CESA Developers Conference 2009現地レポート

CEDEC AWARDS 2009が開催、特別賞はドラクエの堀井氏が受賞
ノミネートされた25作品の中からCEDEC参加者の投票で選ばれた5作品と特別賞、著述賞の受賞式を開催

9月1日~3日開催

会場:パシフィコ横浜

 

 CEDECの開催2日目となる2日の夜に「CEDEC AWARDS 2009」の各賞発表と授賞式が行なわれた。「CEDEC AWARDS」はゲームタイトルそのものではなく、そのゲームの作製に用いられている技術にフォーカスして、優れた技術を表彰する賞。昨年、CESAの10周年に合わせて、ゲーム開発技術の普及と啓蒙、産業の発展を目的として創設された。今年は2回目の授賞式となる。

 今年から部門賞に「ネットワーク部門」が、また新たに「著述賞」が設けられた。また、各分野のオーソリティによる「CEDEC AWARDS ノミネーション委員会」が組織され、ゲーム技術者で組織するCEDECアドバイザリーボードによって、5部門で計25の技術がノミネートされた。受賞者はノミネート作品のうちから、CEDECの受講者による投票で選ばれる。また、すでに受賞者が発表されている著述賞と特別賞の表彰式も行なわれた。表彰式の様子をお届けする。




■ 「ネットワーク部門」と「著述賞」が創設され、ノミネート方式に変更

コーエーテクモホールディングス代表取締役社長、松原健二氏

 受賞式はセッション終了後に大ホールで行なわれた。始めにCEDECを主催しているCESA副会長でコーエーテクモホールディングス代表取締役社長、松原健二氏から挨拶があり、「CEDEC AWARDS」の意義などが説明された。

松原氏「ゲーム開発にかかわる仕事、技術というものを評価し、そして表彰させていただくことによって、国内・海外を含めた新しいゲーム技術がさらに発展するように願いを強くするために、これからも続けていきたいと思います」

 各部門の受賞者は以下の通り。

     
特別賞堀井雄二(ゲームデザイナー)
著述賞平山尚(株式会社セガ)
石田晴久(故人)
プログラミング・環境開発部門「ワンダと巨像」プログラミングチーム
(株式会社ソニーエンターテインメント)
ビジュアルアーツ部門「大神」アーティスト、及びテクニカルアーティスト
(株式会社カプコン)
ゲームデザイン部門「モンスターハンターポータブル」開発チーム
(株式会社カプコン)
サウンド部門「リズム天国ゴールド」開発チーム
(任天堂株式会社)
ネットワーク部門「ニコニコ動画」開発チーム
(株式会社ニワンゴ)



● プログラミング・開発環境部門

「ワンダと巨像」プログラミングチームの杉山一氏
右から田中政伸氏、杉山一氏、上田文人氏

 「プログラミング・開発環境部門は、「ワンダと巨像」のプログラミングチームが受賞。「リアルタイム変更コリジョン」と、優れた描画表現が受賞対象となった。「コリジョン」とは衝突判定のことで、「コリジョン」が巨像の動きに合わせて変形することで、プレーヤーキャラがボスキャラに必死でしがみつくというゲームメカニクスを可能にした。それが新しいゲームデザインに結びついたという部分が評価された。また、前作「ICO」からさらに進化した空気感のある描画や、ファーの表現も需要の理由となった。

 プレゼンターはコナミデジタルエンタテインメントの植原一充氏。登壇した「ワンダと巨像」プログラミングチームの杉山一氏がプレゼンターの植原氏から楯と、副賞の本を受け取った。

杉山氏 「実際に遊んでみると、実は変形コリジョンには結構穴があるんです。そういった部分をディレクターの方やゲームデザイナーはもちろん、コリジョンデザインの方がフォローしてくれました。、そういった人たちに支えられてできた技術だと思います。そんなスタッフの思いを遊びを通して感じていただけると、また楽しいのではないかと思います。今日たまたま僕が誕生日なので、すごいプレゼントになりました。ありがとうございます」




● ビジュアルアーツ部門

カプコンの江城氏
「ビジュアルにはリアリティとアーティスティックを求めるものがあり、そういった幅広いバラエティに富んだ技術をノミネートしました」とプレゼンターの斎藤氏。

 「ビジュアルアーツ部門」は、ゲームの視覚的な部分を表現する技術にフォーカスして作品を選定する。受賞したのは、独特の墨絵表現をゲームに応用した「大神」のアーティスト及び、テクニカルアーティスト。選考理由は、発売から数年たった今でもまったく色あせない「墨絵」を使った独特の映像表現だ。ゲームにおけるビジュアルワークの存在感と可能性を再認識させた部分が評価された。プレゼンターはバンダイナムコゲームスの斎藤直宏氏。「大神」のプロデューサー江城元秀氏が記念の楯を受け取った。

