かねてよりFPSゲームファンに注目されていたマルチプレイ専用チームベースFPS「JointOperations: Typhoon Rising」が日本国内でも正式に発売されることとなった。欧米では6月15日に発売された本作、発売よりちょうどカ月ほど経過した現在では多数のマルチプレイサーバーで常時数千人のプレーヤーが日々のチームプレイを楽しんでいるようだ。「Delta Force」シリーズを手がけてきたNovaLogicが総力を挙げて作り上げた本作。いわゆる「Battlefield 1942」キラーと言われて久しいが、その実力のほどをじっくりと検証していこう。
■ 濃密な植物描写により再現されたジャングルや湿原で大規模戦闘を堪能
グラフィックスエンジンは、NovaLogicのメガヒットタイトルである「Delta Force: Black Hawk Down」で定評のあったエンジンを大幅に改良したものを採用している。特に注目したいのが地面を覆い尽くすほどの植物の表現。植物のテクスチャを地面に生やすことで雑草類を表現するというのは決して新しい手法ではないが、本作ではそれがこれまでにない密度で描画されており、近距離ではほとんど地表が見えないほどだ。 また、背の高い木や草なども妥協の無い密度で描画されており、このおかげでいわゆる地形の「ポリゴンくささ」がすくなく、ジャングルなどの臨場感は凄まじい。それでいて描画速度そのものはよく比較されることの多い「Battlefield: Vietnam」と比べても軽いほうで、総じてバランスの良いグラフィックスエンジンだ。 ちなみに、この濃厚な雑草の表現は、単に戦場の臨場感をもたらしているだけでなく、当然ながら伏せてその中に身を隠すことができる。舞台が東南アジアの自然が豊かな地方だけあって、こういった雑草が生えていない場所のほうが少ないほどだ。つまり歩兵はたいていの場所で隠れることができ、これがゲーム的に非常に重要な要素となっている。 こうした草木は処理軽減のため遠距離になると描画が省略されるのだが、そういった遠距離であってもキャラクタの表面には草木の効果が描写され地形に溶け込んで見えるようになるので、距離によって敵を発見する難しさが理不尽に変化することはない。このあたりは、草木の表現をゲーム的に意味あるものとする上で制作側のこだわった部分だろう。 水の表現も秀逸で、反射や屈折などが表現されているほか、海水や淡水、湿地の濁った水などの水質感の違いがきちんと再現されている。多くのマップには川や水田、網の目のように張り巡らされた水路などが登場するため、他のゲーム以上に泳いだり潜ったりといった機会が多く、また、水上を走るボートや船などの乗り物の役割が重要になっている。 また、本作では最大150人の同時プレイが可能である。こういったカタログスペック的な数値は本当に数字だけで、実際に満員になることが少ないのがゲームに限らず世の常だが、本作では実際に同時150人で稼動しているゲームサーバーが多数あり、いくつかの人気サーバーは常時満員近くのプレーヤーでごった返している。 また、こういった多人数FPSでは特に重要となるネットコードも秀逸で、このような大人数でもそれほどきついラグを感じることはない。さすがに海外の高pingなサーバーでは射撃が当たりにくい、ときどきワープしてしまうなどの現象が発生するが、Ping 100~200あたりのサーバーなら射撃・移動ともに良好な感触である。ADSL以上のネット環境なら、アメリカ西海岸のサーバーまではほとんどこの範囲に入ってくるので、遊べるサーバーが少ない……というようなことはほとんどないだろう。 この150人という人数は2つのチームに別れて75人対75人ということになるが、実際にプレイしてみると数字以上に人が多く感じられるものである。乗り物に群がる人達、超満員の車両からこぼれ落ちて暴れだす人たち、事故で吹っ飛ぶ人たち……とにかく色々なでき事が猛烈な勢いで次々に発生していく洪水のような感じはプレイしていて非常に愉快だ。マップ開始時のスタート地点における壮絶なゴチャゴチャ感は、一度体験してみないとわからない感覚だろう。
もちろん、こうしたカオスな感じもマルチプレイゲームの楽しみのひとつ(?)ではあるが、本作ではもちろんこうした大規模な人数のプレーヤーが協調してチームプレイを行なえるよう、ゲームシステム的に工夫が施されている。そのために特別な指揮系統システムが搭載されているのだが、これについては後述しよう。ここで、まずは本作に登場するユニット類を見ていきたい。
■ 車両の最重要任務は「輸送」。兵力を効率的に集中させることが勝敗の鍵を握る
