【特別インタビュー】

心理状態を探る「ホンネ発見キ」の秘密とは?
株式会社ナムコ 吉田広忠氏インタビュー

【吉田広忠氏】
プロフィール
株式会社ナムコ 第二開発本部 開発企画二部 主任。「ガンメンウォーズ」、「トウキョーウォーズ」などの開発にハードエンジニアとして筐体の設計に携わり、「ミリオンヒッツ」や「ホンネ発見キ」では企画を担当。

 微妙な声の変化から、相手の心理状態を測定するというイスラエルで軍事目的に開発された技術「Truster」を使った現在アーケードで稼働中のコミュニケーションツール「ホンネ発見キ」。質問者の質問に応える音声から心理状態を分析し、「リサーチ報告書」をプリントアウトしてくれる。また、1人プレイでは携帯電話を使って遠隔地の知りあいと心理ゲームを楽しむことができるユニークなコミュニケーションツールだ。独特の筐体デザインや、心理分析など、この魅力の秘密をさぐってみるべく、株式会社ナムコ・吉田広忠氏に話をうかがった。


■ 「プリクラ」に続く今までにない製品

インパクト大の「ホンネ発見キ」の筐体
--「ココロのホンネを探り出す」というとてもユニークなコンセプトですが、この作品の開発のきっかけは?

 '99年の12月ごろに、「プリクラ」の後に続く、今までにない市場活性化が期待できる製品を作ろうということになりました。私がたまたま「声でわかるウソ発見機」という「Truster」技術を使ったものが発売されているのを発見して「これは!!」と思いまして。プリクラのもつビジュアル性とトラスターの心理分析技術を融合した次世代嘘発見器を掲げて、スタッフでディスカッションした結果、これはいけるという判断が下り開発がスタートしました。

 「Truster」は、音声認識の上位技術ということで、我々も「単にウソ発見機だけではもったいない!」と思い、音声認識から1歩踏み込み、声から相手の心理状態を読む、ということに未来性を感じていたので、もっと幅広い展開を考えていこうとなりました。そこでもともとPCのソフトとして組まれていたプログラムを、約6ヵ月かけて1チップに納めたんです。そうすることで、プラットフォームを選ばずに、たとえばプレイステーション 2などへの展開を可能にしました。そこから今回の企画を本格的にスタートさせたんですよ。これが2000年の9月ですね。

--この技術を使用するにあたっての交渉には時間がかかったりしたんですか?

 そうですね、日本の代理店の方とやりとりを何度も行なったんですが、質問に対してのレスポンスにはやはりイスラエルの技術の方に返事をもらう必要があったりして、結構苦労しました。

--プラットフォームを選ばない、ということではPS2などへ商品展開する可能性もあったんでしょうか?

 新規性に富んでいるので、どういった売り方をすればいいのかというのもわかりませんよね? そういったことも含めて、我々は業務用の部署ということもありますので、1度実績を作ろうということで、業務用から始めることになりました。

--ワンチップ化されたものは、心理分析用のソフトの部分だけなんでしょうか?

 単純に、声の周波数ですとか、定期的に来るノイズを分析している分析用のプログラムだけですね。

■ 重要な「音声測定」

--相手の心理状態を読む、というのは、実際どんな仕組みで行なわれているんでしょうか? 例えば膨大なデータベースから似たような波形パターンを探し当てて判断するとか?

 ブラックボックスです(笑)。その精度はお墨付きのものなので信頼してアミューズメント化しました。「Truster」の技術者の方に聞いたんですが、フーリエ変換※1などを用いた独自の数式みたいなものがあるみたいですよ。心理分析結果に出やすいのが、興奮しているときや動揺しているときなんですけれども、興奮すると声が大きくなってくるじゃないですか。その声と普段の声の差を見ているみたいです。でも、単純にボリュームだけでなく、たとえば緊張しているときなどは、声帯が張ってきて、声に含まれる周波数成分が高くなるとか、口が乾いてくるので、ノイズが乗りやすくなるとか……なんていろんなことをチェックしているみたいです。

※1……フーリエ変換はフーリエによって作られた任意の波形が一つ以上の正弦波から合成できるという理論から生まれ、シュヴァルツによって開花したという任意の時間信号を周波数領域で表した数式。音声分析や画像認識などに使われている。

--例えば、使用言語によっての違いなんてのは音声認識の際に影響があるんでしょうか?

