【特別インタビュー】

「風のクロノア2~世界が望んだ忘れもの~」
ナムコ・サウンドチーム
柿埜 嘉奈子さんインタビュー 【前編】

【柿埜 嘉奈子さん】
プロフィール
株式会社ナムコ 第一開発本部所属。'72年生まれ。千葉県出身。'96年入社。「クロノア2」のサウンドディレクション、及びBGM制作などを担当。PS「風のクロノア door to phantomile」、PS「エースコンバット3」、PS2「 リッジレーサーV」などの効果音、BGM制作に関わる。

 記者が「風のクロノア2~世界が望んだ忘れもの~」をプレイして、もっとも印象に残ったのがBGM。「クロノア」サウンドの秘密に迫るべく、サウンドディレクションを担当された株式会社ナムコの第一開発本部・柿埜さんにお話を伺うことになった。BGMだけでなく、サウンド関連の興味深い話をたっぷり伺えた。インタビューの予定時間を大幅にオーバーしても、嫌な顔ひとつせず楽しく話をしてくれる柿埜さん。今回はBGM、効果音作りの苦労や思いを語ってもらった。


■ クロノアらしさ=メロディアスであること

株式会社ナムコ 第一開発本部 柿埜嘉奈子さん
--「風のクロノア2~世界が望んだ忘れもの~」をプレイして、もっとも印象に残ったのがBGMだったんですが、サウンドのコンセプトからお話をうかがえますか?

効果音とBGMの調整は(納期の)ぎりぎりまでやっていたんですけれども、曲自体に関しては、分かれている国ごとに応じて、すべてのステージ用に24曲以上を用意しました。でも、例えば24曲を、普通の音楽CDで聴いたとしても、あまり耳に残らないんじゃないかなと思ったんです。メディアがDVDになると、ゲームのボリュームもどんどん大きくなっていくじゃないですか。曲の数もいくらでも入れられるんですよ。結局200曲入れたとしても、たぶんきっと頭の中を流れていってしまうだけで、ユーザーの耳に残らないんじゃないかと。

 とにかく、国ごとに特徴を出そうというところから始まったんですよ。で、クロノアらしさという点で、メロディアスであるということですね。このメロディアスであるという特徴があるんで、例えばジョイラントならジョイラント、ボルクならボルクというメロディ、最初の泪の海なら泪の海、クロノア全体を通してのメインテーマみたいなメロディを決めちゃったんです。それを元にアレンジして曲の数を増やしていくというやり方をとったんで、たぶん国ごとの特徴がすごく出ていると思うんですよ。逆に「あの曲はあの画面のときの曲だ」というふうに、曲だけ聴いてもらってもパッと映像が浮かぶんじゃないかと思うんです。メロディを大事にして、アレンジで雰囲気を……例えば泪の海の洞窟の外と中は、元は同じ曲なんですけど、アレンジが違っていますよね。

 ゲームって絵だけキレイでもダメだし、音だけが目立ってもだめだし、いろんなもののバランスだと思うんで、曲もクロノアの世界観の一部として存在するものでありたかった。100%やりたい通りの曲が用意できたかというと、スケジュールの問題もあって難しかったんですが、限られた時間の中で、この映像にはこの曲、ということはできたと思います。

--実際の制作期間はどれぐらいだったんでしょうか?

制作期間ですか? プロデューサーの小林いわく1年。シナリオなどを含めると2年。サウンドに限っていうと、紙の上でステージができた時点から始まって、実際に映像ができあがるまでは長くかかるので、言葉でステージのイメージを聞いて、プランナーからグラフィッカーから通しでゲームに合わせた曲の流れ、テンションですよね。この打ち合わせをやった後で、作業に入りました。実際の期間としては半年ぐらいです。

 サウンドはこういってしまうと怒られてしまうかもしれませんが、一番しわよせが来るセクションなんですよね。絵が出ないと動きがつけれられない、動きがつけられないと音がつけられないという作業の流れなので。特に効果音なんかはかなり最後の方にならないと……。別にゲームに限らず、音屋さんという職業はみなさんそうだと思いますけど、ゲームは複雑なんで、やっぱり時間がかかりますから。ユーザーさんの動かし方によってもいろいろ変わりますし。結構、効果音もカメラの位置を見ながら調整してますので、映画じゃないから、カメラアングルも最後まで変更される可能性もあって。音のポジションとかも、カメラが寄っていればかなりハデに鳴らせばいいんですが、ステージ全体を見せたいから……という理由で思いっきり引いたアングルの場合は、遠くの方で小さく音を鳴らしても違和感があるじゃないですか。そのへんのデフォルメに効果音担当者は苦労してました。

■ まとまりのあるチームが統一感を生む

--曲や効果音の具体的な制作手順について教えてもらえますか?

映像が見られれば映像を見ながら、企画、グラフィッカー、私、作曲担当者が立ち会って打ち合わせをして、「こういったイメージで」ということを毎回確認をしながら作業を進めていきました。イメージの統一を取るというのは難しくて、音楽は目に見えないじゃないですか。サウンド担当同士ならある程度の共通の言葉があるので、イメージを伝えやすいんですが、他のスタッフともそれを言葉で伝えようとしなければならないので。

 これはサウンドの仕事なんだと思うんですけど、「この人の頭の中にはどんな音が流れているんだ?」ということを打ち合わせをしながら読み取るというか、感じ取らないといけない。1回の打ち合わせでは答えは出ないと思うんですが、「こういうことなんだろうな」「ああいうことなんだろうな」と目に見えないものを目に見えない形で伝えていく。

 クロノアのチームはまとまっているんです。今回は、企画、グラフィック、プログラム、サウンドのメインの人間がギュッと全体のイメージを打ちあわせして、その意向を他のスタッフに伝えていったので、まとまりやすかったと思います。サウンドに関しては、たとえば「このステージに合う曲」というテーマだけだと、いろんな解釈ができるじゃないですか。その辺の采配は難しかった。他にもいろんないい曲があったんですけど、「この曲はすごくいいけど、クロノアじゃない」って言っちゃったりとか。この場を借りて「ごめんなさい」ってことも多かったです。

--素人考えですが、前作があって、さらに新しい曲にチャレンジするのは大変じゃないかと思うのですが?

