単身で敵地に潜入し、誰にも悟られないまま密かに行動して目的を達成する。いわゆるスニークアクションの系譜をたどってみると、本格的なスニーク要素を最初に持ち込んだゲームは'98年にリリースされた「Thief: The Dark Project」と言っていいだろう。今回紹介する「Thief: Deadly Shadows」はこの「Thief」シリーズの最新作だ。このシリーズ最後の作品は2000年にリリースされた「Thief 2: The Metal Age」だったから、それから数えて実に4年ぶりの新作となる。プレーヤーは義賊「ギャレット」として数々のミッションをこなしていくことになる。
■ シリーズの魅力はしっかり継承しつつ
「Thief 3」の開発は、北米を代表するゲームクリエイターのひとり、ウォーレンスペクター率いるIon Stormに移ったスタッフが継続して続けている。もともと完成されたシステムを持っていた本シリーズだけに、ゲームシステムの基本となる部分は完全に受け継がれており、本シリーズのファンであれば全く違和感を持つことなくゲームに没頭できる内容となっている。 また、純粋に新作の3Dゲームとしてみても完成度は高い。技術力には定評のあるION Stormだけに、グラフィックスエンジンにはUnrealエンジンをベースに、陰影処理を改良した「Flashエンジン」を使用し、ピクセルシェーダーを駆使した陰影の深い美しい画面を描き出している。また、物理エンジンには業界標準となりつつあるHavocエンジンを使用している。 ゲームエンジンの構成としては先にリリースされた「Deus EX: Invisible War」と同じ形となるが、全体的に更なるパフォーマンスの向上が図られているようだ。特に陰影の効果は本シリーズのきわめて重要なゲーム上の要素であるだけに、ピクセルシェーダーやステンシルシャドウを駆使した光と影の表現は、今までにないレベルで作り込まれている。 また、グラフィックスだけではなくサウンド効果にも注目したい。本作はEAX Advanced HDに完全対応しており、単に機能的なレベルで対応しているだけでなく、作品に音という側面から生命を吹き込むという意味で、充分にその技術を活かしている。洞窟や石壁の屋内では、会話するNPCの話し声が反響すると同時に、野外にいるNPCの歩行音がきわめて自然に聞こえてくる。こういった音の遮蔽効果や反響効果もきちんと再現しているので、壁の配置などの環境要素を考慮してNPCの位置を推測する必要が出てくる。雰囲気だけでなく奥深いゲームプレイを実現する上で音は非常に大きなウェイトを占めているのだ。
また、人が発する音だけでなく、随所に取り入れられている環境音のクオリティも高い。ゲーム中盤以降で登場する地下墓地や廃病院といった環境が持つ不気味な雰囲気を醸しだす上で、この環境音は非常に重要な役割を担っている。スニーキング系FPSの例に漏れず、進めていく上で「音」が内容的にきわめて重要な役割を果たすゲームである。臨場感や音による状態把握といった要素を楽しみたいのなら、ぜひ4ch以上のサラウンド環境でプレイしてもらいたいタイトルである。 ■ 影から影へ暗闇の中を渡り、気づかれずに盗みを成功させよう
本作の舞台は、産業革命直前あたりの中世ヨーロッパをモデルにしたファンタジー世界。この世界で最高の腕を持ち、ほとんど姿を見られることもなくあまたの財宝を盗み出しては貧しい者たちに富をばらまく義賊「ギャレット」が物語の主人公だ。 まっとうな盗賊である主人公だけに、行動する時間帯は常に夜。夜陰に乗じて敵や衛兵の目を盗み、硬い警護に護られた背後の空間へ静かに進入し、大切に保管されている宝箱の鍵をロックピックでこじ開けていく。ゲーム中に登場するマップの街灯や松明の数は全体的に少なめで、薄暗い街や建物の中でミッションが進んでいくことになる。 本作では他のスニーキング系ゲームに比べて、プレーヤーの立っている場所の明暗の度合いが非常に大きな要素となっている。主人公は極限まで気配を殺すことのできる人間で、闇に紛れることさえできれば相手の顔のシワまで見取れそうな至近距離に近づこうとも存在を悟られずにいられるという特殊能力を備えている。 