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「FFXIV」、コンセプトアート作成秘話を披露

エスティニアンからミンフィリアの脚の太さまで苦労話や笑えるエピソードを紹介

2月18日 開催(現地時間)

会場:Festhalle(フランクフルト)

吉田直樹氏と共に、リードコンセプトアーティストの茂木雄介氏が登場した

 スクウェア・エニックスは、プレイステーション 4/Windows/Mac用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)」のオフラインイベント「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2016-2017(以下、ファンフェス)」をドイツ、フランクフルトで開催している。

 初日には、基調講演に続いて、開発スタッフが裏話を語るトークセッション「開発パネル~The Art of Eorzea~」が開催された。ステージにはプロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏と、リードコンセプトアーティストの茂木雄介氏が登場。茂木氏と吉田氏のやり取りの中で生まれていった、様々なアートについて裏話を紹介した。

 茂木氏は、「サガ」チームで「アンリミテッド サガ」や「ロマンシング サガ -ミストレルソング-」、「ラスト レムナント」などの開発に携わったのち「FFXIV」チームへ参加した。「FF」シリーズに関わるのはこれが初めてで、関わっている人の多さに驚いてカルチャーショックを受けたという。

 モンスターやメカを得意としているという茂木氏は「FFXIV」でも「ビスマルク」や「オメガ」、「ラクシュミ」など蛮神やモンスターのコンセプトアートを手掛けている。だが、ほかにもこれまでのパッチでキービジュアルを手掛けるなど、キャラクターを描く仕事も増えている。

 コンセプトアートの仕事は、かなり初期の工程であるため、イメージの共有が重要になる。トークセッションでは、デザイナーや吉田氏からの発注が来たあと、どういった過程を経てイラストが完成していくのかを、いくつかの例とともに紹介した。

【茂木氏が手掛けたアートワーク】

蒼いエスティニアンに隠された秘密

パッチ3.3のキービジュアル

 まず最初に、パッチ「3.3」のイメージイラストに描かれたエスティニアンのイラスト制作秘話が紹介された。イラストには、左を向いた蒼の竜騎士姿のエスティニアンの横顔が描かれている。

 パッチ「3.3」は竜詩戦争のフィナーレを飾るパッチであり、物語的にエスティニアンの未来が決まるパッチだったため、吉田氏から「アートブック第2弾の表紙に描かれた光の戦士と対になるような構図にしてほしい」というオーダーがあり、構図についてのイメージ共有は早かったそうだ。

 ただし、吉田氏よれば、ニーズヘッグの目にとりつかれた赤い姿にするか、それとも蒼い鎧でいくかについては、かなり迷ったのだそうだ。最後に、本来の竜を狩る者に戻るという意味で、蒼でオーダーすることになった。

 ラフは1発で決まり、作業自体は約2日間とスムーズだった。通常の作業では、イメージをもとに複数のラフを作ることが多いため、かなり珍しいパターン。その後の作業は、詳細な線画を塗りつぶしつつ、そこからディティールを書き起こして完成に近づけていく。

 細かく描かれた線画が、一気に見えなくなるのを見て「この段階で塗りつぶしちゃうんだね」と吉田氏がもったいなさそうに言うと、茂木氏は「まあでもPhotoshopなのでレイヤーというものがありますから」と解説。

 ヘルメットに入っている無数の傷跡も吉田氏からのオーダー。蒼の竜騎士として、これまでひたすら竜を狩るためだけに生きてきたエスティニアンが、その鎧を脱ぐという対比を際立たせるために、「傷をめちゃくちゃに入れてくれ」とオーダーしたのだという。

【パッチ3.3キービジュアルの製作過程】
ゲームデザイナーからの発注例
今回のイラストは吉田氏から口頭で発注があった
アートブック表紙の光の戦士と対になるようなデザイン
緻密に描かれた線画
一度塗りつぶしたあと、色を重ねながらディティールを描き込んでいく
完成したイラストには、激戦の痕跡である傷跡があちこちにつけられている

 ここまでなら、非常にスムーズな仕事の例として終わる話だが、実はこの話には後日談がある。この発注の半年後、アートブック用の素材をもらいに吉田氏がふらりと現われた。「赤い鎧版のエスティニアンあったよね。没になったやつをちょうだい」と吉田氏は頼んだが、茂木氏からの回答はそんなものはないというもの。

 しかし吉田氏はあきらめず、「俺見たよ! 描けって言われれば、描けるくらい鮮明に覚えてるよ!」と強弁。茂木氏はすべてのフォルダを探したが、どこにも赤い鎧版のエスティニアンイラストは存在していなかった。その様子を見ていた隣の女性スタッフが「吉田さん大丈夫ですか、もう休んで!」と駆け寄ってくる事態になったらしい。吉田氏の勘違いなのだが、吉田氏の働き過ぎを心配してしまうというエピソードだった。

 また、複数のラフを出す例として、「紅蓮のリベレーター」の新ボス「オメガ」と「ラクシュミ」のコンセプトアートのラフ画が紹介された。オメガは、「ハイデリンの外側から突然変異のように来た得体の知れないもの」というオーダー。そんなイメージに最も近い、天空から降ってきているようなラフが、採用された。

 ラクシュミは、アニメチックなもの、リアル寄りなもの、「FF」っぽいイメージを重視したものという3つのラフが作られた。この中で、アニメ調は3Dモデルにしたときにあまりにイメージがずれるという理由で真っ先にボツになり、リアル寄りのものは、プレーヤーが出会う前からキャラクターのイメージが出来上がってしまうという理由で、最終的にあまり表情がはっきりしないイメージ的なラフが選ばれた。

