【特別インタビュー】

「決戦」シリーズに込められた
シブサワ流エンターテインメントの姿とは?
シブサワ・コウ特別インタビュー 【前編】

【シブサワ・コウ氏】

 「信長の野望」や「三國志」といったシミュレーションゲームのオープニングムービーの最初に表示される「A KOU SHIBUSAWA PRODUCTION」の文字。コーエーファンにとってはお馴染みの表記だが、このゼネラルプロデューサー“シブサワ・コウ”の正体については、同社のトップシークレットとして長いこと謎に包まれていた。筆者もあらゆるシブサワタイトルをプレイしてきた自称ファンのひとりだが、彼の正体については「プロジェクトチーム全体を表す名称で、特定の個人を指しているわけではありません」という攻略本だったかゲーム雑誌だったかに載せられていた広報コメントを、10数年ものあいだ、うかつにも信じ切っていたばかりか、周りに言いふらしていた気がする。小っ恥ずかしい話である。

 というわけで今回は、「決戦」シリーズの発表と同時に秘密のヴェールを脱いだプロデューサー、シブサワ・コウ氏に、同氏プロデューサー20周年記念作品「決戦II」に関する話を伺った。発売を3月29日に控えている「決戦II」の醍醐味についてはもちろんのこと、制作秘話、次回作の話、他ハードへの興味などなど盛りだくさんの内容でお届け。前後編合わせてごゆっくりお楽しみください。


■ 「三国志演義」の上で自由に遊んでみたくなりました

 まず最初に3月29日に発売される「決戦II」の魅力についてお聞かせください

シブサワ・コウ氏 「決戦」のあらゆる部分を大幅にグレードアップしたのが「決戦II」です。グレードアップのポイントは、作品のコンセプトにもなっていることですが「よりダイナミックに、よりドラマティックに」ということで、戦闘部分はよりダイナミックに、ストーリー部分はよりドラマチックに見せる、という部分にもっとも力を入れました。

 ダイナミックという部分では、たとえば前作では1画面上に100人の兵士を出現させて戦わせていましたが、今回はそれを5倍の500人に増やしました。また、ステージ数も前作の10から30と大幅に増やしています。さらに前作の戦闘は野戦のみだったのですが、今回は野戦のほかにも、攻城戦と水上戦の要素を追加して、バラエティに富んだ戦闘を楽しめるようにしました。

 あと、これが大きなポイントなのですが、今回はプレーヤーが戦いに直接介入することができます。妖術を出したり、突撃したり、単騎駆けして敵陣に斬り込んでいったりと、さまざまな命令をプレイヤーが直接出せるようにしました。これが決戦IIの大きな醍醐味になっているかと思います。

総帥として全軍を動かすか、一武将として武功を立てるか。「決戦II」の戦闘にはまるきりプレイ感の異なるふたつの遊び方が用意されている

 先ほど1時間ほどプレイさせていただいたのですが、全編驚くほどファンタジー世界になっているという感じを受けました。これまで「三国志」シリーズとして、ある意味正当な三国志をゲーム世界の中に創り上げていったコーエーが、ここまで三国志をファンタジーにしてしまうとはちょっと意外な気がしました

シブサワ・コウ氏 いままでコーエーは、「信長の野望」や「三国志」といった“歴史シミュレーションゲーム”を20年間作ってきました。これはこれで多くのファンに支持されておりますし、これからも変わらず新作のリリースを続けていくつもりです。「決戦」シリーズは、それとはまた違う観点で、これまで我々が取り上げてきた日本の戦国時代や古代中国の動乱をファンタジーで表現してみたくなりました。

 前作「決戦」では関ヶ原からスタートして大坂の陣までを再現しましたが、「決戦II」では三国志を題材にして、「愛と戦い」というテーマに沿った形で、登場人物たちも自由な発想で表現してみました。一例を挙げますと、男性を女性にしてみたり、架空の人物を登場させたりとか、はたまた武将の性格を180度変えてみたりなど、とにかくまったく新しい「三国志」ストーリーをオリジナルドラマとして演出してみました。

 ドラマというところでは、中山エミリさん、市川染五郎さん、佐伯日菜子さん、野村恵里さん、それから大助・花子さんなど、当代一流の女優やタレント、歌舞伎役者の方々などに登場していただいております。しかも声優として活躍していただいただけではなく、ポリゴンキャラクターとしてもご登場いただいています。

 実写の顔を使うというアイデアはどこから出たのでしょうか

シブサワ・コウ氏 最初は声優としてのみお願いするつもりだったのですが、特に諸葛孔明(しょかつこうめい)役の市川染五郎さんに関しては、歌舞伎の世界での芝居づけといいますか、醸し出す雰囲気が孔明(こうめい)の話し方と合うのではないかということになりました。このアイデアは演出の片岡さんから出たものなのですが、じゃあお願いしてみようということになって、市川さんの事務所にお願いに上がりましたら、なんと市川さんが「決戦」のユーザーだったんですね。

 「決戦」がおもしろかったので「決戦II」は喜んで出ましょうということになって、今回のような形になりました。声だけではなく、俳優の顔をした武将がプレーヤーと一緒に、しかも仲間として登場するというところに、新しいゲームのおもしろさを盛り込めたと思っています。

ポリゴンキャラクターとして登場している女優たち。左から順に、中山エミリさん扮する貂蝉(ちょうせん)、佐伯日菜子さん扮するヒミコ、野村恵理さん扮する孫麗(そんれい)

 第2弾の素材を「三国志」にした理由というのは、やはり「信長の野望」の次は「三国志」から、ということからでしょうか?

