インタビュー

未来のゲーミングデバイスに科学の力と情熱を!

Logitech、ゲーミング部門新GM Ujesh Desai氏インタビュー

1月収録



ロジクール本社

Logitech VP/GM Gaming, Ujesh Desai氏

 マウス、キーボード、ヘッドセット。オフィス向けからゲーミング用まで幅広いPC用プリフェラルを扱う大手メーカーLogitech(日本国内の商号はロジクール)。ゲーマーの皆さんには「Logicool G」シリーズのゲーミンググレード製品群がおなじみだろう。この度、そのトップが来日した。スローガンに“Science Wins”を掲げるゲーミングデバイスの哲学や、ゲームそのものの将来についてのあれこれを聞くことができた。

 お話を伺ったのは2014年末にLogitechゲーム部門のゼネラルマネージャーに就任したUjesh Desai氏。Desai氏はNVIDIAで長らくGeForceブランドを手がけてきた人物だが、プリフェラル畑からは縁遠いと思えるNVIDIAと、プリフェラル業界の代表格であるLogicoolの間には驚くほど似た部分があるという。

 「League of Legendの大会を見るために来日した」というほどのゲーム好きでもあるDesai氏が掲げる、ゲーミングデバイスへの科学と情熱のアプローチ。そのあたりを軸に広がっていったインタビューの模様をお届けしよう。

今年のLogicool Gシリーズ、Science Wins”に“情熱”を加える!

ゼネラルマネージャーのUjesh Desai氏(左)、ビジネスディレクターのVincent Tucker氏(中央)、エンジニアリング部門のPeter Mah氏(右)同席でのインタビューとなった
ゲーミングブランドLogicool Gの公式サイト。e-Sports向けを強く謳っている
独自設計という「Romer-G」メカニカルスイッチ。「G910 RGB」に搭載
昨年12月に発売されたばかりの「G910 RGB」。現行の最高級キーボードだ

──まず、Logitechゲーミング部門のゼネラルマネージャーに就任した経緯を聞かせてください。

Ujesh Desai氏:Logitechに入る前は、13年半ほどNVIDIAにいました。NVIDIAではGeForceのゼネラルマネージャーをやっていまして、退職前はマーケティング部門全体を統括していました。昨年の夏にNVIDIAを離れ、しばらく家族と過ごしたあと、ゲーミングに関わる何か新しいことをやりたいなと思い、10月からLogitechでの仕事を始めたという経緯です。

──ゲーミングに関する仕事は非常に幅広いものがあると思うのですが、特にLogitechを選んだのはなぜでしょう?

Desai氏:Logitechのチームに出会って話をはじめたとき、この会社はすごくNVIDIAに似ているな、と思ったんですよ。NVIDIAはGPUメーカーとしてゲーミングに関してとても情熱を持っていて、それに対して科学とエンジニアリングの方法でアプローチしていますよね。そこがキャリアの中で最高の経験に繋がる部分だったわけですが、Logitechのヘッドクォーターと話をしたときに、同様のアプローチをとっていることに気が付きました。

 マウスボタンをクリックして画面にフィードバックされるまでの遅延であるとか、持ち心地など、ゲーム体験を改良するためのいろいろな要素がありますが、そこに科学とエンジニアリングの方法をとっていくという点で、LogitechはNVIDIAとよく似ている会社だったんです。自分にとって歴代最高のマウスがMX518だった、ということも理由にあったかもしれませんが(笑)。とにかく、NVIDIAからLogitechに移ることは私にとって非常に自然な流れでした。

──Desaiさんが就任する1年半ほど前、「Logicool G」というゲーミングブランドがローンチしましたね。そこでのスローガンは「Science Wins」、ズバリ“科学でもってゲームに勝利する”というものですが、この路線は継承していくということですか。

Desai氏:はい、ただし、ひとつだけ小さな変更を加えます。新たなスローガンは「Game with Passion, Win with Science」です。本当に何かをうまくなるためには、人はそれを心から愛さねばなりません。そして私達のチームはゲーミングに対して本当に強い情熱と愛情を持っています。それを皆さんに伝えたいと思って、既存のスローガンに「Game with Passion」を加えました。それにゲーマーの皆さんにもっとダイレクトに伝わる言葉を頭に入れたかった、ということもあります。

──NVIDIAでのキャリアが長いこともあり、テクノロジーについて強い関心をお持ちだと思います。マウスやキーボードにおいても、今後さらに新しい技術を付け加える余地はあるとお考えですか?