【複数のラフから作られるイラストの例】
オメガは外宇宙から来た得体もの知れないものというイメージ
ラクシュミは、3Dモデルとの整合性やキャラクターイメージなどを考えつつ、表情を抑えたデザインが採用された

吉田氏がこだわったのは“ミンフィリアの脚”だった

パッチ3.2のキービジュアル。生足を出したミンフィリアのイラスト

 次はパッチ3.2のキービジュアルとして使われた、ハイデリンの鎖に囚われたミンフィリアのイラストについて、意外過ぎる争点が判明した。茂木氏はあまりキャラクターを描いたことがなく、重要な登場人物であるミンフィリアにはかなり気を使ったという。何度もリテイクが来ることを覚悟していたが、作画までの工程はスムーズに進んだ。

 だが、もうほとんど完成という段階になって問題が発生した。吉田氏に見せに行くと、「ミンフィリアの脚の太さってどうなのかな? もっとない?」とオーダーが来た。茂木氏は、直されるなら顔かなと思っていたので、脚というオーダーに驚いた。

 吉田氏によれば、イラストはコンセプト通りによく描けていた。だが、「ミンフィリアの脚ってもっとボリューミーじゃなかったっけ?」と感じてしまったらしい。

 茂木氏は御大のこだわりを受けて、半日を費やし、3パターンのバリエーションを製作した。そして吉田氏に見せに行くと「ん~、僕の性癖公開みたいになるから、茂木さん決めていいよ」と言われてしまった。

 吉田氏としては、たくさん描いてもらったものを見比べているうちに、結局自分の好みだけになってしまうことに危機感を感じて、アーティストのセンスで選んでもらおうと思ったのだが、そういう言い方では、今度は茂木氏が自分の性癖を公開するような意味合いに取れてしまう。結局、一番無難な中間の太さで決着がついたそうだ。

【ミンフィリアの脚バリエーション】
3つの太さでバリエーションが作られ、最終的に無難な中間が採用された

没だと分かっているイラストを完成させる理由

 次は「紅蓮のリベレーター」で登場する、ガレマール帝国の新将軍ゼノスのデザイン。吉田氏からのオーダーは、「冷静」、「長髪」、「刀をたくさん持っている」というシンプルな3つのリクエストのみ。

 初期段階のラフでは、後ろに張り出したドレスのような形状の鎧を着ていた。しかし、モデルチームと話をしたところ、デザイン通りに制作することが難しいとわかり、気に入っていたデザインではあったが、茂木氏が自らボツにした。

 2つめのデザインは、金属質でかなりメカメカしい。茂木氏はこのころ「タイタンフォール」や「コール・オブ・デューティ」で遊んでおり、「少しメカが描きたくなっちゃったんです」という気持ちでデザインした。吉田氏はこのデザインがあまり気に入らなかったが、実は茂木氏自身も「ないな」という気持ちだったのだそうだ。

 これはだめだと思っていても、それを一度形にすることで昇華して、イメージの中から消すことが重要で、そのために完成させることもあるのだそうだ。

 最終的には、布と金属感が適度に融合した形に落ち着いている。帝国将軍の証であるガンブレードについては、ゼノスは刀を使うことが決まっていたため、たくさんの刀とともに使える巨大なリボルバーがデザインされた。

【ゼノスのデザイン案】
最初に吉田氏からは外見に関するイメージが提示された
茂木氏自身は気に入っていたが、モデリングで再現することが難しいため没にしたデザイン
没になることは分かっていたが、イメージを消すためにあえて完成させたメカっぽいデザイン
最終的な決定稿

侍、モンク、白魔道士、機工士のジョブ専用装備製作秘話も

 侍のジョブ専用装備デザインも茂木氏が手掛けている。侍は発表こそ赤魔道士の次だったが、開発が始まったのはずっと早かった。侍のデザインについては「色ってかなり迷うんですが、キーカラーについて吉田さんがハッキリしたイメージを持っていたので、そこは楽でした」と茂木氏。

 「紅蓮のリベレーター」はタイトルにも、赤魔道士と侍のジョブ専用装備にも赤色が使われており、キーカラーになっている。吉田氏は「同じ赤でも、侍は朱色というのは早く決まりました。赤魔道士については、どのくらいビビッドな赤にするかで、何種類もバリエーションを作ってもらいました」と語っていた。

 侍は居合抜きを使うので、鞘を常に持っているというというところがポイントになっている。モデルチームと協議して、アイデアを出しているという。

 シネマチックトレーラーにも出てくるモンクのジョブ専用装備は、3種類のラフから1種類が選ばれた。これはかなりスムーズにいったラッキーな例だそうだ。白魔道士は、多くの意見と、モデルチームとの協議で決定した。

 機工士は、最初に没稿が紹介された。没になった理由は、装備が個性的で複雑すぎ、キャラが立ちすぎているため。この後、2~3のアイデアを経て、決定稿が作られた。だがこの後、モデルを実際のゲーム内で色調整する段階で、デザイン画とはカラーが変わっているそうだ。「どの色に決まったかは、楽しみに待っていてください」と吉田氏が語っていた。

【ジョブ専用装備のコンセプトデザイン】
同じキーカラーの赤を使っていても、色味の違う侍と赤魔道士。侍には朱色が使われ、赤魔道士はもっとビビッドな赤色が使われている
侍の刀には必ず鞘が付いており、それを踏まえてデザインされている
侍と赤魔道士のモーグリ装備や「4.0」の新装備デザイン
モンクと白魔道士のラフ案
機工士の没バージョン
機工士の決定稿。ただし本物の装備は、ここからカラーに変更が入っている