シブサワ・コウ氏 それもありますが、中国の「三国志」というのは、コーエーの社内における予備知識のひとつになっていますから、作りやすいというのが1点。

 それから「決戦」シリーズというのは、2大勢力の激突が背景にあります。劉備(りゅうび)と曹操(そうそう)、もちろん呉の孫権(そんけん)もいますけれも、劉備と曹操を軸にすれば、2大勢力のぶつかり合いになり、ちょうど前作の関ヶ原における東軍対西軍のような形で、物語を組み立てられる。“合戦エンターテインメント”である「決戦」シリーズの素材として適しているなと思いました。

 あともうひとつ、「決戦II」の開発をスタートさせた際に、前作にはない要素を盛り込みたいと考えました。それが“妖術”の要素です。

 いかにも三国志らしいですね

シブサワ・コウ氏 そうですね。諸葛孔明が妖術を使ったという記述もありますから、これをどんどん拡大解釈して、軍師は妖術を使えるようにしようと、冒頭にも出ましたけどファンタジー化していきました。もともと、前作「決戦」でもファンタジーの要素は含まれていたのですが、ある程度史実の要素は残してました。しかし、「決戦II」ではファンタジーの度合いは結果としてより強くなりましたね。
美三娘(びさんしょう)の妖術“飛礫”。前作と同じように個人技を使用すると部隊の志気が低下するので、使いどころが難しい


■ 未曾有の迫力と興奮を実現した大規模戦闘

 先ほどテストプレイしていて一番驚いたのは、合戦時の「新・群れ制御エンジン」です。500人が1画面上で動き回り、かつプレーヤーがそれらを思うがままに自由に操作できる。これは開発に時間がかかったのではないでしょうか?

シブサワ・コウ氏 ずいぶんかかりました。ただ、前作「決戦」で、すでに群れ制御エンジンはある程度作っていましたから、今回は、プレーヤーが群れを直接操作できるというところを中心に開発していきました。この部分の開発は、結局最後の最後まで調整を行ないました。

 この群れを直接操作するという試みは、実は「決戦」当時からやりたかったことなのですか?

シブサワ・コウ氏 いえ、「決戦」は、あの当時のプレイステーション 2の能力を100%活かして開発したと当時は思っていましたので。ただ、時間が経つことによっていろいろなことがわかってきましたし、ソニー・コンピュータエンタテインメントさんが提供する開発システムなどによって、プレイステーション 2の機能をさらに活用できるようになってきたこともあって、「決戦II」では、さらに新たな要素を盛り込むことができました。

 すると、「決戦II」も現時点でのプレイステーション2の能力を100%活かしきって開発されているわけですか? たとえば群れを1000人にすることは不可能?

シブサワ・コウ氏 現時点では無理ですね。ただ、「決戦II」ではダイナミック&ドラマティックという形で、群れを500人に増やしてみましたが、「決戦III」では、また違った形、方向性で、ユーザーの皆さんを驚かせたいと考えています。
アナログスティックで操作することにより、部隊を自由に動かせるほか、武将の周りに集合させて突撃させたりといった行動が取れる。部隊をボタンで素早く切り替えていくと、劇的さもひとしお。これは楽しいぞ!

 群れを構成している兵士間の相互援護作用をリアルに計算したということですが、これはどういうアイディアから生まれたことなのでしょうか?

シブサワ・コウ氏 これはメイン企画を担当している者のアイディアから生まれました。たとえば100対100がぶつかり合うとして、一方が密集隊形をとっていて、一方が分散隊形だったとしたら双方のパワーは違うはずだと。部隊の中にもパワーが集中する場所というものが存在するはずだから、それを再現しようということになりました。いろいろ試行錯誤しまして、最初は兵をチカチカさせたり、色を変えたりしたのですが、最終的には兵の頭の上に帽子のような赤と緑の色をかぶせて、全体の色の濃淡によって強さを表現しました。

 使っていて便利だなと思ったのは、妖術を撃ったりするときにどこに撃てば一番効率がいいのかひとめでわかることです。最初は援護支援の効果として表現してみたのですが、意外と妖術を撃つときに便利だなと(笑)。

 「決戦II」では、武将ひとりから全軍の操作まですべてリアルタイムで行なえるわけですが、この辺の遊び方のバランスというのはどんな感じになっているのでしょうか?

