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CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

「テレビゲームとはなにか ―ゲームプレイの記録と分析を通じて」
元ファミコン開発責任者、上村雅之教授が取り組むプレーヤー側からのゲーム研究


8月31日〜9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 「テレビゲームとはなにか ―ゲームプレイの記録と分析を通じて」という講演では、立命館大学大学院先端総合学術研究科教授であり、元・任天堂株式会社開発第二部部長の上村雅之氏と、立命館大学衣笠総合研究機構研究員であり、講師の尾鼻崇氏による、研究への取り組みが語られた。

 上村氏はファミリーコンピュータやディスクシステム、スーパーファミコン等の開発責任者を歴任した人物で、現在もテレビゲームというメディアの遊戯性を明らかにすることを目的に、「ゲームプレイ」の可視化と記録のための方法論を研究しているという。講演では上村氏の研究を中心に、ゲームに対する学術的アプローチが語られた。




■ プレーヤー視点から捉える「ゲームの遊び方」。ボタン入力やプレイ時の表情、ゲーム画面などを同時記録により研究

立命館大学大学院先端総合学術研究科教授であり、元・任天堂株式会社開発第二部部長の上村雅之氏
立命館大学衣笠総合研究機構研究員であり、講師の尾鼻崇氏

 まず最初に尾鼻氏によって「上村研究室」の活動内容が語られた。上村研究室の活動の前、1998年に立命館大学では、任天堂の協力の下、「ゲームアーカイブプロジェクト」をスタートさせる。ハードウェアやソフトウェアを収集し、ファミコン用公式エミュレーターを開発、ソフトをデータとしても保存していく。

 そして2004年より、ファミリーコンピュータやディスクシステム、スーパーファミコン等の開発責任者の上村雅之氏を迎え、上村研究室を発足、「遊び」としてのゲーム研究を開始する。現在は、「『ゲームプレイ』の記録と保存に関する研究」、「ビデオゲーム関連資料のデータベース化」、「『ビデオゲームカンファレンス』の開催」の3つのテーマで活動しているという。

 データベースに関しては、ファミコンソフト・マニュアルを中心に、物理的、そしてデータ化での収集が進められている。他のハードや攻略本などの収集なども順次進められていく予定だ。また、ビデオゲーム・カンファレンスでは、「ファミコンとの出会い」をテーマに、チュンソフトの中村光一氏や、任天堂の大和聡氏といった登壇者を迎え、年2〜3回講演を行なっている。この講演は今後出版物として公開予定だ。

 尾鼻氏の後登壇した上村氏は現在上村研究室が取り組んでいる研究から、「『ゲームプレイ』の記録と保存に関する研究」をピックアップして研究の成果を説明した。上村氏は、ゲームをプレイする人の行動をデータ化することで、あらためて「ビデオゲームとは何か?」という大きなテーマに取り組んでいるという。

 「なぜこういったテーマを研究したかと言えば、テレビゲームを通じて、“遊び”が変わったのではないか、というところが気になっていたからです。開発者の議論などは重ねられているのですが、『プレーヤーはどう遊んでいるのか』という疑問がずっと私の頭の中に残っていました。学生さんはまさにゲームを遊んできた人たちで、彼らの協力を得ることができれば、ゲームとは何かを探っていけるのではないかと考えました」。

 「もう1つ、ゲームが人にどんな影響を与えるかがわかれば、商品開発も含めて参考にできるレベルまで研究が進められるかもしれない。そしてゲームプレイをきちんと評価・分析しておかないと、ビデオゲームというのはあまりに急速に普及したため、“思いこみによる評価”なども見受けられるため、客観的に評価する方法はないか、というのが研究の根底にあります」と上村氏は語った。

 上村氏は「ビデオゲーム」の定義を語った。プレーヤーがゲーム機の提示する「遊びのための映像」だと理解した上で、その内容に対する判断を、コントローラーを通じてビデオゲーム機に伝えることで新たな反応をもたらす。その繰り返しをビデオゲームと定義するという。

 次に、ビデオゲームには4種類の「経験」があると上村氏は説明した。コントローラーを使用した「操作レベルの経験」、操作に応じた画面反応による「表出レベルの経験」、プログラムの制約による用意された状況以外は起こりえない「メディア制約レベルの経験」、そしてゲームをプレイするユーザーの「内世界の経験」だ。

 ビデオゲームはゲームプレイがプレーヤーの心に反映され、その結果が心にフィードバックする。また、身体への影響もある。ゲームプレイを分析・記録することで、世界中の人々が共有できる遊技性の特徴を知ることができるのではないか、と上村氏は語った。

 この仮説から、上村研究室は、実際にゲームをプレイしている人からリアルタイムで様々なデータを取る装置を作る。ゲーム画面、プレーヤーの表情をカメラで撮影し、プレーヤーの脈拍を計測、そしてコントローラーの操作を記録する。プレイするゲームはファミコンの「スーパーマリオブラザーズ」で、様々なデータを記録していくことになった。

