバイルカンファレンス「スマートフォン2011春」開催

バンダイナムコ、カプコンなどがゲーム開発・展開について講演


4月26日~28日 開催

会場:東京国際交流館・プラザ平成

参加費:60,000円(3日券)
    25,000円(1日券)



 日経BP社主催のカンファレンス「スマートフォン2011春」が、4月26日から28日までの3日間、東京国際交流館・プラザ平成にて開催されている。このカンファレンスでは、スマートフォン関連のコンテンツ制作やビジネス手法、NFCなどの新しいテクノロジーについてなど、合計約60のセッションが開講されている。

 その2日目となる27日には、「ゲーム&コンテンツ」のカテゴリとして、ゲーム開発に関係する4つのセッションが開かれた。本稿ではこの4セッションに絞って内容をお伝えする。




■ Android Marketを卒業し「バナドロイド」を展開するバンダイナムコゲームス

山田大輔氏

 株式会社バンダイナムコゲームス コンシューマ営業本部 IP戦略ディビジョン ネットワーク営業部 NE営業課 スマートフォン営業企画係の山田大輔氏は、「スマートフォンゲームコンテンツビジネスの展開」と題し、同社のスマートフォン戦略について語った。

 同社は現在までに、iOSに約130本、Androidに約20本、Windows Phone 7に5本のアプリを投入している。これらのコンテンツの開発では、従来はiOS向けに開発したものをAndroidやWindows Phone 7に移植という展開が多かったが、今後はフィーチャーフォンコンテンツをAndroidに移植し、そこからiOSやWindows Phone 7へ移すという流れを想定しているという。Windows Phone 7においてはそれとは別に、Xbox 360との連動も想定している。

 Androidのビジネスにおいては、スピードが重要だという。その理由として挙げられたのが、OSのバージョンアップの早さ。2008年9月にT-mobile G1が発売されてから、2年半で7回バージョンアップが行なわれている。またAndroid Marketにあったワールドワイドでのバージョン別アクセス率のデータでは、2010年には半数を占めていた1.xが1年と経たずになくなり、2011年3月下旬には2.2が6割以上を占めていた。大作で開発期間を長く持つと、その間にOSがバージョンアップして下手をすれば作り直しになるため、長期の開発は難しいという。

 Androidのビジネスモデルについては、有料アプリの実例として、同社が配信した「パックマン」を紹介。2年前からワールドワイドで4.99ドルで配信しており、Android Marketでのダウンロード数は1万から5万と表示されている。単純計算すると、売り上げは2年で280万円から1,400万円となる。山田氏によると、単月計算した場合には、Windows Phone 7版の方が売れているほどだという。要因はさまざま考えられるが、「有料課金モデルで売り上げを上げるのは非常に難しい」というのが現在の同社の考えだ。ただ、「3月末にAppBilling(アプリ内課金)が開始されて変化はあるのでは」とも付け加えた。

 実際にAndroid Marketで配信されているアプリのダウンロード数を見ると、有料アプリで25万ダウンロード以上されているものは0.002%で、1万ダウンロード以上としても0.15%にも満たない。しかも単価は0.99ドルなどの低価格なものがほとんど。しかし無料アプリであれば、1万ダウンロード以上のアプリが5%以上存在する。山田氏は「マーケットから収益を得る有料アプリを当てるのは、宝くじ以下の確率。しかし無料アプリで5%に入るのは可能。自社のコンテンツをハブにし、そこから収益を上げることを視野に、フリーミアムのビジネスモデルを確立させる総力戦を進める」とした。

 フリーミアムとは、基本プレイが無料で、広告やアイテム課金などで収益を得るマネタイズモデルのこと。ここで重要になるのが、PPS(プール、プレイ、ステイ)だという。ユーザーを集め、遊んでもらい、留まってもらうという意味だ。例として、「パックマン」はフリーで出し(プール)、そこで集まったユーザーを他のコンテンツに流し込む(ステイ)といった形だ。ただし、「プレイ」の要素となるコンテンツは、純粋にユーザーが遊んで面白いと思えるコンテンツを用意するのが前提だとしている。

 今後の展開としては、海外ではAndroid Marketが主軸になるとしつつ、「国内ではAndroid Marketから出てビジネスする」とし、同日発表したばかりの自社配信スタンド「バナドロイド」を紹介した。コンテンツ配信サーバーの運営と独自IDでの課金決済と管理を行なうもので、2011年秋オープン予定。「コンテンツを気軽にわかりやすく見つけやすくする。コンシューマーゲームのニュースや連動サービスも提供する」としている。サービス当初は同社のアプリのみを配信するが、サービスが安定的に提供できるようになれば、将来的には他社へのオープン化も検討するとしている。


Androidでの有料アプリの展開の難しさを、具体的なデータを示しながら紹介。さらにバンダイナムコゲームスの取り組みとして、独自の配信スタンド「バナドロイド」を開始することも明らかにした



