最初にお断りをしておくと、細かい理由は割愛するが、筆者は前作「三國志IX」(以下、IX)をまったくプレイしていない。 ただ、小学生のときから三國志ファンを自認しているし、正史は日本語訳はもちろんのこと、原典も持ってるし、コーエーさん(というより「光栄さん」と呼びたいところ)には、約20年前から14,800円ずつせっせと貢いできたし、「三國志」のボードゲームのリサーチを手伝ったこともある筆者だが、それでもIXはプレイしていない以上、本稿において「ここがこう変わったよ」などと軽々しく書くつもりはない。 「三國志 X」は、節目の10作目ということで、シリーズ集大成を狙って開発されていると聞く。集大成ということは、現役バリバリのコーエー「三國志」ファンはもちろんのこと、私のような往年のファンやまったくの素人にも訴求できる内容に仕上がっているはずだ。そこで今回は、ひとつ初心(?)に立ち帰り、この「三國志 X」(以下、X)というタイトルで初めて三國志ゲームに接する三國志ファンになったつもりで、何をどう感じるかを率直に書いてみたい。
■ 全武将でプレイ可能であればこそ、無限の楽しみが拡がる
総勢650名(+プレーヤー作成可能な武将110名)を数える武将たちは、「君主」、「都督」、「太守」、「一般」、「在野」の5つの身分ランクに分かれている。君主であれば文字通り全権を振るえるが、在野や一般武将から成り上がる、というのも悪くない。ただし、君主、それも大国の君主での初プレイは、領国のすみずみまで気が回らない、ということになりかねないし(操作方法については、初めて何かをするたびにチュートリアルが起動するので、初心者でも案外何とかなる)、逆にヒラ武将でのプレイは、やれないことが多すぎて、ルーティンな任務に飽きてしまう、という危惧もある。 そこで初回のプレイでオススメしたいのは、辺境近くで1、2都市を支配する君主で始めるか、もしくは大国の前線都市の太守で始めることだ。いずれも、まずその都市内部の富強を考えるだけで済むし、そのコツを覚えたら、次は領土拡張のための戦闘へ、と順を追ってゲームを習得していくことができる。過去の三國志シリーズ経験者の方でも、Xはこれまでのどの過去の作品とも微妙にシステムが違うので、その違いを理解するまでは、練習のつもりで取り組んでみてもいいかもしれない。
支配都市が増えたら太守や都督を任命すれば、都市の支配を任せることは可能だが、このシリーズの例に漏れず、というかコンピュータSLGの一般的な傾向として、コンピュータAIへの委任機能を過信するのは、何かとトラブルの種だ。トラブルに対して「それも歴史のうちさ」と達観できるプレーヤーはまだいいが、何か面倒が起きればその分、ゲームエンド=天下統一までの時間は延びるわけで、ただでさえプレイに時間がかかるSLGの場合、そのリスクを取るよりはいくつもの前線都市を自分で直轄支配したほうがマシだ、と思われる方も多いだろう。
ところがXの場合は、直轄支配にも別のリスクが生じる。直轄都市には武将を駐屯させることができない。内政や軍備も、その都度、統治都市(いわゆる「首都」)から武将を派遣して実行することになる。したがって、その都市に敵が攻めてきたとき、下手をすると遠方の統治都市から援軍に長駆しなければならない。この時間ロスは時に致命的で、たとえば揚州の建業から荊州の江陵までの行軍は15日ほどかかるから、敵襲に気付いてから出兵していたのでは、救援が間に合わない可能性が高いのだ。武将の絶対数が足りない状況を除けば、前線都市にも都督や太守を置いておくほうがリスクが低い場合も多いことに、留意したい。
■ 身分に応じて、具体的にどんなことができるのか? 君主や太守の場合、「宮城」で政務を執るのが基本で、その空き時間に自分のスキルを上げたり、他の武将と交流したり、ちょっと他勢力の都市まで旅行したり、といった生活行動パターンを取るのが一般的となる。言い忘れてたが、Xのゲーム進行単位、何と「1日」だったりする。まるで筆者が惚れ抜いているどこぞのRTSシリーズのようだが、しかしXは、リアルタイム進行ではない。プレイしている武将が何か行動すると、その行為の種類に応じて日数が経過する仕組みになっている。
任務が終われば、宮城に戻り、君主や太守に報告する。逆に言えば、自分が一般武将の場合は、政庁で任務を提案したり受けたりしてから、施設へ自ら移動して、施設内でコマンドを実行、完了したら政庁に戻って報告、というのが一連の流れ、になる。 もうひとつ宮城で重要なコマンドは「決裁」だ。これは要するに、民からのあらゆる陳情を処理するコマンドで、陳情を決裁しないまま10以上貯まると治安がどんどん悪化していく。ヒマがあるときには優先的に決裁を行なって、陳情を残さないように心がけたい。