そうですね。前作のイメージはかなり重要なポイントです。ただ、前作はどちらかというと牧歌的な感じだったんで、ゲーム自体もクロノアが成長して、テンポもアップしたんで、サウンドも前作よりは1歩進んだ、大きくなったクロノアの曲にしたかった。ラストの方の曲なんかは、前作では聞けなかった傾向の曲に仕上がってます。ボスキャラ戦の曲も、前作ではいかにも「ボス戦」を強調した雰囲気の曲が多かったんですけど、今回は押え気味にして、その国の特徴を活かしたボスキャラ戦の曲になっているはずです。私は結構皆に言うばかりで、作ってくれたみんなは苦労したんじゃないかと思うんですけれど……。

 曲を書いたスタッフは8人なんですが、それぞれが全く同じ方向へは向けない。普通、同じ仕事をしていてもいろんな意見が出てくることなんて当たり前だと思うんです。それが物を作るために必要なことだと思いますし。今回ももっといろんな音楽的意見もあったんですが、私がフィルター役として、「ちょっとクロノアの世界からはみでているな」と思ったらああしようこうしよう、という感じで。国ごとに特徴があってもいいんだけど、クロノア全体としての統一感ということを気にしてたし……。いろんな人の助けというか、たとえばエンジニアさんとお話をして、音質、質感的な部分での統一感を出してもらったりとか。もし、違和感なく統一感を感じていただけたなら、今回私がフィルターとして機能できたのかな、というところでしょうか(笑)。

■ 古きよきゲームミュージックのメロディアスな部分を、クロノアに残しておきたい

--改めて聞くようですが、その「クロノアらしいサウンド」のフィルタリングの基準はどういったものなんでしょう?

「サウンド面のクロノアらしさ」というのは、私は「メロディラインがはっきり出ている」というのと、「使う楽器はエレクトロ系があんまり多くない」というところかなと思うんですけど。今回変則的に唄を作ったりとかしたんで、それにはギターとかバリバリ入っちゃってるんですけど(笑)。

 クロノア2の開発を始める前から思っていたのが、昔のゲームって、ハードのスペックのせいもあると思うんですけど、すっごいメロディがハッキリしている曲が多かったじゃないですか。ハードがどんどん進化していって、メディアがCDになって、DVDになって、なんでもできちゃって、いろんな楽器が使えるようになっちゃって、曲に関しては音数もいくらでも増やせるようになっちゃって……。

 でも我々はゲームの(やや誇張ぎみに)音楽を作っているのであって、クロノアじゃないと作れない曲というのを作りたいなと思っていて。私は個人的に最近のゲームをプレイしていて、プレイ後にメロディが耳に残る曲が少なくなってるんじゃないかなあ、という気がしていて……。古きよきゲームミュージックのメロディアスな部分を、クロノアに残しておきたいなーっていう気持ちがすごくあって。もう4小節のメロディを考えるのに数ヶ月、という時がありましたね。最初のころは。

 メロディも細かく複雑にするというのもアリなんですけど、今回はそれをあえて封印して、わかりやすいメロディを「ドンッ」と入れようという考えがありまして。耳で捉えやすいメロディで、かつゲームをじゃましないメロディ。すごく質のいいシンプルなメロディを用意して、そこから発展させましょうという。

 曲を作る人間としては、細かくいろいろやりたくなっちゃうんですよ。そこを画面との一体感を優先してもらって。曲を作っている途中段階でメスを入れてますから。制作の順番としては、ラフができたら1回いろんな人に聴いてもらって、方向性の確認をしてから、完成系に持っていくという感じだったので。私も含めて、結構曲を作るうえで、いろんな制約は多かったと思います。「ここにメロディを入れてください」とか、「もっとメロディをわかりやすくしましょう」みたいに。

 曲のバランスを取るという作業は、最後はもう感覚になっちゃいますね。なんか自分自身がフィルターかな? という感覚で、聴いてみて「なんか変じゃないからいい」とか。音楽はダイレクトに耳にくるじゃないですか。音は、勝手に耳から入ってきて、脳に伝わる。そのへんは逆に人間的な感覚でやったほうがいいんじゃないか? 自分がユーザーだったらどうだろう? こういう時にこの曲が流れたら感動するかも? とか、テンションが高すぎるかも? とか。ゲームの流れを考えながらですね。


 後編は「クロノアソング」や「クロノア語」のエピソードなどに触れる。おたのしみに。

(c)1997 2000 NAMCO LTD.

□ナムコのホームページ
http://www.namco.co.jp/
□製品情報
http://www.namco.co.jp/home/cs/ps2/klonoa2/
□関連情報
【3月15日】ゲームレビュー「風のクロノア2 ~世界が望んだ忘れもの~」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010315/kulonoa2.htm
【4月13日】ゲームレビュー「風のクロノア2 ~世界が望んだ忘れもの~」その2
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010413/kuro2.htm

(2001年4月25日)

[Reported by 佐伯憲司]


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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