インタビュー

iOS/Android「ロックマン クロスオーバー」開発者座談会

若手が主体の風通しのいい開発体制が、好循環を生む

若手が主体の風通しのいい開発体制が、好循環を生む

――先ほど少し話題が出ましたが、ゆくゆくは海外(北米、ヨーロッパ)での配信も視野に入れていますか?

松浦氏:今はまだ、タイミングを伺ってまして、なんとも言えない状態です。戦略上の問題もあるのですが、まずは日本で「ロックマン クロスオーバー」の火を高めることが先決だと考えています。僕としては、まずは日本のほうを充実させたい。ダウンロード数は、6月9日の時点で111万人で、すでに今日(※6月21日)時点で120万を超えてます。ひとまず、そこまで多くの方に認知していただいてるゲームになってるのは、ホッと一安心というか、すごくありがたいことですね。

ウッチー氏:スマートフォンは機種に依存しないというか、どの本体でも遊べるじゃないですか。そういう意味では、「ロックマンXO」は今までの「ロックマン」とは違うのですが、当然ながらこれが初めての「ロックマン」という方もいらっしゃいます。そういう方々には、これをきっかけにして、過去の「ロックマン」も知っていただけるとうれしいですね。そういう作りになっているのが、「ロックマンXO」の大きなポイントだと思います。

――ユーザー層の年齢分布はどのような感じですか?

松浦氏:かなり広いですよ。10代後半から、40代前半の男性までがメインと言える層です。20代と30代も当然多いんですが、初代「ロックマン」から「流星のロックマン」までと、各シリーズで遊んでいたユーザーさんが興味をもって遊んで頂いている印象です。

ウッチー氏:広いですよね。25年ですからねえ。小学生のお子さんでも、遊んでいる方はいらっしゃると思います。

――お話を伺っていますと、それぞれのメンバーがいい意味で刺激し合っている感じのプロジェクトに見えます。

松浦氏:若手が主体でやっているからかもしれませんね。あとは人数が少ないこともあって、フットワークが軽くて自由度が効くプロジェクトなんですよ。それぞれがいい意味で自由にできる体制になっていると思います。あとはまあ、僕があんまり口うるさく言わないということもあるかな。悪く言えば放任主義みたいな(笑)。でもそのぶん、デザインは水野、サウンドは青木と切り分けがきっちりできているのはいいところだと思います。

ウッチー氏:お2人はやりやすいですか?

青木氏&水野氏:はい!!

ウッチー氏:おお、即答ですね。

松浦氏:絶対ウソだな(笑)。

青木氏:めっちゃやりやすいですよ。めっちゃやりやすいです。大事なことなので2回言いましたよ。

水野氏:正直、助かってます!

――けっこう実感がこもってるじゃないですか(笑)。

青木氏:ポジティブなループがうまく回っている感じがします。「こうしたらいいんじゃないか」、「こうしたらもっとおもしろいんじゃないか」って感じたことをすぐに実現できる環境なので、お互いにいい刺激になっていると思います。あれもダメ、これもダメってなると、だんだんチャレンジもできなくなっていきますからね。

松浦氏:曲にしてもデザインにしても、作る前にイメージなどはきちんと伝えている状態なので、スタッフを信頼して基本的に1発OKにはしていますね。今までの実績があるので、彼らが納得するものであれば僕としては全然OKですし、よほど「あれ?」っていうものでない限りは、僕はOKしてます。

――ちなみに、今回の座談会のように、各パートのスタッフが一堂に会する機会は多いのですか?

松浦氏:そんなことはないです。開発スタッフが大阪と東京にそれぞれいて離れているのでなかなか集まるチャンスはないですよ。でも離れていてもうまく連携できているのは、いいプロジェクトの証拠なのかなと思います。

ウッチー氏:いま大阪にいるお2人(青木氏、水野氏)は、普段は仲がいいんですか?

青木氏:えーと、それは、バラしていいんですか?(笑)

ウッチー氏:すごく仲がよかったんでしたっけ?

青木氏:いや、実は1時間ほど前に初めてお会いしました。

一同:(笑)。

松浦氏:まあ、サウンドとイラストってあまり直接やり取りする必要がほとんどないですし、各部門での調整などのやり取りは僕を介してやるので、別のパートの人間同士はあまり顔を合わせる機会はないと思います。僕自身、無駄な会議をあまりしたくないということもあります。

青木氏:でも、いっしょに仕事したことはあるんですよ。「We are ROCK-MEN!」というCDが過去に2枚出ているのですが、そのジャケットのイラストを水野さんに描いてもらいました。そのご挨拶に、僕が2年間ずっと行ってなかった。翌日に行けっていう話ですよね(笑)。

