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「ルンバ」とVRが融合した、新しいVRの可能性を感じるアート体験「有無ヴェルト」

マウスコンピューターのクリエイター向けPCブランド「DAIV」で実現した世界

12月5日 発売予定

会場:ギャラリー「ガーディアン・ガーデン」(銀座)

今回マウスコンピューターから貸し出しが行なわれた「DAIV-DGZ510S1-SH2」

 7月11日より8月4日にかけて、東京・銀座にあるギャラリー「ガーディアン・ガーデン」で「たかくらかずき展『有無ヴェルト』」が開催されている。ここではグラフィックアートで活躍しているたかくら氏が手がけたVR作品「Fullwelt(あめつちほしそ)」などが展示されている。今回このVR作品にマウスコンピューターが、同社のクリエイター向けPCブランド「DAIV(ダイブ)」を提供したこともあり、取材することができたのでご紹介しよう。

 「Fullwelt(あめつちほしそ)」は、たかくら氏とVRなどのメディアアーティストとして活躍するPsychic VR Labのゴッドスコーピオン氏が協力して作り上げられた作品だ。VRの素材として使われているのは、今回の展覧会で展示されているほかの作品のパーツ。これらを1つ1つ組み合わせて3D空間が作られている。作品の制作は、まず、たかくら氏がパーツを配置し、一定の空間が作り上げられたあと、ゴッドスコーピオン氏がUnityを使ってブラッシュアップ。そこからまたやりとりをする形で完成までこぎ着けた。

 鑑賞方法だが、中央に畳が敷いてあり、そこにまずは上がる。中心に座ったらVRのヘッドマウントディスプレイ(今回使われていたのはHTC Vive)を装着。ヘッドフォンをして楽しむこととなる。その周りには掃除機のルンバが動いており、そこにViveトラッカーが取り付けられていて、正方形に囲われている中を動き回ることで、VR空間を回る演出を担っている。

畳の周りを2台のルンバが動いている。てっぺんにはViveトラッカーを装着
展示の脇で動いているマウスコンピューターのクリエイター向けPC「DAIV-DGZ510S1-SH2」

 ヘッドマウントディスプレイを装着してVR空間に入ると、高い音と低い音がすることに気づく。それはルンバの位置から出ているのだが、その音がする方向を見ると、ルンバの動きに合わせて動いているキャラクター(というかアイコン?)があるので、まずはそれを注視する。すると「こと」と表示されるので、それをまた注視し続けると、そのアイコンの視点に30秒間切り替わる。つまりVR空間を客観視している視点から、今度は動き回るアイコンの視点に変化するということだ。

 筆者も体験したが、最初は何をしたらいいのかわからないものの、音のする方向に誘導され、首を回すとアイコンが現われる。それを注視し視点を移動。“わっ”という感じで場面が転換され、アイコン視点になる。その時点では地平面が正面に変わるので、地面を動いているような気分になる。なんとも不思議な感じだ。なおこの様子は奥のスクリーンに映し出されているので、体験者もアートの一部と化すのだ。ギャラリーでだいたい5分くらい体験している様子を見ていると、どのような仕組みなのかわかるかと思う。訪れたらぜひとも体験してほしい。

【Fullwelt(あめつちほしそ)】

自動で動く掃除機「ルンバ」を使ったVR作品「Fullwelt(あめつちほしそ)」とは?

たかくらかずき氏(右)とゴッドスコーピオン氏(左)

 会場では「Fullwelt(あめつちほしそ)」を制作した、たかくら氏とゴッドスコーピオン氏に話を聴くことができたので、ここからはそのインタビューをお届けしよう。

――今回の展示の趣旨についてお聞かせください。

たかくら氏: Photoshopやアプリケーションって人間の目とは違いますよね。人間のために作られているけど、人間にはできない目線があるなと。特に拡大縮小の概念が不思議だなと思ったんです。無限に拡大できますよね。モニターは1,920×1,080ドットとして定着するのに、その中のピクセルは、定着する前の段階はいくらでも増やせるし、どこまでも拡大します。それをいろいろな大きさでアウトプットすることで、同じものが違うように見えたり、VRに出したり印刷に出したりすると違う目線になる。

 それってユクスキュルの言う“環世界”で、カタツムリが4フレーム以上は見えないとか、ウナギは視覚がないけど熱と嗅覚センサーで動いているとか、そういう転換ができるのではないかという繋がり。有無というのは「0」と「1」ですが、ある、ない、みたいなところの組み合わせでデジタルデータはできています。その「0」、「1」だけでどれだけの別視点を設けられるか。それを見せたかったんですね。