特殊部隊側は米軍を中心としたNATO系の装備であり、M16やM4、M60などのおなじみの兵器が登場する。武装ゲリラ側はこれもやはり旧東側の兵器が主で、AK47やPKMなどの兵器が登場する。このように陣営ごとに使用可能な兵器や車両は異なるが、登場する兵器の種類や使用目的は互いに対応しており、細部の違いはあるもののアンバランスさはない。 たとえば、特殊部隊側のアサルトライフル、M16は非常に精度が高いがフルオート射撃がない。これに対応するゲリラ側の突撃銃AK47は精度が若干劣るものの一発あたりのの攻撃力が高くフルオート射撃が可能である、といった感じである。このあたりは対戦専用のゲームとしてきっちり作りこまれている印象だ。 登場する車両や船舶も同様で、陣営ごとに異なった種類の車両が登場する。数十種類という多種の乗り物が登場するが、おおむね以下の5種類に大別できる。 ●輸送車両 ジープ、トラック、バギーなど。3~6人が同乗可能で小回りが効き、高い機動力を誇る。大部分は機関銃を装備しており対歩兵戦闘が可能。ただし、装甲はないに等しくマシンガンで一掃されることもある。数が多く足も速いため地上輸送のかなめである。
●APC
●輸送ヘリ
●戦闘ヘリ
●船舶 どの車両も操作は簡単で、始めて最初の数分でほとんどの操作をマスターすることができる。このあたりはリアリティよりもプレイしやすさを重視しているようで、そのおかげかパブリックサーバー上でありがちな輸送車両の事故多発でまともにプレイできず、といった事態は少ないのはありがたいところだ。
実際、本作では純粋な火力で言えば、車両よりも歩兵の方が強いのである。APCは確かに強力だが、油断すればライフルマン1人のロケットランチャーでたやすく破壊されてしまう。本作で使用可能な歩兵のキャラクタクラスは5種類用意されており、ゲーム中の作戦を組み立てるために重要な役割を担っている。本作に登場するキャラクタクラスを簡単に紹介しよう。
●ライフルマン
●ガンナー
●スナイパー
●メディック
●エンジニア キャラクタクラスはゲーム中に基地などにある「Armory(武器庫)」にアクセスすることで随時変更することができる。また、メインメニューの「Player」メニューからデフォルトの装備などを選択しておくこも可能なので、戦闘中に装備を選ぶ手間を削減するために自分に最適な装備をあらかじめ指定しておこう。
それぞれのキャラクタクラスはそれぞれに得意な状況と苦手な状況があり、互いに補間しあう関係にある。チームが最大の効率で戦えるようになるには、ときには自分個人の利益を犠牲にすることも必要だ。例えば、単にKILL数を稼ぎたいだけならばスナイパーが最適なのだが、占領に参加しないスナイパーが何人いても大局に変化ないばかりか、多すぎることは害ですらある。そんなときはチーム全体のことを考えて、マップに合ったバランスにクラス替えをすることも、良いプレーヤーの条件といえるかもしれない。
■ マルチプレイの主な舞台となるゲームルール「AAS」
●Advance and Secure 「前進して確保せよ」本作のオリジナリティ色が最も色濃くでたルールであり、最も多くのパブリックサーバー上で導入されているのも本ルールだ。このゲームモードでは、マップ上にところどころ配置されている「PSP(=Progressive Spawn Point、前進基地)」を敵の本陣に向けて占領していくことが目標となる。 「PSP」はプレーヤーが復活可能な小型基地のようなもので、「Battlefield 1942」のフラッグに相当する。敵よりも多くの兵士がPSPの範囲内に一定時間とどまればそのPSPを占領することができるのだが、「Battlefield 1942」に比べて占領までに必要な時間が長く設定されている。ただしPSPからの復活は無制限ではなく、多くのプレーヤーが利用するPSPでは復活までのタイマーがどんどん長く設定されていく。激戦区のPSPでは復活タイマーが30秒を超えることも日常茶飯事で、大量の兵士を失ったときにはPSPが無人になってしまうことも多い。 激戦になればお互い兵士を大量に消耗するので、PSPで復活を待つより、ベースキャンプで効率よく兵士を組織して一度に多くを送り込んだほうが有利になる。マップが広大なだけにこの「集合-輸送-展開」の一連のパターンはゲームの基本中の基本となるし、それだけに、ヘリやジープを活用して上手に兵士を送り届けるプレーヤーの存在はチーム全体にとって極めて重要である。 また、マップ中に複数配置されているPSPには「接続」の概念がある。これは現実の兵站の概念を取り入れたものだと思われる。たとえば両陣営の間にA-B-Cという3つのPSPがあるとし、味方がAを保有し、敵がBとCを保有しているとしよう。このとき、味方はBのみを占領可能で、Cに対して攻撃をしかけても占領することはできない。Cを占領するためには先にBを手中に収める必要があるので、敵も味方もA-BのPSP間に集中するという具合だ。 これが戦略的に複雑なシチュエーションを作り出す上で非常に効果的なルールとなっている。例えば、敵がAに総攻撃をかけてきたときに少人数でうまく防衛しながら、手薄になったB主力を送り込んで占領を行ない中立化させてしまう。その時点で敵はAを占領することができなくなり、A付近に展開した敵の兵力は完全に無意味なものになるのだ。うまくいけばそのまま手薄なCまで一気に制圧することも可能である。これの逆もありえるので、敵の動向をうまく読みつつ、柔軟なチームプレイで戦力を有効に展開することが本作のゲームプレイの本質となっている。