 それはないと聞いています。言語によって子音が多く周波数成分に偏りがあるので影響があるのでは、などいろいろ質問してみたんですが、基本的には人種による違いなどはないようです。また最初に「音声測定」でその人の平常状態を取り、その後の会話との差をチェックするので、個人差についても解決されています。だから最初の音声測定は大事なんです。

--感情に国境はないということですね?

 そういうことになります(笑)。

--判定の精度を上げるには、どう喋ったらいいんでしょうか? 叫ぶように喋ると認識しにくいとか?

 まずは周囲の雑音が受話器に入らないようにすることが重要です。そこで「音声測定」の時点では、大きめの声で喋ってもらうように設計されています。さらに声のボリュームレベルが一定範囲超えた場合など、データとして不適当なものは捨てるようになっていまして、ホンネ発見に必要なデータを揃えるまでは終了しないようにできています。だから人によっては時間がかかるんですけど。

■ 「ウソ研」

判定が終了するとプリントアウトされる「リサーチ報告書」。このサンプルに出演しているのは吉田氏(笑)。本人曰く、「出たがりなんですよ」とのこと
--筐体デザインも特徴的ですが、公衆電話のイメージは最初から構想されていたものなのでしょうか? 携帯電話との接続が最初に構想されていて、この筐体になったのか、それとも最初から電話型だったのでしょうか?

 最初から電話型でした。体格の違いを考えると、スタンド式マイクで集音するのは効率が悪いので、違和感ない形を考えると、この受話器が一番だったんです。マイクを向けられると、お客さんに抵抗感を生んでしまうというのもあります。テレホンサービスで、ウソ発見機があるという設定にすれば違和感なく遊んでもらえるかな、と思いまして。ちなみに「ウソ研」という研究所がそういう端末を街角に置いている、という設定イメージなんですけれども(笑)。

--プリントアウトされる「リサーチ報告書」には「ウソ研」の文字がちらほら見かけられますね。総評に「吉田統括部長」って書いてあるし(笑)

 出たがりなんで(笑)。アドバイスや総評のコメントを出している所長は5人いるんですよ。ソフトの企画や技術のチーフの人が実名で出ています。一応私が統括所長をやらせていただいてるんですけどね(笑)。日本人で初めての所長なんですよ。ウソ研はイラクやイスラエルにあったり、赤坂や池袋にあったりするんです。世界中にこの端末が置いてあるんですよ(笑)。このウソ研のネーミングにも時間がかかりました。「特命リサーチ200X」のような雰囲気を出したかったんすけどね。

--アドバイスや総評のコメントを作るのは大変だったんじゃないかと思うんですが? プレイされる方はこのプリントアウトされたものを楽しみにしていると思うんですけれども……

 まずアドバイスやコメントの制作方針を決めるまでが大変でした。どういう質問と展開が良いのかと、ウソ発見関係の本を読みあさりました。そしてソフトとハードの基本が見えてきた時点で、あとはひたすらこのテキストにかかっていました。作家さんと私の2人で取り組んだんですけれども。488の調査テーマ、それぞれに7問の質問がぶらさがって、さらに4つコメントが用意されているので……。あまりいろんなコメントを出し過ぎても、コメントごとの差がつきにくくなってしまうし、大人数で作っても統一がとれなくなってしまうので……。こういったものは、やはりテキストの数が勝負じゃないですか。ほんと作家さんには苦労をかけました。でもこの「ホンネ発見キ」の場合は、それだけじゃなくて、質問の最中に2回、調査された写真も残すので撮影のタイミングによっては違った面白さがかもし出されます。そういった意味では息の長い製品になると思います。

--そこには必ず遊びが入ってますしね(笑)

 ちなみに総評の下のメッセージは、特定の日にコメントが変わるようになっているんですよ。「ウソ研の日」とかあるんですよ。4月1日なんですけどね(笑)。他にも、年末年始などもコメントが変わります。お楽しみに。

■ 将来的には音声と映像の両面からの心理分析も……

--「ウソ研」もそうですが、ナムコさんのエレメカには、「技脳体」あたりから筐体、ゲームが独自のイメージで統一されてデザインされているな、という印象があるのですが?

