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【CEDEC2017】「Fate/Grand Order」はこうして作られていた!
ディライトワークスの制作・運営チームがその内情を公開
2017年8月31日 10:55
「Fate/Grand Order」の制作・運営の秘密を紹介
CEDEC2017開催初日の8月30日には、スマートフォン向けゲーム「Fate/Grand Order」を制作・運営しているディライトワークスのチームによる「『ただ純粋に、面白いゲームを創り続ける』Fate/Grand Orderチームの全て」と題するセッションが開催された。人気のゲームとあってか、会場にはその様子を聴講しようと開発者が殺到。開会30分前には入場が締め切られるという人気ぶりだった。
セッションはPMセクション、企画セクション、デザインセクション、エンジニアセクションの各担当者がリレー形式で仕事内容を紹介する形で進められた。まず初めに登壇したのは、同社で「Fate/Grand Order」プロジェクトのPMリーダーを務める芦田夏希氏だ。
同社においてPMは進行管理の役割を持つという。具体的には「タスク管理」、「情報共有」、「対外折衝」、「プロジェクト改善」を行なっているとのこと。タスク管理ではJIRAというプロジェクト管理ツールを用いて、リリースするすべての要件を漏らさないよう、すべての作業を列挙し全員で共有しているほか、遅延や差し込みといった問題点をリーダーとPMの間で調整しているという。またリリースまでの全体管理として、イベントの決定から仕様書作成、その実装、そしてリリース当日までの段取りを組んでいる。その際には時間ごとの状況タスクを事前に記載して、現在の進捗を明確にすることを心がけているそうだ。
「タスク管理を行なう際に重要なのは、タスク漏れを防ぐために全員が確認できる共有ツールにすべてを記入すること」と芦田氏。タスクにあわせて予定を週・日・時間に分解して詳細な進行管理を行なっている。
また同社では、情報共有には「Chatwork」を使っている。「100を超える部屋を設けている」と語る芦田氏だが、これにより共有するグループを細分化して、必要な情報を整理。セキュリティレベルに合わせて情報を制限しているほか、あとから見直せるようにまとめログも流している。会議についても、会議レベルや議題に応じて参加者を選定すると共に、定期的に見直しているとのこと。必要に応じて議事録も公開している。「必要なメンバーに早く、正しく詳細に伝えることが大事」と芦田氏。またプロジェクトのゴールにメンバー全員で向かうためには、現在の状況とその理由を共有することも大切だと語る。
また対外折衝については、メールのように対応者以外のメンバーが確認できるので、Chatworkを用いていることが多いそうだ。そのほかPM以外の外部管理メンバーが行なった進行については、JIRAにタスクとして登録しているという。「外部の進捗状況は内部に伝わりづらい。情報を共有することで、タスク漏れや認識のずれを発生させないことが大事」(芦田氏)。外部への共有内容は、問題発生時にすぐ判断ができるよう、とりまとめることも重要だ。
プロジェクトの改善という点では、「日々の問題をいち早く見つけて、セクションリーダーと共有し、各セクションでそれぞれできることを考えることが重要である」と話す芦田氏。その際、対策については期限を設けて、うまく機能しているかを振り返ることが大事だ。「クリエイターがいらない悩みを持たないようにすることが重要。それによりユーザーに面白いゲームを届けることができる」と語る芦田氏だった。
企画は「分解して見つける」のが大事
次に登壇したのは、同社の企画部に所属する早坂貴志氏。「今日伝えたいことは『分解して、見つけよう』ということ」と切り出すと、本タイトルでは「Fateらしさ」にこだわっていると語る。「ディライトワークスのこだわりは、クオリティにこだわること。それにこだわるために、得意なことを突きつめることが大事」(早坂氏)。その逆に、得意なことを突き詰めるために、クオリティにこだわることも重要だ。そのためには作業を分解する必要があると早坂氏は語る。また「作業を分解するために、クオリティにこだわる、得意なことを突きつめる必要がある」とも。クオリティ、得意なことを突きつめる、作業を分解するという3つがうまく回ることが大事だと語る早坂氏。
早坂氏は「Fate/Grand Order」企画担当としての仕事についても紹介。制作の開始段階では企画のグランドデザインを書き、その後に仕様書を作成。素材の発注が終わったらゲームデザインへと移る。その際には協力会社の選定や契約も行なわれる。そしてイベントやクエスト、バトル、サーヴァント、概念礼装の設計が終わったら次は実装へ。マスターデータやスクリプトの管理、Unityの実装までを見ているとのこと。クオリティコントロールもプランナーの仕事だ。そして運営が始まってからは、ユーザーに対するお知らせを書いたり、メディアに出る記事のチェックなどもやっているそう。「イベント企画や、まんがの編集機能を持っている協力会社と一緒になって制作することもある」(早坂氏)。CMについてもチェックをしており、今ではアニプレックスが制作しているアニメを使っているが、当初は計画も立てていた。「つまり、何でもやるということ」(早坂氏)。
そして大事なのは目的を分解すること、問題を分解すること、手段を分解すること、工程を分解することだと早坂氏。「個人は万能ではないので、役割も分解する」(早坂氏)。それによって「Fate/Grand Order」は作られている。また目的と手段の関係を見た場合でも、「Fate/Grand Order」では「Fateらしさ」にこだわったために、「マスターがサーヴァントに指示を出す」ことがわかる、コマンドカードバトルになったという。また手段から目的を考えることも可能。「タッチ操作で面白くするためには、カードで命令を出すという見せ方になった」(早坂氏)。これにより、目的を達成してきたとのこと。「何でも分解して見つけることが大事」と語る早坂氏だった。