シブサワ・コウ氏 今回は最初に「軍議」があって、軍議で基本的な作戦を決めます。合戦ではその作戦通りに各部隊が動いていきますので、プレーヤーは武将ひとりをずっと操作してもいいし、俯瞰の視点から逐一部隊に細かい指示を与えていってもいいです。この辺は、コーエーのお家芸であるシミュレーションゲームですから、どう遊んでいただいてもいいと思っています。
合戦前に行なわれる軍議では、配下武将が策を進言してくれる。選んだ策によってステージの難易度が変わるので慎重に

 話は変わりますが、今回、呂布(りょふ)を初めとする一部の有名武将が登場していない気がするのですが、これは何か方針が?

シブサワ・コウ氏 単純に容量の問題です。とにかく三国志は英雄英傑のオンパレードですが、ゲームの中に入れられる武将数には制限がありますので、泣く泣く削った形です。ストーリーに関連付けられた武将から優先的にピックアップしていきました。呂布(りょふ)に関しては入れたかったのですが、劉備と曹操という2大勢力のぶつかり合いが「決戦II」のメインテーマですから、ゲームに含める第3勢力という視点から考えた場合に、呂布は小さいということで外さざるを得なくなりました。


■ 劇的要素に満ちあふれたムービーシーン

 ムービーのクオリティが前作に比べて格段に上がっていますね。しかも途中、これはムービーなのかプログラムされたゲーム画面なのかよくわからないこともありました。

シブサワ・コウ氏 それはこういうことなんです。前作「決戦」では、ムービーですべてのイベントを処理しました。今回の「決戦II」では、リアルタイムレンダリングでポリゴンキャラクターをプログラムで動かして、イベントのドラマを演出してみました。

 そしてムービーでないと表現できないシーン、例えばエフェクトをたくさん出したり、レイヤーで空気感を表現したりしたい場合はムービーを使い、会話のシーンや3人ぐらいでショートドラマを演じるような場合は、プログラムを使いました。そうした結果、ムービーのクオリティは格段に向上し、プログラムで演出するイベント数は前作の8倍にもふくれあがりました。政略や軍議も各ステージごとに作成して、全部で30パターン用意されています。

 「決戦II」では「フルボイスでフルアニメーションのゲームとはこういうことです」というひとつの形を作れたのではないかと思っています。
これはムービー。全体的に柔らかい感じで幻想的な雰囲気が漂う。右の大助・花子コンビ扮する孟獲(もうかく)・祝融(しゅくゆう)だけ、なんだか実写のようだが。「決戦II」の孟獲(もうかく)は尻に敷かれまくり

 中には思わず笑ってしまうような内容のムービーも含まれていました。この笑いの要素はいままでのコーエーの作品にはなかったものではないかと思うのですが、これは狙って作ったのですか?

シブサワ・コウ氏 これまでは割と真面目に紳士的に作ってきましたが(笑)、どうせ弾けるなら徹底的に弾けてファンタジーの世界まで飛んでいってしまおうという感じで作りました。気楽に笑いながら楽しんでほしいと思っています。

 その最たるものと言えそうなのが、“大助・花子コンビ”が演じる孟獲(もうかく)・祝融(しゅくゆう)ですよね。これはどういう経緯で大助・花子コンビが演じることになったのですか?

シブサワ・コウ氏 大助・花子さんのおふたりのイメージそのものです。台本を書いているときから、南蛮(なんばん)は関西語圏と決めてましたので(笑)、南蛮にもふたり以外にも武将がいろいろ出てきますけど、すべて関西弁でしゃべります。孟獲・祝融は夫婦ですから、これは夫婦漫才、しかも“どつき漫才”の世界しかないなというわけで、大助・花子師匠にお願いに上がったところ快諾をいただけた次第です。

 孟獲・祝融のムービーは相当笑いました

シブサワ・コウ氏 おもしろいですねぇ。とにかくアドリブが凄いんですよね。全部で3本用意されていますが、それ以外にさまざまなパフォーマンスが用意されています。たとえばプレーヤーが祝融(しゅくゆう)に特殊な攻撃を依頼すると「よっしゃ、わかったでー」といってくれたりするような、ちょっとした受け答えです。祝融は、劉備(りゅうび)の仲間として一緒に戦ってくれるのですが、大助・花子さんの名演のおかげで、妙に親近感を覚えるかと思います。

こちらがプログラムされたポリゴンキャラクターが動きかつ喋る、ドラマイベント。動きは驚くほどスムーズでTV画面で見ると、たまに見分けがつかなくなるほど


 後編ではプロデューサー、シブサワ・コウご本人に関する興味深い話をたっぷりとお届け。どうぞ、お楽しみに。


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□関連情報
【3月19日】最新スクリーンショット集 「決戦II」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010319/kessen.htm

(2001年3月26日)

[Reported by 中村聖司]


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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