iPhone/iPod touchゲームレビュー 特別版

IGF Mobile Awardsの受賞作からiPhoneゲームの魅力を考える(後編)


3月28日(現地時間) 開催



 iPhone/iPod touchが旋風を巻き起こした今年の「Game Developers Coneference(GDC) 2009」。その背後にあるのはインディペンデント系ゲームの盛り上がりだ。GDC EXPO会場では毎年「Independent Games Festival Awards」(IGFアワード)の受賞作品を展示するブースがあり、開発者と直接交流できた。昨年からは「Independent Games Festival Mobile Awards」(IGFモバイルアワード)の受賞作も加わり、特に今年は例年にない盛り上がりを見せた。

 恥ずかしながら筆者は今年のGDCでは体調を崩してしまったが、このエリアで日頃遊んでいるゲームの開発者と直接話ができたのは大きな体験で、彼らの発散するエネルギーを吸収できたのか、GDCが終わる頃にはすっかり体調が回復したほどだ。


【IGFモバイルアワード 受賞作クリエイター】
「Fieldrunners」のクリエイター、Subatomic Studiosのセルゲイ・グースキィ氏とジェイミー・ゴッチ氏「Galcon」のクリエイター、フィル・ハッセイ氏「Zen Bound」のクリエイター、ジャニ・カフラマ氏、ゴースト・モンキー氏、ミッコ・モノセン氏

 もっともこうしたiPhoneブームは、北米の大作ゲームビジネスがかげりを見せており、大手ゲームスタジオの閉鎖が続くなど、リストラが進んでいるという背景がある。そこから溢れた開発者が、こぞってiPhone/iPod touchに流れているのだ。そのためApp Storeにはゲームが集まりすぎ、成功する作品が一握りになっているという現状もある。

 とはいえ非常に参入しやすく、開発費も安いApp Storeから、新しいイノベーションが生まれる予感を多くの開発者が感じているようだった。自分が成功できなくとも、そうした潮流に身を寄せていれば、次の新しい波が来たときにも、流れに乗りやすいというわけだ。
 
 実際、「携帯性」、「ネットワーク性」、「新しい入力装置」という3つの特性を併せ持ち、参入障壁が低いiPhoneプラットフォームは、ゲームデザインの実験場としての存在感をますます高めている。前編でレビューした「Fieldrunners」に加えて、この後編でレビューする「Galcon」と「Zen Bound」も、そうしたiPhoneプラットフォームならではのゲームだ。




● Galcon【Inovation in Mobile Game Design】

ジャンル:リアルタイムストラテジー

発売元・開発元:Hassey Enterprises

価格:350円

*無料体験版「Galcon Lite」も配信中




■ 手のひらの宇宙戦争

指で惑星をスライドし、艦隊を派遣して、敵惑星をすべて占領していく
公式サイトではランキングなどが確認でき、iPhone/iPod touchでも表示できる

 IGFモバイルアワードでゲームデザイン部門に輝いたゲームが「Galcon」だ。もともとPC向けのシェアウェア(19.95ドル)としてリリースされており、App Storeの初期に移植された。当初は「隠れた名作」扱いだったが、値下げと口コミで面白さが広まり、セールスランキングの上位に顔を出すようになった。

 ゲームは宇宙戦争をモチーフにしたリアルタイムストラテジーだ。ゲームを始めると自分の惑星(緑)とCPU側の惑星(黄)、そして多数の中立惑星(灰)が表示される。ゲームの目的は中立惑星を占領しながら艦隊数を増やし、敵の惑星をすべて占領することだ。自勢力の惑星をタッチして目標の惑星にスライドさせると、艦隊が発進して占領に向かう。進行中の艦隊をタップして方向を変えることもできる。星系には数字が振られ、それぞれ駐留する艦隊数を示している。惑星の大きさは工業力を示し、占領すると駐留艦隊が少しずつ増えていく。戦闘は艦隊と惑星のみで発生し、艦隊同士が宇宙空間で接触しても戦闘は起こらない。