都市の内政を充実させれば、収入と収穫が増加し、新たな兵器や造船が可能になり、城壁の守りが堅くなる。軍事を整備すれば、部隊の兵数を増やし、経験と士気をある程度まで上昇させることができる。コマンドを成功させた武将は功績が上がり、それに連れて九品官~一品官へと出世していく。出世した武将は、より多くの部隊を持てるようになり、さらには太守や都督に就任する資格を得る。こうした地道な努力の積み重ねが、富強な勢力を作り上げていくことにつながる。 ■ 特技を駆使して一騎討ち、舌戦を制せよ! 三國志の華と言えば、「一騎討ち」。一騎討ちのシステム自体は、ずいぶん前からあるが、Xでは一騎討ちにカードバトル的な要素が導入された。「太閤立志伝IV」をプレイしたことがある人なら、何となくイメージがわかるかもしれないが、対戦する武将が手札の中から順に3つのコマンドを選び、手札同士の組み合わせにより彼我のダメージが決まる、というシステムだ。 一騎討ちのルールを事細かに語ると相当長くなるので、要点だけを整理してみよう。
・「払い」<「斬り」<「突き」の順に強く、左列より右列のほうがダメージは大きい 誰でも使える「疾風撃」と「神速撃」以外の「武技」は、各武将ごとに持っている「特技」に依存する。一騎討ちのための特技は、何回か一騎討ちに勝たなければ身につけるための条件をクリアできない。まずは何度も闘って勝つという経験を積むことだ。
舌戦もまた、カードではないがカードバトル的なルールに従って勝敗が処理される。舌戦のコマンドは「道理」、「利害」、「情義」の3種類に大きく分かれる。数字の大きな(場合によっては小さな)コマンドを出したほうが勝ちで、相手の心理バーを押し込むことができる。勝敗を決したコマンドは数字の付いた盤上に配置されていき、その盤上で同じ種類のコマンドが一列に並ぶ度、相手にさらなる心理ダメージを与えることができる。
さらに、心理バーを押す力を上げる「集中」などの補助系コマンド、「揚足」などの攻撃系コマンド、「抗弁(相手の通常コマンドを無効にする)」などの自動系コマンド、「惑乱(盤上の配置を混ぜる)」などの特殊系コマンドもあり、一騎討ちに比べるとかなり複雑な(頭を使う)対応が要求される。それでも知力・魅力が高く統率力・武力が低い武将にとっては、功績を上げるための交渉に用いたり、はたまた山賊を籠絡したりと、メリットは高い。内政専門家としてのみ使ってしまいがちな文官でのプレイに、新たな楽しみを与えてくれそうだ。
■ 野戦、城門戦、市街戦、そして戦役。バラエティ豊かな合戦シーン
軍の整備を「軍事」コマンドで行なうことはすでに述べたが、Xでは「出陣-輸送」コマンドが、かなり重要になっている。各都市には規定数(3~6程度)を超える部隊を持つことができない。すでに枠一杯となっている都市に、他の部隊(たとえば士気の高い主力部隊など)を移動させたいときには、いったんその都市の駐屯部隊を第三の都市に「輸送」して、空きを作らなければならない。あるいは、新たに奪取した都市の守備軍が早急に必要な場合は、敵襲の危険性の少ない後方で整備した部隊をその年に「輸送」して対処することもあるだろう。 「出陣-戦闘」コマンドで戦闘の対象となるのは、都市、拠点または移動/戦闘中の敵軍勢だ。ターゲットを選んだあと、出陣する武将と指揮する部隊を選んで、いざ、出陣! 拠点または空白地の都市以外で戦闘が始まると、都市攻撃なら「城門戦」、軍勢攻撃なら「野戦」画面に、移動画面から切り替わる。 戦闘それ自体はシリーズの伝統を継承しており、各武将が部隊を率いて、さまざまな攻撃(近接攻撃、一斉攻撃、弓矢攻撃、突撃など)、計略(火計、落穴、落雷、治癒、混乱、鼓舞、伏兵など)、そして一騎討ちを実行する。敵味方の兵力が接近しているときには、知力または武力のどちらか偏った武将が率いる部隊に対しては、突撃や計略で弱体化を図り、知勇兼備の武将に対しては周囲を包囲しての一斉攻撃を目指すのが、伝統的なセオリーだ。敵部隊の後方や側面から攻撃するよう努める、とか、歩兵<騎兵<弓兵<歩兵という三角関係を意識して戦うのは、常識というか大前提だ。 野戦の場合は、敵の指揮官(軍勢長)の部隊を全滅させるか撤退させた場合、敵の軍勢長を捕らえる、(防御側のみ)30日間守りきった場合、勝利する。これが敵都市での城門戦の場合には、前記の条件に加え、二段構えになっている奥の城門を開くことに成功すれば勝利。そこで敵軍が撤退しなかった場合、城門戦から市街戦に移行する。市街戦でも勝利を収めることで、ようやくその都市を手に入れることができる。 プレイしていて疑問に思ったのは、この市街戦の位置付けだ。というのも、城門を突破した時点で、おおむね彼我の戦力差により大勢は決してしまうにもかかわらず、市街戦でもう一度最初から戦闘をやり直す、という過程が、どうにも蛇足に見えてしまうのだ。たとえば防御側の援軍が間近に迫っている場合なら、市街戦をすることで貴重な数日間を耐えしのげる、という利点は確かにあるのだが、戦闘画面に移行するのはプレーヤー武将が参加する場合のみなので、ゲームを通してそういう状況が頻繁に起こるとは言い難い。市街戦については、もうひとひねりほしかったところだ。
