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クリストファー・ノーラン監督最新作「ダンケルク」サバイバル試写会が開催

「ガルパン」杉山P、中村桜さん、岡部いさく氏、宮永忠将氏が“伝説の撤退戦”をディープに語る

8月17日開催

 ウォーゲーミングジャパンとワーナー・ブラザーズ映画は8月17日、ワーナー・ブラザーズ映画試写室において、「『ダンケルク』サバイバル試写会」を開催した。映画「ダンケルク」は、ワーナー・ブラザーズ映画配給で、9月9日上映開始予定。

【映画『ダンケルク』本予告【HD】2017年9月9日(土)公開】

 「『ダンケルク』サバイバル試写会」は、クリストファー・ノーラン監督の最新作「ダンケルク」とグローバルでパートナーシップを結んでいるWargaming.netによって実現した特別試写会で、「World of Tanks」や「World of Warships」をプレイしているWargamingユーザー40名を招待し、試写会の前に、特別ゲストによるトークショウも楽しめるという内容。

 トークショウには、Wargamingのイベントではお馴染みのミリタリーアドバイザー宮永忠将氏をはじめ、「ガールズ&パンツァー」プロデューサー杉山潔氏、軍事評論家の岡部いさく氏、そして“ミリタリー声優”として知られる中村桜さんの4名が参加。すでに「ダンケルク」の試写を済ませた4名で、ディープなミリタリートークが繰り広げられた。

【ゲスト】
「ガールズ&パンツァー」プロデューサー杉山潔氏
ミリタリー声優 中村桜さん
軍事評論家の岡部いさく氏
ミリタリーアドバイザー宮永忠将氏

軽妙なトークで場を盛り上げてくれた宮永氏
圧倒的な知識で兵器について語っていた杉山氏
ミリタリー声優としてかなりマニアックな発言をしていた中村さん
スピットファイアネクタイで、スピットファイアについてずっと語っていた岡部氏

 司会進行役の宮永氏からは、そもそものきっかけであるWargaming.netと「ダンケルク」のコラボ経緯から紹介された。兵器、戦争、軍事をモチーフにしたゲームを扱っているメーカーとして、クリストファー・ノーラン監督が、初めて実話ベースのミリタリー映画を撮影したということで、何か一緒にできないかということでグローバルでのコラボが実現したという。

 残念ながら日本では公開日が2カ月遅いため、イベント実施時期と映画公開日がズレてしまったが、7月に「World of Tanks Console」では「ダンケルクを忘れない」イベント、「World of Warships」ではイベントシナリオ「ダイナモ作戦」が実施された。

 最初の挨拶で杉山氏は、「ガルパン」のプロデューサーとして、「戦車が出ると聞いたので観てみたらアレ?という感じで、(映画に)戦車が出ないのに私がここにいていいのかな(笑)」と居心地悪そうにコメントすると、宮永氏が「心の中で見えるものもある」とすかさずフォロー。勢いを取り戻した杉山氏は、「この仕事をするにあたって、ベースにあるのは子供の頃からずっと見てきた戦争映画で、そういう意味ではこの場に立てるのは光栄」と挨拶。

 中村さんはやや緊張気味の面持ちで、「名だたる方々と一緒にいるのは大変恐縮で、私は本当は(喋る側ではなく)観る側の人間なのですが、おもしろかった部分を皆さんにお話しすることで、準備運動にできればな」と大人しめに挨拶。隣の杉山氏が「謙遜されていますけど、戦車プラモ作ったり、エアガン持ってサバゲのフィールドを走り回ってるわけですから」と実態を暴露すると、宮永氏が「(中村さんが)一番最前線に近いところにいる」とミリオタ認定した。

 そして大のスピットファイア好きとして知られ、本日もしっかりスピットファイアのネクタイで参戦した岡部氏は、「初期の予告編を見たらこれは凄そうだということで、最近の予告編を見たらスピットファイアが出るみたいじゃないですか、そしたらちゃんとスピットファイアが出まして、今日もスピットファイアのネクタイを締めてきました。これからスピットファイアが出ますから、皆さん観て下さい」と、信じられないぐらい“スピットファイア”を連呼。