 戦闘は派遣艦隊と駐留艦隊の数字の差し引きで決まり、勝った場合は残存艦隊がそのまま駐留軍になる。マルチタッチに対応し、複数の惑星から1度に艦隊を発進させて、1つの惑星に向かわせるなどもでき、慣れてくると複数の指で同時に別々の指示を出せるようになる。画面右下の数字をタッチして、1度に派遣する艦隊数を4段階で切り替えることもできる。

 文字で説明すると面倒だが、画面を見ただけで誰もが直感的にプレイできるだろう(公式サイトにも「30秒で理解できる」と記されている)。1プレイは数分間、早ければ数十秒で終わり、ちょっとした隙間時間に遊ぶには最適。画面上を交錯する艦隊がとても綺麗で、まさに「手のひらの宇宙戦争」といった感じだ。


【スクリーンショット】
ゲームモードは6種類で、画面上の階級章アイコンを左右にスライドすると難易度が変わる「Classic」モード。敵の惑星をすべて占領すれば勝ちだ敵の艦隊が見えない「Stealth」モード
時間内に全惑星を占領する「Vacuum」モードではマルチタップが必須だ四方八方から攻撃を受ける「Beast」モード。何レベルまで耐えられるか?「3-Way」モードでは一風変わったプレイ展開が楽しめる

 ゲームモードは当初、ベーシックな「Classic」のみだったが、v1.2で4人までのオンライン対戦ができる「Net Game」が追加され、現在では敵艦隊の動きが表示されない「Stealth」、制限時間内にすべての中立惑星を占領する「Vacuum」、大量の敵軍からラッシュ攻撃を受ける「Beast」、COM軍が2勢力登場し3つどもえの戦いになる「3-way」の全6モードがある。またそれぞれに「Cabin Boy」から「Grand Admiral」まで10種類の難易度があり、長く遊び込める。

 中でも面白いのがオンライン対戦だ。「Galcon」では戦闘が数の勝負で決まり、戦えば必ず戦力が消耗するので、後から行動する方が有利になる。しかし、それでは自陣営の拡大ができない。勝つためには同盟や裏切りなどの駆け引きが必要だが、プレーヤー間でのコミュニケーション手段がないので、艦隊の動きで無言の会話をかわすことが重要だ。惑星の配置を瞬間的に把握して、敵軍の動きに目を光らせ、ここぞという時にラッシュ攻撃をかけることが勝利の鍵。1つの操作ミスが命取りになるが、数分間で決着がつくので、ずるずると遊びこんでしまう。対戦結果は公式サイトに送られ、戦績やランクを確認できる。最新版のv1.5からは2対2の協力対戦プレーも可能になった。勝利するにはプレーヤー間の無言の協力が不可欠で、また違った味わいがある。


【ある日の宇宙戦争(プレーヤーは赤色)】
画面上で赤と黄が激しくバトルを展開泥仕合の結果、赤と黄がポジションチェンジ。ピンクが拡大する拡大したピンクが黄を侵攻、一大勢力になる赤がピンクを攻撃、ピンクが左下から応援艦隊を派遣
その隙をついて青がピンクを奇襲。この阿吽の呼吸が醍醐味だ赤と青の挟撃を受けてピンク帝国が崩壊2大勢力となった赤と青がガチンコ勝負戦力を有効に活用した青が赤を追い詰め、勝者となった

 「Galcon」の魅力は、言うまでもなくリアルタイムストラテジーの本質を抽出し、iPhone/iPod touchにうまく合わせて再現した点だ。PC版に比べてマルチタッチでの操作に対応しただけでなく、マウスではなく指を使うことで、よりカジュアルで手軽に遊べるようになった。見た目はライトだが、短時間でサクサクとプレイでき、脳汁が連続して染み出るような濃い快感が味わえる。また公式サイトと連動したユーザーコミュニティ機能があるのもユニークで、今後のトレンドを先取りしている。あらゆる意味でゲームデザイン部門の受賞にふさわしいタイトルだと言える。

