China Digital Entertainment Expo 2009現地レポート

ChinaJoyブースレポート中編
中国ゲーム市場の隠れた話題“「WoW」サービス権紛争”と“類似品商法”を追う

7月23日~26日(現地時間)

会場:上海 新国際博覧中心

 

 レポート前編でお伝えした、中国ゲーム市場全体の動向につながる説明を補完する意味で、この原稿では中国のゲーム界で起きているオンラインゲーム市場最大規模の事件と、中国市場でも徐々に顕在化しつつある類似品ゲーム、そして中国ゲーム市場のグローバル化を阻害している国策ゲームについて、最新レポートをお届けしたい。

 まず大事件とは、大手パブリッシャーであるThe 9とNetEaseの間で続いている、「World of Warcraft」のサービス権をめぐる争いのことだ。現地パブリッシャー間でのサービス移管に伴って、オンラインゲームのサービスが一時的に休止されることはよくある。だが中国における「World of Warcraft」のサービスで起きたのは、それとまったく異なる異常事態だった。サービス再開の目処が立たないまま休止に入り、既存のプレーヤーデータが無事に移行されるかどうかすらわからない……という状態だったのである。

 そうした事態になった理由と経緯を整理したうえで、ChinaJoyの併催イベントであるCGDCを舞台にThe 9とNetEase、そしてライセンス元であるBlizzard Entertainmentが演じた角逐と、最新の情勢についてお伝えする。これもまた、中国におけるオンラインゲームサービスというビッグビジネスの、偽らざる姿を知るために重要だと思うからだ。

 同様に会場レポートの補足として、「民間の会社によって運営される国策ゲーム」の現在と、ある意味定番の認識となった中国市場の類似品商法、そのオンラインゲーム版の情報をお届けする。こちらでも「World of Warcraft」のサービス休止に便乗するといった、嫌な意味で「機を見るに敏」な商売があったりして、なかなか油断できない。ネガティブな話題をまとめてお送りするのはやや気が引けるのだが、良いことであれ悪いことであれ、まずは知ることから始めるべきだと信ずる。くれぐれもこの記事だけを見て事態を針小棒大に捉えることなく、中国市場をトータルに見てほしい。




■ 「World of Warcraft」は7月30日にようやく再開、中国ゲーム市場を揺るがす、NetEaseとThe 9の抗争

NetEase自身が運営するゲームとして展示されていたのは、西遊記や唐帝国など在来モチーフ作品がメイン。新作の「大話西遊II」についても、試遊台はなかった
NetEaseブースのコンパニオン。今年は試遊台よりもムービー、ムービーよりもコスプレお姉さんを重視して、イメージ戦略と人集めに徹するメーカーが多かった
「World of Warcraft」の展示もムービーのみ。サービス停止中なのでやむを得ない?

 中国大手メーカーのNetEase(網易)は今年のChinaJoyでも大きなブースを構えていた。西遊記をモチーフにしたMMORPGのヒット作続編の「大話西遊II」、唐帝国の時代をモチーフにし、コーエーの「真・三國無双」シリーズのような無数の敵を相手にするアクションMMORPG「大唐無双」といった作品のムービーが上映され、それぞれの作品にちなむコスプレをしたブースコンパニオンが、説明パネルの前でしきりにポーズをとって、来場者のカメラのフラッシュを浴びていた。

 しかし、NetEaseブースで話題を集めていたのは、そうした自社開発タイトルではなく、Blizzard Entertainmentの「World of Warcraft」と「StarCraft II」だろう。ブースには「Blizzard」特設コーナーが設けられ、照明を抑えた室内では10台ほどの壁掛けディスプレイで「StarCraft II」のプロモーションムービーが流されていた。

 一方、通路に面した一画では大型スクリーンで、今回の話題の中心的な存在である「World of Warcraft」のプロモーションムービーが流されていた。今回の騒動の発端となった、The 9からNetEaseへのパブリッシャー移行と、それに伴って生じたサービスの一時停止、そして今回のChinaJoyで事態がどのように動いていったかを解説したい。

 中国における「World of Warcraft」のサービスは6月から現在まで停止しており、7月30日からNetEaseのもとであらためて、新規IDの取得が不可能という異例のクローズドβテストが開始されることになった。サービスが中断されたのは、パブリッシャー間でのサービス移管が円滑に行なわれなかったためだ。

