インタビュー

なぜ、交通系電子マネー決済システムをゲーセンに導入したのか?

タイトー大和一彦副社長に聞く、電子マネーによるアーケードゲームの未来

11月27日 収録

タイトーの直営店に導入されたマルチ電子マネー端末

 10月22日、タイトーは業界初の試みとして同社の「タイトーステーション」をはじめとした直営ゲームセンターにて、SuicaやPASMOなど9種類の交通系電子マネーを使用してゲームが遊べるシステムを導入したことを発表した。11月時点で23店舗でマルチ電子マネー端末を導入し、さらに2016年3月までに44店舗での導入を目指すとしている。

 本サイトの読者であればおそらくほとんどの人がご存知かと思うが、アーケードゲーム機は主として100円玉を機械に投入するコインオペレーション方式によって運営されている。このやり方は、かつて同社が日本初の国産ビデオゲーム「エレポン」を発売した1973年からおよそ40年間、現在に至るまでまったく変わっていない。良く言えば100円玉で手軽に遊べる娯楽であり、悪く言えば旧態依然とした商売を今なお続けているのがゲーセンすなわちアミューズメント業界である。

 実は数年前から、業界各社でプリペイドカードや電子マネー、あるいはICコインなどの決済システムを用いた実験が行なわれているが、いまだに業界全体のスタンダードな運営方法にはなっていない。また、業界は2006年をピークに年々市場規模が減少の一途をたどり、店舗数や新作タイトルのリリースも減り続けているのが現状だ。

 そんな厳しい状況下にあって、なぜタイトーは交通系電子マネーシステムの導入に踏み切ったのだろうか。今回、幸運にも担当責任者のお話を伺うことができたので、その模様をお伝えしよう。導入の経緯や意図、あるいは本システムが市場活性化の切り札となり得るのか? かつてゲームセンターの店長をしていた経験を持つ筆者なりにいろいろと尋ねてみたので、ぜひご一読いただきたい。

利用者の声をヒントに電子マネー決済を実現

インタビューに答えていただいたタイトーの代表取締役副社長 大和一彦氏

――本日はお忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。早速ですが、電子マネーによる決済システムをなぜ導入しようと考えたのか、そのきっかけから教えていただけますか?

大和氏:答えは極めてシンプルで、弊社の店にいらっしゃったお客様から「どうして電子マネーが使えないの?」というご意見をいただいたからです。すでに世の中では電子マネーが当たり前に使われていますし、なぜゲームセンターでは使えないのかとお客様に言われてハッとしましたね。それならば、もしウチの店でも使えるようになればきっと便利だろうなと思って導入することに決めました。

――大事なお客様からのご要望とあれば、それは検討しないわけにはいかないですよね。

大和氏:国の統計データを見ても電子マネーの使用率はどんどん上がってきています。ですが、当初はこの業界で電子マネーを導入するのは厳しいだろうなと思っていました。1プレイ100円のワンコインビジネスを今まで何十年間も続けてきましたし、これを変えようと思ったら正直たいへんだろうなと……。

 今、私が申し上げた、“たいへん”という言葉にはふたつの意味があるんです。まずひとつ目は機能的な面でたいへんであるということ、ふたつ目は遊ぶ側であるお客様にも遊び方や感覚を変えていただかなければならないということですね。ですから、初めのうちは逡巡していたところが正直ありました。

――確かに、客の立場から考えれば「今までずっと100円玉で遊べたのに、何で電子マネーになったの?」などと初めのうちは思うかもしれません。

大和氏:世間では電子マネーの使用率が上がってきていますし、今ではなくて将来を見据えると、これはアミューズメント業界も同じ流れに絶対なるだろうし、世の中の流れには逆らえないなと思いましたね。今後もアミューズメント施設事業を続けていくのであれば、電子マネーシステムはもはやインフラであり、このビジネスをするうえでは電子マネー決済のシステムが導入されていなければ、お客様にやはりご不便をおかけしてしまうなあと。じゃあ真剣に取り組みましょうということで、3年前から準備をスタートしました。

――以前からタイトーさんでは、Edyやnanacoなどが使えるマルチ電子マネー端末(※)の導入を実現されていましたが、新たに交通系の電子マネーにも対応させるべきだとお考えになったのはなぜですか?