 ただし、公式サイトのデザインがPC向けのみなのが残念だ。iPhone/iPod touch向けにデザインされたページがあれば、よりコミュニティ機能も生かせるだろう。これは今後のアップデートに期待したいところだ。

 「Galcon」でオンライン対戦するには、公式サイトでアカウントを作成し、本体に設定する必要がある。少々わかりにくいので手順を紹介しよう。iPhone/iPod touchからでも設定できるが、PCのブラウザ上で行なった方が楽にできる。


【アカウントの作成とオンライン対戦の設定方法】
トップメニューで「Ranks」アイコンをタッチブラウザが起動して公式サイトが開くので、右上の「Sing In」をタッチ年齢認証ページが開くので、上側にマークをつけて「Continue」をタッチログインネームとパスワード、メールアドレスを入力して「Save」だ
次に本体の「設定」アイコンをタッチして、「Galcon」欄をタッチ登録したログインネームとパスワードを入力。カラーは希望する惑星の色だ再び「Galcon」を起動して「Net Game」をタッチするとサーバに接続される公式サイトにログインすれば、これまでの戦績などが確認できる



● Zen Bound 【Audio Achivement / Best iPhone Game】

ジャンル:パズル

発売元:Chillingo

開発元:Secret Exit

価格:600円

*無料体験版「Zen Bound Lite」も配信中




■ ゲーム史上初の「縛りゲー」登場

彫像に縄を巻き付けていくゲーム
環境音楽的なサウンドが秀逸でヘッドフォン推奨

 「Galcon」とは逆に、ゆったりと自分のぺースで遊べるゲームが「Zen Bound」だ。こちらも元々はPCの「Zen Bondage」というフリーゲームだったが、iPhone/iPod touchに移植されて、一躍有名になった。Audio Achivementに加えてBest iPhone Game賞にも輝いたとおり、まさにiPhoneプラットフォームに最適の内容となっている。開発はフィンランドのSecret Exitだ。

 ゲームの内容も斬新で、指で画面をスライドさせたり、本体を回しながら、木彫りの彫刻をロープで巻いていくという、おそらくゲーム史上初の「縛りゲー」だ。1本指でスライドすると彫刻が中心点で回転し、2本指でスライドすると平面回転をする。iPhone/iPod touchの本体を回転させると、光源と共にロープの向きが調節できる。

 彫刻には2つの釘が刺さっており、片方からロープがぶら下がっている。彫刻にロープを巻き付けると、表面が色に染まっていく。一定以上の表面積を覆ったところで、もう片方の釘にロープを巻きつければステージクリアだ。ただしロープの長さには限りがあるので要注意。70%、85%、99%の3段階のクリア条件があり、それぞれクリア時に使ったロープの長さが記録される。

 ゲームモードは木彫りの動物に巻き付けていく「Reflection」と、ブロックに巻き付けていく「Challenge」があり、ゲームが進むと伝統的な日常品に巻き付ける「Nostalgia」が選べるようになる。どのモードでもメニュー表現が美しく、木の幹を回しながら、枝にぶらさがった木の札をタッチして選択するという凝りようだ。1つのステージをクリアすると、達成度に応じて花が咲き、さらに先のステージに進めるようになる。グラフィックスは和風タッチの雅なテイストで、墨絵のような繊細さが感じられる。


【スクリーンショット】
木の幹を回しながら、枝にぶら下がった木の札を選んでタッチ釘からぶら下がった縄を彫刻に巻き付けながら色を変えていくクリア条件を達成すると、もう1方の釘が光るので、ロープを巻きつける99%以上を達成したので3つの花が咲き、さらに先のステージに進めるようになった

 本作のもう1つの特徴が優れたサウンドだ。起動時にヘッドフォン推奨のメッセージが表示されるとおり、本作はフィンランドの音楽家ゴースト・モンキー氏がサウンドを提供している(AmazonでサントラCDも発売されている)。グラフィックスが和風テイストなのに対して、こちらは西洋の環境音楽風で、両者が合わさって独特の世界観を醸し出している。会場で聞いたところ、ゲーム開発とサウンドは同時並行で進み、綿密なやり取りの末に作り上げられたという。