Desai氏:もちろんです。例えばこの「Romer-G」メカニカルキーを見てください。これまでLogicool GのキーボードではCherry茶軸と青軸を使用していました。もちろんCherryは非常に素晴らしいスイッチなのですが、20年前にデザインされたものです。そこで私達の開発チームが、新しいスイッチを作らねばならないと。そこで1からゲーミングのためにデザインされたのがこのスイッチです。あるいはマウスについても、クリック感の向上や各ボタンの配置の工夫、様々な面でまだまだゲーマーのためにできることはあると思います。

──ゲーミングデバイスの業界にはRazerやSteelSeries、その他のライバルも存在するわけですが、その中でLogicoolのいちばんの強みというのは何でしょうか?

Desai氏:エンジニアリングの質の高さであると思います。初めてスイスと台湾のエンジニアリングオフィスを見た時、私自身も本当に驚きました。ひとつのスイッチ、ひとつのコンポーネントにどれだけこだわりを持って開発されているかということです。私達はもともとマウスを発明し、発展させてきたという歴史があります。そういったものが基盤となって、他社には真似のできないレベルのエンジニアリングを実現していると自負しています。

e-Sports選手のフィードバックをもとに、全ジャンルで新製品を準備中!

世界最速を謳うオプティカルセンサーを搭載したFPS向け「G402」
形状に工夫、MOBA向けとして華々しくデビューした「G302」
個人的には「Hearthstone: Heroes of Warcraft」にハマっているというDesai氏、小ぶりで扱い易い「G302」がお気に入りのよう

──さて、Logicool Gブランドの製品は1年で1世代に近いペースで製品が発表されていますね。昨年は第2世代にあたるG302、G402、G502などが発売されましたが、今年はG303、G403、G503といった新製品が期待できるんでしょうか?

Desai氏:新しいプロダクトについての具体的なお話はできませんが、現在、全ジャンルでエキサイティングなたくさんの新製品を準備中です。昨年はセンサーのスピードや持ち心地の良さといった面で大きな進化を遂げていましたが、今年はもっと大きな違いを提供できると思います。各製品はゲーマーの皆さんが直面している問題を改善する、それぞれに異なるキーポイントを持つものになりますよ。

──たとえば昨年の「G402」では、高速追従センサーを軸にFPSゲーマーの要望に特化していましたね。各製品でそういった、それぞれの色を出していく路線は変わらないということですか。

Desai氏:そのとおりです。

──同じく昨年の「G302」はMOBA向けを謳う初めてのゲーミングマウスとなりました。日本でもMOBA系タイトルは盛り上がってきていて、今年は「League of Legend」のセミプロリーグも拡大(関連記事)しています。いわゆるe-Sports的なものが盛り上がってきていますが、そのあたりはどう見ていますか?

Desai氏:実際、私達はe-Sportsにフォーカスしています。例えばフィジカルスポーツにおけるナイキのように、トップアスリートのために、一緒になってより良い製品を開発していくということです。私達は実際、製品開発のためにe-Sportsのトップアスリートの協力を受けていまして、例えば「LoL」ならCloud9のようなチームのメンバーから、マウスの形状やボタンの感触など様々な点についてフィードバックを得ました。

 そしてそのフィードバックの結果、「G302」をもっと良くするために2カ月の開発延長が行なわれたんですよ、それだけ発売を遅らせることにもなりましたが(笑)。私達はそれほどe-Sportsとの関係を重視しています。日本においても「LoL」のリーグがさらに大規模に開幕すると聞き、駆けつけました。これから観戦するのをとても楽しみにしています。

──Logicoolのブランド全体で見ると、ゲーミングデバイス製品はマウスだけではなく、ハンドルコントローラーやフライトスティックもありましたよね。PCゲーマーとして、そういった分野でも「Science Wins」が得られると嬉しいと思うのですが、Logicool Gブランドとしてそのあたりの拡充は今後どうでしょうか?

Desai氏:言葉ではお答えできませんので、私の笑顔をお見せします(笑)。期待していてください。いや、実際この質問はよく聞かれるんですが、まだ話せないんですよ(笑)。

──シム系のデバイスの話題に関連して、今年はVRゲーミングが花開きそうな雰囲気が出てきていますよね。VRの分野に関して、Logicool Gとして何らかの関心はありますか?

