スローライフにスローフード、それに加えて「癒し」ブームと最近はあくせくせずにのんびり過ごそうというのがひとつのトレンドとなっている。そういう世の中の風潮に合わせたのかどうかわからないが、列車運転シミュレーションの定番シリーズ「電車でGO!」の最新作となる旅情編は路面電車でのスローな運転が楽しめる作品だ。
■ スロートレインでGO! 路面電車というと、どうしても「古い」、「遅い」、「うるさい」というイメージを持ってしまうが、世界的には交通機関として再認識され、新型車がどんどん投入されている。路面から緩いスロープで数センチ高くなった駅(電停)とを緩いスロープで結び、床の低い路面電車を運転。バスのように交通渋滞に巻き込まれることなく、排気ガスも出さず、さらに電停と電車の床面を同じ高さにすることにより、バリアフリーを目指す。こうした一般にLRT(Light Rail Transit)と呼ばれる新コンセプトの新型車両が続々増えている。新幹線のように速くはないが、どの交通機関よりも人に一番優しい乗り物、それが路面電車なのだ。
で、これがゲームとどう関係するかというとまったく関係しないのだが、要するに路面電車は決して寂れゆく交通機関ではなく、これから注目すべきものであるし、ゲームに収録された路面電車もいずれそう変わっていく(伊予鉄道は一部導入済み)ことを理解しておくと一層ゲームが楽しめるだろうということが言いたいだけである。 ■ 日本各地の旅情溢れる路面電車を収録
・伊予鉄 愛媛県の県庁所在地である松山市内を中心に営業している鉄道会社。路面電車線以外にも、バスや通常の電車(専用軌道電車)線も運営する。路面電車線は、松山市内を走り、ゲームプレイ中には市内の中心部にある松山城を見ることもできる。路線自体も多く、JR松山駅と道後温泉を結ぶ路線がとくに有名でゲームでも楽しむことが可能だ。 さらにこの町は正岡子規の故郷や、夏目漱石ゆかりの地としても有名で、最近では漱石の「坊っちゃん」に登場した列車を「坊っちゃん列車」として運行しておりゲームでも楽しめる。この町が物語の前半で重要な位置を占める司馬遼太郎の「坂の上の雲」が2006年にNHK大河ドラマとして放映されることが予定されており、ぜひ一度は訪れてほしいところ。
伊予鉄の路線の特徴として、電停の間隔が短く、操作が非常に忙しい。さらに交差点も数多く信号にしたがわないとすぐに、信号無視で減点されてしまう。旅情編のテーマとなった路面電車を一番実感できる路線だ。
古都鎌倉と、小田急とJRの主要ターミナルである藤沢を結ぶ鉄道線。会社名の由来ともなった江ノ島のそばなど海岸近くを走り、車内からは海がよく見える。 ゲームプレイ中にももちろん海を見ることができ、ゲームで設定された「夏」を実感できる。ドラマ「俺たちの朝」の舞台ともなった極楽寺駅、大仏のある長谷駅(大仏はゲームに登場しない)、自動車と併走する腰越駅~江ノ島駅区間など運転していてとても楽しい路線。
電車のすぐ脇が民家になっている区間が多く、その辺りも楽しさを盛り上げてくれるポイントだろう。運転は、専用軌道の部分が多く比較的簡単で、初心者はこの江ノ電を最初に攻略するのがお勧めだ。 京都の路面電車として有名な京福電気鉄道の嵐山線(通称嵐電)がゲームには収録されている。京の都を走るためか難読な駅名が多く、帷子の辻(かたびらのつじ)や太秦(うずまさ)などクイズにも出そうな駅ばかりだ。 ただゲームではきちんとアナウンスが流れるので、画面に表示される駅名と合わせて理解すれば漢字の勉強にもなる。外国人が多く訪れるため、英語でのアナウンスがゲームでもきちんと流れるのがなんだか楽しいところ。
季節は秋と設定されているが、意外と秋を実感できる景色が少ないのが少し残念だ。運転は、電車のみの専用軌道と自動車と併走する併用軌道が交互に現われる区間がありやや難しいのだが、交差点の信号が青にロックされるため伊予鉄ほど大変ではない。ある意味伊予鉄との運転の差がわかり、生活の中でどう鉄道が運行されているのか実感できる楽しい路線だ。
ほかの3社は私鉄だが、この函館市電は函館市が運営する公共交通機関。函館市中心部から、五稜郭、湯の川温泉など函館市街を結んでいる。函館→北海道→冬→雪という素直な季節設定で、函館市内の雪景色を楽しめる。江ノ電の夏と同様、季節設定が抜群の路線である。 この「電車でGO! 旅情編」では、「朝」、「昼」、「夕方」、「夜」、「リアル(実際の時刻)」というプレイ時刻の設定が可能となっているのだが、夜の雪景色がお勧め。湯の川温泉付近の雪景色を夜寂しく走る市電にはもの悲しい哀愁がただよっている。
