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【特別インタビュー】

「MOTHER」からポケモンアニメ音楽
そして「ちっちゃいエイリアン」
田中宏和氏インタビュー 【前編】

【田中宏和氏】
~ クリーチャーズのオフィスにて ~

 「ポケットモンスター (ポケモン)」などのゲーム制作で知られる株式会社クリーチャーズが2月27日に発売を予定しているゲームボーイカラー用新感覚ゲーム「ちっちゃいエイリアン」。光の中にいる“ちっちゃいエイリアン (ちゃいリアン)”をゲームボーイカラーの赤外線通信部で捕まえ、いろいろとコミュニケーションをとることができる。不思議な“ちゃいリアン”達とのコミュニケーションはこれまでのゲームにはない可笑しさに満ちあふれている。

 今回は「ちっちゃいエイリアン」の原案、ディレクションおよびサウンドを担当した田中宏和氏にお話を伺った。田中宏和氏はこれまでに任天堂において「ファミコン」、「ゲームボーイ」などの音源開発に始まり、「ポケットカメラ」や「ポケットプリンタ」などの商品開発も行なってきた。糸井重里氏の「MOTHER」の音楽を鈴木慶一氏 (ムーンライダーズ) と共に作り上げたことでも知られているが、最近ではむしろアニメ「ポケットモンスター」の音楽を担当していることで有名。


■ ファミコンの音源設計から「ポケットカメラ」、そしてポケモンアニメの音楽まで

 まず最初にこれまでの経歴を聞かせていただけますか?

田中宏和氏 最近では「ポケモン」の音楽の人ということになっているんだけど、「ポケットカメラ」や「ポケットプリンタ」の商品企画もやっているんです。でも、 (音楽と商品企画では) なかなか繋がりにくいじゃないですか? だから「ポケットカメラ」を作ったというと、「音楽ですか?」と聞かれて、「違うって」 (笑) 。

 任天堂に入ってからだと、元々ハードの設計というか、昔はプログラムは大したことなかったんで、会社に入ってからコンピュータとか勉強したんです。で、入った当時は宮本茂さんとかと一緒に「スペースファイアーバード」とかやって、業務用の“ピコピコ”とか“プクプク”といった音を出してました。
 同時に「ゲーム&ウォッチ」などは、CPUも4bitと小さいものなのでプログラムも企画もやりました。そしてファミコンの時は音をやりつつ、僕は横井軍平さん (ゲームボーイの設計者として有名) のところにいたので、ロボットとかちょっと変わったものを担当していました。そしてファミコンの「MOTHER」を担当。ゲームボーイは立ち上げからやっていたんで、メーカーとして仕様設計みたいなところから初めてテトリスをやりました。スーパーファミコンでは「マリオペイント」の音のところや「MOTHER2」を担当。そのあとポケットカメラやポケットプリンタを企画開発し、これがおわった時点で任天堂を退社しました。

 そのあとは、クリーチャーズを窓口にして「ポケモン」のアニメと劇場版の作曲を担当しつつ、石原 (石原恒和、クリーチャーズ代表取締役社長) から「なにか1本作ってみませんか」と言われたわけじゃないけど、まぁ、そういう暗黙の了解の中で「ちっちゃいエイリアン」を始めたんです。

“ちゃいリアン”にはあちらこちらで結構ブタが登場する。カワイイ



 ゲームの制作と音楽の制作の比率はどのように調節されていますか?

田中宏和氏 音楽やるときは全くゲーム (の制作) はやりませんね。もちろん雑誌を読んだり本を読んだりはするので、そういったものからアイディアはどんどん蓄積していきます。それに、ゲーム作りは1年以上かかるのでいくらかは離れていても、他のスタッフに課題とテーマなどを伝えておけば制作は進んでいきますから。
 音楽とゲームの企画を、常にバランスをとりながらやるのが自分なりの独自性なのかなと思っているので。今までのゲーム業界の人って、もうゲームのみじゃないですか。でも僕の視点は……たぶん一番古くからゲームの業界にいたにも関わらず、わりとそういうところはラフに構えていたと思うんです。逆にそう言ったところが自分の面白い部分かなと思うし、それが消えることなく音楽もやっていきたいなと思ってます。

 ポケモンに関しては、ビジネスがデカイじゃないですか。CDが何百万枚も売れたり、視聴率が15%とかあって、 (そういったマスメディアに) 流すという自分のプロ意識がありますね。それはモノを作っていくというところからすると、楽しませたいとか、損をさせたくないとか、なにがしかの気持ちをくみ取って欲しいという想いがある。基本的にはゲームも同じでなるべく (ゲームと音楽の) 両方を見ながらやりたいと思っていました。


■ 我々がゲームを作る意味

 「ちっちゃいエイリアン」はいつから作り始めたんですか?