 VRは全部2Dで組んでいるんです。2Dのオブジェクトを立体的に組んでいるんですけど、重力を設定していないので、空中に浮くわけです。平面の立体が浮く。立体をクロスさせたときに、奥に行くものが手前に出ちゃう。両方の面が手前に出るとか、現実ではあり得ない面構成になったりして。そういうものを見るというのは現実ではありえないので、それを見せていきたかった。

 そういう話をゴッドスコーピオン氏と話をしていたときに、ルンバというアイテムが話に出てきた。じゃあルンバに視点を乗り移らせたらどうなるか。そういうところから今回のVRは進んでいきました。

ゴッドスコーピオン氏: 去年の11月にたかくら君と「ZOO」という演劇作品を作ったんです。これはチリのマヌエラ・インファンテという劇作家がいまして。ZOOというのは“人間動物園”の噺というのが根幹にあって、ある原住民と研究者が観客の前にやってきて、彼らは未開の地で、文明に触れていないというプレゼンテーションから始まるんですが、途中から、今まで彼らを見ていたんだけど、どうやら我々が見られているんじゃないか……という話なんです。それのように、見ることと見られることの関係性を取り扱うというのが1つ。もう1つは、音とモノ、意味と音、言葉の雑構築みたいなことですね。我々がこうしゃべっているとわかるじゃないですか。でも「※△◎□×」みたいになると意味がよくわからなくなってくる。

 本作の中に「あめつちのうた」というのが流れているんですが、あれは元々いろはうたみたいな形で、日本人が日本語として使うワードと、文字と意味を照らし合わせて言葉を理解するというような形で起きていったんですが。ZOOでやったのは、見ることと見られる関係性の話と、意味と音、意味とモノが分離していくことを取り扱っていて、今回はそのアップデート、再構築みたいな意味合いが強いですね。

たかくら氏: ZOOでは俳優がヘッドマウントディスプレイを付けていて、その俳優の目線が観客も見られるようになっていて、俳優の動きと、俳優の目線を同時に見るような。その周りにオリがあって。オリの内側でヘッドマウントディスプレイを付けていたわけですけど。

たかくらかずき氏

たかくら氏: その時に気づいたのが、VRというのは、外側から見ると目隠しをしているけど、自分としては別のものが見えている状態。目隠しをしているとみられていることを気にしなくなる。なので互いに気持ちいいというか、そういう状態ができるなと思って。人を見せる見せ物としてもいい装置だなと思ってアップデートしました。

ゴッドスコーピオン氏: VR自体が感覚遮断装置としての意味合いがあって。ほかにも無響室やアイソレーションタンクがあると思うのですが、ヘッドセットをかぶるというのは、外側を遮断して内側に入るという行為だなと。さらにその中で、ルンバという1個下の次元に行くというような構造があるんですね。人間としているのか、ルンバとしているのか、経験としてわかってくると。

たかくら氏: プロトタイプのアイディアとしては「拡大率の迷路にしたい」という話はしていまして。奥に行くというベクトルが、自分が小さくなるとか、大きくなるというベクトルに、リアルとバーチャルを置き換えられないかという話をしていたんです。

 それをストレートにやるよりは、コンセプトとしてそうなったという感じです。ほかのVRタイトルってリアルに寄せていくと思うんです。そうじゃなくて「デジタルのリアル、デジタルの主観って何?」みたいなのをやりたいと。「Photoshopの空間に入ったらどうなるの?」みたいな感覚を突き詰めたいというのがあったんですね。ルンバの視点というのもそうだし。“リアルバーチャリティ”みたいなノリなんです。

 RPGって俯瞰じゃないですか。あれは人間が見たことのない視点なんですね。それをドット絵という記号化された曖昧なアイコンに乗り移って、自分だと思って操作していく。そういう想像力がもっと変な方向に行ったら、アメリカ的なFPSなどとは違ったVRの使い方ってある気がしていて。そういう使い方ができないかなと思ったこともありましたね。

 Nintendo Switch用のアクションゲーム「ARMS」(任天堂)をやっているんですけど、ゲームがうまくなればなるほど、動きがボクシングから離れていく。ゲームに適応化していきますよね。最初は大きなモーションだったのが、疲れるし、小刻みな振りで動かすようになる。これって絶対普段やらない動きなんですね。

 ZOOの時も俳優にレクチャーしたとき、VRに実際にいる犬をなでてもらうのと、いない犬をなでる演技をするという2種類をやってもらったことがありました。実際にいると、どんどん動きがオブジェクト化していくんです。実際にいないと演者として演じるんですが。機械に適応するのが面白いなと思いますね。

――今回の作品の見所はどこでしょうか?