 トークショウでは、「ダンケルク」の見所として、ダンケルクの救出作戦について岡部氏から解説が行なわれた。ダンケルクの戦いは、1940年5月から6月にかけて行なわれた英軍による撤退作戦。1940年5月にドイツ軍がオランダ・ベルギーを突破してフランスに侵攻を開始し、フランス軍のみならず、援軍の英軍も押しまくられ、ベルギー・フランス国境近くの港町ダンケルクまで押し込まれ、ドイツ軍に包囲されてしまう。

 英仏軍40万人が降伏か!? という局面でドイツ軍は足を止め、一説にはゲーリング空軍元帥が空軍だけで撃破しようとしたとか、戦車部隊の立て直しが必要だったとも言われているが、ともあれ英仏軍はこのドイツ軍の停滞を見逃さず、見事撤退作戦を成功させる。

 ダンケルクの戦いはわずか9日間しかなかったが、見所はそのどこを描いたかだという。映画のタイトルになっている港町は、初期の段階で崩壊し、海岸は遠浅で、湾港施設も貧弱。この絶望的な状況下でどのように30万人以上を引き上げさせたのか。そして、引き上げ作戦全般を担う海軍、ドイツ軍の進撃を食い止める陸軍、海岸で船を待つ兵士を空爆から守る空軍と、英軍にとって最初の総力戦となった。そういった部分も見所として紹介された。

 続いて登場兵器については、「ありもしない戦車をどんどん蘇らせて大活躍させる杉山さんどうですか?」と宮永氏が杉山氏に無茶振りすると、「アニメというものは、昔は手書き、今はCGですが、実物ではないものを実物らしく描くかに腐心するわけで、戦争映画の歴史は、兵器などの実際にあるものをどう使うのかにこだわってきていて、かつては現用戦車を当時の戦車のように撮影するということをやっていました。マニアからすると『違うじゃないか』ということで、最近は実際に走るプロップを使ったり、戦勝国には当時の兵器が残っているのでそれを実際に使って撮る。『トラトラトラ』なんかは、実在の兵器をモディファイしてそれらしく使って、実は本物ではなかったということなんですが、ヨーロッパ戦線でスピットファイアなんかはたくさん残っているので、できるだけ考証に合わせて使おうという動きもある。そう言う意味では、スピットファイアもキチンと飛びますし、メッサーシュミットBf109もスペイン空軍製ではありますけど、実機を実際に飛ばすというところにこだわっていて、兵器などの側面から観る人にとっても見所のある映画になっていると思います」と回答。

 続けて杉山氏が「スピットファイアなら僕なんかよりも愛が深い岡部さんの方が」と岡部氏にバトンを渡すと、「僕のスピットファイアに対する愛よりも、クリストファー・ノーラン監督のスピットファイアに対する愛をこの映画で観て下さい。凄く綺麗にカッコ良く撮れてて、しかもCGを一切使っていない。アップのシーンでも、CGや画面合成を使っていないという撮り方の徹底ぶりをごらんいただきたい」と激賞。スピットファイアファンにはたまらない映画になっているようだ。

 さらに杉山氏が、「(岡部氏が)大好きな機体が一機飛びますよね?」と話を向けると、岡部氏は「これまで映画に出てきたことがない、世界に飛ばせる機体が1機しかないブリストルブレニムが出てきます」と興奮気味に語り、「この登場シーンだけでも、映画館で1,800円、ああ僕はシニア割引だからもっと安いけど、払って観る価値は絶対にあると思います」と興奮収まらぬ様子で熱っぽく語っていたのが印象的だった。

宮永氏と杉山氏の恒例の「ガルパン」掛け合いは今回も行なわれたが杉山氏のガードは堅かった
フランスのソミュアS35らしき車輌

 ここで中休みとなり、「ダンケルク」、「World of Warships」、「ガールズ&パンツァー最終章」のトレーラーが紹介された。杉山氏は、「やはりガルパンだけ違和感がありますね(笑)」と照れ気味に語ると、杉山氏と宮永氏の恒例行事が繰り広げられた。

 まず宮永氏が「あと何の戦車が出てくるんですか?」と質問を繰り出すと、「言えないです」とキッパリ拒否し、佐々木あけび役の中村さんにも喋らないように釘を刺したが、杉山氏は「ソミュアS35らしい戦車がいましたが、あれはフランスということで、『ダンケルク』では追い落とされる側なんですが、関連性がないことはない」と、「ガルパン最終章」にフランス戦車が登場することを認めた。

