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VR向け3Dヘッドフォン「OSSIC X」は想像をはるかに越えていた

上から下から前から後ろから、正確・的確な音圧を感じられる驚き

6月13日~15日開催



会場:Los Angeles Convention Center

OSSICのブースにて、製品を紹介してくれたマーケティングアナリストのRamsey Elhadary氏。日本に半年の滞在経験があるといい、かなりの日本通でもあった
これが製品化を目指す「OSSIC X」3Dヘッドフォン

 E3 2017における数少ないVRデバイス関連出展のうち、GameFaceに並んで強い印象を残したのがこの「OSSIC X」3Dヘッドフォンだ。

 OSSICが昨年2月に始めたKickstarterキャンペーンでは、2カ月で1万人以上の出資者から総額で270万ドル以上を集めるという大成功。続いてIndigogoで開始したキャンペーンも、300万ドル以上を集めて大成功。

 製品の出荷は今年11月を予定して降り、現在では先行予約価格299ドル(正規価格499ドル)で予約を受付中だ。

 これほど注目を集める3Dヘッドフォン「OSSIC X」だが、果たしてその実力のほうはどうか。正直なところでいうと、個人的にはこれまで3Dサラウンドを謳うヘッドフォンがそれほど3Dじゃなかった複数の経験もあったため、あまり期待せずに触ってみた。

上下左右前後、あらゆる方向から正確に聞こえる!

とりあえず装着してみたところ。装着感は極めて良好、上質、快適
両手にVR空間内の“音源”を持って、前後左右上下に動かしまくる

 E3 2017の会場には、VR関連の出展を集めた「INNOVATIVE AREA」というエリアがあり、OSSICはその一角に四畳半ほどの小さなブースを構えていた。今回のE3は一般ユーザーの来場がはじめて行なわれ、ゲーム関連出展はどこも黒山の人だかりでTGS並に取材困難なブースも多かったなか、会場の端っこも端っこにあったこのあたりのブースは人もまばらで、新鮮な空気だけが豊富に存在していた次第である。

 というわけで今回、OSSICのブースを見逃さず発見できたのは非常に幸運だった。今回のE3でトップ3に入るほどの衝撃的な体験ができたからである。

 展示されていたデモアプリはHTC Vive用のもので、ユーザーの周囲に12面体で表現された“サウンドオブジェクト”が複数あり、それをVRコントローラーで自由に掴んで移動できるという内容だった。色とりどりのサウンドオブジェクトからは、それぞれ異なるオーディオが鳴っている。

 ひとつを掴んで頭の上に持ってくる。すると、実際、頭の上から音が聞こえる。今度は頭の背後に持ってくる。ちゃんと後ろから聞こえる。今度は逆の手で2つ目のサウンドオブジェクトを掴み、顔の周りをぐるぐる回したり、もう1方のオブジェクトとくっつけたり離したりしてみる。本能が期待する通りの音圧が自分を包む。おおお。

バーチャルじゃなく物理的に3Dオーディオを鳴らす。コアゲーマーも垂涎の性能

非常に大型のイヤーカップ。この中に4つのオーディオドライバーが実装されている
ヘッドバンド内にはセンサーが組み込まれていて、ユーザーの頭部サイズをリアルタイム計測する
前後の音の判別は、「ユーザーの耳の形状によってナチュラルに行なわれる」と話すElhadary氏。従来のサラウンドヘッドフォンとは根本から原理が違う

 従来のサラウンドヘッドフォンとの決定的な違いは、きちんと音源の方向から音圧を感じられる、というところだ。これは、1つのイヤーカップ内の前後上下に4つのサウンドドライバーが組み込まれていることを基礎として実現されている。両耳で8つだ。

 つまりOSSIC Xでは、オーディオ信号をいじってそれっぽく聞かせているのではなく、本当に、物理的に、3Dでオーディオを鳴らしているわけである。バーチャルサラウンドではなくて、リアルサラウンドなのだ。

 この特徴が最大限に活かされるのは、OSSIC XとUnreal/Unityといった各種ゲームエンジンのコラボレーションで実現する、3Dオーディオパススルー信号を利用したときだ。

 3Dオーディオパススルーというのが何かというと、従来の3Dサラウンドオーディオの対義語となるものである。従来、3Dサラウンドオーディオ信号というと、3D空間に配置された3Dオーディオを、5.1ch、7.1chといった物理的スピーカー配置を前提として、ドルビーデジタル等のエンコード方式で束ねたものを指していた。

 これはこれで便利な規格なのだが、OSSIC Xのように「物理的に上下左右から音を鳴らせる」機器を前提にすると、サウンドの3D情報を5.1chや7.1chのサラウンドスピーカー配置に合わせて畳み込む処理は逆に邪魔である。そこで、OSSIC Xでは、ゲーム内で生成される3Dオーディオ信号を“未加工”で受け取り、ヘッドフォン側で各ドライバーに振り分ける処理を搭載。コレにより、全方位からのオーディオを正確に再生することが可能になっている。VR向けというのはまさにこの点だ。

 というわけで、OSSIC Xは、3Dポジショナルオーディオを実装したVRアプリ・ゲームで最大限の実力を発揮する。というか、最近の3Dゲームはほぼすべて3Dポジショナルオーディオを実装している(開発者が意図せずとも、3Dオブジェクトにオーディオを割り当てると、ゲームエンジンが勝手に正しく音を配置してくれるのだ)ので、OSSIC Xと3Dゲームの相性は抜群に良い。

 そのいっぽうで、従来のサラウンド信号への対応も完璧だ。OSSIC Xは5.1ch、7.1chの信号デコードに対応しているだけでなく、ヘッドフォンにビルトインされたヘッドトラッキングセンサーで、ユーザーの首振りに連動して音の定位を変化させることが可能だ。これにより、物理的に多チャンネルスピーカーを設置したオーディオルームと同等のオーディオ環境をこれひとつで実現でき、従来のゲームの他、5.1ch/7.1chで録音されたDVD/Blu-Rayコンテンツも完璧に楽しむことができる。

 さらにOSSIC Xは、ヘッドバンド部に実装されたセンサーにより、装着時の両耳距離を自動測定。リアルタイムでHRTF(頭部伝達関数)を計算し、各オーディオドライバーの応答を制御する仕組みを搭載。これにより個人差を完璧に吸収するとしている。

 これは、アツい注目を受けるのも当然である。筆者を含むコアゲーマーは、VRを抜きにしてもOSSIC Xを欲しいはずだ。FPS系ゲームでの銃声や足音の聞き分けが圧倒的に正確になること間違い無しだからである。あまりにも的確に音源を捉えられるので、OSSIC Xのデビュー当初はほとんどチート扱いされるであろう。

 OSSIC Xのヘッドフォンデバイス自体はすでに非常に高い完成の域にあり、デザインはスキがなく、装着感も上質。大型のイヤーパッドは余裕をもって耳を全包囲する形状になっており、快適そのもののオーディオ環境を作り出してくれる。

 OSSICに残された重要ミッションは、このOSSIC Xの大量生産体制をきっちり整えることと、3Dオーディオパススルーに対応するアプリ・ゲームを増やすべく、各ゲームエンジンのインテグレーションを推し進め、そしてたくさんの有力ゲームメーカーにもガンガン宣伝していくところにあるだろう。

 そのあたりさえ怠りなければ、OSSIC Xは偉大な成功を収める。そして、次世代3Dオーディオのスタンダードを切り開くことになるはずだ。

筆者とElhadary氏とでは頭の形もサイズも全然ちがうが、OSSIC Xは内蔵センサーで即座に音響特性をパーソナライズしてくれる