平凡な柱の一本が落とす細い影だけでも、うまく使えばNPCの目を完全にごまかすことができるので、ほとんど接触寸前のような状態でも敵をやりすごすことが可能だ。ちなみに、本作ではリアルタイムに計算された陰影によってすべての明暗が作られているので、例えば松明やシャンデリアなどの光源が移動すると対応して影も動いてしまう。そういった光源と遮蔽物の動きを予測して、敵の目の届かない位置に素早く身を隠すような行動がゲーム中を通して最も重要な要素となる。 もちろん、影のないところを進まなければならない場合、影を作ってやることも重要な作戦だ。手の届く範囲にあるろうそくの火なら、範囲内でUSEキーを押すことで火を消すことができる。また、水のやじりをつけた弓矢を使えば松明や暖炉の火を消火してしまうことも可能だ。ただし、矢の数には限りがるため、肝心のところで矢種を切らしてしまわないように長期的な展望を持って矢を使う必要がある。 また、あまり目立つ場所の光源に変化を加えると敵の強い警戒をかってしまうので、時と場合を選んで行動を起こす必要がある。こうして暗闇を広げてしまえば、敵のすぐ脇であろうともアイテム等盗み放題だといいたいところだが、ことはそううまくは運ばない。本作のNPCは、本来それがあるべき状態に無いということに敏感に反応するアルゴリズムとなっている。 たとえば、「テーブルの上にあった○○はどこへ行ったんだ?」とか「誰がドアを開けっ放しにしやがったんだ?」など、怪しむべき点が出てくると、そこらじゅうをウロウロしだして発見される確率が格段に増してしまうことになる。特に敵の目の届く範囲の物品に手をつけるときは、手を出すタイミングと敵との位置関係に充分配慮しよう。当然ながら、気絶させたNPCの体を目に付くような場所に放置することなどはもってのほかである。誰も来ないような暗がりにきちんと安置してあげよう。 他のスニーキング系FPSと同様に、本作でも「音」はきわめて重要な要素となっている。主人公はゲーム中に登場する他のキャラクタに比べて非常に静かに歩くことができるが、それでも石畳の上や板の間、鉄板の上などではある程度の歩行音が発生する。それに加えて、ところどころに置かれている石像や壷などのオブジェクト、倒した敵の落とした武器などを踏んでしまうと大きな音を出してしまう。 静かな空間でそのような音を立ててしまうと、敵からある程度の距離があっても存在を悟られてしまい、警戒を買ってしまうので移動ルートの選択には細心の注意が必要だ。逆に絨毯の上や草地の上ではほとんど足音を立てずに移動できるので、そういった地形を利用して一気に間合いを詰めるといった工夫が生きてくる。また、巡回中の兵士などはよく立ち話をしていたりするので、そういった喧騒を利用してスタスタ通り過ぎてしまうのも作戦のひとつとなる。 さて、主人公が扱う盗賊家業を助ける道具類だが、前作からの大きな変化はない。騒音を発生させてNPCの注意をそらす「Noise Arrow」、遠隔地の光源をつぶすときに重宝する「Water Arrow」、また、遠距離から敵を気絶させるガス弾や目潰しをするフラッシュボム、そして敵を背後から殴って気絶させる棍棒「Blackjack」、もちろん敵を完全に絶命させるためのダガーも継承されている。 本作で追加された最大のものとして、石壁をよじ登ることのできるグローブがゲーム中盤から利用可能になることを上げておく。これを使えば壁を伝って敵の追跡をかわすことや、玄関の厳重な警備を避けて上階の窓から建物に進入するような遊び方が可能になる。アイテム類に大きな変化が見られないのは、元から「Thief」というゲームのシステムが高い完成度を持っていたことの何よりの証だろう。 盗賊に欠かせないロックピッキング(鍵空け)に、他のゲームに見られないユニークなシステムを採用しているのも本作の大きな特徴のひとつだ。ドアや宝箱の前に立って鍵開けに取り掛かると専用のインターフェイスが表示され、ピッキングを直接操作することができるようになる。 この状態でマウスをぐりぐり動かすと鍵穴に差し込んだロックピッカーの位置を変えることができ、うまく「スイートスポット」にヒットすると鍵穴を刺激する音が変わってシリンダーが激しく反応するのがわかるのだ。その位置でしばらくマウスをホールドしているとシリンダーが開錠位置に回転するので、その鍵穴にある全てのシリンダーに対して同じ操作を繰り返し行なえば完全に開錠し、扉や箱をあけることができるというわけだ。
