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【CEDEC2017】「ゲームには世界を変える力がある!」。Nianticによる基調講演

「ポケモンGO」のプロトタイプ映像などを公開しながら制作過程を明らかに!

8月30日~9月1日 開催

会場:パシフィコ横浜

 ゲームを中心とするコンピュータエンターテインメント開発に関する話題を取り扱うカンファレンス「CEDEC2017」において、Nianticは「GO OUTSIDE! Adventures on foot」と題した講演を行なった。

 講演では、Director of Asia Pacific operationsを務める川島優志氏が、Nianticの成り立ちから「Ingress」についてまでをデータなどから説明。後半では野村達雄氏が「ポケモンGO」の制作過程について語った。

川島優志氏、「Ingress」で世界が変わることを実感する!

「Ingress」を担当した川島優志氏

 冒頭、川島氏はNianticの創設者でありCEOを務めるジョン・ハンケ氏とゲームを作る上で話した想い出を取り上げた。テーマは「どうやったら世界を変えられるか?」だ。川島氏は「誰もが世界を変えようと思っているが、その術を知らない」切り出した。当の川島氏もこれについて悩んだというが、ハンケ氏は「外に出れば良い」と語ったという。

 実はハンケ氏は、ある晴れ渡ったカリフォルニアの空の下、息子が日がな一日テレビの前で「MINECRAFT」をプレイしているのを見て、どうやったら外に連れ出すことができるのだろうと考えたことがあるのだとか。川島氏は前述の「外に出れば良い」という言葉について「日本で言えば『風が吹けば桶屋が儲かる』といったような感じ」と説明し、巡り巡って世界が変わっていくのだという。

 実際に外に出ることは気力も体力も使うことで、実は簡単ではない。「現代においてテクノロジーは楽で便利なものを追究しているが、それが必ずしも正しい使い道なのだろうか?」と川島氏は問う。体を使わない人が増え、健康問題も深刻化する中、「外に出ること」をテーマに掲げはしたものの、外に出るためには動機付けを考えなくてはならない。現代人はナビゲーションシステムが発達し、寄り道をせず目的地に向かう人も多い。Nianticでは、毎日歩いている道を1本外れ、15分で着く場所まで1時間かけて歩くことで、新たなる探索や人との出会いを演出したいと考えた。そこには新しい目で世界を捕らえ、全く違った世界が広がっており、それこそが世界を変えることなのだ。

この数値は、大人が1日9時間スクリーンを見ている、子供が3時間スクリーンを見ている、80%が十分な運動に達していない、5,700万人が健康被害で亡くなっているという数値
15分で歩けるところを1時間半かけて歩いて移動して欲しいという想い
外に出ることでどう変わるのか? エクササイズ→探索による発見→そして人との出会いとなる

 そこでまず最初に作られたのが、「Fild Trip」と呼ばれるアプリだ。史跡などの場所に行くと、その場所の情報が自動的にアプリに送られ表示される。マップをベースに、GPSデータとその場所の情報をミックスした一種のARソフトだが、うまくいかなかったという。アプリの作りとして、ユーザーに情報をどう見せるかなどの作りが上手くいっていなかったと分析した。

「Field Trip」ではその場所に行くと、情報が表示される。ただ、ユーザーに寄り添ってない部分も多く失敗したという

 そして次に登場したのが「Ingress」だ。川島氏が「Ingress」で重要なポイントとして挙げたのが「現実世界に出ないとゲームができない」という点。このことにより、「人々の振る舞いを変えることができた」と振り返った。すでに報道などでもされているが、「Ingress」のプレイのために山に登ったり、飛行機に乗って移動したり、外国まで旅行する人もいる。川島氏はユーザーからもらったという「車椅子を改造して外国にまで出かけてプレイするほどアクティブになった」や、「ギランバレー症候群を患っていた人が、はじめは歩けなかったが1日200歩を歩けるようになり、そのうち2万歩まで歩数を伸ばし、ついには病気から回復する二まで至った」というメールを紹介し、「感動した」と語った。

 「Ingress」のゲームでは、イベントなどで国を超えてプレーヤーが集まり協力して1つの目的を成し遂げようとしている。「戦争や紛争が起き、いがみ合っている民族や国などもたくさんあるのに、ゲームにはそういったことを乗り越えていく力がある」と力強く語った。