たかくら氏: 僕の気持ちとしては、現実とはまったく違う視覚を見ていて、現実的じゃない2Dの画面で構成されているんだけど、音だけが現実とバーチャルをつないでいるんですね。音によってつながれているというところかなと思います。高音と低音のルンバというのがいて、ルンバの視点になったとき、言葉を見ることで人間に戻れる。そういうところでしょうか。

 ひらがなって好きなんですよね。名前もひらがなだし。絵に似ているからでしょうか。ストロークがきれいですよね。あめつちのうたは、最初「いろはにほへと」にしようかと思ったんですけど、「あめ」「つち」、「ほし」、「そら」と、2音で完結してるんですね。1度バラしたひらがなを再認識するのにちょうどいいかなと。

VR展示会におけるクリエイター向けPC「DIVE」の優位点とは?

ゴッドスコーピオン氏(左)

――今回の作品にDIVEはどのように関わっているのでしょうか

ゴッドスコーピオン氏: 今回、視聴用PC「DAIV」は、最新CPU/GPUを採用し、ストレージ容量も十分あり、PCを使用する面でのストレスは全くありませんでした。

 また、貸してもらったマシンにコロコロが付いてるんですね。あれが最高だったなと。展示するときはパソコンを移動させるんですね。あと作業環境と実際の展示場所が違うので、パソコンを結構移動させるんです。その時に持たなくて、斜めにして動かせるのが楽で、その部分のストレスが低いのがよかったですね。

たかくら氏: 僕から言えるのは、黒くていいなと(笑)。あれが白だったりグレーだったりすると、かなり目立ってしまうので。黒でシンプルな構造がいいですね。パワーマシンってグレーだったりいろいろなタイプが発売されているイメージだったので。高級感がある程度あった方がいいですよね。シンプルな高級感みたいなのが。ソフトウェアはまったく問題なく動いていましたし。あとはパワフルなのに静かなのがいいですね。

ゴッドスコーピオン氏: 基本はUnityで開発をしていて、HTC ViveとViveトラッカーをルンバに設置して位置を測っている感じですね。ルンバは普通に動かしているだけです。ルンバはハックしやすいですが、HTC ViveとかOculusとかは結構大変ですね。

【DAIV-DGZ510S1-SH2】
製品名DAIV-DGZ510S1-SH2
CPUインテル Core i7-7700 プロセッサー
GPUGeForce GTX 1060(3GB)
チップセットインテル Z270
メモリ16GB PC4-19200 (8GB×2)
SSD240GB
HDD2TB
電源500W
OSWindows 10 Home 64ビット
キャスターオプションです
価格144,800円(税別/送料別)
キャスターカスタマイズ価格900円

ゴッドスコーピオン氏: 今回プロトタイプを作っているときに、5時間くらいルンバになっていたんですけど(笑)。それがとてもつらくて。それは元々人間という経験値や感覚を持っているので、いきなりルンバになるというか、“ルンバの守護霊”になったときに、自分は人間として生きてきたからファンクショナブルな存在なんですよね。ルンバの世界で生きるのはしんどい。自分としてはVRやMRの研究をしていて、ある種、超能力的なものの実現に関わっているときに、どういう風に考えていこうかというのは、今回いろいろ学びがありましたね。

たかくら氏: ビルにぶつからないと曲がれないみたいな気持ちになっていましたね、この人は(笑)。

ゴッドスコーピオン氏: 今回ルンバは何もいじっていません。いろいろいじるとVR酔いがひどくなってしまって、体験が悪くなる。技術的な制約もありますが。どちらかというとルンバに憑依するみたいな感じですね。やりたいことはいっぱいあるのですが、音の関係性を振り分けたいというのがあって。自分が中音で、ルンバが高音と低音というのがあって。それが自分の周りをぐるぐる回ってるという。環境の感覚が自分の中で見えた。ハイパーリアリティというのでしょうか? それを実際に搭載したいというのがあり、今回はルンバに搭載してみました。

