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“現実の空”をゲーム内にまるごと再現した「Forza Horizon 3」の空表現
現実世界の様々な偶然がもたらす予期できない風景を見事に表現!
2017年3月5日 08:55
オープンワールドレーシングゲームという唯一無二の存在である「Forza Horizon」シリーズ。シリーズのファンならご存じのように、最新作「Forza Horizon 3」では、ゲームの舞台であるオーストラリアの風景を、自然環境や空模様、天候まで含めて見事に再現している。GDC 2017最終日に行なわれたセッション「Shoot for the Sky: The Ambitious HDR Time-Lapse Skies of FORZA HORIZON 3」では、「Forza Horizon 3」の空にフォーカスを当てた技術解説が行なわれた。
セッションスピーカーを務めたのは、Playground Gamesでリードライティングアーティストを務めるJamie Wood氏。この3月3日は米国もまたNintendo Switchの発売を迎え、Wood氏は、受講時の注意点を説明する際に、「Nintendo Switchの電源も切ってくれ」という最新のジョークで場を和ませていた。
ちなみに今回はセッションタイトルに“HDR”とあるため、Xbox初のHDR対応タイトルとして、HDRの実装に関するノウハウが公開されると思いきや、まったくそうではなかった。というのも、「Forza Horizon 3」では、前作「Forza Horizon 2」までの環境シミュレーションによって空と雲を再現する手法を辞め、完全に実写ベースに置き換えたためだ。そもそもの生データがHDR以上の情報を備えているため、HDRのノウハウも何も必要ないわけだ。
実写ベースの空表現の実現にあたっては、莫大なコストとリソース、人員が必要となり、大変な作業だったようだが、「クルマ」、「道路」、「空」の3要素のみで構成された「Forza Horizon」シリーズにおいて、絶大な効果があったという。
Wood氏はまず前作までの環境シミュレーションによる空表現のデモを紹介した。幾つかの雲パターンに、128段階のクラウドライティングを載せ、朝から昼、夕方、夜と時間の変化に合わせてライティングを変えながらゆっくりと動かしていく。今見てもまったく遜色のない美しさだ。
しかし、この環境シミュレーションは、あくまでシミュレーションであり、限られた表現しか行なえず、現実の空とも大きく異なっている。現実の空は、神の配剤のような劇的な風景をしばしば生みだし、とりわけ夕焼けの美しさは“マジックアワー”と呼ばれる。「Forza Horizon 3」が追求したのは、そういう現実世界の多様な表情を見せる空をゲーム内で再現することであり、開発の初期段階から実写ベースを採用することが確定した。
ちなみに実写ベースのもっともシンプルな実装方法は、録画した空の映像をそのままゲーム内でストリームすることだ。VRの映像コンテンツと同じように、この手法なら現実世界の空がそっくりそのまま実現できる。
しかしこの方法は早々に断念された。理由は、そもそもそのようなノウハウが社内に存在しなかったことに加え、ディスクスペースやメモリ容量、ストリームするための帯域の確保、インゲーム映像との整合性の確保など、物理的な制約に基づくものだ。かくして「Forza Horizon 3」における実写ベースの空表現は、複数のカメラを24時間連続で回して、大量の空データをタイムラプス撮影で大量に集め、それを取り込んでデータ化するという力業の手法が採られた。
撮影は、「Forza Horizon 2」リリース直後の2014年冬からスタートし、そのときはまた舞台が確定していなかったことと、テスト撮影の意味も込めて、Playground Gamesの本拠地である英国で撮影が行なわれた。
だだっぴろい平地に専用の雲台を取り付けた大型の三脚を据え付け、雲台には3台のキヤノン EOS-1D Xを設置。当時のハイエンドデジタル一眼レフカメラであり、カメラ機材だけで150万円以上掛けていることになる。そのほかにも24時間連続駆動させるためのバッテリー、256GBコンパクトフラッシュ、80TBのNAS、作業PCのSSDなども含めていくと、機材だけで凄まじいコストになる。このあたりはやはりXboxの看板を背負うフラッグシップタイトルらしい規模感と言える。
そうした努力を経て出来上がった空データは、まさに“美しい”の一言で、「Forza Horizon」シリーズは美しいだけでなく、自然で、リアリティのある空表現を手に入れた。
2015年夏からはあらためてオーストラリアで約一カ月かけて撮影を行なった。200万ショットを撮り、ゲームに実装されているオーストラリアらしい空模様や、天候の変化など、“リアルなオーストラリアの空”を完全に再現している。
実際に実写ベースの空を実装してみて、その効果は想像以上だったという。これまではアーティストの感覚に基づいた空表現で、現実の空とかけ離れてしまっていたり、限定的な内容しか表現できなかったが、誰が見ても真のオーストラリアの空を再現でき、とりわけ、様々な偶然が重なった結果、予期できないような空模様まで再現することができたのは大きな収穫だったという。
今回のセッションのタイムスケジュールでいえば、彼らはすでにどこかの国で「Forza Horizon 4」の空を撮影しているはずだが、予定通り行けば2018年に登場する次回作の空がさらにどのような進化を遂げるのか、今から楽しみだ。