 「World of Warcraft」の中国における運営元はThe 9(第九城市)であり、そのサービス収入はThe 9の売り上げの92%を占めていた。ところがBlizzard Entertainmentは、今年6月のタイミングでThe 9とのパブリッシング契約を打ち切り、新たにNetEaseと契約した。NetEaseはかねてからBlizzard Entertainmentに対し、ライセンスフィーの大幅な切り上げを条件に中国における「World of Warcraft」の運営権委譲に関する提案を持ちかけていて、それが実ったというのが大方の観測だ。

 ただし、当のNetEaseはこれを否定、「NetEaseがBlizzard Entertainmentに払うライセンスフィーは、The 9が払っていた年間600万米ドルよりも安くなる」という公式見解が発表されている。The 9側はこうした動きに関し、Blizzard Entertainmentの行為は一方的かつ不当な契約破棄だと主張して上海市の裁判所に審理を申し立てたものの、海外企業であるBlizzard Entertainment側は当然ながら所轄権限の問題を指摘して訴訟の無効を主張した。結果として3度にわたり開廷が阻止されているが、そうした経緯に関しては両社とも公式なコメントを発していない。

 The 9はそのまま6月まで、NetEaseもサービスを無事に受け継ぐ目処が立たないまま、それぞれにゲームマネーを販売していたため、ゲームサービスの一時停止はゲームマネー購入者の権利問題に発展した。上海の消費者協会に苦情が殺到したほか、WoWプレーヤーによる抗議行動は、NetEaseが提供するほかのゲームにいっせいにアクセスしてプレイ不能状態に追い込む、ほかのゲームの中でキャラクターに抗議行動をとらせるなど、多数のエンドユーザーを巻き込む騒ぎとなった。こうした事態を受けてThe 9は「7月末に返金受付のためのWebフォームを開設する」とアナウンスしている。

 前述のとおり、7月30日から開始されるNetEaseの下でのクローズドβテストは、既存のプレーヤーだけが参加できる異例のものだが、このクローズドβテストの開始についてNetEaseは「以前のサービスのプレイデータをすべて引き継ぐ」とアナウンスした。これが文字どおり実現すれば、ゲームマネー購入者の権利問題は大枠で解消に向かい、あとはサービス中止期間に関する補償問題のみとなる。


【StarCraft II】
「StarCraft II」のプロモーションも、ムービーと着ぐるみによるイメージ演出がメイン。ブーススタッフに「StarCraft II」の中国サービスのスケジュールについて聞いてみたが、「ノーコメント」と実につれない返事だった

 だがここにいたっても旧運営者のThe 9と新運営のNetEaseの関係はこじれたままであり、7月22日に上海で開幕した国際的なゲーム開発者セミナーCGDCに出席した両社代表からは、いささか過激な発言が飛び出した。

 NetEaseのCEOである丁磊氏が講演で、「人間の性である貪欲さは良知を遮る」、「今年のオンラインゲーム業界では悪性競争がますます激しくなってきた」、「目下の競争は、鶏を殺して卵を取ろうとするようなものだ」と、名指しを避けながらも暗にThe 9を批判すると、The9のCEOである陳暁薇氏は事実上これに反論して「いま話さないと、The 9が濡れ衣を着せられるかもしれないことを憂慮する」、「どんな利益によって、友達同士がお互いに攻撃しあうことになってしまうのか、ずっと考えている」などと発言した。

 また陳暁薇氏は、The9のBlizzard Entertainmentへの提訴について「正々堂々たる記名告発だ」と正当性を述べたうえで、NetEaseとBlizzard Entertainmentによる合弁企業の設立が、政府の方針と合致しないという論調で非難した。補足しておくと、中国国内におけるゲームサービス会社は、原則的に中国企業のみとされている。韓国企業などが中国に進出した例でも、出資にとどめるか、共同で開発会社を設立するのが通例で、The9陳氏の「合弁会社は政府の方針に合致しないから、NetEaseへの運営移管は認められない」という発言は、中国ゲーム市場の閉鎖性をよく表した破れかぶれの本音の暴露とさえ言えそうだ。ちなみにThe 9が、9月を目処に4回目の提訴を計画しているという噂もあるが、先に失敗した3回の提訴と同様の理由で却下されるだろうという見方が有力だ。