江城氏 「『大神』は一昨年に発売しまして、独特な墨絵のグラフィックは皆様から高い評価を頂いています。このような素晴らしい賞をいただけたことは大変光栄です。『大神』はこれからもいろいろな展開を考えておりますので、変わらずご声援をよろしくお願いします」




● ゲームデザイン部門

楯を受け取る辻本氏
楯と副賞を受け取った辻本氏と一瀬氏

 「ゲームデザイン部門」は再び斎藤氏がプレゼンターとして登場した。今回は、バーチャルなものを融合する技術や、人間の生活の中にいかにかかわっていけるかといった部分を重視した5作品がノミネートされた。受賞したのは、友人同士の協力プレイを活かすゲームデザインが評価された「モンスターハンターポータブル」開発チーム。選考理由は、武器や装備の的確なパラメータバランス、操作の修練などの他、友人同士が声を掛け合い、戦略を練ってアドバイスをするというコミュニケーションの楽しさを、高いレベルのゲームデザインとしてまとめた点。「モンスターハンターポータブル」開発チームの辻本良三氏と、一瀬泰海範氏が登壇した。

辻本氏 「モンスターハンターポータブルシリーズは今までに3シリーズ出ています。シリーズを追うごとに、ゲームのボリュームも多くなってきていまして、調整もかなり大変になってきています。チーム内では自分のパートではない部分でも調整のときには口を出したり、良くないと思う部分についてはチームみんなで良くしていこうという気持ちを持ちながら、このゲームを開発しています。そういう気持ちをもって調整をしたゲームで、このような賞をできて、大阪に帰って開発スタッフ皆で喜びたいと思います。この賞をもらったことを励みにして、今後の開発にも励んでいきたいと思います」




● サウンド部門

壇上に上がった、任天堂の米政美氏

 「サウンド部門」はDolby Japanの近藤広明氏がプレゼンターを勤めた。近藤氏は「ハードウェアの進化に伴ってサウンドは高品質化している。今後はサウンド制作だけではなく、楽曲の作詞や演奏などが今後はキーワードになるのではないでしょうか」と挨拶した。「ソウルキャリバー」、「バイオハザード」、「リッジレーサー」など大作の重厚なBGMがノミネートされている中で、「リズム天国ゴールド」の開発チームが受賞した。丁寧な作りこみで、前作以上にゲーム性を昇華させ、幅広い客層が楽しめる音楽ゲームを実現した事、つんく♂さんとのコラボレーションで、ゲーム内にポピュラー音楽の才を取り入れ、サウンド表現とゲーム内のギミックが連携した「リズムに乗る」という気持ちよさを表現した事、音の選び方もこだわりぬいてサウンドをゲームの重要な要素として活かした事、などが評価された。楯は、任天堂の米政美氏が受け取った。

米氏 「本日はこのような賞を頂きまして、大変光栄に思います。共同開発をしてくださったつんく♂さん並びに、TNX株式会社のスタッフの方にも、この場をお借りしまして改めてお礼申し上げます。リズム天国のサウンドは、なるべくシンプルで覚えやすいメロディーのBGMと、なるべくインパクトのある効果音を組み合わせまして、独特の雰囲気を作ろうと努力しています。遊んでくれる人が頭で考えて手を動かしてもらうというよりは、その独特のノリに飲み込まれて頂いて、頭で考えなくてもきっかけとなる音を聞いたら体が勝手に動いてしまって遊べてしまうというような状態が作れるように、音作りに取り組んでまいりました。これからもサウンドならではの活動をして、遊ぶ人を笑顔にできるようなそんな音作りに取り組んでいきたいと思います」




● ネットワーク部門

挨拶をするニワンゴの杉本氏

 今回新たに創設された「ネットワーク部門」は、ネットワークを手段としてエンターテイメントを実現した作品、もしくはその手段を提供している作品がノミネートされた。受賞したのは「ニコニコ動画」開発チームだった。「ニコニコ動画」はいわゆるゲームとは異なるが、ネットワーク上でユーザー同士がコンテンツを提供しあったりするようなインタラクション性が広い意味でゲームにあたると解釈された。新しい楽しみ方を提供しただけではなく、バックエンド技術を積極的に公開するなど、業界へ貢献を行なっている点も評価された。プレゼンターのデジトイズ、砂塚佳成氏より、ニワンゴの杉本誠司氏へ楯が贈られた。

杉本氏 「本来は技術チームがご挨拶にお伺いするところなのですが、ご存じの通りニコニコ動画はものすごい勢いで機能テストをしておりまして、寝る間を惜しんで仕事をしておりますので、本日は代表として私が代わってご挨拶をさせていただきます。これだけのノミネートの中から、われわれのニコニコ動画が賞を頂けるというのは本当に光栄です。そして、ニコニコ動画のネットワーク開発には、元々オンラインゲームのミドルウェアを作っていた人間も数多くおりますので、こういった場は意識して開発をさせて頂いています。そういった意味でも、今日の賞は我々のチーム全員で感謝を持って受け取りたいと思います」