 「Ingress」のプレーヤーが増え続ける中、Nianticでは次にどうするかという時期にさしかかっていた。そんなとき、Googleマップのエイプリルフール企画で行なわれた「ポケモンチャレンジ」を見たときに川島氏は「これだ! これは実現できる」と思ったという。そしてエイプリルフール企画を担当していた野村達雄氏とのミーティングが早速行なわれる。

【「Ingress」におけるアンケートデータ】
「30%が現実世界でデートをしている」というのは海外での話で、日本では「10%」なのだとか。川島氏はそれでも十分多いと語る。「17%が1,000ドル使っている」というのはアプリ内課金ではなく、旅費など“リアル課金”にかけた金額

 しかしここでNianticに大きな変革の時が訪れる。GoogleからAndroid部隊の元で作業を行なうか? それとも独立するかの判断を迫られたという。Nianticはここで独立を選択するが、チームの約半数は会社に残る選択をする。チームメイトは減り、独立するにあたってサーバーの運営資金なども必要となり苦境に立たされる。

 ここでハンケ氏と川島氏はまずは任天堂に向かった。すでに「ポケモンGO」のプロジェクトはスタートしていたが、当初はGoogleと任天堂の大型企画だったのが、社員数が40人程度のソフトハウスとなった「Niantic」との契約になり「急に中小企業となり、どうなるかと思った」という。しかし当時、任天堂の岩田 聡氏とポケモンの石原恒和氏は「悩まずに『私たちが投資します』と言ってもらいました」と振り返った。

 この英断により、「ポケモンGO」は生れることになる。

ゲームをプレイすることで、国境を越えてプレーヤーが協力して物事を成し遂げようとしている
火事にあったプレーヤーに寄付が集まり、家を修繕することができたという。これこそ世界を変えた一例かもしれない
赤十字社と組んで献血するという働きかけ
人の繋がりも広がり続けている。左の写真は1番最初のリアルイベントで、京都で行なわれた。右の写真は東京で開かれたイベント。1万人が集まった
「Ingress」で通じて学んだこと

野村達雄氏「ポケモンGO」はどのように開発されていったのか?

Nianticのプロダクトマネージャーを務める野村達雄氏。Googleでは自身の肩書きを好きに設定できるのだという。野村氏は「僕は『シニアエイプリルフールエンジニア』って書いてました」と語り、会場からは大きな笑い声が巻き起こった
Googleマップでエイプリルフール企画を手がけてきた野村氏。「ポケモンチャレンジ」が大きな転機となった

 野村氏は前述の通り、Googleマップのエイプリルフール企画で行なわれた「ポケモンチャレンジ」を川島氏に見初められて企画に参画することになった。実はそれ以前からエイプリルフール企画を担当していた。1番最初に企画した「ドラゴンクエスト」風のGoogleマップが大変好評で、毎年期待されるようになったのだという。もちろんこういった仕事は通常の仕事以外の時間に進めなければならず、大変なあまりやらないと宣言していたが、あまりに聞かれるため、「ポケモンチャレンジ」のアイディアを披露すると結果やることになってしまったのだという。

 「ポケモンチャレンジ」では、ミュウについては150匹捕まえたら初めて出現するよう設定したのだが、最初に探し当てた人がスクリーンショットを公開すると「合成だろう?」といったTwitterなども飛び交い、一種カオス状態になったという。実は野村氏はこのカオスな状況そのものを狙っていたのだという。自身が子供の頃にポケットモンスター」をプレイし、ミュウが登場したときに色々噂が飛び交ったことを思い出し、似たような状況を再現したかったのだという。

 現在「ポケモンGO」は7億5千万ダウンロードを記録しており、150の国と地域でプレイされている。そしてプレーヤーは160億km歩いており、これは「ピンときませんが、冥王星までの距離の約3倍くらいの距離を歩いています」という。これは「外に出よう」を標榜するNianticとしては「大切な数値です」と野村氏は語る。

「ポケモンGO」は世界中で数多くの人にプレイされている

 これだけ「ポケモンGO」がヒットした要因について、「まず第1に『ポケモン』という強いブランドがあった」ことが大きいと語る。そして「ゲームとしてとにかくシンプル。皆さんのようなゲームをプレイする人たちにとっては物足りないくらい」と話すが、それも狙いだという。「ポケモン」は21周年を迎え、すでに老若男女誰もが知っているコンテンツだ。つまり「ポケモンGO」に触れる可能性のある人は多岐にわたる。日頃ゲームをプレイしない人でも楽しめなければならないことを考えると、「とにかくシンプルにすることを狙った」のだという。

