インタビュー
日本発VRを世界へ!VR配信プラットフォーム「ImagineVR」CEOインタビュー
海外展開を熱烈支援。DLsite.comとの提携でワールドワイドのニッチを狙い撃つ!
(2015/11/11 00:00)
2016年には本格的に消費者市場が立ち上がると期待されるVR(Virtual Reality=仮想現実)ゲーミングの世界。Oculus Rift、HTC ViveといったPC用のプレミアムなVRシステムが発売されれば、次に必要となるのはコンテンツだ。
そのVRコンテンツの配信について、とあるサービスが既にβテストを開始していることをご存知だろうか。それはVR専門のコンテンツ配信プラットフォーム「ImagineVR」だ。
ImagineVRは2015年頭に活動をスタートしたばかりのスタートアップ企業だ。Oculus Store、Steamといった大手によるコンテンツ配信プラットフォームに比べれば、その存在はあまりにも小さい。それに加えて、いま世界を見渡すと、VRに特化したサービスで急成長を狙うスタートアップ企業はゴマンと存在している。……のだが、それでもImagineVRは、日本のゲームユーザーにとって興味深い存在だ。
その理由は、ImagineVRが他のどの配信プラットフォームとも違い、日本のインディー・同人系のコンテンツに特化した配信プラットフォームとなることを事業目標に掲げているからだ。その第一歩が、国内最大級の同人系コンテンツ販売プラットフォーム「DLsite.com」との業務提携となる。
同人文化とVR。一見、およそ交わることのなさそうな2つのもの。ImagineVRはこの2つをつなげて、一体どんなサービスを立ち上げ、どんな存在になろうとしているのだろうか?ImagineVRを率いるCEO彩香・ハーン氏へのインタビューを交えつつ、そのユニークな目論見をご紹介していこう。
同人×VR。ローカライズを無料提供し、海外展開をめざすクリエイターの架け橋に
ImagineVRは、去る9月29日、配信プラットフォームのβテストを開始した。それに合わせて、国内最大級の同人系コンテンツ販売プラットフォームである「DLsite.com」との業務提携を発表。それを通じ、ImagineVRは日本国内のインディー・同人系のVRコンテンツを国内・海外で配信するための特化型コンテンツプラットフォームを目指すということが明らかになっている。
PC向けのVRコンテンツ界隈ではOculus Store、Steamといった大手のコンテンツ配信プラットフォームが支配的な存在になることが見込まれているが、ImagineVRがやろうとしているのは、もっとニッチ(しかしグローバルな)なVRマーケットの立ち上げである。
VR時代のゲームコンテンツは、CCP Gamesの「EVE Valkyrie」のように従来型のゲームの迫力や臨場感を極端に高める方向性のものもあれば、バンダイナムコエンターテイメント・TEKKEN PROJECTチームによるPlayStation VR向け技術デモ「サマーレッスン」のように、VRならではの、バーチャルキャラクターとのミニマルでパーソナルな体験を追求するコンテンツもあり、その双方が大きな魅力を持っている。
和洋で比べてみると、日本はバーチャルキャラクター文化の分厚さや多様性において圧倒的だ。世界中に薄く広くファンが存在しているし、VR技術との相性も非常に良い。そして、そういったコンテンツの苗床として、自主出版・自主流通が基本の同人市場は欠くべからざる重要な存在だ。漫画・ラノベ・アニメ・ゲームといった広きに渡る国内の同人市場は、2014年時点で700億円規模と言われ、持続的な成長を続けており、その界隈からプロのクリエイターも大勢誕生してきている。今後はその界隈からVR向けのコンテンツも多数でてくることだろう。
ImagineVRがコンテンツ配信のソリューションを持ち込もうとしているのは、まさにこの部分だ。ほぼ日本でしか製作されていない種類のコンテンツを、VRをテコにして世界へ広げようとしているのだ。
ハーン氏:弊社はミッションステートメントとして“Supporting VR Creators to go Global”、VRクリエイターのグローバル活動を支えることを掲げています。単なる配信プラットフォームというよりは、VRのクリエイターさんたちが世界で活躍するためのサポートを提供するところに力を入れたいという考えです。
このようなマインドを軸に、ImagineVRが掲げる主要業務は2本の柱で構成されている。柱の1つはVRコンテンツ配信プラットフォームの運営。もう1つの柱は、コンテンツの和洋双方向のローカライズだ。