「Fate/Grand Order」におけるデザイナーの役割
続いてデザインセクションの説明として、同社のデザイン部に所属する増川浩介氏が登壇した。本タイトルにおいては、TYPE-MOONがユーザーに届けたいこだわりを形にすることを心がけているとのこと。「10年間大切に育てられてきたFateの世界を壊さず、1つのアプリで表現すること」にこだわってきた。
その結果、バトルキャラを例に挙げると、アニメーションについては、当初は攻撃モーションが4種類だったのが8種類に、宝具モーションも1種から4~6種へと増えていった。アニメーションの増加やモーションが多彩化したため、パーツも当初より3~4倍増加。表現もかなり増えているという。このあたりは演出へのこだわりを正しく理解し、リテイク回数を減らすために、TYPE-MOONと直接会って打ち合わせを行ない、意識を合わせているそう。「希望する演出の確認や、2Dと3Dとどちらが適切か、エフェクトのイメージまで話している」(増川氏)。
こだわりはクエストマップにも及ぶ。シナリオ進行に合わせたギミックや、マップ遷移を加えることで、シナリオとの整合性を深め、没入感を深めているとのこと。このためサービス開始当初の2015年にはマップが1枚だったのが、2016年には水着イベントではマップが2枚に。そして都市開発シミュレーションゲームのようなパーツも多数用意した。それだけでなく、見た目の豪華さ以外にも、エフェクトを使ったギミックも加えたという。2017年の水着イベントでは、異例の10マップ制作ということにまでなった。なおクエストマップについては、シナリオの制作内容に変更がある場合でも対応できるよう、今では100%社内スタッフで制作しているそうだ。
こうした進化はサーヴァント自体にも現われている。当初作られていた頭身テンプレートを廃止して、設定に合わせた絵作りをするように変えたとのこと。これにより、新規に追加されるサーヴァントがより豪華に動くようになった。しかしこのため、初期のテンプレートに沿って作られていたキャラクターでは整合性が取れなくなり、モーションでも差が出てしまうため、新規モーションと合わせてイラストをすべてリニューアルした。「こうしたことで工程は増えるが、作り続けるためには同じことをやらずに挑戦することが大事」と語る増川氏。「期間内にできることをやるのではなく、やりたいことをやるために、どれくらいの期間と人数が必要なのか、面白いゲームにするために、クオリティを重視した考え方を第一にしている」(増川氏)。
最適な技術を追い求めているエンジニアたち
最後に登壇したのはエンジニアの田村祐樹氏だ。まず、大切にしているのは最適な技術を追い求めることだ、と語り、すべては面白いことのために、面白さは遊んでくれるユーザーのため、そのユーザーのために面白さを実現する最適な技術を選択することが大事だと説く。
また実際のプロジェクトでは、開発、QA、本番反映というサイクルを、以下に高速で回すかが重要になってくる。「素早く届けることと、安定して動かすことは相反している。しかしこの2つをどう実現するかが大事だ」とも。
プロジェクトにおいては、ただ人を増やすだけだと開発が遅くなってしまうと語る田村氏。それはコミュニケーションコストが大きくなるから。大規模開発であるほど、速度を必要とする。このためには可視化、自動化、仕組み化を進めることが重要だ。
また、何を作るのか理解することも大事だと田村氏は語る。「自分たちが何を作っているのか、ゴールが見えていないと違うものができてしまう。このために説明会で意図の共有、ゴールの共有をしている」(田村氏)。
そして、開発者自身がゲームを遊ぶことも重要だと田村氏は語る。「遊び続けないと、目の前のものがただのシステムになってしまう。面白さは言われたとおりに動くことではない。書いたとおりに実装してもおかしくなる」(田村氏)。そのためにも、ユーザーの気持ちになって楽しんでみて、クエストなどをクリアすることも行なっている。「よりユーザーの気持ちに近づくことを重視している」(田村氏)。
そしてまた、発言して行動することも大事になってくる。田村氏は「言われたとおりに動くことではよくならない。ユーザーのためにいいと考えたら自発的に行動する。それについては仲間は助言をしたりして助けてくれる」とも。
しかしこうした行動を心がけていても問題は起きてしまう。その不具合には、バグとは言えないものもあるという。しかし何が原因なのかわからなければ、延々とメンテナンスが続くことにつながってしまう。これを避けるためには、問題を切り分けて可視化することが重要だと説く田村氏。
そして、ゲームの安定と開発速度を両立するために「最適化」が考えられることもある。しかしその結果、単純な作業に落とし込むこととなり、対応力がなくなることにもつながる。「通常は効率化を突き詰めると、現状を最適化した組織を作りがちになってしまう。しかし変化する環境、面白いゲームでは到達点が定まらないので、常に陳腐化が起きてしまう。間違った最適化は組織の硬直化と、組織に最適化した人材を生み出してしまう」(田村氏)。
「今までの面白さを乗り越えて開発をすることが大事。今の面白いは、今の自分たちを超えることで作られる」と語る田村氏。「Fate/Grand Order」を超えるものは、次の「Fate/Grand Order」である必要がある、とも。「今の自分たちを越え続けて、今の面白いを作り出していく」と語る田村氏だった。