GDC 2011レポート

「Localization Summit」レポート
アラブ人はPS3が好き!? 最新データから見る中東ゲーム市場


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



 GDC初日の2月28日に行なわれた「Localization Summit」では英語以外の言語圏へのローカライズに関する6つの講演が行なわれた。近年、大作は多くの言語に翻訳されて世界中でローンチされるのが当たり前になっている。ローカライズはゲームの収益を左右する重要な要素であり、ローカライズへの要望も高い。このサミットはローカライズの専門家を集めて諸問題を話し合うというものだ。

 基調講演の「Localization and Development: A Love Story...That Leads to Great Business!」はBiowareのIan Mitchell氏とPlaydomのGordon Walton氏がBiowareのローカライズシステムについて紹介した。

 また日本ではあまりなじみのない中東のゲーム市場の状況を報告する「Game Markets in the Middle East: Opportunities and Challenges」という講演では、中東のゲーム市場を、アラブ各国とイスラエルの2地域に分けてデータで紹介した。このレポートでは上記の2講演を紹介したい。



■ 「マスエフェクト」や「ドラゴンエイジ」を支えるローカライズシステム

PlaydomのGordon Walton氏
BiowareのIan Mitchell氏

 BiowareのIan Mitchell氏がBiowareとPlaydomのGordon Walton氏がBiowareで行なわれているローカライズのシステムを紹介する「Localization and Development: A Love Story...That Leads to Great Business!」はLocalization Summitの基調講演として行なわれた。

 「ローカライズは非常に難しく、日々努力している」とMitchell氏。BioWareは「ドラゴンエイジ:オリジンズ」や「マスエフェクト」など世界的な大ヒット作を数多く輩出している。

 この15年間の間に20タイトルをフランス語、イタリア語、ドイツ語、スペイン語、ポーランド語、ロシア語、日本語の8つの言語にローカライズしてきた。ローカライズのクオリティを保つためには情熱的で博識なローカライズチーム、ローカライズの品質を託せる開発チーム、効率的なローカライズプロセスとツールによる連携が欠かせない。

 ローカライズチームのプロジェクトマネージャーは、プロセスを1から検討して開発チームをサポートする。アセットマネージャーはローカライズに必要な材料を集める。QAは不可欠で、マーケティングとPRはコンテンツの一貫性を保つために、ローカライズする地域からのフィードバックを集める。

 あるタイトルのローカライズチームが設立されると、まずどのようなツールが必要かを決定する。「テキストが多すぎるためエクセルの書類を使うのではなく、あらかじめ専用のグラフィカルなインターフェイスを持つツールを用意したほうがいい」とMitchell氏。Biowareでは専用のツールを作っている。ツールを再利用しながらチームで共有することで、知識を共有することができる。

 開発段階からローカライズを組み込んでいくことで、余分なリスクを回避するための作り直しや手直しをせずに済む。ローカライズのためには、長期的なスパンで開発チームにローカライズの概念を指導し、アイデアを共有しなければならない。現在開発中のMMORPG「StarWars:Old Republic」は別のゲームを作っているほどの作業量で、そのコストは数億円に登り、決して安くはないと語った。


【スライド】
ローカライズチーム、開発チーム、ローカライズの独自ツールの連携を説明した




■ あまり知る機会がない中東のゲーム事情をデータで見る

アラブ側の説明をしたMahmoud Khasawneh氏

 中東地域のゲーム市場を紹介する「Game Markets in the Middle East: Opportunities and Challenges」では、普段日本人にはほとんどなじみのない中東のゲーム市場について知ることができた。講演は2部構成で、アラビア語圏の22カ国の状況についてMahmoud Khasawneh氏が、イスラエルをOded Sharon氏がそれぞれ説明した。

 Khasawneh氏はドバイのゲーム会社QuirkatのCEOでゲーム開発者協会(IGDA)中東エリアの代表者。中東のゲーム会社で6年以上の開発経験を持つ。Sharon氏はイスラエルのゲーム会社Corbomite GamesのCEOでゲーム開発者協会(IGDA)イスラエルのコーディネーターでもある。

