今や海外ではゲーム界切っての知名度と人気を誇る、世界をまたにかける「墓荒らし」(TOMB=墓、RAIDER=荒らす者)、よく言えば「女性冒険家」ララ・クロフト。言わずとしれた「トゥームレイダー」シリーズの主人公である。 「トゥームレイダー」シリーズは'97年に発売されメガヒットを記録した第一作目以降、毎年1作ずつ続編が発売され、「2」以降も発売されるたびにヒットを更新。地道なゲーム画面内活動の末、ついには銀幕デビューを果たす。知性と粗暴性、自己中心的な正義感に満ちあふれた彼女のめちゃくちゃなキャラクター像は、銀幕においても人気を博し、「ゲームを題材にした映画としては快挙」ともいえる劇場版第二作目の制作にまで達成した(現在公開中)。 さて、そんな大人気キャラクターのララ・クロフトが暴れ回る「TOMBRAIDER」の新作が、2001年5月に発売された「TOMBRAIDER5」以来、2年ぶりに登場した。世界中が期待するこの一作、果たしてどんな作品に仕上がっているのだろうか。
■ 過去5作品からの流れを汲んだゲームストーリー
最新作となる今作から2作前になる「トゥームレイダー4 ラストレベーション」(以下TR4)冒頭にて、我らがララ・クロフトの幼少時代が初めて描かれた。この作品のキーパーソンとなるヴァーナー・フォン・クロイ教授は、TR4冒頭で幼少のララにほのぼのと考古学(墓荒らし?)を教える師匠として描かれる。しかし、TR4本編では、過去のとある事件からの逆恨みと、彼のそんな精神の暗黒面が悪霊に利用され、ララの敵として立ちふさがってくる。TR4ラストでは和解(?)するも、ララは崩壊するラストステージ、エジプト・ピラミッドの中に生き埋めとなってTR4は終了する。 続く「トゥームレイダー5 クロニクル」(以下TR5)は、TR4ラストで生死が不明となったララ・クロフトの葬式のシーンから始まる。彼女の生存を信じて疑わないヴァーナー・フォン・クロイ教授は、エジプトの砂漠を掘り起こしに向かうが、結局、ララは自力で脱出。この教授とのすれ違いは、ララの精神の暗黒面を強めていく。 と、ヴァーナー・フォン・クロイ教授とララとの関係はかなり深いことはおわかりいただけたと思うが、今作の物語は、その教授との会合シーンからスタートする。ララは絶縁状態にあった教授から突然の会合要請を受け、フランス・パリに赴くが、会った瞬間に一発の謎の銃声が鳴り響き、教授はこの凶弾に倒れ、ララはなぜか気を失ってしまう。 この時、パリではオカルトめいた連続殺人が起こっており、教授の死に様は奇しくもこの連続殺人のパターンに適合。最後に彼の部屋を出たララは、殺人の容疑をかけられパリ警察から追われる身となってしまうのであった。 ところで「ララは自分で殺していないんならば、逃げる必要はないのではないの?」という理性的なつっこみは、ありがたく拝聴したいと思う。しかし、そこはヒーロー、ヒロインの常、「自分の容疑は自分で晴らす」的な発想が行動の原動力になっているようだ。もっとも、ララの場合、過去5作で、これまでに自己中心的な正義感により何人も罪もない人(含む動物)を殺めてきているので、「捕まったらただでは済まない」的な切迫感も幾分かはあるかと思われる。
■ 操作系を一新し、生まれ変わったインターフェイス
今作もカメラをララの後方上部に配置した伝統の3人称視点システムを採用。左右方向入力で向きを変え、前後入力で前進後退。移動は「歩く」「走る」の2速式。「歩く」ボタンをホールドした(押したままの)状態の時のみ左右サイドステップ移動ができる。 TRシリーズにはいわゆるFPSでいうところのSTRAFE移動(高速左右移動)がないわけであるが、方向キーを入れた状態でジャンプをすると敵の方を向きつつ空中側転運動ができるので、TRシリーズではこれが事実上STRAFE動作に相当することになる。なお、ジャンプ動作は走って移動しているときに行なうと跳躍距離が倍増するのは前作まで通りだ。 攻撃およびインタラクティブ操作はアクションボタンひとつで行なうというのもTRシリーズの特徴だ。画面中の気になるところでアクションボタンを押せば、自動的にララがゲーム目的にそった行動を取ってくれる。