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Wargaming.netに続くIT企業の育成を目指す「ベラルーシハイテクパーク」レポート
“IT”を最大の輸出産業に掲げるベラルーシの戦略拠点
2017年7月10日 07:00
Wargaming.netのミンスクオフィス訪問に続いて我々はミンスク中心部から少し外れたところにあるベラルーシハイテクパーク(ベラルーシHTP)に向かった。
一見、Wargamingとはまったく関係なさそうな施設だが、実は大アリで、同社はベラルーシHTP加入企業で、そして大きな成功を収めた模範的メーカーの1社なのだ。
ベラルーシHTPは1991年にソ連が崩壊し、独立後に設立された国営の施設で、ソ連崩壊後、有能なエンジニアの多くが、より条件の良い西側に流れてしまい、国内の技術者不足が深刻な問題となった。そこでベラルーシ政府は専用の法律を作り、エンジニアの育成、特にITの分野でグローバルに進出できる企業の育成に力を入れることになった。
ベラルーシHTPでは、これまでに延べ30,000人のIT技術者を育成し、ここ10年で、人数にして4倍、市場規模としては30倍以上の成長を納め、今や中・東欧最大規模のIT人材育成の拠点となっている。その実力は折り紙付きで、Googleが毎年開催しているプログラマ向けのコンテストcode jamでも、ベラルーシは中国、ロシアを抜いて世界ランキングで1位に付けている。
この手のハイテクパーク、インキュベーションセンター自体は、特段珍しい存在ではないが、このベラルーシHTPがユニークなのは、ここで生み出された実に9割以上が海外に輸出されているところだ。輸出している国の数は67に達し、その割合は欧州と北米が9割を占め、残りをロシアとアジアが占める形になる。特にアジアは、現在有望な輸出先として力を入れているエリアで、直近では新たにシンガポールや韓国への輸出も開始し、今後は日本への進出も図りたいとしている。
ベラルーシHTPは、一定の審査を受けて加入すると、ワーキングスペースと、全ての税金が免除される。この特例はベラルーシ国内企業に限定されず、海外にも門戸を開いており、実際約60%が海外メーカーだという。また、国内の大学とも連携して、学生のHTPへの視察や、HTP加入メーカースタッフによる講演協力、そして共同研究を行なっている。
担当者のプレゼンテーションでは、HTPから生まれたグローバル企業としてWargamingを始め、EPAMやVIBER、JUNO、fabbyなどが紹介されたが、方向性として現在最も注力しているのは、モバイルアプリだ。
面白かったのは、いわゆるITエンジニア自体の育成よりむしろ、起業家を育てることに重きを置いているところだ。というのも、平均月給が25,000円程度のベラルーシで、ITエンジニアは特に優遇されており、少なくとも5倍以上の給与を得ることができる。このため、ベラルーシの学生は、GoogleやMicrosoftといったグローバル企業への就職を希望する人が多いと言う。
日本の感覚で言うと、ITエンジニアを選べば月給が5倍になるということはないため、その気持ちはわからなくもないが、ベラルーシ政府としては、それではいつまで経ってもベラルーシ国内のIT産業が育たないため、起業家精神を養い、スタートアップ企業への支援を手厚くすることで、起業を志す学生を増やそうと考えているようだ。
ベラルーシHTPは、予算や期限に制限は設けられておらず、加盟している限り、恒常的に特例措置が受けられる。このため、EPAMはNASDAQ上場後も未だにここをオフィスとして利用するなど、ベラルーシIT企業の母親のような存在だと感じた。正直な所、ゲーム系はWargaming.netが稀な例で、基本的にはノンゲームのアプリケーションばかりだが、ここから新たにどのようなソフトウェアが生まれるのか、あるいは天才エンジニアが誕生するのか注目したいところだ。