この一連の操作は慣れるまでかなり苦労することになるが、一旦コツを掴んでしまえば複雑な鍵でもかなり高速に開錠することができるようになる。とはいってもシリンダーの数に比例して、開錠には一定の時間は必ず必要になるので、敵の巡回の目を盗んで素早く開錠しなければならないときなどは、見つからないことを祈りつつハラハラしながらロックピッカーを操作することになる。もちろん、扉や箱を開けて用事を済ませたら、できるだけ元の状態に戻しておこう。開けたままの宝箱や扉は、敵の警戒を買う原因になってしまうからだ。
■ “生活”と“盗み”が一体となったゲーム世界。24時間いかなるときも盗賊としての自覚を持て
この世界では、裏社会に暗躍する一神教系の組織Hammersと自然信仰系の組織Paganといった二大勢力、そして調停役でもあり世界を影から支配するThe Keepersの、3つの勢力が存在している。始めはThe Keepersのために働く主人公ではあるが、ある事件をきっかけにThe Keepersを敵に回すことになり、次第に自分自身のために世界を相手に行動していくことになる。 こうしたゴシックホラー色の濃い世界観の中で、主人公の活躍する場が変転していくことになるのだが、前作までとは異なり、主人公の住む街そのものがゲームフィールドとなる。街の中には主人公のアパルトメントや盗品の売却やアイテムの買い物ができる商店が用意されていることもあって、ゲームプレイ中のかなりの時間を街中で過ごすことになる。 しかし、街の中にはところどころ警備兵の詰め所などが設置され、指名手配犯である主人公を四六時中警戒しているので街を歩くときでも注意が必要だ。街の中であっても暗がりを見つけ、人目を避けるように移動するように心がけてこそ一流の盗賊……ということだろうか。 街の中では一般市民の家なども所々作りこまれていて、ゲーム本編の進捗とは関係なく金稼ぎのための盗賊稼業に精を出すこともできる。おまけに、道行く人が腰に下げている財布やアクセサリーを掠め取るなどのスリ行為も可能だ。ただ、こうしたサイドストーリー的な要素はそれほど多くはなく、ゲーム全体としては一本道なのが多少残念ではある。 そして、ゲームも後半に差し掛かると、街の中は主人公にとって安全な場所ではなくなってくる。右も左も敵だらけ、常に暗がりをこっそり移動しなければならない。こういった状況で迷ってしまうのは命取りなので、ゲーム前半のうちに街路のつながりや家屋の内部構造など、街を歩いてみっちり地理に精通しておいたほうがいいだろう。 筆者の個人的な意見ではあるが、街中では画面上にリアルタイムのマップを表示して欲しかったと思う。広大で複雑な構造をもつ街が丸ごと再現されているだけに、地理に精通するまで町中で迷子になることが必要以上に多かったからだ。これからプレイする方は、街を歩くときは建物の位置関係や方角に注意しておこう。そして、街中の噴水や井戸、石像や商店などのランドマークを優先的に記憶しておくことをお勧めしたい。 ストーリーを進めていくための次のターゲットは、常にメニューの「GOALS」画面で確認できる。与えられる目標は、ユニークアイテムを手に入れたり、スイッチを稼動させたり、あるいはNPCを見つけて話しかけたりと様々だが、複数の目標が与えられている場合、基本的には好きな順番で物事をこなしていくことができる。この画面で確認できる情報だけでは情報不足で迷ってしまうこともあるので、ゲームを進めながら何か気になる地点やオブジェクトを見つけたら、あとで何か手がかりになるかもしれないので、なるべく記憶に留めておきながら進めていこう。
