今回紹介する「サーティーン 完全日本語版 PC版」は、フランスで650万部を売り上げた人気コミックを原作としたFPSだ。トゥーンシェーディングと呼ばれる描画手法を採用することで、アニメーションやコミックのような画面を実現し、コミックとアニメーションの良いところ取りをしたゲームとなっているのが最大の特徴だ。 主人公であるプレーヤーは、プロローグシーンにおいて記憶を失い、自分が何者かすらハッキリしない謎の人物。唯一の手がかりといえば、体に刻まれた「XIII」という入れ墨と、ウィンズロー銀行の貸金庫の鍵だけ。そんな主人公は海岸に打ち上げられていたところを、謎の組織からの刺客に狙われ、FBIからは数日前に発生した大統領暗殺狙撃事件の犯人として追われる。そんな中、失った記憶のフラッシュバックを経験しながらも、自分何者かを探していくというのが基本的なバックグラウンドストーリーだ。
■ コミックの中に入り込んだように錯覚に陥る独特の世界観 「サーティーン」の最大の特徴は、トゥーンシェーダーと呼ばれるCG処理を利用したトゥーンシェーディングと呼ばれる描画手法によって、コミック調に表現されるゲーム画面だ。通常、3Dゲームというと、太陽やライトといった光源の位置や3D空間内に配置されたオブジェクト、プレーヤーの視点などを光学的に計算して、写実的かつ奥行きのある画面を描写するのが一般的だ。 しかし、トゥーンシェーディングの場合はまったく逆の手法で、3D空間内に配置されたオブジェクトを絵画的な色で塗り、わざと平面的な空間を描き出すのだ。それによってどういった画面になるかというのは、実際に画面を見てもらった方が早いだろう。
家庭用ゲーム機だと、ドリームキャストの「ジェットセットラジオ」シリーズや、プレイステーション 2の「ドラゴンボールZ」シリーズ、ニンテンドー ゲームキューブの「ゼルダの伝説 風のタクト」などがこの手法を使っている。「ジェットセットラジオ」であれば、グラフティという絵画的なアートがゲームの柱であったため。「ドラゴンボールZ」であれば、ユーザーが慣れ親しんでいるアニメ版を思い起こさせるため。「風のタクト」であればファンタジー的な要素を強めたかったゲーム世界を、写実的な3DCGによって妙な現実味を持たせたくないという理由でトゥーンシェーディングを選んだのだろう。 「サーティーン」は、ゲームの原作自体がもともとコミックということで、トゥーンシェーディングを選択しているわけだ。ちなみに、コミックからゲームというまったく違うメディアへと移った場合、往々にして原作とは違う表現手法で作られた作品は、アレンジがよっぽど上手くないとおもしろいゲームにはならないものだ。その点「サーティーン」は、妙に写実的なゲーム画面で原作の持ち味を殺してしまうぐらいならと、トゥーンシェーディングを選択したのだろう。 では、「サーティーン」はただコミックのキャラ達が動く“ムービーコミック”かというとそうでもない。確かに本筋の柱となる大きなストーリーは変わらないものの、その過程での行動はプレーヤー次第だ。コミックを見ていて「ああ、俺だったらこうしたのに!」と思うことはあると思うが、サーティーンのゲーム空間はコミック調とはいえFPSには変わりない。“こうしたのに!”を実践できるのだ。 コミックは登場人物に感情移入しつつ読むものだと筆者は考えているが、ゲームでは主人公はまさにプレーヤーそのもの、原作コミックの雰囲気を壊さず、ゲームとしてのインタラクティブ性を加えられるトゥーンシェーディングを採用した本作は、コミックとアニメの良いところが合わさり、相乗効果で面白みを増していると言えるだろう。
■ “TAP TAP TAP”は何の音? 擬音やマルチ視点といった、ゲーム内で使われるコミック的視覚表現 コミックは基本的に紙媒体で提供されるものなので、当然の事ながら音はない。ゲームは場面場面に合わせて音を自由に使える。しかし、だからといって安易にゲーム内の音を、現実の音に置き換えただけではおもしろくない。コミックにおける擬音というのは、長い年月をかけて確立されたひとつの様式美であり、視覚的に読者の脳みそへ飛び込んでくる。擬音の使い方も漫画家によってさまざまであり、漫画家によっては擬音表現が無かったらコミックとしての魅力が半減すると言っていいほど重要な要素といえる。 「サーティーン」では耳で聞く音に合わせてしっかり擬音も表現されるように画面を作りこんでいる。たとえば、堅い廊下を革靴などで歩くことによって発生する“コツ コツ コツ”という音、これは“TAP TAP TAP”という海外コミックの擬音として画面内にインサートされる。 ほかにも“BAOOOOM”という爆発を表現する擬音や、敵を倒したときの“AAHHHHHHH”といった悲鳴などが、実際の音と一緒に使われている。これらの擬音はゲーム中聞こえるすべての音に適用されるわけではなく、ゲームの効果として特に重要なものに擬音が使われている。
たとえば敵の悲鳴などは、遠くで撃ち合いの場合で本当に敵を倒したかどうかが視覚的にわかる。また、足音の擬音に関しては、後述するスニーク(潜入)ミッションで効果的に使われている。本来音だけだと敵がどこら辺の位置にいるのか分かりにくいところがあったが、TAPという擬音の文字の大きさ(当然、足音を発している敵が遠ければ小さくなる)や位置を直感的に掴むことができるようになったのだ。今まで曲がり角などで音を聞いて、敵に気づかれないように飛び出すような場面で失敗していたような人でも、バッチリのタイミングで飛び出すことができるようになるだろう。 そして爆発音に関しては、近くで爆発が起こった場合に耳が“キーン”となって音が遠く聞こえるという効果が加わる。さすがにUbi Softがリリースしている「Rainbow Six」シリーズのようにモーションブラーの効果が画面に加わって、動きが鈍くなるようなところまでは再現されていないが、コミック中の主人公はこんな状況で死闘を繰り広げるんだ、と考えると感情移入もひとしおである。