● 著述賞

「もっと本を書いて欲しい」と平山氏

 新しく設けられた著述賞の発表は、松原氏が再登壇して発表された。著述賞は、著述に於いて優れた功績を残した人を称える賞。今年の著述賞は、「ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術」の著者で、セガAM R&D2の平山尚氏と、「プログラミング言語 C」を翻訳した、故・石田晴久氏に贈られた。

 平山氏の本は、実際のゲーム開発に携わって第一線で働いている人が書いたという点が非常に画期的だと評価された。800ページを超えるボリュームの本が、日本の開発者の手によって著され、それが版を重ねているという部分が受賞の大きな要因だった。平山氏へは松原氏からトロフィーが手渡された。

平山氏 「今日は過分な栄誉を本当にありがとうございます。この場を借りて言いたいのですが、みなさんもっと本を書いてください。もし8年前に私が書いた本があれば、私はこんなに苦労しなくて済んだのです。ここにいらっしゃる社長の皆様も、部下にぜひ書かせてください。ありがとうございました」


プログラムを学んだ人なら、お世話になる機会の多い石田氏の著作
涙をこらえながらの謝辞に多くの拍手が寄せられた

 もう1人の受賞者「プログラミング言語 C」翻訳版を著した石田晴久氏は、多数の著述を遺し、著述を通じてゲームのみならず日本のソフトウエア産業全体に多大な貢献をした偉大な人物。今年の3月に逝去されており、壇上には妻の順子さんが上り松原氏より楯を受け取った。「プログラミング言語 C」は1978年にアメリカで出版された原著を、1984年に翻訳して発売された。初出から20年を経過しているが、現在でも第2版がプログラミング言語を学びたい多くの人に読まれて、48万部を発行するベストセラーになっている。登壇した妻の順子さんは、滲んだ涙をぬぐいながらも手にしたメッセージを読み上げた。

順子さん 「このたびは、CEDEC著述賞を石田晴久に賜りましたことを心より御礼申し上げます。主人もどんなにか喜んでいることだと思います。この本に対して賞をいただいたということで古い本を取り出してもう1度開いてみました。技術はさっぱりわかりませんので本文はわかりませんでしたが、前書きを読みましたところそこに次のように書いてありました。“本書を出すにあたっての訳者の願いは、読者の方の中からUNIX流のプログラミングの考え方を参考にして、すぐれたOSや新しいプログラミング言語とその処理で、各種のソフトやツールなどを自ら設計し、制作する人がたくさん出て欲しいということであり”とあります。主人の願いはきっと今日会場におられます多くの皆様によって叶えられていることだろうと思います」




● 特別賞

「これからもRPGは続いて行くでしょう」と堀井氏

 「特別賞」はコンソールゲームの黎明期から現在に至るまで、第一線でゲーム開発にかかわり続け、ロールプレイングゲームの基礎を確立した、ドラゴンクエストの生みの親、堀井雄二氏に贈られた。

堀井氏 「ドラゴンクエストを作ったのは今から23年前になるんですね。当時ロールプレイングゲームは一般にはまだポピュラーではなくて、このゲームの面白さをどうやったらわかってもらえるだろうと苦労しました。23年たって、今は皆ロールプレイングゲームを当たり前のようにプレイするのですね。そういう意味でユーザーも育ってきたなという気がします。例えば漫画なんですけれど、当時大学生が漫画を読むのか、と言われた世代があったのですよ。その世代がいま60代になっていまでも漫画を読んでいるんですが、その1つ上の世代は漫画を読めないのです。読み方を知らないのですね。ゲームも同じで、ロールプレイングゲームで当たり前のように遊んでいる世代は、きっと面白さを忘れないと思うのですよ。そういった意味で、ロールプレイングゲームはずっと続いて行くだろうと思います。どうもありがとうございました」



 最後に松原氏が今回の総括を行なった。ノミネーションに選ばれた作品はどれをとっても、本当に素晴らしいゲーム開発の技術が生かされていたのではないかと思います、と松原氏。著述賞については、自らは直接石田氏と親交する機会があったが、そういった機会がなくても著述に触れることで故人の思いを受け取ることができる。そういう意味での著述の素晴らしさを訴えた。特別賞の堀井氏には、「日本の地にRPGというジャンルを根付かせた堀井さんに特別賞を受賞できるのは私たちの誇りです」(松原氏)と延べ、CEDEC AWARSが今後新しいジャンルにチャレンジしていく若い人たちにとっての礎になることができるよう、今後ももっと努力したいと語って授賞式を締めくくった。


(2009年 9月 2日)

[Reported by 石井聡 ]