青木氏と水野氏が合作で制作したアレンジアルバム「We are ROCK-MEN!」「We are ROCK-MEN!2」

――タイミング逃しちゃうと、行きづらくなりますよね(笑)。

松浦氏:このプロジェクトの特徴としては、それぞれのスタッフが信頼感を持って集中できる環境になっているのが大きいと思います。普段はコミュニケーションを密に取らないといけないと言われたりもしますが、そこは信頼関係の厚さでカバーしているところがあります。

――少数精鋭の体制だからこそ、そういう形でやれているのもしれませんね。

松浦氏:会社や上司のプロジェクトに対しての理解が深くて、暖かく見守ってもらえているのが1番大きいですね。自由に好き勝手やらせてもらってます。だから、外から何か言われることも少ない。それが今回のプロジェクトでは良い形で各スタッフのやる気を最大限にあげて、各自が最善を尽くすというポジティブな流れになっているのかもしれません。

ウッチー氏:私は開発側ではなく、ユーザー側に近い立場にいますが、開発から離れた部分で、何らかの形で支援ができたらいいなと思ってやってます。「ロックマンXO」を遊んでいて感じることは、大型のアップデートなどとは違った細かい部分で、ちょっとした要望があればすぐに反映されることが多いことです。松浦にはそうしたユーザー目線での感想は伝えるようにはしていますし、ユーザーさんからいただいた意見も伝えています。結果的にそれがユーザーさんに返っていく部分でもあるので、風通しをよくするだけでも違うかな、と思います。だからというわけではないんですが、このプロジェクトに関しては要望等が反映されるスピードがすごく早いです。

青木氏:反映されるスピードは本当に早いですよね。1番驚いたのは、確かマスターボスの曲だったと思うんですが、作った翌日にはもうお客さんの元に届いていたことですね(笑)。

松浦氏:パッと聞いてみていい曲だったので、「すぐに入れないといけない」と思って。サーバーにデータが入ってるので、すぐにそういう差し替えが可能だったんですね。

2Dドット絵風に見せるための苦労……そして今後の展開は!?

――やはり、スピード感は大事な要素ですか?

松浦氏:非常に大事ですね。不具合は可能な限り早く対応しなきゃいけないですし、配信後の運営も細かくやらないといけません。ただ、「ロックマンXO」の運営に関しては、お客さんからかなり不満やお叱りを受けていますので、これは私の力不足もあって反省してます。ユーザー様の満足して頂ける運営体制を整えるのが最重要課題だと考えています。

ウッチー氏:たしかに家庭用ゲームは発売されたらそこで一区切りですけど、ソーシャルゲームであるとか、オンラインゲームは常に走り続けなければいけませんからね。ここで終わりという地点はないし、進化し続けていかなければならない。大変さもありますが、それによってどんどんよくなっていく実感もあります。そうしたゲームの変遷をユーザーさんと共有できるのが、既存の家庭用ゲームと大きく違うところですよね。今後も「ロックマンXO」がどうなっていくのかは個人的にも楽しみです。そのあたり、今お話できることはないですか?

松浦氏:今後については、既存のコンテンツの修正はもちろんですが、「ロックマン」と言えば定番の「ボスラッシュ」というものがあります。そこで、「ロックマン XO」でもボスラッシュコンテンツは入れていきたいと思っています。あと、チームバトルであるとか、ある程度結果がわかってしまうターン制バトルについては、どこかのタイミングで一新していきたいと思ってますね。

――そういった要素は、いつごろ実装されるのですか?

松浦氏:ボスラッシュについては、間もなくリリースできると思います。これはひとつの大きな追加のコンテンツの扱いで、期間限定のイベントのようなものではありません。それと、既存コンテンツの修正は随時していきますね。ユーザーさんが不満に思うことは細かく受け入れて、時間はかかろうとも絶対にいいものしていこうと思ってます。

――ある意味終わりがないですもんね。青木さんと水野さんは、これから「ロックマンXO」でチャレンジしていきたいことはありますか。

青木氏:これまでの楽曲については、古きよきゲームミュージック的なところにモダンな音が加わって、今の形ができています。そこを遵守したい気持ちと、1回外れてみたい気持ち。それらがせめぎあっている最中ですね。あとは音楽面から、「ロックマンXO」に入ってきてくれる人がひとりでも多くなるように貢献したいと思っています。「ロックマン」というシリーズ自体、音楽の人気が強くて、そこに支えられている部分が大きいと個人的には思っています。そうした枠の中にあって、「初代『ロックマン』も『X』も『エグゼ』も他のシリーズも名曲が多いけど、『ロックマンXO』もいいよね」って言われるようにすることが、重要な責務かなと思っています。