※筆者補足:同社では2015年2月に、タイトーステーションアリオ蘇我店へ導入したのが最初である。

大和氏:やはり、交通系はカードの数が全然違いますからね。弊社としてもぜひやりたいということで、JRさんなどにお願いして今回実現することができました。

――交通系電子マネーに対応したタイミングに合わせて、山手線の広告をジャックしたりテレビCMも流すなど、プロモーションにかなり力を入れているようですね。まさにタイトーさんの全社的な一大プロジェクトであるという印象を受けました。

大和氏:まさしくそのとおりですよ。私の考えでは、今後3年から5年先の結果は電子マネーシステムの成否で決まるだろうと、もうそのぐらいの気持ちで取り組みました。現在の業界はたいへん厳しいとみなさんよく言われますよね? ですが、お客様からの電子マネーを使いたいという声が強かったということは、我々が電子マネーによって利便性を向上させ、企業側が努力してご要望を満たしてあげることによってお客様に来ていただく、あるいはより多くのゲームを楽しんでいただける余地がまだ残されているだろうと思ったんです。これがシステム導入を決断したひとつの大きな要因ですね。

 今後の事業展開にあたっては、ただ機械を入れるだけとか、あるいは目先の変わった施設を作るだけとかではなくて、決済機能も変えていくことによって、この事業の発展性にまだまだ賭けることができるというのが考え方のベースとしてあったというわけです。

タイトーステーション新宿南口店の様子。あらゆるゲーム機に電子マネー決済ができるマルチ端末システムが導入されている

対応開始からおよそ1カ月で早くも効果が!

――交通系電子マネーに対応したことによって、お店の売上に何か変化などは出ていますか?

大和氏:現時点では、まだ導入したばかりですので仮説の域を出ないお話となりますが、狙いはズバリ当たりまして客単価がアップしています。今まで長年にわたり、店での客単価をなかなか上げることができなかったのですが、多い所では2ケタ以上の上昇率になったというデータも出ていますね。ただし、現在はキャンペーン期間の最中(※)ですので、これからキャンペーンが終わって通常ベースに戻ったときにどうなるかで、最終的には冷静に判断しなければと思っております。今のところは相当に喜んでいただけてるという感触、実感はありますよ。

筆者補足:同社では交通系電子マネーの導入を開始したことを記念して、電子マネーを利用してゲームをプレイすると最大50%オフになるキャンペーンを10月26日〜11月30日まで対象店舗にて開催した。

――私もゲーセン店長時代、客単価を上げようと思っても全然できなくて困った経験がありますから、その嬉しいお気持ちはよくわかります。たいていのゲーセンでは、客が千円札を100円玉に両替して遊び始めてから、手元の100円玉がなくなったらハイもうおしまい、というパターンが多いので客単価は千円前後でずっと動かないんですよね……。

大和氏:今回ようやくそこを突き崩せたのではないかなと思っています。しかも、お客様が利便性が上がったことで喜んでいただいているわけですからなおさらです。

――今から5年前、2010年にタイトーステーション渋谷店などで1プレイ120円のビデオゲーム機を稼働させたり、10円玉の両替機を設置したオペレーションの実験をしていたかと記憶しております。これは消費税率アップによる売上の目減り対策という意図があったかと思いますが、今回の電子マネーの導入にも同じような意図があったということなのでしょうか?

大和氏:いいえ。今回のところは、そのような考えは一切ありません。業績がいい悪いとか、会社の売上がどうこうということでもなく、あくまでインフラとして考えたからこそ実現できたんです。売上の話だけに固執してしまうと社内決裁がなかなか通らないですし(笑)。

――単なる売上や利益確保の対策ではなかったんですね!

大和氏:はい。料金設定だけでなく、楽しさも含めてお客様にご納得いただく1番の意義、それは電子マネーの普及させることであり、これは世の中の大きな必然の流れでもう逆らえません。お客様とのインターフェイスが存在する企業である以上、会社としてきちっとインフラはそろえましょうという考え方が、導入を実現するためのベースとなっているんですね。

 私も当初は、電子マネーなんて使うのは何だか怖いな、使いにくいだろうなと思ってしばらくの間ずっと使っていなかったんですよ。駅の自動改札機だって、以前は10台あったとしたらそのうち8台は切符用で、残り2台がICカード対応だったのが、それが今は逆転しているじゃないですか。それと同じこと、世の中の流れとまったく同じことが、今度はアミューズメント業界にもいずれ絶対に起きるだろうと思ったわけです。今はまだ100円単位で1プレイというやり方を続けていますが、いずれは交通系の電子マネーと同じような現象が起きるだろうなと。

――インフラとして実現させたものが、さらに売上もついてきたとなればありがたいお話ですよね。

大和氏:はい。導入の結果としてお客様の利便性が上がるとともに、連続してプレイしてくださるようになったことで売上もついてきた、ということなんですね。先程ご指摘のあった、1プレイ120円でのオペレーションがうまくいかなかったのはある意味当然なんですよ。なぜかと言いますと、それは企業の論理だけで一方的に値上げを実施したからです。ヨットとかゴルフとか、そういう単価の高いビジネスの世界であれば別でしょうけど、ゲームの世界では5円、10円の違いがお客様にとってはたいへんなインパクトになるんです。ですから、いきなり企業だけの論理でバーンと20パーセントも値上げをしたところで、そこにお客様がご納得いただける根拠が何もなければ、やはりうまくはいかないということですね。

――ゲームのジャンルによって、電子マネーの利用率に何か違いなどはありますか?

