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「野望を抱け!」、襟川陽一氏自身の歴史と信条を語る
マイコンからスタート、経営者としての信条と取り組み
2016年8月26日 17:32
CEDEC 2016の3日目には、コーエーテクモホールディングス代表取締役社長襟川陽一氏によるセッション「ゲームの未来」が行なわれた。襟川氏は“シブサワコウ”の名で、「信長の野望」をはじめとした歴史シミュレーションゲームというジャンルを切り開いた人物だ。「CEDEC AWARDS 2016」の特別賞も受賞した。
セッションでは襟川氏がゲームクリエイターとして活躍するきっかけや、コーエーの戦略、プロデューサーとしての想いや、クリエーターへの提言などが語られた。
「創造と貢献」こそが、コーエーテクモの基本理念
襟川氏は栃木県足利市の染料問屋の長男として生まれた。いずれは3代目として父親の家業を継ぐということを期待されていたという。襟川氏は学生時代は学生運動を見ながらクラブ活動のジャズブラスバンドにのめり込み、レコードも出したという。現在も襟川氏はバンドを続けている。バンドはゲーム開発と似ていて、それぞれのパートが全力を尽くすことで、パフォーマンスを発揮するというのが襟川氏の持論だという。
襟川氏は大学を卒業して商社に勤める。家業を継ぐための“修行”のつもりだったが、5年ほどで家に呼び戻されてしまう。染料問屋である実家は、繊維業が外国に押され立ちゆかなくなっていた。襟川氏は会社の状態を見て、会社を整理することに決めたという。その後もう1度1から仕事を立て直すべく進めていくがうまくいかず、その時に「マイコン」という雑誌に出会った。コンピューターという新しい機械に魅力を感じるものの高価すぎて買えないと思っていたところ、奥さんがへそくりで誕生日にプレゼントしてくれたという。
襟川氏はコンピューターで会社経営のための様々なプログラムを組んでいく。そして仕事が終わると趣味でゲームプログラムを組んでいた。そして作った戦闘をテーマにした思考型ゲームを「マイコン」に通信販売用に広告を出し売り出したところ、段ボールで数箱分の現金書留が届く人気を得た。自分でパッケージを作り、プログラムをカセットテープにダビングし、出荷していくような規模の仕事だったが、電話や手紙からユーザーの声が届けられ、襟川氏はその声に応えゲームを作っていく楽しさを実感した。その時の感動が、ゲーム会社“光栄(現:コーエーテクモゲームス)”をスタートさせる。
ゲーム業界は大きく成長していく。その中で光栄は、様々な歴史シミュレーション、さらに経営シミュレーション、競馬シミュレーション、女性向け恋愛シミュレーションといったジャンルにも挑戦していく。さらに多数の敵を相手にする「無双シリーズ」、「ガンダム」や「ワンピース」などのIPとのコラボレーションを行なっている。光栄もコーエー、そしてコーエーテクモゲームスと名前を変え、様々な事業を広げていく。
コーエーテクモの基本理念は「創造と貢献」。新しい価値観を創造することで社会に貢献していくことを目標とする。染料問屋だった前の会社がうまくいかなくなったのは「同じものをずっと作っていたから」。独自のもの、今までにないものを作っていく、その姿勢が会社の中心だと襟川氏は語った。
そして襟川氏はコーエーテクモの幅広い展開を紹介した。新しいIPを創造し、様々なプラットフォームで展開。ナンバリングタイトルでユーザーの声に応えた変化を提示しつつ、ゲームジャンルそのものも広げていく。さらに様々なIPとのコラボレーションタイトルを展開、アニメや映画、さらには食品など幅広いタイアップを行なっていく。新たなビジネスモデルや、新しいトレンドを捉えながら、より新しい面白さを提示していく。
コーエーテクモは「FOST」という科学技術融合振興財団を設立している。シミュレーションとゲーミングの研究助成を行ない様々なテーマへの出資を行なっている。また、「FOST賞」を設立することで研究者の応援もしているという。
次に襟川氏は自身のプロデューサーとしての姿勢を語った。「ゲームを作ること」が好きで、これに一生懸命打ち込んできた。「戦闘だけでなく、運用や、経営も考えたい」という想いでシミュレーションを作ったのは、会社を経営した実体験から生まれた。実体験がゲーム作りへのアイディアとなったという。実際の経験こそがアイディアの源だというのが、襟川氏の経験則だ。
そして「部下は同志」というのが襟川氏のスタンス。品質、納期、コストはしっかり管理し、品質を最重要にする。コラボタイトルは本当にコラボ元が好きなスタッフによってチームを編成する。重要事項への決断をする際は、本質を考えつつ、多面的、長期的に考える。理想を追いつつも現実的に意思決定を行なう。プロデューサーは経営者であり、予算をかけ、確実に利益を生む。そのことをきちんと考えることが重要だと会場の開発者に語りかけた。良いゲームを作るのは当たり前で、その上で利益を生み出さなくてはいけないというのが、襟川氏の考え方だ。そして襟川氏は「幸せな家庭を築く」ということを自身の信条として強調した。
最後に襟川氏は開発者に向かって「野望を抱け」とエールを送った。野望は分不相応な、大それた望みだが、できれば経営者、プロデューサーになって欲しいという。ちなみに襟川氏の現在の野望は「スマートフォン向けタイトルでヒット作を作りたい」とのことだ。