 本作に登場する木の彫刻は写真からの取り込みで、チャイムやロープの音なども全て本物の音源からサンプリングされている。光の照り返しや影の生成もよくできており、非常に写実的で、物質の存在感をうまく出している。リアルであることに意味がある作品で、SIGGRAPH(シーグラフ)のエマージングテクノロジーのような、バーチャリリアリティ作品的な趣きも感じられる。ただし、細部にロープを巻き付けるのが難しく、操作性にもう少し改良すべき点があるようにも感じられる。どうすればもっと遊びやすくなるか、プレイして考えてみることで、新たなブレイクスルーが生まれるのではないだろうか。

 本作のユニークなところは、パズルゲームでありながらゲーム的な枠がゆるく、解き方が多彩な点だ。縄の長さは比較的余裕があり、時間制限もなく、彫像が変色する範囲も広い。そのためラフにグルグル巻いても進められるし、きっちり、みっちり巻いてもよく、遊び手ごとに個性が出る。これがタイトルにもある「ZEN」のゆえんだろう。そして縄を巻き付けた木の彫像は美しく、いろいろな解き方を見てみたくなるほど。ただしクリア時の「作品」が保存できないのが惜しい。画面をキャプチャしてWEBに投稿できる機能が加われば、さらに盛り上がるだろう。

 このように本作は、ゲーム内容がオリジナリティ溢れるだけでなく、フィンランドのクリエイターが作った和風テイストのゲームという点でも特徴的だ。開発者のジャニ・カフラマ氏らによると、フィンランドと日本はどちらも自然が豊かで、人々が簡素な美を求める傾向にあるなど、国民性に似た部分もあるのだという。フィンランドは携帯電話最大手のノキアを生み出した国であり、小さくて精巧な工業製品を生み出す点で、日本とメンタリティが似ているところがあるのかもしれない。また歴史的にロシアの影響下にあったことから、日露戦争に勝利したことで対日感情が良好な国柄でもある。そうしたフィンランドから和風テイストのゲームが生まれた点が、興味深く感じられる。


【彫像の数々】
Reflectionモード
Challengeモード



 以上のように、今年のIGFモバイルアワードで受賞した3作品は、どれもPC文化の影響を色濃く受けていた。PCの人気ジャンルからヒントを得たり、シェアウェア・フリーウェアとして公開されていたゲームの中から、iPhoneプラットフォームのインターフェイスに即したゲームが移植され、デバイスの特性を活かす形で改良、進化を遂げたというわけだ。オープンプラットフォームとしてのPC文化と、そのよさを尊重する形で設計されたApp Store、そしてiPhone/iPod touchのデバイスとしての長所が組み合わさったことで、爆発的なムーブメントになった。特にゲームデザインの分野で興味深い進化が起きている。いずれのゲームもニンテンドーDSなどで登場してもよさそうなものだが、これがApp Storeから発売された点が印象的だ。

 一方で中堅デベロッパーにとっては、多数のデベロッパーが参入して無数のゲームが配信されたことや、それによって強い価格引き下げの波が起こったことで、App Storeは早くも利益を出しにくいプラットフォームになりつつある。しかし、これを打開する可能性があるのが6月に予定されているiPhone OS 3.0のバージョンアップだ。現在公開されている情報では、BluetoothによるP2P接続、アプリ内でのボイスチャット、アイテム課金や月額課金モデル、タッチ・傾き以外にも近接センサーなどを扱う新API、ドックコネクタやBluetooth接続による外部機器(ゲームコントローラなど)との通信機能など、さまざまな機能が盛り込まれる予定だ。これらを活かしたタイトルをいかに早く開発し、リリースできるかで、新しい変化が起きるだろう。いささか出遅れた感のある国内デベロッパーだが、これを機会により一層の奮起を期待したいところだ。


(2009年 5月 1日)

[Reported by 小野憲史]