 講演を始める前にSharon氏の掛け声で会場にいた全員が立ちあがり、自分の国の挨拶をして座るというちょっとしたゲームを行なった。「ハロー」で大半の人は座ったが、それでも半数以上は英語圏以外からの聴講者。ドイツ人、フランス人、トルコ人、アラブ人、中国人、日本人、アイルランド人、インド人など次々と自国の挨拶をしながら座っていった。ローカライズに関わる講演なので、英語圏以外の人が多かったのだろうがそれにしても多様さに驚かされた。

 アラビア語のネイティブスピーカーは約4億人で、そのうち1億8,000万人は25歳以下の若年層だ。そのうち7,500万人がインターネットユーザーで4,000万人が携帯電話を所有している。サウジアラビアでは63%がインターネットでオンラインゲームをプレイしている。

 もっとも有力なプラットフォームはモバイルで、モバイルゲームは4年の間に3倍に伸びている。そこにPCゲームやオンラインゲーム、Facebookのゲームが続き家庭用のシェアはわずかだ。家庭用で最も良く売れているのはPS3のゲームで約6割を占めている。これは海賊版がないことが原因だ。海賊版はアラブ地域でも深刻な問題で、Business Software Alliance(BSA)の推定にれば59%は海賊版であるという。

 アラブには娯楽が少なく、映画館がない国もある。そんな中で人々がゲームと出会うきっかけになっているのがサッカーだ。アジア産のPC向けMMOも参入してきたが、ストーリーや画像の規制など参入障壁があり、長期的な成功は納められていない。言語だけでなく、地域的な特製性やコンテンツの中身なども参入の障壁となる。またキャッシュ文化があり、クレジットカードの普及率が低いため、マネタイズの手法はプリペイドカードが一般的だ。


【スライド】
意外にも家庭用ではPS3が1番人気。とはいえコンソール全体の市場はまだまだ小さく発展の余地がある


イスラエルの状況を説明したOded Sharon氏

 イスラエルは同じ中東にありながらまったく様相が異なっている。2008年のイスラエル中央統計局の統計によれば人口は約737万人。民族構成は75%がユダヤ人、残りがアラブ人と少数民族という構成で、言語はヘブライ語とアラビア語。しかしSharon氏曰く幸運なことに第2言語としての英語のネイティブスピーカーでもある。世界有数のハイテクオアシスで、Kinectコントローラーを影から支える技術の発祥地でもある。

 英語がわかるために、ゲームの嗜好は欧米と似ており、スポーツゲーム、FPS、レーシングゲームが好まれている。家庭用ではPS3の人気が高く、Xbox 360はここでも海賊版の問題を抱えている。モバイルではiPhoneのユーザー数が50万と抜きんでている。インターネットのユーザーは400万人、そのうち300万人がFacebookを使っている。PCゲームでは「World of Warcraft」をはじめとしたオンラインゲームや「FarmVille」などのFacebookソーシャルゲームと、数多くの海賊版ゲームがプレイされている。

 ヘブライ語やアラビア語は英語とは逆方向から読むためそれがローカライズの障害になる。Sharon氏は漫画を逆に読めるよう反転した例を挙げた。縦読みの日本の漫画を横読みにするために以前は時々見かけた光景だ。英語のコンテンツにヘブライ語の字幕を付けることが多いため、ヘブライ語にローカライズされたゲームはそれほど多くはない。何より英語がわかるのでローカライズの必要がないという事情がある。

 そんなイスラエルの命題は、自国のオリジナルなコンテンツを生み出すことだ。そのケーススタディとしてイスラエルではメジャーなお菓子のキャラクターを使ったRPGゲーム「Bamba」や、子供に人気のあるアバターゲーム「Mogobe」が紹介された。

 地域性や海賊版の問題など課題も多い中東の市場だが、ここ5年ほどで中央のゲーム市場は指数関数的に拡大しておりポテンシャルは十分に秘めている。インターネットの家庭への普及や、課金システムの整備など問題解決の筋道が整えば有望な市場として脚光を浴びる日がくるかもしれない。


【スライド】
英語が喋れるハイテク国家のイスラエルでは欧米と同じようにゲームが遊ばれている


(2011年 3月 4日)

[Reported by 中村聖司]