具体的にはアイテムを取ったり、ドアノブを回したり、レバースイッチを上げ下げしたり、物を押したり引いたりといったアクションが可能となっている。攻撃は「構え」ボタンを押して武器を構えたときにアクションボタンを押したときだけ行なえる。 上でも述べたように、こうした伝統的操作系はTR6でも継承されているのだが、いくつか変更点もある。まず、従来のファンにはショッキングだと思われるのが、空中側転中の銃撃が行なえなくなってしまった点。横に回転移動しながらのあのかっこいい銃撃アクションが無くなってしまったのだ。「なぜ!?」といいたくなるが、TR6では敵をロックオンすると以後はそちらの方向を向いて走れるようになってしまったため攻撃/防御アクションとしては不要になってしまったということなのだろう。
もうひとつは、インタラクティブ操作について。TR6ではインタラクティブ操作可能なオブジェクトに近寄らせると「これはゲーム進行に関係ありますから動かせますよ」とプレーヤーに示唆する意味合いの「手」アイコンが画面右下にアイコン表示が出るようになった。これにより、闇雲にアクションボタンを連打しながらシーン内の徘徊する必要がなくなり、部屋をふらりと周回して「手」アイコンが出なければさっさと次の場所へ移動できるのだ。これは純粋な改良点と捉えていいと思う。
■ 「ステルス」システムでスニーキングアクションの要素を加味
今作でも、従来作同様に「屈む」動作があり、背の低い場所を通り抜けるときや、物陰に隠れるときにはこの動作のお世話になることになるのだが、「ステルス動作」はこれとは別に設定されたアクションになっている。 ステルスボタンを押すと、ララは忍び足で足音を消して移動ができるようになる。それだけでなく、ステルス動作中、壁の前でアクションボタンを押すと壁に張り付くことができこのまま移動したり、壁がとぎれているところでは壁の向こうを「覗き込み」が可能になっている。忍び足は敵の背後からの先制攻撃を行なう際に重宝し、「壁張り付き」は狭い隙間を通り抜けるときなどに役に立つ。ステルスモードは、もう一度ステルスボタンを押して自発的に解除するか、あるいは銃を構えると自動的に解除される。 姿勢といい、その動きといい、これはまさしく「メタルギアソリッド」や「Splinter Cell」などのスニーキングアクションゲームの影響を受けた結果であることは間違いない。こうした新アクションはゲーム中盤のパズルの解法に直接必要となってきたりするのでそれなりには活躍する新要素となってはいる。 とはいっても全体的に使用頻度は低めで、別に通常の「歩く」動作を「ステルス」動作に置き換えてもまったく支障はないとも思われ、なんでわざわざ新しいボタン操作として設定したのか謎めいている。
実は、長いTRシリーズの歴史の中で、必然性が希薄でありながらもなぜかインプリメントされてしまった新アクションはこれが初めてではない。筆頭にあげられるのは「TOMBRAIDER3」から追加された「疾走」アクション(通常よりも速く走る)で、今作でも搭載されているものの、使いどころはかなり限定されている。この「ステルス動作」も、プレーヤーが「なぜ付いていたんだっけ」と首をかしげる未来が待っている気がしてならない。
■ アドベンチャー要素が強まり、オリジナル要素も追加
「ええっ」とおもった旧作来のファンも多いと思うが、ララは今作ではゲーム開始時には大幅に弱体化して登場するのだ。具体的にいうと肉体的な身体能力が大幅に減退してしまっているのだ。いちおう、前作のラスト以降、「ララは冒険を忘れ、自暴自棄な毎日を送っていた」とのことなので、それが原因しているのかもしれない。 その肉体能力の低下は著しく、まず、重いドアが開けられない、重いバルブが回せない、ときている。ゲーム界きっての“乱暴娘”もトレーニング不足で“普通の女の子”になってしまったのである。 TRシリーズの象徴的なアクションである「壁掴まり」動作も、今作では弱体化のために持続制限時間が設定されてしまっている。ララはこれまでのように永続的に壁に掴まっていられないのである。すなわち、長い距離の壁伝い移動、綱渡り、雲梯動作は行なえず、持続限界時間に達するとララは手の痛みに耐えられなくなって手を離してしまうのだ。