Xでは、今まで説明した「戦闘」に加えて、「戦役」という戦争形態を選ぶことができる。戦役では、複数都市の軍勢を同時に動員でき、野戦も都市戦闘も移動地図の上で(数値的に)解決されるので、大勢力を率いている側であれば、一気にその地方全体を制圧することができる。ただし、戦役を起こせるのは、都督か君主で、かつ「大将軍」以上の官爵を持つ武将だけだ。
この機能はおそらく、ゲームの中盤以降、圧倒的な優勢を得たプレーヤー勢力にとって、一都市ずつ地道に戦闘で奪取しながら統一を目指すのがどうしてもルーティーン作業となってしまい、途中でやる気を失うプレーヤーが少なくない、という従来作の欠陥を克服しようという試みだろう。戦闘を簡略化した点について評価が分かれそうだが、赤壁の戦いまでの曹操の荊州戦役のような、ダイナミックな用兵を再現する仕組みとして、個人的には好感が持てる(まだまだ荒削りなシステムであるのも確かだが)。
■ 覇をとなえるのは、果たして貴公か? それとも俺か? 三國志という時代の性格上、Xでも最終目的は全都市を支配して「天下を統一する」ことだ。その前段階として、君主は、支配する州を増やしつつ、「名士」の特技を持つ武将を配下に集めることで、官爵を得ることができる。官爵は「州刺史」から「皇帝」まで全8ランク。皇帝就任の必要条件は、17州に分かれた全土のうち12州の支配(+名士30人)なので、この時点でおおむね天下の過半は掌中にあることになる。 それから書き忘れるわけにはいかないのが、イベントの充実。コーエーの「信長」、「三國志」シリーズのひとつの華がイベントであるのは今に始まったことでもないが、Xでは、たとえば、多くの群雄が「反董卓連合結成」イベントに巻き込まれて、出兵を強要されるなど、「太閤立志伝」シリーズと見まがうばかりの強制イベント、連続イベントが時代の随所にちりばめられているのだ。同じイベントでも、立場変わって董卓自身をプレイしていたらどう受け止めて、どうイベントの結末を変えられるか、それもまた、プレーヤーの腕の見せどころになるだろう。
冒頭に書いたとおり、前作IXはついにプレイする気になれなかった筆者だが、今回のXについては、今後も引き続き長く楽しめそうな気がしている。とはいえ、気になった部分がないわけでもない。 中でも一番気になったのは、コマンド操作の煩雑さだ。やはり全武将プレイが可能だったものの、「武将個人の行為」と「国家の運営」が渾然としていた前々作「三國志VIII」に比べれば、施設に出入りしコマンドを実行することで日数が経過する、というXのシステムが「武将個人」を軸にすっきり整理されたのは確かだろう。 だが、それでもなお、「施設コマンド」を使って出入りを繰り返す、という概念そのものを武将の行為に組み込んでしまうような、一工夫ができなかっただろうか? 画面の大半を占める美麗な都市内部の各図が、ユーザーインターフェイスとして何の機能も持たず、単なる装飾に過ぎないというのは、残念に思わずにはいられない。 そのほかにも、相変わらず1回のプレイに時間がかかりすぎることなど、特に20代後半~30代以上の、かつてはあり余る時間を費やして三國志をプレイしていたが、今はとてもプレイする時間が割けない、といったライトユーザー、社会人ユーザーを取り込むための配慮を、もう少し考えてもよいのではないだろうか。「信長」、「三國志」シリーズは、黙っていても売れ行きが読める作品だからこそ、「プレイ全体のバランスを保つ努力」と「裾野を拡げる工夫」は続けてほしいというのが、すっかりライトユーザーと化した筆者の願いでもある。 (C)KOEI Co.,Ltd.
□コーエーのホームページ http://www.gamecity.ne.jp/ □「三國志 X」の公式ページ http://www.gamecity.ne.jp/products/products/ee/Rlsan10.htm □関連情報 【2004年5月19日】コーエー、「三國志 X」の発売日を7月2日に決定 第10弾を記念した「アニバーサリーBOX」も同時発売 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040519/sanx.htm 【2004年4月9日】コーエー、「三國志 X」の発売時期を今夏に延期 開発中の最新画面を公開 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040409/sanx.htm 【2003年3月26日】PCゲームレビュー「三國志 IX」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030326/san9.htm (2004年7月2日)
[Reported by culi]
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