このような状況の変化は画面右上に表示される各PSPのステータスである程度確認が可能なので、今チームが必要としている戦力の配分を考えながらプレイしよう。プレーヤーが無作為に集まってプレイするパブリックサーバーで、そういったチームプレイを意識したプレーヤーが数人いるだけでも、そのチームの戦力は非常に強力なものになるだろう。こうした一人一人が戦略を意識したプレイをしやすいようにデザインされているのも本作の大きな魅力のひとつだ。
■ 独自の指揮系統システムで即席チームでも濃厚なチームプレイを
「Fire Team」システムと呼ばれるこの指揮系統システムでは、専用のインターフェイスを用いて特定のプレーヤーの元にチームメンバーとして参加したり、逆にチームメンバーを募集して指揮下に置いたりといった組織化の作業が簡単な操作で素早く行なえる。1人の指揮官は3つまでのチームを同時に組織することができ、また、数人のメンバーを指揮する指揮官の上に、さらに上級の指揮官を置くことで班・小隊・中隊というような現実的な上意下達型の指揮系統をすばやく組織することを可能にしている。このインターフェイスは非常によく考えて作られており、このシステムを使った数回のプレイを経験すればおおむね完全に仕組みを理解できるだろう。 「Fire Team」に参加したプレーヤーの画面には指揮官の指定したWayPointや攻撃目標が表示され、同時に、攻撃目標に攻撃をしかけるタイミングを指定する「実行コード」も知ることができる。たとえば、「Attack Objective Delta-Go-Code-Taliho」といった具合だ。これは「攻撃目標はDのPSP、実行コードはタリホー」という意味で、指揮官が「Taliho! Taliho!」と叫ぶまでにDのPSPに対する攻撃準備を整えて待機せよ、ということである。こうした作戦遂行は決して簡単ではないが、うまく連携して実行することができれば大きな効果を挙げることができ、組織化されてない敵に対してはほとんど一方的な勝利をもぎとることすらできる。緊密な連携が成功したときの喜びはひとしおである。
ただ、今のところ指揮官役に名乗り出るプレーヤーが常時いるようなサーバーはまだ少なく、一部の高レベルなサーバーでのみこうした指揮系統システムを活用したプレイを楽しめるのが現状ではある。パブリックサーバーの寄せ集めチームでも高度な作戦を遂行できる素晴らしいシステムだけに、今後もっと多くのプレーヤーが積極的に指揮官役に身を投じるようなコミュニティの成熟を待ちたいところだ。
■ 現実的な地形効果と兵力の集中運用による戦術のダイナミズムを実現した本作
最新のグラフィックス技術を惜しみなく投入した美しい画面は当然のこと、見た目だけでなく機能面まで再現された密度の高い草地やジャングルの表現、それを活用しての密林の銃撃戦の感覚は、従来のゲーム以上に「サバイバルゲーム」の臨場感を持っている。 以前はエアガンを大量に抱えてリアルのサバイバルゲームをよく楽しんだものだが、濃い草地や森林で現実に感じる「すごく注意深く回りを観察しないと敵が見つからない感じ」や「うまく藪の中に隠れているつもりが、予想以上に簡単に発見されてピンチに陥る感じ」がそっくりそのまま、本作では体感できるのである。 ただ、本作にも死角はある。操作を簡単にするため、また、ネットワークの負荷を軽くするためか、乗り物の挙動はかなり単純化されており人によってはチープさを感じることもあるし、150人対戦が可能な大規模マップはまだ種類が少なく、ずっとプレイを続けていると同じマップを何回もプレイすることになってしまう。 だが、なかなかパッチを出さないと一部悪評のあるNovaLogicとしては珍しくすでに4回もパッチのリリースがあり、総力を挙げてゲームの改良に取り組んでいるようだ。マップエディタのリリースも近日に予定されており、MODも公式にサポートするということで、戦場のバリエーションは今後どんどん拡張されていくことだろう。そういった面も含め、今後が非常に楽しみなタイトルである。
今回日本語マニュアル版が正式にリリースされることで、既にいくつか稼動している日本のパブリックサーバーもより盛況になっていくことが期待される。こういった種類のゲームはプレーヤーコミュニティの成熟度がゲームの面白さに直結する部分が非常に大きいので、これから動向を興味深く見守っていきたい本作である。
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□「Joint Operations: Typhoon Rising」のホームページ http://www.micromouse.co.jp/nova/JointOperations/jointoperations.htm/a> □関連情報 【6月14日】「Joint Operations: Typhoon Rising」Multiplay Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040614/demo0614.htm (2004年7月23日)
[Reported by 佐藤"KAF"耕司@ukeru.net]
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