もちろん場所によっては落下死することもある。 このララ弱体化設定の影響で、パワーアップ前では到達できないエリアなどがでてくることになり、これは好意的に解釈すれば「よりパズル性が深まった」といえなくもない。このパワーアップ自体は、腕力、脚力といった感じでララの身体能力要素別に行なわれる。パワーアップの仕方は単純で特定のイベントをクリアするだけでOK。たとえばとあるドアを開けたり、ある物を押したりするだけで「ん~。なんだかパワーアップした気がするわ」という気の抜けたセリフとともに能力が向上する。 パワーアップは、ゲームを進めていく課程で絶対避けては通れないイベントに割り振られているので、「パワーアップのし忘れでこれ以上ゲームが進まなくなってしまった」(いわゆるハマリ)になることはない。 ところで、旧作のTRシリーズでは、そのゲーム性のほとんどがブロックを押したり引いたりの「倉庫番」チックなパズルや、レバースイッチの上げ下げで道を切り開いていくパズルがメインで構成されていた。TR6では、こうしたお馴染みのアクションパズルの他、RPGやアドベンチャーゲームでよく見られるクエストイベントや会話イベントが数多く盛り込まれ、ゲーム全体としては「新生トゥームレイダー」と呼ぶに相応しいアレンジが施されている。 過去のトゥームレイダーにおいてもララ以外に多数のキャラクターが登場した。しかしシリーズが5作も回を重ねながらも、印象深いキャラクターがララしかいないという異常事態は、やはりゲーム中にNPC(ゲーム内登場人物)とのインタラクティビティがほとんど皆無であったことが原因していると思う。 今作では、ゲームエンジンを一新したこともあり、ララは登場するほとんどのNPCと会話を持つことができ、NPC達が歴代TRシリーズからは考えられないほどドラマに介入してくるようになっている。会話は単なるオウム返しではなく、シナリオ進行に応じて重要な情報を提供したり、アイテムをくれたり、あるいはクエストを提案してきたりする。今や当たり前のゲーム要素ではあるが、TRシリーズにおいては実に革新的な改変が施されているのだ。
会話シーンでは、ララの返答を2択方式で選ぶことが可能。受け答えによって、多少、その後のシナリオに影響が出るようになっている。シナリオ分岐といってもせいぜい枝分岐程度なのだが、いずれにせよ、今作は従来作と比較して大部前進したインタラクティビ
ティを獲得しており、やり甲斐は格段に向上している。
■ 違和感の残る操作とカメラワークが今後の課題か
カメラワークにも謎が多い。通常の3人称視点にして欲しいシーンで、「バイオハザードライクな」カメラ固定モードになることがある。過去の作品では、視点をユーザー操作で通常の3人称視点にリセットすることも出来たのだが、今作ではこれができない。 なにしろ、せっかく新設されたステルスモードを使った「のぞき込み」アクションが、このカメラ固定のために使っても意味のないシーンすらある(覗き込んだ先が見えずに、視点が固定のまま)。もはや、これはバグといってもよく、ゲーム演出面においても意味がないし、誰にもメリットのない制限であるため、パッチ供給などで絶対に改善すべき点だと思う。 さらに言わせて貰えば、ステルスモードというモード自体が無意味なのではないかという気もする。移動スピードは「歩く」アクションと同じなのだし、「歩く」アクションをステルスモード扱いにして、「のぞき込み」操作は「見回し」操作のバリエーションで実装すれば、余計な「ステルス」キーコマンドも新設せずに済んだはず。とにかく操作感覚とカメラワークはTRシリーズの今後の課題となるだろう。 それと、あまり、シナリオ部分にとやかく言うつもりはないのだが、今作で初登場するプレーヤーが操作可能な2人目の主人公のカーティス・トレントだが、登場するのが遅すぎると思う。顔見せはパリ編から行なわれるのだが、実際にプレーヤーが操作できるのはゲーム後半にちょこっとだけ。必然性が感じられない。今作におけるステルス(スニーキング)アクションと2キャラ操作可能システムは、TR6のゲーム要素としてキチンと消化できていない印象が強い。
■ ゲームエンジンを一新、シリーズ最高のグラフィックス