 前述のような応酬のあと、7月24日のCGDC基調講演でBlizzard EntertainmentのCEO Mike Morhaime氏は「Creativity ―Soul of Game―」という表題の講演を行なっている。また、同日のオンラインゲームセッションでは同じくBlizzard EntertainmentのJ. Allen Brack氏が、東洋と西洋におけるゲームデザインについて講演を持った。

 Mike Morhaime氏は聴衆に向けて「『WoW』はもうすぐ始まる。長くお待たせすることはない」という旨の発言を行ない、講演後の記者取材では「Blizzardは中国のオンラインゲーム市場を非常に重視している。NetEaseとの提携もいたって円滑で、これからNetEaseと一緒に偉大なオンラインゲーム事業を開拓していく」とコメントした。

 アメリカ国内でもめったに開発系カンファレンスに参加することのないBlizzard Entertainmentが、CGDCに限って積極的に講演を持ったのは、第1に今後中国のオンラインゲーム市場に深くコミットしていこうとする決意を示すものであり、また実際のゲームやサービス内容以外のところで事態が紛糾していることを十分に意識してNetEaseを援護しつつ、ファンに安心してもらうためのアピールだったということだ。

 The 9は過去に9Youとの間で「Audition」のパブリッシング権限について争ったことがあり、ChinaJoy会場におけるThe 9のブース展示では現在も、「Audition2」なる作品のイメージグラフィックスが壁にあしらわれ続けている。ChinaJoy会場で来場者にアピールされたNetEaseとBlizzard Entertainmentの協力関係と、クローズドβテスト予定のアナウンスはともに、事態の収束に向けた大きな一歩といえるが、もうしばらくは騒動が続くかもしれない。


NetEaseとThe 9の反目の場にもなってしまった、ゲーム開発者カンファレンス「CGDC」の会場The 9ブース試遊台コーナーの壁には、今年も「Audition2」のイメージアートが描かれていた




■ 中国ゲーム業界ならではの風景。国策ゲームと類似品商法

テレビドラマにもなっている、抗日戦争の小説「亮剣」をモチーフにした「亮剣Online」

 中国にしかないオンラインゲームというものがあるのをご存じだろうか。中国特有の事情に基づく、青少年教育のためのオンラインゲームとして抗日戦争モノというものがそれだ。その分野ではトップシェアを誇るその名もズバリ「抗戦Online」は、中国版コムソモールともいうべき中国共産主義青年団(中青団)の投資を受けた広州のゲーム会社、中青宝徳網絡によって開発と運営が行なわれている。

 同社は昨年のChinaJoyで、新しい抗日戦争MMORPG「亮剣Online」の開発をアナウンスし、今回のChinaJoyではその試遊台を出展していた。自分のキャラクターが中国共産党軍の兵士で、軍事基地や日本兵が出てくるというスタイルではあるものの、ゲームシステム自体はクリックタイプでクォータービューのライト系MMORPGであり、動物を倒したり鉱石を掘ったりして素材を手に入れ、アイテムを作るといった生産要素も備えている。

 抗日戦争モノの先輩に当たる「抗戦Online」との違いはどこにあるのかというと、「抗戦Online」が日中戦争の史実をベースに作られ、史実になぞらえた人物やクエストが多数登場するのに対し、そもそも「亮剣Online」は部隊や登場人物の設定からして小説「亮剣」に基づいている。「亮剣Online」では、味方NPCとして国民党軍(現在の台湾に連なる国民党の軍隊)が出てくる点も大きな違いであるとのことだった。つまり、中国のテレビドラマにある抗日戦争=建国モチーフの物語を、そのままオンラインゲームの世界に移したのが「亮剣Online」というわけだ。

 もともと「抗戦Online」は、抗日戦争終結60周年のタイミングで制作が決定した作品だ。政治キャンペーンを発端とする作品がメインの出し物であったせいか、昨年以前の中青宝徳網絡の展示は、ブースの仕立てが農村のゲリラ戦根拠地、コンパニオンガールの衣装は中国社会主義青年団を象徴するブルーの上着で固められていたりして、非常にお堅いイメージが強かった。それに対して今年の中青宝徳網絡ブースは、普通のメーカーブースと変わらない構造とカラーリングで、同じく中青宝徳網絡が手がける「天道」、「千秋」といった春秋戦国時代モチーフのMMORPGと、抗日戦争モノ2本が並ぶ形で展示されていた。