大和氏:新作が出るとそこに人気が集中したりするので一概には言えませんが、弊社の店舗ではプライズゲームの売上が全体の5割を超えていますから、やはりプライズゲームでの割合が高いです。プライズゲームに関しては、今後も間違いなく高くなると思いますよ。実際、既にそういうデータも出てきています。

各筐体への設置が進んでいる

実は店舗側にも、電子マネー導入による意外なメリットが!?

――実は以前、その120円ゲーム機を設置していた時代のお店を取材したことがあるのですが、大量の10円玉を持ち歩きながら遊ぶのは手間だな、というのが率直な印象でした……。

大和氏:そうでしょう? さらに店舗側では、ゲーム機のキャッシュボックス内に100円玉と10円玉と2種類が同時に入っちゃうという問題も発生するんです。

――私も現場時代に実感しましたが、金種が1種類増えるだけでも集金や両替金を作る手間が結構増えるんですよね。

大和氏:そうそう。お客様からもご満足いただけないし、企業としても工程が増えてしまって余計に仕事がたいへんになるようでは長続きするはずがありません。でも、今回の電子マネーに関してはもうまったく違いますよ。集金の手間が省けることで、お客様も店側もお互いに利便性が上がりますので、私の中では成功の可能性はかなり高い事業ではないかと思っています。

――10月から交通系電子マネーの導入記念キャンペーンを実施されましたが、もちろんこれはシステムを導入したことを世間一般に周知させることが目的ですよね?

大和氏:仰るとおりです。実は、本キャンペーンにはもうひとつの狙いがありまして、幹部クラスも含めた現場スタッフ、つまりアミューズメント事業を手掛けている会社のメンバーに対して、この業界のビジネスそのものが一般の小売業と同じになったんだと認識してほしいという意図もあったんです。電子マネーでの決済が可能になったことで、プレイ料金は110円でも90円でも細かく料金設定ができるようになりました。世間的には、人気あるいは価値のある物は値段が上がり、逆に旬が過ぎたものは値下げされますよね? それとまったく同じ感覚を現場スタッフには身に着けてもらいたいんです。もう100円1プレイだけの時代じゃないんだよと。

――ナルホド! 確かに電子マネーシステムなら、料金設定もそれこそ1円単位でできますしね。

大和氏:例えば、先日稼働したばかりの「ディシディア ファイナルファンタジー」にしても、これは極論ですが料金は130円でも120円にしてもいいんですよ。まさに今が旬でたくさんのお客様に喜んでいただける、価値がある物だと認められているからこそ遊んでいただけるわけですから。せっかく何千万、何億もかけていい機械を開発したのに、1プレイ100円だけでしかできないというのであれば、それはもう無理がありますよね。逆に人気が下がった景品などは、これも100円だったのを95円や90円にすることだってできますし、利益もきちんと確保できるわけです。

いろいろ答えていただいた大和氏

――客だけでなく、オペレーター側にも寄与するものがあるということですね。

大和氏:まさにそうです。その場でパッと思いついた瞬間に、料金の変更を決断して実行できるようなったわけですから、一般の小売業と同じ価格戦略の感覚を身に着けないと電子マネーを導入した本当の意味が生きてきません。オペレーションのシステム、ビジネスモデルが根底から劇的に変わりますから、その感性をまずは身に着けてほしい。だからこそ、あれだけのキャンペーンをやらせていただいたというわけなんです。

――先程、集金のお話をさせていただきましたが、電子マネーの導入によって現場スタッフの負担軽減や業務効率化にもつながっているのでしょうか?

大和氏:もちろんです。普段から現場の人間とよく会って話をしていますが、地域差は若干ありますけど電子マネーの利用率が想定以上に高いという報告を受けていまして、実際に集金するとビックリするそうですよ。キャッシュボックスに現金があまり入っていないから何だか不安になるって(笑)。

――わかります。現場で働いていると、集金時にキャッシュボックスを持った瞬間にズシリとした手ごたえがないと反射的にがっかりしますからね。

大和氏:電子マネーの導入によって、硬貨の集計という作業に関してはかなり軽減されました。いずれは集金作業をする回数が今まで週に1回だったのが月に1回で済む可能性もありますし、電子マネーの利用がもっと進めば店であらかじめ用意する両替金の量も減らせるようになるかもしれません。もしそうなれば、会社としてその分有効に使えるキャッシュが増えるメリットがあるんです。

 さらに、現場ではお客様を見て営業をする時間がその分だけ増えますから、また売上アップにもつながる可能性も大きくなるでしょう。ローコストオペレーションになり、なおかつ営業に力をより注げるようになるわけですから。電子マネーによって、今までとは全然違うスピード感で採算性もアップするという可能性が、理屈としては見えてくるんです。

――ところで、あのマルチ電子マネー端末ですが、設置の際には少なからずコストがかかるかと思います。設置コストが高過ぎて、採算性に支障をきたすようなことはありませんか?