ImagineVRは国内のコンテンツを海外に、海外のコンテンツを国内に、それぞれ配信するプラットフォームとなるが、その際に必要となるコンテンツのローカライズは、なんと無料で行なうという。つまり、例えば国内のクリエイターが国内向けに作った日本語ベースのVRコンテンツをImagineVRを通じて海外に配信したい場合、英語版の製作はImagineVRがタダで請け負う、ということだ。
ハーン氏:VRコンテンツは言語にあまり依存しないものが多いですし、いまは規模も小さいものが多いので、コンテンツのローカライズは無料で提供していくつもりでいます。テキストの多いコンテンツ等が出てきたときには別途お話させていただくことになるかもしれませんが、ImagineVRでは主にインディーをターゲットにしていますので、ローカライズをサービスとして提供することでクリエイターさんの背中を押したい、という気持ちが第一にあります。
確かに同人サークルやインディースタジオレベルの小規模なデベロッパーにとって、他言語へのローカライズは海外展開を考える上での大きな壁のひとつだ。実際、日本のユニークなコンテンツの英語版を作ってSteamで販売するというだけのビジネスで成功を収めているパブリッシャーも実在するほどお金の動く分野でもある。ImagineVRはそこを無料で提供しようというのだ。そのかわり、ImagineVRではコンテンツの販売金額に応じたリベニューシェアをビジネスモデルの根幹に据えているという。
ハーン氏:ImagineVRでは有料のプレミアムコンテンツのみを配信します。基本はペイ・パー・ダウンロードで、コンテンツデベロッパーさんとリベニューシェアをしていく形です。
またImagineVRでは配信システムそのものにも強みがある。非常に強力な、と自画自賛するDRM(※デジタル著作権管理)システムを持っており、Steam等と同様に不正コピーによる利用をブロックできる点だ。
ハーン氏:ImagineVRというプラットフォーム自体は現在のところウェブページベースのストアなのですが、Steamなどと同じように、コンテンツのインストールとプレイには専用クライアントを通じて行なう方式になっています。その背後で、非常に破られにくいDRM(※デジタル著作権管理)システムが動いています。
これは既存の同人系コンテンツの販売プラットフォームにはない特徴で、コンテンツの制作者にとっては非常にありがたい部分だ。ImagineVRのDRMはコンテンツデータの暗号化と起動時認証による復号化の仕組みをとっていて、ImagineVRクライアントを通じて起動しないかぎりローカルにおかれたコンテンツは利用できない。ゆえにユーザーはImagineVRのクライアントを通じてシステムへのログインが必要となるが、このあたりはSteamやOriginといった、一般的なPCゲームの配信プラットフォームなどと同様の仕組みだ。
これまで不正コピーによる被害に悩まされてきた同人クリエイターや、国内の小規模~中堅のPCゲームメーカーにとって、ImagineVRは救世主になるかもしれない。
ImagineVRでは日本発のVRコンテンツが主役。成人向けも主眼に?
ゲームコンテンツ配信プラットフォーム最大手であるSteamでは近年、インディ作品の幅・数ともに非常に充実してきており、日本の同人クリエイターにとっても、海外市場に打って出る際には重要なコンテンツの展開先となっている。そこでは、日本の同人・インディー発の作品の海外向け展開ビジネスを手掛けるパブリッシャー、PLAYISMの果たした役割が大きい。
ImagineVRも同人発のコンテンツやインディー作品をメインに据える点ではPLAYISM等のパブリッシャーとかぶる部分がありそうだ。その上でImagineVRならではの差別化点は何か?と問われたハーン氏は、DLsite.comとの提携を最大の秘策として語っている。
ハーン氏:DLsite.comは、秋葉原にある株式会社エイシスが運営している二次元系コンテツに特化したダウンロード販売サイトで、いま70万人の登録ユーザーがいて、これは日本最大級です。業態としてはDMM.comにも似ているんですが、すべて二次元のコンテンツで、同人がメインというのが特徴ですね。VRでいま1番盛り上がっているのはインディーなので、その界隈のクリエイターさんたちがグローバルに展開していくサポートを主眼に置いています。
DLsite.comは10月、VR特化型のストアサービス「DLsiteVR」をアナウンスした。今冬オープン予定とされるこのストアのユニークな点は、“2次元VRゲーム専門のストア”を掲げている点だ。いまでもDLsite.comには2次元(アニメ風)キャラをメインにしたゲーム、ビジュアルノベル、イラスト集、動画、3Dモデルなどのコンテンツが溢れかえっているが、そのVR版というわけだ。ImagineVRでは、それらDLsiteVRに登録されるVR作品の海外展開を主要ビジネスにしていく。