■ カプコンのスマートフォンゲーム開発ノウハウはアーケードゲームにあり

手塚武氏

 株式会社カプコン CS開発統括大阪制作部MC制作室長の手塚武氏の講演「カプコン流アプリ開発のキモ。パッシブユーザーという考え方」では、アーケードゲームの開発を手がけてきたカプコンと手塚氏のノウハウを活かした、スマートフォン向けアプリ開発の手法が紹介された。

 まず手塚氏は、「パッシブユーザー」というキーワードを挙げた。これは自らアクティブに情報に接していく「アクティブユーザー」ではなく、何かきっかけばあればプレイするという受身なユーザーを指している。

 手塚氏は、ゲームを取り巻く環境の変化について触れた。現在のゲームユーザーは、無料でモバイルゲームをプレイするカジュアル層と、コンシューマーゲーム機でゲームを遊ぶアクティブユーザーの2極化が進んでいるとし、これを何とか防ぎたいとした。必要なのは、カジュアル層にゲームの楽しさを知ってもらうことだが、それを実現していたのが、100円で試しに遊べるアーケードゲームだという。手塚氏は「アーケードゲームにはパッシブユーザーを引き込む仕掛けがあった。iPhoneアプリを開発する時には、カジュアル層だけでも、マニア層だけでもない、アーケード感覚のものを作る」と述べた。

 そこで重要になるのが、「パッシブユーザー」を意識したデザインだ。同社はアーケードゲームにおいて、ゲームセンターに開発中のROMを持ち込んで実地で試す「ロケテスト」を実施してきた。手塚氏はその経験から、「ゲームがうまいプレーヤーは一握り。開発ではうまい人のプレイが脳裏にちらつくが、そこを基準にして作ってはならない」という。また取扱説明書は読まれないことや、ゲームの用語は伝わらないこと(“タメ”というのがボタンを押し続けることだとわからない、など)を指摘した上で、「スマートフォン開発においては、そういうお客様ばかりだと思って作らなければならない」とした。

 実例として、「ストリートファイターIV」が紹介された。本作について手塚氏は、「コンシューマー版のままだからヒットしたわけではない。どんな人が遊ぶかを考えてチューニングしている」という。例えば、初回起動では強制的に操作説明が出ることや、難易度が「ふつう」と表示されているが、実際にはとても簡単な設定にしてある。また操作を覚えられる「道場」では、「遊びながら理解して欲しい」という思いから、チュートリアルではなく別のゲームモードのように見せるために「道場」としたという。

 用語は一般の人には理解できない「キャンセル」という表現を禁止し、「動作をスキップして早く出せる」という言い回しに変えた。操作では、物理的なキーではなく、タッチパネルを用いたバーチャルパッドの特性を活かし、斜めを45度ではない角度に設定。また端末の持ち方に合わせて最適な操作ができるよう、パッドの位置を変更できるようにした。さらに強力な技である「ウルトラコンボ」は、複雑なコマンドを入力することなく、ゲージをタップするだけで誰でも出せるようにした。

 手塚氏は、ゲームメーカーの多くがこういったアーケード的アプローチをしていないと指摘した。これは開発者がゲームのアクティブユーザーだからという点もあるが、1990年代後半からアーケードゲームが衰退し、コンシューマーゲームが主流になったため、1990年代のアーケードゲームの開発ノウハウが伝承されていないのでは、という見方も示した。手塚氏は「スマートフォンのゲームを作る時には、パッシブユーザーのことを考えて作る必要があるのではないか。お客様と一緒にゲームを作っていくという感覚が大事」と述べた。


「パッシブユーザー」に向けた開発ノウハウは、既にアーケードゲームにあったという話を、「ストリートファイターIV」の実例を交えて紹介。長年のゲームメーカーとしてスマートフォンにどう取り組むかという姿勢を見せる講演となった



■ グリーのスマートフォンへのアプリ移植実例

伊野友紀氏

 グリー株式会社 メディア開発本部ソーシャルアプリケーション統括部 第3プロダクションチーム グループリーダーの伊野友紀氏は、「GREEにみるスマートフォン向けソーシャルアプリ開発 ~技術×クリエイティブ×ビジネス~」と題し、「GREE」におけるスマートフォン戦略と開発事例について語った。

 グリーでは、2015年にフィーチャーフォンがなくなるという前提のもと、フィーチャーフォン向けコンテンツのスマートフォン対応を進めているという。自社製のゲームにおいては、既にスマートフォンへの移植が進められている。開発ツールには、WEBベースのHTML5・javascript・CSS3のほか、Unity、Corona SDK、AIR Developer Toolなどさまざまなものを試しているという。

