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「スーパーマリオラン」のビジネスモデルは失敗だった。売上の変遷から見た任天堂のモバイルゲーム3タイトルの最新動向

2月27日~3月3日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

 GDCでは比較的新参ながら、今やすっかりお馴染みとなった古今東西のモバイルゲームをテーマにした「GDC Mobile Summit」。今年も初日から開催され、多くのモバイルゲーム関係者を集めていた。開幕では毎年恒例となっているキーノートが開催され、短時間で複数のスピーカーが入れ替わり立ち替わり、様々なテーマで、モバイルゲームの最新動向が紹介された。本稿ではその中で特に興味深かった任天堂のモバイルゲームについて紹介されたパートを取り上げたい。

Mobile Game DoctorオーナーのDave Rohrl氏

 任天堂パートのスピーカーを務めたのは、ゲーム開発のコンサルタントを手がけるMobile Game DoctorオーナーのDave Rohrl氏。

 Rohrl氏は、任天堂代表取締役社長の岩田聡氏の最後のキーノートスピーチとなった2011年のGDCから語り始め、当時の話題は「なぜ任天堂はモバイルゲームを出さないのか?」というものだったという。この裏には「出せば成功するのに!」というニュアンスが多分に含まれており、そのことは任天堂のビジネスとしても残念なことだったし、我々モバイルゲームファンにとっても残念なことだったと振り返る。

 ご存じのように、任天堂はそこからさらに3年以上にわたってモバイルゲームについてまったく興味関心を示さない日々が続く。状況が変わったのは2015年で、DeNAと業務提携を発表し、今後任天堂がDeNAの協力を得ながらモバイルゲームに本格参入していくことが発表され、多くのモバイルゲーマーが喜びに包まれた。

 そして2016年7月から現在までにかけてリリースされたのが、「ポケモンGO」、「スーパーマリオラン」、「ファイアーエムブレム ヒーローズ」の3タイトルとなる。

【2011年からこれまでの任天堂ファンの様子】

 「ポケモンGO」は「Ingress」を手がけたNianticが、「Ingress」の開発ノウハウを活かして生み出した位置情報ゲーム。北米開発ということで米国、カナダで先行ローンチされ、たちまち10億ドル(約1,120億円)の売上を達成して、社会現象を巻き起こした。

 売上ランキングでも実に3カ月に渡って1位を獲得しているという歴史的な大ヒットタイトルだ。現在はサービス開始から半年以上が経過して、さすがにサービス開始当初ほどの勢いはないものの、安定して10位前後に付けており、安定飛行に入ったと言える。

【ポケモンGO】

【売上ランキングの推移】

 「スーパーマリオラン」は、Niantic開発の「ポケモンGO」と異なり、任天堂とDeNAの共同開発ということで、従来の2Dクラシックスタイルに近いゲームデザインを踏襲した上で、コインを集めたり、集めたコインと引き換えに、王国を彩る建物が貰えたり、王国を拡張したりなど、ソーシャルゲーム的なエッセンスもふんだんに盛り込まれているところが特徴となっている。

 そしてこのゲームの決定的な特徴が「Free to Play」ではないことだ。最初の3ステージは無料でプレイできるが、その後のステージをプレイするためには9.99ドルを支払う必要がある。Rohrl氏は、「2016年のモバイルゲームシーンでは非常に珍しいケース」という。

 さらにスペシャルだったのは、Appleとのパートナーシップにより、1カ月に渡ってAppStoreのトップに掲載され、サービス開始日を予告した上で事前予約を受け付けるというプロモーションだ。このプロモーションは奏功し、1カ月に渡ってダウンロードランキングの1位を継続し、マリオファンを始め多くのゲームファンがアプリを購入した。

 「しかし」とRohrl氏は続け、1度購入すれば、後はお金を払う必要がないため、月日が経つ毎に売上が下がっていることだ。ユニークな点は、ダウンロードはそれほどおちてない点で、バイラルで多くのゲームに関心のある層がダウンロードはしているものの、「マリオ」ですら買わずに離れていく人が多いことだ。

【スーパーマリオラン】
クラシックな2Dスタイルのアクションゲーム
ソーシャルゲームのエッセンスを盛り込んでいる
ただし買い切り型
ダウンロード数は好調な数字を維持しているものの、売上は急速に下落しつつある

 最後の「ファイアーエムブレム ヒーローズ」は2月2日にローンチされたばかりのタイトル。任天堂とDeNAの協業タイトルとしては、もっともDeNAのノウハウが注ぎ込まれたタイトルということで、伝統的なガチャのビジネスモデルを大胆に取り入れ、小さなマップ、少数のユニットでPvEやPvPを高回転させる。その上で、定期的に多くの歴代の人気キャラクターたちをガチャで登場させ、売上に繋げていく。まさにDeNAの成功の方程式が詰め込まれたタイトルといえる。

 実際の売上ランキングについては、まだ日数が浅く、分析できるほどのデータではないものの、ガチャのビジネスモデルと、定期的なキャラクター追加により、「スーパーマリオラン」のような止めどのない右肩下がりではなく、徐々に下がってアップデートでまた上がるという、日本のモバイルゲームらしい波ができており、今のところ成長したといえる。

【ファイアーエムブレム ヒーローズ】
小マップ、少人数で、いつでもお手軽に繰り返し遊ぶというゲームデザイン
多くのキャラクターが存在し、それをガチャで手に入れるモデルを採用
売上ランキングの推移はまだ日数が短いものの、安定的なラインを描いている

 Rohrl氏は、この任天堂3タイトルのリサーチから導き出した学びは、「多くのメディアや業界人が予想したように、任天堂が持つクラシックゲームは、モバイルゲーマーに強力にリーチする。ただし、マリオやポケモンのような偉大なフランチャイズといえども、ビジネスモデルを誤ると持続的な成功は難しい」というシンプルかつ率直なものだった。今後も引き続き、任天堂に限らず、歴史のあるソフトハウスが保有するより多くのクラシックゲームが、モバイル環境で遊べるようになることを期待したいところだ。

【結論】
どんなに偉大なフランチャイズでも、モバイルゲームはビジネスモデルが大事というシンプルな結論となった