ハーン氏:DLsiteVRに登録されるコンテンツについては、なるべく海外向けのローカライズを行なって、海外展開をサポートしていきたいと思っています。まだまだ販売できるレベルのコンテンツを作っている日本発のデベロッパーさんは少ないのですが、積極的に海外配信を進めていきたいと考えています。
DLsite.comは成人向けコンテンツも扱っている販売サイトだ。当然ながらImagineVRも、成人向けVRコンテンツの配信を視野に入れている。視野に入れているというより、成人向けコンテンツの取り扱いはImagineVRが他の配信プラットフォームに対して持つ、最大の差別化要因のひとつといえる。
ハーン氏:ImagineVRは全年齢向けに加えて“18禁もあります”という位置づけになります。DLsiteさんやDMMさんと全く同じで、全年齢向けの入り口と、成人向けの入り口を別に用意してゾーニングを行なう形ですね。やはり同人・アダルトといったところを掘り下げていかないと、Oculus StoreやSteamといったものと充分に差別化できないという考えはあります。日本で同人というと、イコールでアダルティなところにつながっている部分もありますので(笑)。割合としては半々にしていきたいですね。
成人向けのVRコンテンツについての話題になると、ハーン氏は照れ笑いを浮かべながらも饒舌になる。面白いのは、“アダルトVRは社会貢献でもある”という持論をハーン氏が強く持っていることだ。ハーン氏は、“老齢者にアダルトVRを見せた反応をまとめたYouTubeビデオ”を具体例として挙げながら、このように語っている。
ハーン氏:やっぱり、性というのは人間の3大欲求のひとつですよね。しかしお年寄りになるとそれが満たされなくて、フラストレーションが溜まってしまうという方も少なからず居ると思うんですね。今の社会にはそういった窮屈さがありますが、そういった方もVRの世界でアクティブになれるというのは、非常に嬉しいことだと思うんです(笑)。道徳に反するものは扱いませんが、そうでないものはImagineVRで抵抗なく扱っていきたいと考えています。
実際の配信コンテンツについてはDLsiteVRに登録されたものののうち、海外展開を望むクリエイターの作品がメインになるというが、それ以外のチャンネルも用意しているようだ。ハーン氏は今回来日した際に国内のコンテンツクリエイターを多々訪問し、その中で3Dアダルトゲームの専門メーカーであるイリュージョンにも訪問。イリュージョンはVR向けのコンテンツ展開にも注力していることで知られるが、日本国内のVR市場単独ではまだ小さいため、VR向けの展開については最初から海外市場への展開を視野に入れたほうが実現性が高い、というビジョンを共有したという。
ハーン氏:例えばOculus Rift DK2の出荷数ですが、北米とヨーロッパで70%くらいを占めているんですね。アジアは15%くらいです。やはり持っている人がいるところが市場ですので、そのマーケットに販売しないかぎりマネタイズというのは難しいかなという印象を持っています。日本発のコンテンツはかなり面白いものが多いので、そういったコンテンツを北米・ヨーロッパの分厚いマーケットに販売するお手伝いをして、日本発のVRコンテンツをプロモーションしていければと思います。
2015年現在、VRゲーム市場はまだ存在すらしていない。存在しない市場へのコミットメントについて、ハーン氏は“確かにチャレンジングですね”と笑う。VRゲーム市場開拓というチャレンジ、日本発VRコンテンツの海外展開というチャレンジ、海外VRコンテンツの国内向け展開というチャレンジと、ImagineVRの目論見はチャレンジづくしだ。
ImagineVRは独特の配信プラットフォーマーとして、大手プラットフォーマーには埋められないVR市場のニッチを埋める。世界中にひろがる、巨大なニッチだ。そこで主役になるのは間違いなく、日本の同人・インディー畑のクリエイターたち。ハーン氏はインタビューの最後に、国内のVRクリエイターに向けてメッセージを送った。
ハーン氏:専用クライアントやDRMなどの基本の技術は揃いましたので、まずはコンテンツを増やしていくところからですね。DLsite.comさんとのコラボレーションで日本のコンテンツを海外にもっていくことはどんどんやっていきたいですし、海外のVRクリエイターにもどんどん声がけをして、日本語化した作品を揃えていきたいと思っています。そのためにローカライズ、プロモーション、カスタマーサポート、共同開発といった各種サービスをどんどん整えていますので、少しでも海外展開にご関心のあるVRクリエイターの皆さんは、ぜひDLsite.comさん、もしくは私たちにお問い合わせをください。そこから何か新しいコラボレーションが生まれると思います。