Desai氏:もちろんVRについては大いに関心をもっています。偉大な先駆者であるOculusやSCEが素晴らしい仕事をしていますから、私達自身で新しいHMDを作ろうとは思っていませんけどね。しかしVRは私達にとっても究極的に重要だと考えていまして、相当な研究開発のリソースを割いています。VRに関心のある他の会社と話もしていて、彼らが何を必要としていて、私達が何をできるかを模索しているところです。

 いずれにしても、今の段階では具体的にお話できることはありません。逆に、皆さんから、VRの分野において私達に何を期待しているかお聞きしたいところです。

──フォースフィードバック方式のマウスとか、グローブとか、感触を伝えられるデバイスですかね。

Desai氏:なるほど。もし本当に何か作ることになったら、コードネームに“カフジ”と名づけましょう(笑)。

──光栄です(笑)。

Logicool Gシリーズ、“Science Wins”に情熱を加えるDesai流

現状、モバイル向けゲームコントローラーのラインナップは薄い
近い将来、“ゲーマー”という呼び方はなくなる!というDesai氏
次のキーワードとなる“パーソナライズ”。モバイル用アクセサリの分野では幅広い選択肢があるが、この考え方をゲーミングデバイスにも?

──話は変わって、発展の著しいモバイルの分野はどう捉えていますか?例えばLogicoolのゲームコントローラーはPC向けばかりですが、今後モバイル向けにサポートを拡充していくのは必然なようにも思えるのですが。

Desai氏:良い質問ですね。私達としてもモバイルゲーミングの市場が急拡大していることは大変重視しています。まだ具体的なことはお話できませんが、PC向けの製品と同様に、モバイル向けの素晴らしい製品をそう遠くないうちにお見せできることになるかと思います。ちなみに現状、既製のワイヤレスコントローラー「F710」をモバイルで使っている方も一部いるようですよ。

──VRゲーミングの台頭や、モバイルの急速な進化を踏まえると、今後コンピューターゲームの世界にはまた大きな変化が来たるべくしているような雰囲気があります。Desaiさんは将来のゲーミングをどのように予想しますか?

Desai氏:少し前まで“ゲーマー”というと、黒尽くめの格好で、真っ黒なコンピューターを持って、暗い地下室にこもってゲームをしているようなイメージがありましたね。ところが今ではスマホやタブレットを使って、老いも若きも、どこでもいろんなゲームを遊ぶようになっています。誰もが“ゲーマー”なんです。

 その先、さらに将来は、ゲームをすることはテレビを見ることと同レベルの普通のことになるでしょう。いま、テレビを見てる人を“TVer”とは言いませんよね(笑)。映画を見る人を“Movier”とも言いません。それと同じで、ゲームをする人を“Gamer”とは言わなくなると思います。

 そしてそれは、Logitechのようなゲーミングのプリフェラルを扱う企業にとってとても素敵なことです。やがてゲーミングは世界のあまねく場所、あるいは宇宙船の中まで広がっていくかもしれませんよね。ゲーミングがさらに大きな市場になっていく。それは素晴らしいことです。

──そんな未来予想の中で、Logitechの製品はどうあるべきだと思いますか?

Desai氏:どれだけパーソナライズできるか、ということです。例えばスマホというのはいつも肌身離さず持つものですから、その素材や大きさ、肌触り、といったものを個人に合わせてカスタマイズしたいですよね。そういったところで私達にできることがまだまだあるのではないかと考えています。

──Logitechは世界的規模でビジネスを展開していますが、その中で日本市場の特殊性、みたいなものは感じていますか?

Desai氏:そうですね。明らかに日本では、製品に求める水準が他の地域とは異なる部分があります。もちろんそれは私の故郷であるインドでも違いますし、ブラジルでも文化的な違いがあります。すべての国がそれぞれに違うので、常にその理解に努めています。現在は世界全体で共通の製品を出していますが、もしビジネスの規模やその他の条件が許すなら、各地の特殊性に合わせた製品を出せるようになれればと思っています。

 特に日本は、高品質な製品を受け入れてもらいやすい文化的背景があると見ています。私は個人的に日産のインフィニティを運転していますが、日本製品のエンジニアリング、デザイン、職人性は究極に高品質ですしね。そのことが、私達のエンジニアリングが生きてくるところだと考えています。

──最後に、日本のユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

Desai氏:可能な限り、皆さんに愛されるような製品を作り続けていきたいと願っています。皆さんから寄せられるフィードバックは製品を改善するため本当に助けになりますので、ぜひご意見をお寄せいただければ幸いです。私達はゲーミングに熱い情熱を持っていますし、ゲーマーの皆さんが常にベストな製品を求めていることも理解していますので、ぜひよろしくお願いします。

──ありがとうございました。

(佐藤カフジ)