大和氏:いえ、あれは償却ができますから一括で支払うコストにはならないので大丈夫ですよ。1台ごとの単発ではなく会社のシステムとして導入したものですから、オフィスにコンピューターのシステムを入れるのとまったく同じで、会計上の資産として十分に償却の対象にできますから。

――電子マネー決済になると、今まではいわゆる日銭で売上が入ったのが1カ月遅れで売上が振り込まれる形に変わりますよね。そうなると、キャッシュフローの面で何かデメリットがあったりはしませんか?

大和氏:弊社のように、タイトーという会社全体で見た場合には特に問題ないですよ。振り込まれるタイミングがズレることによる負担など特別な影響はありません。フランチャイズ店さんについてはまた別の話になりますが、こちらのほうにも電子マネー決済システムのご紹介をすることはいずれやっていこうかなとは思っています。

――では、タイトーさんのフランチャイズ店だけでなく、もし例えば地方のオペレーターから電子マネー決済システムを使いたいというオーダーがあった場合は、そのインフラを提供するお考えなどはありますか?

大和氏:もちろん、ご要望があれば検討させていただきますよ。業界全体がよくなるに越したことはないですからね。

将来の展望:電子マネーを利用した新ビジネスモデルは生まれるのか?

11月19日〜20日に登場した秋葉原の「駅ナカゲーセン」の様子。プライズゲームを3台稼働させていた

――先月、タイトーさんでは期間限定で秋葉原駅に「駅ナカゲーセン」を設置するイベントをされていましたよね。利用者の反応はいかがしたか?

大和氏:お陰様で、想定した以上のすごい反応がありました。私などの感覚では、駅の構内なんてただもう通り過ぎるだけでしかない、秋葉原駅であれば電車を降りたら電気街へ買い物に真っ直ぐ向かうだけだと思っいていたのですが、あれだけの順番待ちの列ができたということは、将来のビジネスチャンスを示してくれているのではないかと思いました。

――先ほど広報の方にお聞きしたら、2日間でおよそ3,300人が「駅ナカゲーセン」で遊ばれたそうです。風営法に引っかからなければという制約こそありますが、今後も駅ナカは有望であると?

大和氏:ええ。今後も駅ナカはビジネスとしては楽しみな場所だと思いますよ。

――すると、例えば次回はICOCAが使える「駅ナカゲーセン」を関西方面に設置するというお考えもあると?

大和氏:それは状況を見て検討しますが、普及をどうするかというのは重要なポイントですので、今後も認知度向上のためのアクションをしばらくは欠かすことができないと思っております。弊社の社長からも、山手線でアドトレインに乗っていたら女子高生が「ゲーセンでも電子マネーが使えるんだ!」と、言っていたと聞きましたし、やった価値があったよなと喜んでいました(笑)。

――リリースによると、来年3月までに45店舗で交通系電子マネーが使えるようになるそうですね。今後、タイトーさんでは電子マネー決済を全店舗に導入する計画なのでしょうか。

大和氏:それは地域や形態、客層にごとに効果があるかどうかを見極めたうえでというお話になりますね。無駄な投資になっては意味がありませんから。すでに現段階で主な大きな規模の店舗には全部導入しましたから、あとは効果をきっちりと検証しつつ、ケースバイケースで進めていければと思っております。

――それでは最後の質問です。今後、電子マネーを利用した新たな事業展開や新サービスを実施する予定などがありましらぜひお聞かせください。

大和氏:これから検討したいのは、電子マネー決済ができることを利用したうえでのアミューズメント施設の開発です。電子マネーさえ使えればキャッシュボックスはもう不要ですし、いちいち集金に行かなくても済むわけですから、今までは商売ができなかった場所でもどんどん設置できるようになるでしょう。

 もうひとつは、電子マネーの特性を生かしたゲームそのものの開発です。例えば、ひとつ先へ進むにはそこで50円課金ですよとか、あるいは50円じゃなくて10円でも110円にも設定できますし、要はスマホ用ゲームといっしょですが、そのようなゲームの開発も今後は必要になってくるでしょう。それから、今やろうとしているのは電子マネー決済専用のゲーム機の開発です。こちらは近々試験的に導入をする予定で、準備を現在進めております。これからも業態をどんどん変えたりして、タイトーとしていろいろなことにトライしていきますので、どうぞご期待ください。

――どうもありがとうございました。

(鴫原盛之)