主人公ララをはじめとして人間キャラクタのポリゴン数も旧来作に比べ10倍の5000ポリゴン以上となった。旧来作のララは、顔がレゴ・ブロック世界の住人風で、手は野球のグローブみたいな形だったのだが、TR6でのララの顔は、女性的な輪郭になり、手も指先一本一本までがすらりとした手になっている。ただ写実的にしたのではなく、旧来作の風味を残した形でのリアリズム・アレンジが施されているのも好感触だ。穴があるんだかないんだか不確かな鼻の造形、やりすぎな感じが漂う厚ぼったい唇に、観葉植物みたいな髪の毛は今作でも健在だ。 3Dグラフィックスマニアのためにテクノロジーサイドにもちょっと目を向けてみよう。影表現については投射テクスチャマッピングを使ったプロジェクションシャドウ技法を採用。セルフシャドウはないが、背景物にはちゃんと投射される表現になっている。スポットライト表現も同様のテクニックを使って実現されているが、投射のさせ方がちょっと不自然なのはご愛敬。 また、TR6にして初めてラグドール(Ragdoll)物理を実装。ララも敵も死ぬときは、ちゃんと各部位に当たり判定を保ち、人体の関節の自由度を考慮した形でゲーム世界を転げ回る。そしてシーン全体のポリゴン数の増加もさることながら、陰影処理がリアルになっていることに多くのプレーヤーが気づいたのではないだろうか。 たとえば、壁や床には通常のテクスチャの他に、法線マップが当たり前のように使われており、プログラマブルシェーダによる環境バンプマッピングでリアルな凹凸感を醸し出しているし、てかった床や水面にはマルチパスレンダリングによるキューブ環境マッピングの映り込みまでが適用されている。強輝度の光源体を見たときにはちゃんとグレアを起こす疑似ハイダイナミックレンジレンダリング表現も採用されている。今作ではDirectX8世代(プログラマブルシェーダ1.x世代)相当のシェーダはふんだんに活用されており、「トゥームレイダーも変わったなぁ」としみじみ思わせてくれるのだ。 なお、日本語版は最新パッチが当たった状態のビルドであり、安定性は先行発売された英語版よりも各段に向上している。日本語化はテキストだけでなく、台詞音声までも完全日本語化、完成度は高い。PS2版も発売中だ。PS2版はトゥームレイダーの歴史がわかる「コレクターズDVD」が、PC版を購入するとゲーム中BGMをCDにまとめた「ゲームサントラCD」がもらえる。購入時の店頭手渡しで数量に限りがあるので、欲しい人はゲームショップに急げ!
(c) Core Design Limited、 2002-2003. Lara Croft、 Tomb Raider and Core are resistered trademarks of Core Design、 Ltd.
□アイドスのホームページ http://www.eidos.co.jp/ □「トゥームレイダー 美しき逃亡者」の公式ページ http://www.tombraider.jp/ □関連情報 【8月4日】アイドス、「トゥームレイダー 美しき逃亡者」を10月23日に発売 バグフィックスした上でPS2、PC同時発売 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030804/eidos.htm 【2月8日】アイドス、「トゥームレイダー 美しき逃亡者」を正式発表 ララの新アクションや新キャラなどを公開 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030208/tombaod.htm 【3月21日】英Eidos、「トゥームレイダー」最新作を発表 「Lara Croft Tomb Raider: The Angel of Darkness」 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020321/lara.htm (2003年10月31日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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