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AM施設向けフリーローミングVRに新勢力、韓国SKonec「VR SQUARE」
「Zero Latency VR」対抗。東アジアで強みを活かす独自ハードとビジネス戦略
2017年3月5日 11:41
まだまだ黎明期にあるVRゲームの世界。よっぽどのエンスージアストでもなければ、ハイクオリティな体験を楽しむには各種AM施設等、いわゆるロケーションベースのサービスで提供されている各種VRアトラクションを利用するのが定番となってきている。
中でも最もハイエンドなシステムとして知られるのが、フリーローミングVRというジャンルだ。大きな物理的フィールドを自由に歩き回りながら、全身で仮想空間でのバトルやスリルを楽しむシステム。国内では、昨年夏に東京ジョイポリスでスタートした「Zero Latency VR」が有名だ。
そのAM施設向けハイエンドVRの市場に、韓国から新勢力が登場する。それが今回、GDC 2017のエキスポ会場で「VR SQUARE」というVRエンターテインメントシステムを披露したSKonecだ。
ソウルに拠点をおくSKonecは2002年に設立されたゲームデベロッパーで、任天堂プラットフォームやアーケードゲームを主戦場として多数のゲームを開発。2012年にはセガのアーケードゲーム「オペレーションゴースト」の開発も手がけたなど、3Dシューティングゲームの開発に豊富な経験を持つ会社だ。
VRゲームの開発は2014年から取り組んでおり、2016年には同社初のVR-FPSゲーム「Mortal Blitz」をGear VRにリリース。現在では同作のハイエンドバージョンをPS VRおよびSteamVR向けに開発中だ。そのノウハウを活かし、AM施設向けに高品質なVR体験を届るシステムというのが「VR SQUARE」となる。
5×7メートルのフィールドをフルに活用したバーチャル戦場体験
VR SQUAREは、標準で5×7メートルのプレイエリアをフルに活用した体感型のVRコンテツが楽しめるシステムだ。プレーヤーはバックパック型のPCを背負い、手にはライフル型コントローラーを装備してフィールドに立つ。HMDを通して見えるのは、VR SQUARE向けに拡張された「Mortal Blitz」の世界。SFとホラーがないまぜになった、緊張感あふれる戦場が目の前に広がる。
そこは半壊した研究所のような施設。そこかしこで火の手があがり、壁面や床が崩壊していく危険な環境だ。奥の部屋からは4足歩行のエイリアンたちが次々に現われ、プレーヤーに襲いかかる。それらの攻撃を実際に動いてかわしたり、銃を使って反撃しながら、ダイナミックに状況が変化する施設内を奥深くへと探索していく。
会場で体験できたバージョンはやや小型化されていて、5×5メートルのスペースとなっていたものの、コンテンツ内ではより広大なスペースを感じることができた。というのも、プレーヤーを誘導するための通路の形やエレベーターの接続などVR空間内の立体構造がよく練られていて、ゲームのシーケンスに従って移動しているうちに実際以上に長い距離を動いたかのような感覚を得られるようになっているからだ。本人は前に前に進んでいるつもりでも、外から見るとプレイスペース内をぐるぐる動いているように見えるはずだ。
これだけ動き回るだけに世界への熱中度も高まるが、VR酔いに影響するトラッキングの精度や遅延はZero Latency VRよりも高い水準にあるように感じられた。およそ6分のプレイセッション中、ごくまれにガンコントローラーの位置がドリフトするようなことはあったため完璧ではないが、大半の場合において位置・角度の同期はおおよそ正確である。遅延はほぼ感じられないレベルで少なく、比較的安心してVR空間内を動き回ることができた。余計な光が入り込みやすいエキスポ会場内という条件下であったため、これがフルパフォーマンスであるかどうかはわからない。
総合的に見て、「VR SQUARE」は既存のフリーローミングVRシステムよりも0.5世代ほど進化したものだと言えそうだ。当初は一人プレイ用のコンテンツでスタートするというが、将来的にはマルチプレイへの対応も予定しているという。比較的小さなスペースでも導入という特性のため、極めて広大なスペースを必要とする「Zero Latency VR」とはまた別のカテゴリーのサービスとして併存していくことになるだろう。
日本、そして中国を睨む?「VR SQUARE」のクオリティを支える独自技術
本システムの特徴のひとつは、ハード・ソフトともに多くの面がSKonecの独自設計になっていることだ。各コンポーネントのレベルでは既製品をうまく利用しつつも、それをつなぎ合わせたシステム全体としてはSKonecの完全オリジナルになっているのだ。
例えばトラッキングシステムには、モーションキャプチャー向けのシステムであるOptiTrackの赤外線カメラを応用し、制御プログラムを独自構築することでプレーヤーやコントローラーの追跡を実現している。
ちなみに使用HMDは、会場のデモではOculus Riftであったが、本番環境ではHTC Viveを利用することになりそうだとのことである。その際には、トラッキングシステムをLighthouseに変更するといったアップデートもありえそうだ。
変更可能なコンポーネントもあるなかで、ハード面で換えの効かない中核となっているのが独自のバックパックPCだ。3キログラムほどの小さな筐体にGeForce GTX 980が実装されていて、非常に高品質のVRグラフィックスを高いフレームレートで描画可能。このスペックのおかげで、PC用の最新VRタイトルを容易に移植できるという強みも出てくる。
ちなみに「Zero Latency VR」のバックパックPCはGTX 960搭載のAlienware Alphaなので、スペック差はかなり大きい。SKonecでは近いうちにGTX 1070への更新も考えているとのことで、そうなればMSIのバックパックPC「VR ONE」とほぼ同等の性能ということになるのも面白い点だ。「VR ONE」用に作られたVRアトラクションも容易に並行活用できるはずだから、事業の幅が広がる。
であれば、独自に設計などせず、最初から「VR ONE」など既存のPCを使えばよかったのでないか? という疑問がわくのも当然である。その質問をぶつけたところ、SKonecのVRビジネス戦略VP、Jordhan Choi氏は「セキュリティ」を理由に挙げた。
「VR SQUARE」のバックパックPCは強固なセキュリティで守られ、分解したとしてもSKonecが開発したシステムやコンテンツがコピーできないようになっている。これにより、中国など不正コピーのリスクがあるような地域でも安心してビジネスが展開できる。逆にこれがなければ、トラッキングシステムからコンテツまで、ソフトウェア技術をまるごとコピーした海賊版サービスがそこらじゅうで展開してしまう恐れがあるというわけだ。そのために独自ハードを使う。さすがという感じである。
SKonecとしては「VR SQUARE」を使ったサービスを国境を超えて展開したいと考えており、各AM事業者と話を進めているところだそうである。まずは韓国国内を皮切りに、日本、中国、欧米へと展開していく構えだ。韓国や日本では具体的な計画も進んでいるという。また、自社コンテンツだけでなく、他社からのコンテンツも呼び込むことで、幅広い応用を進めていくという考えもあるようだ。
「VR SQUARE」はフリーローミングVRシステムの中でも専有面積が少なめであり、小型店舗への展開がしやすい。各地の事業者とうまくコラボレーションすることができれば、日本や韓国といった小型AM施設の多い地域でヒットが見込めるサービスになるだろう。中国でも都市部ではVRを使ったAM事業が立ち上がってきており、その市場で戦うために高セキュリティのハードを準備したというのも興味深い点である。いずれにしても私達としては、まずは日本上陸を待ちたいところだ。