 実際の開発においては、「釣り★スタ」ではHTML5でのアクションゲームに挑戦したところ、iPhoneでは動作速度が端末性能に依存したり、Androidで動かなかったりといった問題が出た。「海賊王国コロンブス」では、フィーチャーフォン版からユーザーインターフェイス(UI)を大幅に変えたところ、売り上げの出方に違いが見られたという。「タッチできると感じられるUI」が重要で、「押す」ではなく「タッチする」とするなど、説明の文言にも気を配っている。

 移植における最大の難題は、iOSでは動作しないFlashコンテンツのHTML5化だという。グリーでは、Flashの開発者が使いやすいライブラリを自社開発。これは「モンプラ」で完成させ、その後の自社タイトルで活用しているという。AndroidでのFlash対応は、2.2以上なら基本的に動作するものの、国内では2.2以上の端末がまだ少ない。2.1ではFlash Lite 4が入っている国内製端末は多いが、これは各メーカーが端末ごとに実装しているので挙動に違いがあり、中にはアプリ内ブラウザでFlashが表示されない端末もあるという。

 これらの移植タイトルは、当初はスマートフォンへの移行ユーザーの囲い込みを狙っていたものだが、実際の利用者は新規ユーザーの方が多かったという。またページビューやARPUはフィーチャーフォンとほぼ遜色がなかったというデータも示された。伊野氏は「新規ユーザーが多いのに収益性が変わらないということは、移植タイトルがスマートフォンで受け入れられている証拠」と述べた。


グリーが自社タイトルのスマートフォンへの移植の実例を紹介。開発での苦労話も聞けたが、結果としてフィーチャーフォンと変わらない程度にスマートフォンのユーザーにも受け入れられ、なおかつ新規ユーザーも獲得できているという



■ Androidゲームレビューサイト「アプリ★ゲット」に掲載されるには?

菅原聡氏

 スパイシーソフト株式会社でアプリ★ゲット編集長を務める菅原聡氏は、「売れるゲームと売れないゲームの壁 ゲーム変革期に備える10のポイント」と題して講演。「アプリ★ゲット」ではAndroidゲームに特化したレビューサイトを3月からオープンし、編集者が実際にゲームを1~2時間プレイした上で面白いゲームを厳選して紹介している。本日時点で1,290本のレビューを掲載しているという。

 スマートフォンのアプリマーケットは現状、検索性に問題を抱えている。特にAndroidはアプリを見つけづらくなっている。そこで重要になるのがレビューサイトでのレコメンド。実例として同社がiOS向けに配信した「チャリ走」は、当初ランキングにも挙がらない程度だったが、米国有名サイトで紹介され、その後44カ国でランキング1位を獲得した。

 これを前提に菅原氏は、「アプリを売るにはレビューが重要。3,000本以上のゲームを見てきた視点と携帯ゲーム業界を牽引してきた経験から、レビューサイトに載るための鉄則を紹介する」と述べた。売れるゲームはどんなものかではなく、「アプリ★ゲット」を始めとしたレビューサイトに取り上げられるためにどうすればいいか、というのが講演の趣旨だ。

 まずアイコンについては、「鉄則は45度」という。モチーフになるコンテンツを斜め45度に表示させることで、モチーフを大きく見せる効果があり、目立つのだという。またアイコンに乗せる要素は3つ以内にすることもポイントで、あまり多くの情報を詰め込まないことが重要だとした。

 次にゲームタイトルは、表示できる領域などから、全角11文字以内にすべきだという。ネーミングでは、「コンセプト+動詞」や、「コンセプト+ゲームの鍵となる要素」といった名前を使うのがヒットの鉄則だという。菅原氏は「タイトルからゲーム内容をよりイメージさせることが重要だ」とした。

 続いてはアプリ詳細画面について。スクリーンショットはタイトルやメニューは極力載せず、プレイ画像だけを掲載するべきだという。また説明文は、どうやって何を目指すゲームかということと、どのくらいのボリュームがあるのかを書くのがいいと語った。

 そして実際のゲーム内容について。ステージは30以上で、初心者向けの気軽に遊べる設定が重要だとした。さらにアクションやパズルゲームの場合、1ステージのプレイ時間は90秒以上180秒以内が望ましいという。これは、フィーチャーフォン向けの「アプリ★ゲット」でユーザーアンケートを行なった際に出た集計結果をもとにした数字だという。このほか、リトライボタンを右下に設置すべきだというポイントも挙げられた。

 さらに菅原氏は、スマートフォン向けアプリで売れるジャンルについても語った。統計的に、レース、アクション、パズルは売れ行きがいいという。シューティングは操作性が課題で、通勤中や休み時間などプレイする状況にも影響を受けるため、俊敏な操作が必要なものは難があると述べた。また今後期待できるジャンルとして、RPGやソーシャルを挙げた。これはキャリア課金やアイテム課金など、課金環境が徐々に整ってくることを見越した予想となっている。


Androidでの展開の難しさを指摘しつつ、そこでアピールするための手法として、レビューサイトに掲載されるコツが紹介された

(2011年 4月 27日)

[Reported by 石田賀津男]