 上村氏は、実際の収録風景をムービーで紹介した。プレーヤーは11分ゲームをプレイして10分休み、それを3回繰り返してデータを比較するという。ムービーではかなり緊張した女子学生がコントローラーを握り、「スーパーマリオブラザーズ」のクッパが待ち受ける地下のダンジョンを進んでいく。プレーヤーの記録がリアルタイムで収録され、ゲーム画面とユーザーの反応、押したキーなど多くのデータが様々な視点から収集されていることがわかった。


「上村研究室」の全体的な活動。様々な資料でゲームを研究し、記録・保存を行なっていく
研究におけるビデオゲームの定義と、プレーヤーの反応の分析方法。コントローラーでの働きかけが画面に影響を与え、それによりプレーヤーに次の行動を促す、ゲームならではの「関わり合い」をきちんと分析していく
ゲームプレイを記録。プレーヤーの表情やゲーム画面、ボタンの何を押したかなど、詳細な記録を取る



■ 使わない上ボタンを思わず押す頻度……プレイデータが語るプレーヤーの個性。さらにはゲームそのものの特徴や傾向も

本来ゲームに影響しない上ボタンを押す頻度。プレーヤーの傾向が伝わってくるデータだ
こちらはAボタンを押す回数。こちらでもプレーヤーの傾向と、さらに学習による変化がわかる

 ムービーを紹介した後、上村氏はデータを記録することで様々な事がわかってきたと語り、いくつかの分析結果を紹介した。データからはプレーヤーの心理や癖、ゲームが持っている特性など、様々な要素を見ることができたという。まず上村氏が取り上げたのは、「プレーヤーが上ボタンを押す回数」だ。

 「スーパーマリオブラザーズ」ではコントローラーの上ボタンはほとんど使わない。特にジャンプ時には上を押しても効果はない。紹介されたデータでは、A君の場合はジャンプ操作に上ボタンが影響を与えないのを学習し、プレイ回数が増えるごとに減っていくが、B君は減らなかった。

 Aボタンでマリオはジャンプするが、A君はやたらとAボタンを押しその傾向は3回目まで変わらないが、B君は徐々に増えていく。これは学習効果が、影響を与えているのではないかと考えられるという。これだけのデータでもプレーヤーの性格が垣間見えてくる。

 「スーパーマリオブラザーズ」は常に右に向かって進んでいくゲームだが、左方向のボタンを押す状況もあり、やたらと押すプレーヤーも多い。右と左へ移動するプレーヤーの比率を取って、脈拍のデータを合わせることで、緊張感がわかる。右にボタンを押す比率が多い人の方が、脈拍が低く、落ち着いてプレイしている傾向があるという。

 上村氏が注目しているのがボタン操作の間隔時間。データを取ることで、「スーパーマリオブラザーズ」のゲームプレイのリズムがわかってくる。0.4秒ごとにボタンを操作する人が多い。人によってかなりばらつきがあるものの、ボタン周期のピークが変わる。ゲームが変わる事で、このリズムは全く変わって来ると上村氏は指摘した。

 また、「操作時間」はプレーヤーの心の傾向がわかる。早い人、ゆっくりした人、ゲームのリズムにあったうまい人、そうでない人……画面との連動も考え研究することでプレーヤーの個性がわかっているという。現在はまだデータを収集段階だが、研究では「スーパーマリオブラザーズ」と共に、PS2で「グランドセフトオート3」もプレイしてもらってデータを取っており、これらの研究を今後まとめて発表する予定だ。

 今後の研究の方向性として上村氏は、個人差の研究、習熟や慣れの影響、主観と客観、快適性など様々な要素を検討していきたいという。研究装置を洗練させることで外国の研究室との連動などもできれば、と考えているとのことだ。

 「私達はゲームの保存も進めています。ゲームは映像だけ保存していても、カセットだけ保存していてもほとんど意味がない。ゲームとゲームを操作している人の記録が保存できることで、遊び方そのものも記録できる。こういった遊びはゲームだけなのです。世界中の人が1つのゲームをどう遊んだか、という記録もしていければと思っています」最後に上村氏はこう語った。

 質疑応答では、「敵の攻撃をかわしてコンボを決める、というとき、実はプレーヤーは敵の攻撃をかわす、というところに最大の緊張感と達成感を持っているのに、『コンボが爽快』と答えるように、実際の身体反応と、プレーヤーの主観がずれる場合があるのではないか」という問いが投げかけられた。

 上村氏は「『グランドセフトオート3』で暴力行為に対するプレーヤーの反応を注目しています。人を殺す行動をするときにボタンを1度でいいのに何度も押す人がいる。ここにプレーヤーの主観を合わせて、プレーヤーの心理や、自覚していない傾向なども見えてくるのではないかと思います。プレーヤーのプライベートなところが現われるという部分もあるのですが、まず早急な判断はせず、こういったデータがあるということで、収集し、出していきたいと思っています」と答えた。


データではプレーヤーの傾向だけでなく、ゲームというコンテンツのの特徴もわかってくる。データが蓄積することでさらに様々なことがわかってきそうだ

(2010年 9月 3日)

[Reported by 勝田哲也 ]