――実際に、曲が聞きたいからゲームをやることもありますからね。

青木氏:ただ、スマートフォンになると、音を聞かないでアプリを立ち上げる人がほとんどだと思うんですよ。それでも「『ロックマンXO』だけは何となくイヤホンつけちゃう」というふうになるのが理想ですね。

ウッチー氏:確かに。ぜひ音を聞きながら遊んでほしいですね。

――頃合を見て、ディスクにしてもらってもいいんじゃないですか。

松浦氏:ディスクについてはユーザーさんからの声が多く上がれば、実現に向けて動き出したいと思います。

水野氏:デザイン面としては、「新しいものに見せられることが1番なのかな」と思っています。もちろん懐かしさという要素も「おおっ」とは思ってもらえると思うんですが、新作感みたいなものは常に欲しいと思っています。その両立が、今の自分の課題です。

――そういえば1つ気になっていたのは、「ロックマンXO」のロゴについてです。カラーリングがこれまでのシリーズからガラリと変わっていますね。これは水野さんが担当されたのですか?

「ロックマンXO」のロゴ

水野氏:僕はチェックをやらせていただいたくらいです。ロゴはメインイラストと並べることが多いと思うのですが、メインイラストはロックマンばかりで全体的に青くなってしまいます。そこにいつもどおりの青いロゴが載ると、埋もれてしまうんですよね。そうならないために派手な赤や黄色を使っています。

松浦氏:新しい「ロックマン」でもあるし、「『ロックマン』で記憶に残る赤いロゴと言えば『ロックマンXO』だ」と言っていただけるように、あえて変えています。もう25年もやっていますし、「ここでちょっと冒険してもいいのかな」という話もありましたね。あとは、ゲームに登場するバトルメモリーのモチーフにもなっています。

ウッチー氏:なるほど。けっこう、挑戦的ではありますね。

松浦氏:モバイルタイトルという枠組みにはまらないように、これからもいろいろな挑戦を続けていきます。ただ、ロゴを赤にしてるからといって、決して「ロックマン」を違うものにしたいわけではありません。僕らとしては、「ロックマン」を今後続けていくためにも、IPの良さを知っていただくためにも、変えてみました。企画としても、シリーズ恒例のユーザーからのボス募集もすごく好評だったんで、番外編的に第2弾も募集しています。ぜひそちらもご参加ください。

「ロックマン2」以降、定例イベントとして開催されていたボス募集が「ロックマンXO」で復活! 第1弾ではアーケード筐体がモチーフの“アーケードマン”が採用された。1番上が投稿イラストで、その下はカプコンデザイナーによるイラスト。第2弾「日本全国ご当地ボスキャラクターコンテスト」も9月2日まで募集を受け付けている

――盛りだくさんですねえ。

松浦氏:たくさんあります。あとは6月28日にワールド8を追加しました。「ロックマン7」のワールドで、「ロックマン」のライバルの「フォルテ」がボスとして出てきます。あのドット絵にもすごくこだわりがあって、わざと原作に似せているんですよ。ほかには「X」ステージの「シグマ」も、スーパーファミコン版に似せています。イラストのかっこいい「シグマ」もあるんですが、そちらに合わせてドット絵を作成するとファンを裏切る形になるかな、ということで、原作に近いドットで再現しています。過去の資料を見比べて、絵のパターン数も再現していて、とてもこだわっています。それに、3Dのグラフィックスを2Dで表現していることも魅力ですね。ロックマン、ロックマンX世代にとっては、「2Dゲームのロックマンは神!」みたいなところがあって、神格化されている部分もあります。「あえてその2Dにしている」ところも熱いと思っています。

ウッチー氏:おもしろいですよね。ポリゴンで作られていたものが、2D風に落とし込まれている。そうしたドットの妙みたいなものも見られます。

――でも、この時代にドットを起こすのは逆に大変ではないですか?

松浦氏:やっぱり最初は担当しているドッターの経験値が貯まらず、クオリティの低いものが上がってきました。でも、回を重ねるごとにだいぶクオリティアップしています。ですが、苦労はやはり多いですよ。iPhoneもAndroidも機種が出るごとに解像度が高くなっていますので、今ではハイエンド機向けに2Dゲームを作ってるのと変わらないんですよね(笑)。原作のリソースデータをそのまま流用しているように見られることが多いですが、全部描き起こしてるんですよ。

当時のドット絵そのままの姿で登場するエアーマン。高解像度のスマートフォンに出すのは簡単そうに見えるが、その裏には並々ならぬ苦労があるようだ

――当時のままを流用したくても、解像度が足りないですものね。

松浦氏:そうなんです。スーパーファミコンやプレイステーションの素材を使っても、Retinaディスプレイの解像度にはまったく足りない(笑)。こちらで描き直ししてるので、苦労も多いです。