 そして核心となるAR(Augmented Reality:拡張現実)について。「ポケモンGO」で拡張現実をどう実現するのか? 開発当初はジャイロとカメラだけで実現しようとしたが、当時はまだ精度は低く上手くいくとは思えなかったという。そこで、ポケモンを発見したら、場所のストリートビューを背景にしてポケモンを表示させる仕様を考えついた。ところが、そもそもプレイしている時間とストリートビューで撮影された時間が一致しないことが多いし、表示されるポケモンの大きさもまちまちで、とても現実感は得られず違和感しかなかったという。

 ところがある週末を使ってテックアーティストがカメラとジャイロを使用してデモを作ってきた。これがまさに庭にポケモンがいるように写っており、野村氏も「すごくよくできていた」と感心すると同時に「何事もやってみないとわからない」と感じたという。

はじめはストリートビューを使用してポケモンと合成する手法が考えられていた。だが、開発してみると違和感があって使用できないことがわかった
テックアーティストがカメラとジャイロを使用してデモを作ったバージョン。今の「」ポケモンGO」の基礎はできている

 ここまでは現実の風景にポケモンが表示されるシステム部分で1番目立つところだが、野村氏は「『ポケモンGO』の拡張現実はこれだけではない」と語る。それはどこにポケモンが現われるかだ。ランダムに登場するのではなく水辺にみずタイプのポケモンが現われるなど、「現実との関連性が必要」だという。確かに、これこそが拡張現実なのだ。

どこに何のポケモンが登場するかが重要。現実との接点があってこその拡張現実

 そしてサービスが開始されたわけだが、まずは北米地域などでサービスを開始。ところが、想定以上の人気を集めてしまい、社会現象状態に。「ポケモンGO」はワンサーバーで運営されているため、サーバーもパンク状態に。開始早々に想定の5倍に達し、その後50倍にまで到達したという。

 1サーバーで運営することは本当に大変なことだが、野村氏曰く、1サーバーであることも重要な要素の1つなのだという。まず“現実”は1つであるということ。“現実”に代えはない。たとえば「あっ! あそこにポケモンがいる!」となったときに、複数のサーバーで運用されていた場合、サーバーによって現われるポケモンが異なる可能性がある。これを避けるためにも1サーバーで運営されているのだという。

サービス開始直後から想定を大きく上回るアクセスが。「怒られましたけど、大変だったんですよ(笑)」と野村氏。ちなみに当時のサーバー開発者は2~3人だったとか!

 UIにも気が遣われている。拡張現実を扱う場合中心は「マップ」。マップや各種情報の表示については、試作品ではバーチャルっぽい雰囲気にしたものも制作したが、「これはポケモンじゃないよね?」という意見が出たため、最終的にバランスを取って現在のような感じになったのだという。

 そして、UIがなるべく「マップ」を邪魔しないようにしなければならない。ということでボタンは1つ。ただ、現状に満足しているわけではなく、「わかりにくいところもあって改善しなければならない」。ただ、メニュー1つ追加するにもかなり討議が繰り返されるという。機能を追加するときも、「本当にメニューが必要なのか?」と何度も話し合われる。前述の通りUIを最小限に抑えるためで、これが徹底されているため「おばあちゃんでもできる」ゲームになっている。

初期のUIはサイバーっぽいイメージで素っ気ない。しかしこれでは「ポケモンらしくない」という意見が出た
そこで木が置かれたり、今のUIに近づけられた

 ARといえばゴーグル掛けて……と最新のデバイスを創造するが、野村氏は「そんなことはない」という。カーナビゲーションシステムもマップ上に情報が表示されることを考えると、一種の拡張現実だ。野村氏は最後に「プレーヤーの現実がどう拡張されるかが重要」と語った。ARゲームや位置情報ゲームは今でこそあふれているが、どんな情報を提供しそれによってプレーヤーがどう感じるのか? それこそが人間を変える力となる。川島氏は「その力は我々にかかっている。体を押すように心を押したい」と語り、講演を終えた。

ARを実現するためには左の写真のように様々な最新の機器が必要なのか? いや、すでにARの技術は至る所にあふれている。「最後はプレーヤーの現実がどう拡張されるかが重要」と野村氏は語る