たかくら氏: (ルンバに)いろいろとごちゃごちゃ付けたくなかったのは自分の方でもあって。メディアアーティストは(技術が)いろいろとわかっていて一杯やっているけど、僕みたいにグラフィックスの人は(技術関連が)わからない。その間に面白い領域があるぞと。ちょっといじっただけで変なことになるのは、かなり余っていると思っていて、その辺を狙いたいと思っていました。

 テクニカルなものと、プリミティブなビジュアルの間にできることはかなりあって。やり過ぎちゃうと専門的な人にしかわからない。メディアアートでよくある、見に行ったら「調整中」とずっと貼ってある。だったら半端でも見せた方が、半端でも作品になるくらいの、余分になるものがいい。ちょっとしたエラーが起きても、ルンバが動いていれば大丈夫みたいな。そういう所を狙っていきたいと思っていました。

 最新じゃなくなっても面白いという物にするには、半端な方がいいんですよ。テクニックはやり過ぎない方がよくて。でもビジュアルの精度とか、センサーの精度はかなりやってもらっていて。そこのバランスや精度はいくらでもいじれるので。テクノロジー=新しい。新しくなくなったらテクノロジーじゃなくなるとして、えんぴつ削り機や扇風機はテクノロジーじゃないですよね。でもそれを使っていることの方が重要な気がしています。

――たかくらさんのビジュアルをVRにするときに苦労した点はありますか

ゴッドスコーピオン氏: 平面作品としてあるものを3次元空間に配置するときに、空間の中には制約なくばーっと置けるわけじゃないですか。面から空間体験にみたいなのはいろいろと試行錯誤しました。

たかくら氏: ビジュアルに関しては最初に僕がやり方を教えてもらって配置してみて、ゴッドスコーピオンさんに整理してもらったんですけど、全然できなくて(笑)。絵だからできるだろうと思っていたら別物でした。生きている世界が違うというか。空間でないんだけどと渡して、それを元に作ったんですが、無限に拡大したり縮小したり、奥までいったりというのを整理してもらっているという感じですね。2人の間でも脳の感性が違いました。

 粘土でいろいろ作ったこともあるし、舞台美術もやっているので空間配置はできるのですが、(VRにおける空間配置は)それとも違うぞと。主観と俯瞰が同時に存在しているんですよね。主観のときにどう見えるか、という俯瞰。俯瞰だけでもないし主観だけでもない。1個1個に質量がなくて、無限に広げられたり、ちっちゃくできるわけ。これは粘土を越えちゃってるわけですよ。この距離にどの大きさで置くのか? というのを1個1個決めていく。しかもなぜ右クリックで視点移動なんだろうとか。適応できないみたいな。ルンバのグラフィックスを作ったときは適応できたけど。慣れもあるとは思うんですけどね。

――ゴッドスコーピオンさんのこれまでの作品と違うところはありますか

ゴッドスコーピオン氏: 私の作っているものって“テクノロジー魔術”みたいな、ある認知体験から見た世界を作ることが多くて。今回はそのずれがない。たかくら君の見ている世界やレイヤー構造というのを、他者にも体験できるようにするといった感じですね。あと去年1回作品を作っているので、共通言語はあるので。

――今後のご予定をお教えください

たかくら氏: 私は10月には、あるゲームを完成させるということと、11月に金田遼平さんと新宿で2人展をやります。

ゴッドスコーピオン氏: 今週の土日に岡山で展示があります。アイソレーションタンクと一緒にVRタイトルを作ろうという話をしていて、今年中にできればいいかなと。9月に展示会が1個あります。それはVRやMRを通して、ブランドの魅力であったりとか、ある種デザイナーが感じた経験値みたいなのを、ビジュアル体験や空間体験でいかに最短で吸収してもらうか、みたいなのにチャレンジします。あとは来年「ZOO」を東京でやります。

――ありがとうございました。

【たかくらかずき展「有無ヴェルト」】
会場にはほかのアート作品も展示
木枠のグラフィックスは、左右で見るとステレオ印刷のように絵が変わるようになっている
「ん」を上から見て移動できるようにしたグラフィック展示。ちなみに動かせるアイコンはアロエなのだが、それはたかくら氏がいま栽培しているからだとか
「ん」はこのパーツを組み合わせて作られている
【たかくらかずき氏のアート作品】
たかくらかずき×梅沢和木2人展「卍エターナル・ポータル卍 輪廻MIX」@mograg gallery
「山越天孫来迎図(下のレイヤーに結合)」2016年
「光の国生み」2016年
「現世再復涅槃図(上のレイヤーに結合)」 2016年