 続けて宮永氏は、「12月9日、これは大丈夫なんですか?」と突っ込むと、杉山氏は、今私がプロデューサーの立場で『難しいです』とは言えないですよ(笑)。主旨が違うと思います。話を戻しませんか」と促され、掛け合い終了となった。

 その後、“サバイバル試写会”ということで、「皆さんならどのようにして生き残るか?」という質問については、あまりに現実感がなさ過ぎるのか、あまり具体的な話にならず質問として不発に終わった印象だったが、杉山氏が「救いに行く民間船に女性がいた。イギリスはそれを厭わない国で、女性が戦場に赴くことについて女性としてどう思うか?」と質問。

 中村さんは、「私個人は考えられないことですし、実際その立場になったら、特に女性は戦場の場で、何ができるかと思ってしまう。実際はわからないが、たぶん登場した女性は、イギリスだからこその、親御さんや旦那さん実は兵士だったり、なんかそういうお国事情がありながら参加していたんだろうと思います」と言葉を選びながらコメントした。

 最後に各ゲストのメッセージを掲載して締めくくりとしたい。

杉山氏「残念ながら戦車が出てこないので、戦闘機の撮り方は素晴らしい。そういう見方だけじゃなくて、この作品見て思ったのは、こういう映画が出てくる背景として、有史以来、連綿と戦争を続けてきたイギリス、全世代が戦争を経験しているからこそこういう戦い方になったのではないか。あるいは民間人が軍の命令を受ける前から、自ら兵隊を若者を助けに行くのは当然で、非武装のヨットで助けに行く。この辺のメンタルはイギリス人ならではのものなんだろうなと。それを忠実に再現した映画だと思いました。マニアックな兵器だけではなく、作品のテーマや裏にあるものはなんだろうと思いながら観ることで、戦争の実態を類推することはできるのでは?」

中村さん「観させていただいたんですけど、これまで観た映画とどれとも違う。視点も色々変わりますし、俯瞰じゃなく、その場にいるような錯覚に陥る作品。ミリタリー面では、作品を見た後にちょっと調べて見たんですけど、空軍がちゃんと描かれているのが凄いなと。ダンケルクの戦いにおいて、民間の船が助けに来てくれたのに、空軍は何をやっているんだ、作戦が終わった後に、空軍の人は制服を着たいるだけで暴行を受ける、実際はそういうこともあったみたいですが、映画では陸海空の各ポジションがちゃんとみんな国の為を思って頑張っていたんだなというところも描かれていて、その辺もエンタメのひとつとして史実として、この映画館で楽しんでいただければと思います」

岡部氏「おふたりの話だと、重箱の隅に美味しいところがたくさんまだ残っていますので、つつかせていくと、1940年6月のダンケルク撤退戦で兵隊を助けに行った民間の小舟、そのものずばりの船がイギリスにたくさん残っていて、ダンケルク小型船協会という団体があって、そこに100席ぐらい保存され、12席ぐらい出てきている。映画に登場して、手前に名前が出る船はたいてい実在する船で、これ考えて見ると忠臣蔵の映画で、実際の赤穂浪士が出てくるようなもの。それをやる監督も凄いし、それを嬉々として船を提供する協会も凄いし、出てくるのはイギリス兵ばかりだし、本物のスピットファイア飛ぶしで、戦争映画というよりイギリス人映画なんじゃないかとも思うので、そこら辺も楽しんでいただければと思います。

宮永氏「個人的な話をすると最近子供ができたんですけど、第二次世界大戦と、太平洋戦争は同じ時間軸でも、ヨーロッパの場合は第一次世界大戦があっての第二次世界大戦で、第一次世界大戦が終わったのは1918年、次の戦争が始まるまで20年ありますが、フランスの当時の新聞に、ドイツとの講和が成立した万歳という記事の横に、『また20年後、俺たちは死ぬんだ』と泣き叫んでいるという風刺漫画があるんです。つまり、第二次世界大戦は予感されていた戦争、回避できなかった大人達の責任というものが、この映画のテーマとしてひとつある。そこにグッとくるものがありました。そんな見方もしていただけたらと思います。99分の映画なんですけど、短さを感じさせない濃さがあるので楽しんでいただければと思います。

【映画「ダンケルク」】