 中青宝徳網絡に公式のコメントを求めるかぎりでは、抗日戦争モチーフの作品といえども政府による資金援助は受けておらず、中青宝徳網絡は民間企業であるという答えが返ってくる。だが一方でゲームの開発意図を「歴史教育」と説明し、出資元たる中青団の職員に元政府関係者が多いことも否定しない。このあたりに、改革開放政策が既定の路線となってからむしろわかりづらくなった、中国の政治と経済の関係を見る思いがする。


【中青宝徳網絡】
抗日戦争モノのタイトルと、古代中国を題材にした普通のMMORPGが並んでプレーアブル展示されていた、中青宝徳網絡のブース
背景に描かれた兵器がちょっと現代的すぎる気もするが、中国の兵士となって日本兵と戦うゲームである

 次に類似北京のJoyChina(中娯)がプレイアブル出展していたのが、「HUNTER BLADE」(■刃。■はけものへんに「昔」)である。このゲーム、誰がどう見てもカプコンの「モンスターハンター」にそっくりなのだ。「モンスターハンター」と違ってMMORPGであり、ブースで実際にプレイしてみるとモンスターに襲われたときのノックバックの演出がやや大ざっぱで、プレーヤーキャラクターが唐突に転ぶ印象があるものの、ゲームのテンポはまずまず良好に「再現」されてしまっている。

 完全なコピー品でなく、位置付け的にグレーな類似品を中国語で、「山寨」(シャンチャイ。山賊の砦)と言う。この手の類似品商法は、ソフトウェア/ハードウェアを問わず近年ますます激しくなっているそうで、それは中国の人々にも認識されている。今回のChinaJoyは、さながら「山寨Joy」だという意見も出ている。呆れるべきか怒るべきか、感想は人それぞれだと思うが、中国人の、ときにあまり感心できない商魂たくましさはChinaJoy会場でも遺憾なく発揮されていたようだ。

【JoyChina】
小さなスペースの割に、プレーと見物の客が引きも切らなかった、JoyChinaのブース

【HUNTER BLADE】
「HUNTER BLADE」は、基本的なゲームデザインがMMORPGであることなど、相違点はもちろんあるものの、敵といい武器といいアクション戦闘要素といい、全体の雰囲気は「モンスターハンター」そっくりとしか言いようがない

 同様に、MMORPG「完美世界」および「誅仙 ―Legend of Chusen―」などでおなじみPerfect World(完美時空)のブースで目立っていたのは、MMORPGの「神鬼伝奇」だ。こちらもまた画面レイアウトや戦闘場面でのエフェクト、さらにはロゴデザインすらもが「World of Warcraft」に似せて作られている。

 先ほどNetEaseのブース紹介で書いたとおり、「World of Warcraft」は現在サービス停止状態にあるのだが、これを絶好のチャンスと見たオンラインゲームパブリッシャーが、「World of Warcraft」に似たゲームを続々と世に送り出すのが水面下での動きとなっている。試遊台でプレイしてみたかぎり、「神鬼伝奇」は本来クリックベースの操作を基本に作られているようだが、「World of Warcraft」と同じW/A/S/Dキーでの移動もサポートしている。

 もっとも、ゲームのクオリティまでは「World of Warcraft」そのものとはいっていないようで、モンスターの発生処理と挙動がかなり大ざっぱで、プレーヤーのいない試遊台のキャラクターは、表示の重なったすごい数の敵に囲まれたりしていたが、戦闘時の操作レスポンスやテンポは比較的良好。十分に楽しく遊べる作品に思えた。それだけに、また完美時空という大会社だけに「ここまでやりますか」という印象が拭えない。

Perfect World(完美時空)のブースでは、3Dディスプレイを使った試遊など、普通に興味深い展示もなされていた
敵キャラクターの雰囲気といい、画面全体の色調やレイアウトといい、「神鬼伝奇」は「World of Warcraft」の類似品。「World of Warcraft」のサービス停止というアクシデントをチャンスと見て類似品を投入するメーカーは、ほかにもあるそうだ

(2009年 7月 30日)

[Reported by Guevarista ]