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専用スタジオから、同好会の協力……「マフィア III」の乗り物の音の表現

多彩なシチュエーションを収録し、合成する。そのすごさに感嘆せよ!

2月27日~3月3日開催

会場:San Francisco Moscone Convention Center

 今回のGDC2017で特に楽しかったセッションの1つが「Vehicle Audio of 'Mafia III': Recreating a Classic Era in Automotive History」だ。オープンワールドのアクションゲームは、“乗り物のゲーム”といえるだろう。プレーヤーキャラクターは、車はもちろん、バイク、ボート、飛行機等々様々な乗り物に乗って広大な場所を駆け巡る。特に「マフィア III」は70年代の現在では気象になってしまった車が多数登場する。その“音”はいかに収録され、表現されたのだろうか?。

「マフィア III」のAudio Director、Matt Bauer氏
オーディオチームには、非常に高度な要求がなされた
様々な方法で収録方法を求めていった
専用スタジオでの収録。機材などはそろっているが、高価だ

 今回の講演は2K GamesのAudio Director、Matt Bauer氏が行なった。「マフィア III」には90以上の乗り物、40以上の武器、10以上のロケーション、4時間以上のムービーシーンなど、AAAタイトルならではのボリュームあふれる作品だ。そして乗り物の“音”としては、1968年という作品の時代に合ったもの、クラッシックなアメリカとヨーロッパの車、様々な大きさのボート、様々なバリエーションのトラックといった乗り物の音の収録が求められた。

 もちろん要求されるのは“リアル”だ。そしてハリウッド風のケレン味のあるアクション、雨などの天候、路面の状態といったことで変化する音、車によって異なる音、低速の時、高速の時、アクションの時で音が異なる。サウンドチームへの要求は、膨大で高度なものだった。それでいながら「安全に、迅速に」、「収録する機材や乗り物へのダメージは最小限」、「グレートなサウンドを録る」、「資料として写真やムービーも収録してほしい」といったことも求められるのである。

 どうやってこれらを満足させるのか? 開発チームは様々な手法をとった。アメリカではローカルな「クラッシックカーショー」が行なわれている。メーカーなどが行なうショーの他、古い車のオーナーなどが集まったりする同好会の集まりもとらえて、求める車のサウンドなどの資料を集めた。

 友人や同僚などのつても頼った。トラックサービスセンターで音の収録を許可してもらったし、同様にボートセンターにも声をかけた。そして「スーパーチャージャーファクトリー」である。特殊なエンジン音を収録させてくれる場所があるというのだ。収録チームはこのように音を集めていった。

 ただ漠然と収録するのではなく、チャレンジもした。限られた時間とコストで90以上の乗り物の音を録る。本物のエンジン音をできるだけ多くのバリエーションで収録する。レーシングゲームではなく、オープンワールドゲームであるので、高速時だけでなく、トロトロ走っていたり、様々なモノにぶつかったり、多彩な表情も表現したい。ゲームとしてサウンド方面に割り振れるCPU領域は多くない。そこでどこまで多彩な表現を実現できるか?

 エンジン音の収録に関してはプロとしてのスタジオと技術を持つDYNAPAK DYNOで収録した。走行中を再現できる装置を活用し、様々な位置からの収録を行なうことができた。理想的な収録場所といえるのだが、利用はやはり高コストであり、ホイールの異なったり、側面に排気管のあるような特殊な車両の収録はできないといった問題点もあるとBauer氏は指摘した。

 しかしここでは1日で3台、1台の車に40分から60分ほど効率的に収録ができたという。ただし、やはりクラッシックカーはエンジンをいたわらなくてはいけない。10分収録したら10分休ませるなど、収録には特に注意を払ったという。

 トラックの収録は1日に1台が限度。高度な技術を持ったドライバーが必要なうえ、トラックの巨大なエンジンが生む膨大な熱から収録機器をどう保護するかも難しかった。しかもターボを使うと、文字通りエンジンが火を噴くのだ。また収録時には忘れてしまいがちだが、通常時には頻発するブレーキ音や、荷物を搭載したときの音の変化などもきちんと収録することを忘れてはならないという。こういった苦労の甲斐もあり、ゲーム内では多彩なシチュエーションでのトラックの表現が可能となった。

 ボートは、実際に水の上でボートを走らせる収録を行なった。3日間で7種類のボートを収録し、ハイスピードから流されているだけの状態まで。エンジン音にとどまらず、ボートに当たる水の音まで丁寧に収録した。「とても楽しい日々だったねえ」とBauer氏はしみじみと語った。

 もう1つ、とても楽しかった、というのがプロスタントドライバーによる路面状態で変化するタイヤ音の収録だ。こちらもムービーで収録風景を見ることができたが、プロのドライバーによる効率的なドリフトテクニックはすごい迫力だ。収録時には、高級タイヤから安物のタイヤまで様々なタイヤを用意し、路面状態や、草の中を走る状態も収録したという。

 そしてこれらの音を組み合わせていく。エンジン音源はループで用意する。そしてエンジン音はきちんとステレオ収録をしているので、三人称視点と同じ、車を後ろから見ている雰囲気でのエンジン音も再現できている。自分の車だけでなく、すれ違う車や、追い抜いていく車のエンジン音の表現にも気を配っている。Bauer氏はゲーム中車がどれだけの音を出しているかを提示したが、まさにめまいがするほどの数だ。

 これらを見た上で、ゲーム内の風景が紹介された。追い抜いていく車、いろいろな道を、いろいろな車で走り、旧ターン、高速走行、ドリフト、さらには事故など多彩なシチュエーションが展開する。あらためて「マフィア III」のこだわりを痛感させられた。他のオープンワールドでもこういったことが行なわれているのだろう。改めて聞かされると、対策ゲームの力の入れ方には本当に圧倒される。我々は本当にすごいゲームを遊んでいるのである。

【Designing System Driven Dialogue in 'Mafia III'】
プロとしてのスタジオと技術を持つDYNAPAK DYNOでの収録
収録機材の紹介
苦労したトラックの収録
ボートの収録。今回写真が膨大になるため割愛しているが、この講演では多くの写真や、収録時のムービー、そして音を確認できるゲーム内ムービーと、とても見応えのある内容だった
様々な路面状態でのタイヤ音の収録
様々な路面状態でのタイヤ音の収録