 そうですね。ある意味ユーザーインターフェースに富んでいるというか。プリントされるものもそのひとつになるかと思うんですが、今回の「ホンネ発見キ」の「リサーチ報告書」は、読み物としては今までにないくらい凝っていると思います。従来のレシートみたいなものじゃなくて、しっかりとしたプロファイルのようにしたかったんです。心理分析で得られたデータはすべてこの報告書のなかに何らかの形で盛り込んでいます。私は欲張りなもんで(笑)、なんでも詰めこんじゃうんですよ。スタッフも小数精鋭で作っているので、統一がとりやすいというのもあるかもしれません。

--ナムコさんのエレメカは、カメラを使ったもので顔を取り込めるものが多かったような気がしますが?

 「レースオン!」とか「ガンメンウォーズ」なんかがそうですが、「ガンメンウォーズ」はカメラまわりのハードを担当しましたね。私はカメラを扱うのが好きなんですよ。

--今回の心理分析とゲーム内容の構築の段階でボツになったアイデアなんてありますか?

 それは次回作のネタにもなるので、あまり言えなかったりするんですけど(笑)、最初は1人でプレイするモードと、2人でプレイするモードは分けて設計していた部分があるんですよ。1人で「ウソ発見機」というのはやりようがないですよね? それで、1人用には心理分析するミニゲームを集めたようなものを作っていたんですけど、そうすると2人でプレイするものと違ってゲーム本来のテーマがわかりにくくなってしまうので、1人で遊ぶときは携帯を使って、離れた人とプレイしてもらう、ということでどちらもホンネ発見をするというものに軌道修正したことはありましたね。

 それから、携帯を使うということは技術的に問題が多く、作業は慎重に進めてきたんですが、途中で困難な壁にぶつかったとき、私が「これがなかったら将来的なインカムは半減しちゃうよ」と技術のスタッフを説得して、なんとか引っ張っていきました。実際にはハード技術者の粘りが実現に結びつけたというところでしょう。結果的にこの遊び方は前評判としてとてもよかったんでみんなホッとしてます。その他にも開発中にいろいろアイデア出たんですが、それは次回作をお楽しみに、というところでしょうか。

 あえて言うとすれば、顔の演出にもっとこだわりたいというところですね。カメラの精度を上げて、音声分析を画像分析に応用していけば、表情を見てあげることもできるわけですよ。音声と映像の両方から心理分析ができるようになりますから。質問に応える映像をリプレイすることもできますし(笑)。

--そうなると、ますますこの「ホンネ発見キ」にかかりたくない人も出てきそうですね(笑)

 その診断の方向をあまり深くしてしまうと、それを入れるためのギャグがまた必要になってきますから(笑)。やっぱりプレイしているときのプレーヤーの気持ちがどこにあるのかを常に考えて、やっぱりオチみたいなものを意識してますね(笑)。

--正確な診断ができるようになればなるほど、「笑い」の要素は重要になってきますね。エレメカを作る人にはやっぱり笑いが必要なんでしょうか?

 単純にウチには笑いの好きなスタッフが多いということでしょう(笑)。


 インタビューが終わったあと、記者は「ホンネ発見キ」に挑戦。「実は天然ボケってホント?」というテーマでナムコ広報、津久井さんに質問者になっていただいてプレイしてみた……。
 ハッキリいって質問の答えに窮するような内容が多く、ドキドキしながら答えたのだが(未回答が7問中3問……)、最後の質問の「ズバリ、実は天然ボケってホント?」に対する私の解答に関するウソ研のリサーチコメントは「心に迷いはなく、堂々と答えたようです」だと(涙)。

 総評には「解答者は質問者にご機嫌をとろうとしていました。なおかつ、解答者なりの平常心で話していました。結果から見て、ホンネ・トークだったようです。普段から思いつきで答える傾向があり、夢を尋ねられて『エッチすること』と言うように本能に従順な正直な人です。」と出た。この結果には「当たってる……」と思わないこともない。当然ながら今回の調査結果は「天然ボケです!」と力強く書かれていたことはいうまでもない……(涙)。

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□ニュースリリース
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http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010620/namco.htm

(2001年8月27日)

[Reported by 佐伯憲司]


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