ウッチー氏:「25周年記念ワールド」という、8BITワールドがあるんですが、あれは本当に当時のままのドットだと思っていました。そのぐらい違和感がないんですが、そんな苦労があったんですね。すいません、「このワールド楽だろうな」って思ってました(笑)。

松浦氏:1パターンずつ全部新たに描いていますからね。あと各シリーズの「ロックマン」シリーズが全て同じハード、同じフレームレートで制作されていたら、描き直しでも同じパターン数でもっと楽に制作できるのですが、作品によってはフレームレートも異なってますから。アニメーションの描く枚数もかなり多くなって、反対に多すぎるアニメーションに関しては昔のゲームテイストを残しつつ削らないといけないので、結果時間も多くコストもかかってしまうんですよ。よくユーザーさんで「絵をそのまま流用するな」みたいに言われることもあるのですが、「そのまま使ってるんじゃないんですよ(涙)」と言いたいです(笑)。

――ここで言えましたね(笑)。

松浦氏:コンセプトとしては、3Dグラフィックスの「ロックマン」以外の作品について当時のテイストを再現することなので、そう見えていることは大成功なんですが、ちょっと複雑でもあります(笑)。決してこのプロジェクトは歩みを止めないので、今後も見守っていてください。1年後とか2年後には、まったく別のゲームになっているかもしれません。

ウッチー氏:可能性としてはありますよね。それが25年続いた「ロックマン」そのものだとも思います。ドット絵から始まって、ポリゴンになって、システムもゲーム性もどんどん変わっていく。今の時代はスマートフォンになっていますが、個人的には今後どういう風になっていくのかも楽しみですね。

松浦氏:今、僕として心残りなのは、ストーリーを用意していたのに、スケジュールなどの関係でなくなくカットしちゃっていることです。どういう形になるかはわかりませんけども、そのストーリーもいつか公開できたらいいですね。

――それはもったいないですね。

松浦氏:そうなんです。歴代の「ロックマン」たちと「OVER-1」の関わりなどもきちっと説明されているんですよ。ただ、あまりにも表現しすぎると押しつけになってしまいますから、そのさじ加減は気をつけないといけないですね。

――そういうものがあるならば、見たいという人も多いと思います。

松浦氏:ユーザーさんからの見たいと多くの要望があれば、すぐにでも! 「ロックマンXO」は、たまに「ストーリーないの?」って言われることもあるんですが、実は用意はしてあるんですよ。今はまだ歴代「ロックマン」達とは本格的に登場してないんですが、今後、初代「ロックマン」から各世代の「ロックマン」が出てくる予定なので、楽しみにしていてほしいです。

ウッチー氏:今、けっこうすごいことをさらっと言いましたね(笑)。

――しかも相当ボリュームもありそうですね。

松浦氏:いやいや、“クロスオーバー”って言ってるのに、歴代「ロックマン」が登場しないのは違和感があるでしょう。いろいろ事情があって。投入タイミングを見計らっている段階ですね。

――それでは最後にお一方ずつ、読者に向けてメッセージをいただけますか。

青木氏:いちコンポーザーとして、そしていちユーザーとして、今後も「ロックマンXO」を盛り上げたいと思っています。「ロックマンXO」ですでに遊んでいる方も、そうでない方も一緒に楽しんでいただければと思います。

水野氏:先ほど新しいアーマーのデザインが出るたびに、楽しみにしてくださっている人がいるとお聞きして、本当にうれしく思いました。ユーザーの方を裏切らないように今後もがんばっていきますので、よろしくお願いします。

ウッチー氏:私がやらせていただいている「ロックマン ユニティ」は、ユーザーさんとゲームを作っているカプコン側をつなぐ架け橋です。「ロックマンXO」は皆のモチベーション高く、少数精鋭で作っていることがいい結果につながってると思います。私としては、できるだけその熱量を自分の言葉で伝えることを1番大事に思っています。

 一方で、ブログを見てくださっているユーザーさんの声を開発に届けることも大事な仕事で、その意味ではブログを見てくださっている皆さんも、開発の一員だと思っています。これからもゲーム自体のサービスはずっと続きますので、楽しみながら参加していただいて、一緒に作り上げていただきたいと思っております。

松浦氏:「ロックマンXO」は2012年11月29日に配信されてから、もう半年以上経ちまして、だいぶ軌道には乗ってきたとは思います。ただ、こちらの至らぬ点もあり、お客様にはだいぶご迷惑をおかけしました。その声を正直に受け止めて、運営も含めて全力で改善していきたいと思ってますので、今後もロックマンを盛り上げるためにも「ロックマンXO」をよろしくお願いいたします。また、何か叱咤激励やご意見ご要望などのお声がありましたら、メッセージをいただけたらうれしく思います。よろしくお願いします。

(氏家雅紀)