主人公の住む街がゲームのメインフィールドとはいえ、冒険の場は非常に多彩だ。教会、屋敷、洞窟、幽霊船、墓地、博物館、廃病院などそれぞれに丹念に作りこまれたステージが登場する。そのどれもが広大で複雑な構造をもち、複数の攻略ルートが存在するのでゲームボリューム的には膨大なものがある。そして、ステージ内に仕掛けられている謎解きも一筋縄ではいかないものが多く、難度はけっして低くない。また、ゲームが進むにつれて、冒険の場にはアンデッドや邪悪な化け物が現れるようになってくる。終盤にさしかかるころには、ほぼ完全にホラーモノと化してしまうので、心臓が弱い方は注意したほうがいいかもしれない。
■ 繰り返し遊びたくなる完成度の高さ
最近の作品も含めてFPS系統のゲームには1度以上のプレイ欲をそそられないゲームが多い中、こういったやりこみ欲をそそるゲーム内容はなかなか得がたいものだろう。他のスニーキング系FPSと比較しても、本作はやりこみ要素が高い。まず、物品の収集率100%を達成するのがかなり難しい。通常のプレイでは気付かないような、ちょっとした隙間などにも注意を払う必要がある。これを達成するためだけでもゲームをかなりやり込み、その世界へと入り込む必要がある。そして、収集率100%を達成したら、今度は一人も敵を殺さずに、次は敵を一人も殴らずに、その次は時間をもっと短縮して……といった遊び方をしても、なかなか飽きが来ないのはこのゲームの完成度を物語るにもっとも適した表現かもしれない。 何回か通してプレイしてみて、筆者のお気に入りは地下墓地と廃病院のステージ。どちらも演出のレベルが高く、登場するクリーチャーの質感があまりに真に迫っているためだ。始めてのプレイでは、巡回の目を盗んで鍵開けしている最中に、背後から殴りかかられるなど散々な内容だったが、この経験を生かした上で再度プレイしてみてもやはり独特の緊張感は変わらず体験できる。筆者よりもっと怖がり屋さんのプレーヤーだったら、もっと強烈な記憶に残る体験になりそうだ。
英語版であるだけに発生する注意点をひとつ述べておこう。全体的に謎解きの難度は高く、与えられる文字情報を頼りに手がかりを探っていくことが多い。スムーズにゲームを進めていくためには多少の英語読解力が必要となるのは仕方ないところだろう。文字をまったく読まずにプレイしてもクリアすることは可能であるが、テキストヒントを完全に無視することになり、結果的に難易度はぐっと高まってしまうことになる。文章の読解だけでなく多少ながらヒアリングを必要とする場面もあるので、気が早いかもしれないが、できれば完全日本語版の登場を待ちたいところだ。
Thief: Deadly Shadows(TM) Eidos Inc. 2004. Developed by Ion Storm LLP. Published by Eidos Inc. Thief: Deadly Shadows and the Thief: Deadly Shadows logo are trademarks of Eidos Inc. Ion Storm and the Ion Storm logo are trademarks of Ion Storm LLP
□「Thief: Deadly Shadows」の公式ページ http://www.thief3.com/ □関連情報 【5月14日】E3 Eidosブースレポート 「Thief」、「Shell Shock」などユニークなアクションゲームが目白押し http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040514/e3eidos.htm 【5月31日】本日到着! DEMO & PATCH 「Thief: Deadly Shadows」Playable Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040531/demo0531.htm (2004年6月24日)
[Reported by 佐藤"KAF"耕司@ukeru.net]
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