もうひとつ、「サーティーン」で注目したいのが、ポップアップウィンドウによるマルチ視点表現だ。ゲーム中、重要でありプレーヤーに注目させたいと思われるシーンや演出的に視点を変えた方がカッコイイ場面では、ゲーム画面中にサブウィンドウが自動でポップアップする。
そのウィンドウの中では曲がり角の先の様子や敵の背後から近付く自分の姿、気づきにくい位置から出現する敵などが映し出される。ずーっと主人公の視点で展開するFPSの場合、こういった同時進行のマルチ視点表現というのは、なかなか難しいものがあったが、コミック的表現を盛り込んだ「サーティーン」では、マンガ的な表現によって上手くこの問題を処理している。
■ 大統領暗殺に絡む思惑、人物、組織が複雑に絡み合うストーリーを完全日本語化 さて、今回発売される「サーティーン」は、完全日本語版ということで、セリフなどが完全に日本語へ吹き替えられたものとなっている。記憶を失いつつも戦闘分野に技能を発揮する主人公、何も分からない主人公を強引に振り回すかつての仲間達、主人公を大統領暗殺の犯人として追うFBI捜査官、軍や政財界の中枢に食い込むナンバーズと呼ばれる素性も何も分からない人物達。誰が味方で誰が敵かすらハッキリわからない登場人物達が、狙撃による大統領暗殺という事件をきっかけとして絡み合い、ストーリーはかなり複雑だ。 これが英語版だったりすると、セリフも劇中の状況説明もすべて英語ということになってしまい、英語がそれなりに堪能な人でないとゲームをストーリー含みで100%楽しむことは難しくなってしまうだろう。そういう意味では今回の日本語への吹き替えは素直に歓迎したい。
洋画やアニメーションでよく耳にするであろう声優たちの手により吹き替えられた本作は、「ダイハード」や「沈黙」シリーズなどの、日本人が親しんだハードアクションものの映画へと姿を変える。慣れ親しんだ言語が、どれほどストーリーを理解するのに有効なのか、改めて理解させられた。
■ 8つのスキルと特殊アイテムを使いこなし、映画の主人公ばりのアクションで数々のミッションを成功させろ
しかし、一般人相手のスニーキングではなく訓練された軍人相手のスニーキングが多い。そこで役立ってくるのが主人公が本来身につけているものの、記憶を失ったことによって一時的に使えなくなっている8つのスキルだ。 先ほどコミック的表現という形で説明した“敵の足音を視覚的に察知できる”というのもその一端で、「第六感」というスキルを身につけることでスキルに見合った恩恵を受けることができる。 ほかの7個のスキルだが、移動中に立てる物音が半分に減る「潜入」、両手に銃を持って射撃が可能になる「2丁拳銃」、水中に潜っていられる時間が2倍になる「潜水技術」、体力を回復するライフキットの効果が2倍になる「応急処置」、狙撃を行なう際に銃のブレが止まる「狙撃」、背後から近付いて殴ることで敵を気絶させる「格闘」、ロックされた扉を破るピッキングの所要時間が半分になる「鍵破り」となっている。これらのスキルは、マップの各所に隠されている青い書類を発見することによってスキルの恩恵にあずかれるようになる。
そして、もうひとつ使いこなさなければならないのが特殊アイテムだ。特にゲームをクリアしていくのに各所で使うことになるのが「フック」だ。マップ中、普通の移動方法では絶対に越えられないような部分が出てくるのだが、そんな時につかう事になる。そういった場所では天井などに必ずフックが引っかかる場所が用意されているので、周囲をよく探してみよう。 フックはただ引っかけるだけではダメで、引っかけたあとにワイヤーの長さを調節し、体を振って反動を付け、それでも届かない距離や位置は反動を付けて体を揺らしていく途中でフックを意図的に外して“飛ぶ”といった行為も必要になる。タイミングやワイヤーの長さを変えつつ飛ぶことも多く、アクション好きな人は腕の見せ所だろう。 トゥーンシェーディングという、通常のFPSとは大きく変わった外見を持つ本作だが、記憶喪失の主人公を軸に大統領暗殺事件を貫いたストーリーや高いアクションが要求されるゲーム内容、丁寧に翻訳された日本語のセリフとそれを喋る声優たち、どれも合格点を与えられる内容に仕上がっている。繰り返し遊ぶというタイプのゲームではないが、コミックを読むようにストーリーを楽しんで遊びたいという人にはうってつけのタイトルと言えるだろう。
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□マイクロソフトのホームページ http://www.ubisoft.co.jp/ □「サーティーン 完全日本語版」のホームページ http://www.ubisoft.co.jp/xiii/index.html □関連情報 【2004年2月24日】「XIII(サーティーン) 日本語版」体験版 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040224/demo0224.htm 【2003年10月6日】「XIII」Multiplayer Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20031006/demo1006.htm 【2004年2月25日】Ubi、「XIII 日本語版」発売記念イベントを3月13日に開催 優勝者にGeForce FX 5950をプレゼント http://game.watch.impress.co.jp/docs/20040225/xiii.htm (2004年3月10日)
[Reported by tyokuta]
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