ちなみに、筆者自身は夏の函館市電にしか乗ったことがないのだが、やはり冬の函館はイイッ!!という景色がプレイ中に繰り広げられる。運転は併用軌道区間を走る市電のため伊予鉄と同じ難しさがあり、交差点数の多い分だけ函館市電のほうが難しいかもしれない。 ■ 初心者にも配慮されたゲームモード
もともと操作の簡単なゲームだがきちんと初心者にも配慮されたゲームになっている。運転に関するゲームモードは大きく分けて「入門編」と「運転乗務」の二つがあり、入門編にはアドバイスが付いている。 さらに入門編は走って止めるだけの「のんびり入門」、ポイント操作や制限速度など高度な運転が要求される「ほんもの入門」がある。運転乗務も同様に「のんびり運転」と「ほんもの運転」があり、それぞれの違いは入門編と同様だ。初めてプレイする人はアドバイス付きののんびり入門を選べばよいし、慣れるに従ってより高度な運転が要求されるモードで楽しめばよいだろう。 各モードでは4社の路線を選ぶことができ、函館市電のところで紹介したように運転時刻を設定できる。路線をクリアすると運転できる車両が増えたり、「資料館」に用意されている各車両の図鑑や観光名所の案内が見られるようになったりするのはこれまでのシリーズと同様だ。 ただ、この旅情編がこれまでの「電車でGO!」の運転と異なるのは、操作の忙しさ。伊予鉄のところでもふれたが、駅(電停)と駅の間隔が狭く、加速して少し経ったら次の駅が見えてくる。自動車との併用軌道部分には多くの交差点があり、信号が青なのか赤なのか、青であって間もなく赤になるのかなど判断に迷う部分が多いところだ。 この部分がほかの「電車でGO!」シリーズとの違いであり、旅情編の一番おもしろいところでもある。信号があとどのくらいで変わるのかは、インジケータを見つつ判断し、次の駅への到着時刻が迫っているなら、赤になるギリギリの場合でも交差点に進入する必要があるだろう。もちろん失敗すると信号無視となり減点されてしまうのだが、到着時刻を過ぎてしまっても減点になる。
交通の流れをよく読んで運転する楽しさは、これまでにないおもしろさ。伊予鉄と函館市電ではそれが難しさにもつながっているが、うまく列車を次の駅にすべり込ませられたときのホッとした感じは格別だ。
■ 「旅情編」専用コントローラも同時発売
マスコンや木製のブレーキレバーが独立式のコントローラで、アナウンスや視点切り替えの専用ボタンを用意。扉の開閉ボタンも、右用と左用が設けられている。実際このコントローラを使ってプレイしてみたが、専用のコントローラだけに使い勝手はよく、列車の加減速も容易だった。 「旅情編」をのめり込んでプレイするなら、必須のアイテムだが、なかなかデカイ上に目立つので、運転士気分が盛り上がり過ぎて家族から白い目で見られることも間違いないだろう。一人暮らしの方や、家で制帽をかぶっている方にお勧めしたい。 春の伊予鉄、夏の江ノ電、秋の嵐電、冬の函館市電と各路面電車で四季を楽しめ、交差点にさえ注意すればのんびりのんびりプレイできる。時速300kmで駆け抜ける新幹線の運転も楽しいものだが、文字どおりガタゴト走る路面電車のスローな運転は独特の楽しさがある。体験版も公開されているので、一度プレイしてその楽しさを実感したらぜひ製品版で存分に楽しんでほしい。忙しい生活の中で忘れかけていた、ゆっくりとした時間の流れを実感できるかもしれない。
■ というわけで現地取材行ってきました 鉄レビューお約束の現地取材に今回も行ってきました。筆者自身、一部区間とは言え4路線すべて乗ったことはあるのだが、東京から近いこともあって改めて江ノ電の鎌倉~藤沢間に乗ってきた。 「電車でGO!」は視点変更は可能なものの、「Microsoft Train Simulator」とは異なり自由度に制限があるので、今回は比較写真とはせず実写写真のみ。実際の江ノ電の雰囲気を味わってもらえればと思い掲載する。江ノ電の走る鎌倉の一番よい季節が6月なので、紫陽花とあんみつと江ノ電を味わいに、鎌倉へ出かけてみてはいかがだろうか。
(C) TAITO CORP. 1996,2003 制作協力(50音順): 伊予鉄道株式会社・江ノ島電鉄株式会社 京福電気鉄道株式会社・函館市交通局
□「電車でGO! 旅情編」公式ホームページ http://www.unbalance.co.jp/dengo/ryojou/index.html □関連情報 【5月9日】「電車でGO! 旅情編」体験版 http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030509/demo0509.htm (2003年6月6日)
[Reported by DOS/V POWER REPORT編集長 谷川 潔]
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