スペクトラムコミュニケーターを合わせることで若干固定される。赤外線受光部がずれると通信できなくなる可能性もあるので、ぜひともこれを付けてプレイしたい……って言うか、雰囲気出るし
田中宏和氏 もともとはじめは、ゲームボーイカラーには赤外線のポートがあるんですが、これでなにでかできへんかね、という発想からスタートしたんです。だけど、カメラもそうだったんですけど、僕はもともと宮本さんみたいにゲームをチームで作ってきた人間ではないんで、そういった (ゲーム制作の) 積み重ねが何もなかったんです。そういうところを逆手にとってカメラも作ったんですけど、今回の発想の原点も、基本的に赤外線発信部で捕まえるというアイディアをベースにふくらませていったんですよ。

 エイリアンとお話しするというアイディアは実は任天堂にいたときからあったんですが、赤外線を利用してゲームを作るというアイディアはクリーチャーズに来てからですね。
 まず最初にプログラマ、グラフィッカー、僕の3人でキャラクタを設定して“光”に実際に反応するのかしないのかとか、リモコンの信号をどこまで正確に読めるのかといった実験を始めたんです。リモコンのメーカーコードを読めるのか読めないのかとか、そういった基礎的な実験を約半年ほど続けました。そのあとゲームのアイディアを固めて、その都度、石原に相談して、修正したりプラスアルファを加えたりしながら、スタッフも10名ほどに増やし本格的にスタートしました。

 でも、どうしても1年半くらいで作りたかったんですよ。クリーチャーズに来て1本目だし、もともとゲームをガンガン作ってきた人間じゃないんで、大きなシステムを組めないし。それに、たまたまこのチームにゲームを初めて作る人が半分くらいいたんですよ。なるべくそういった人たちも生かせる形でゲームを作っていこうかなと思ったんです。
 ゲームといえども20年から30年の歴史があるわけじゃないですか。どうしてもその経験則からものを作ろうとするので、新しい人が入りにくい状況はどうしてもあると思うんです。初心者でも作れるようなアイディアのゲームが作れたらそれは新しいかなと思ったんです。それは、僕がこの業界に入って20年になるんですが、ゲーム作りという点ではまだまだ新人という気持ちなので。その時、「ドラゴンクエスト」や「マリオ」、「ゼルダ」といったチームが作ったゲームと並べたときに、こちらのゲームを面白がってもらえたり、それなりのビジネスに繋がるゲームに仕上げるのがこのゲームを作る上での指針だったんです。

 例えば、登場する“ちゃいリアン”ですが、全員1ドットか2ドットでもいいと思ったんですよ。なにも我々が、細かく描き込んだキャラクタを登場させて、そういった分野で他のソフトと勝負する必要はないんです。8×8ドットの中で2パターンしかアニメしないのが面白いと思ったし、そういったイラストでもなにがしかの共感を得てもらうことができれば、そこに意味があると思うんです。そういったことを若い人に言ってきたし、その点では作りは丁寧です。基本的な設定を決めてしまったあとは僕は「8×8ドットの2パターンの切り替え」とか指示して、時々「これはいいね」とか言うだけで、あとは若い人に任せました。

ミニゲームの一つ「かちぬき! クルクルバトル」。ルーレットみたいにくるくる回っているところを自分の目的のところで押して止めるというもの。ちなみに画面写真では「どきどき」となっていますが、このほかにもたくさん看板があります。クスッと笑うような可笑しいものばかり “ちゃいリアン”のコスモを回復のために遊ぶこととなる「ポラリトン」。こちらはパチンコをイメージしたデザイン。なかなかハマリます




■ “ちゃいリアン”の個性が際だつことで世界観が広がる

おきにいりの“ちゃいリアン”を冷凍保存する“おきにいりカプセル”とダークマターをためる試験管! 田中さんから「ダークマターは危険なんでさわらないでください」と言われました
 プレイしてみて思ったんですが、“ちゃいリアン”は一人一人の性格がかなり際だっていると思うのですが、それも全ておまかせでしょうか?

田中宏和氏 おまかせなんですが、「ちっちゃいエイリアン」では、“ちゃいリアン”の個性が出てきたらゲームとしてOKだと思ったんです。初心者が短時間でやるゲームと言えばミニゲーム集とかあるじゃないですか。そうなったらダメで、“ちゃいリアン”のミニゲームを遊んだときにその“ちゃいリアン”の性格が浮き彫りにされたり、「あぁ、コイツこんなヤツやったんや」とか「どうしょうもないヤツやな」とかその都度その都度、特徴がわかればOKなんです。

 “ちゃいリアン”はほかにもいくつか作ったんですが、ボツになったのがたくさんあるんです。今でもくだらない“ちゃいリアン”が多いんですが (笑) 、くだらないで終わるんじゃなく「こいつらこんなヤツなんだと」わかったときは世界観が広がるし、ただのミニゲーム集ではなくて、キチンとしたゲームになるかなと思うんです。そういった意味では吟味していますよ。

 もうひとつ「ちっちゃいエイリアン」のスタート時にあったイメージは、エイリアンと話すというのがあったんです。携帯電話とかポケベルとか流行ったときに個人的に興味があったんですが、携帯電話は機種やキャリアでシステムが違ったりして複雑じゃないですか。それで、携帯電話と繋がっていないけれど、ゲームボーイカラー単体でも会話をしているような楽しさが出せないかと思ったんです。

 それが宇宙人に電話するというアイディアなんです。宇宙人とどのようにコンタクトを取るかというと、普通の映画なんかだと人間は流暢に日本語を話して、エイリアンはなんか訳のわからない言葉を喋るじゃないですか。でも「ちっちゃいエイリアン」では、人間のほうが不自由で「ハヒフヘ、バビブベ、パピプペ」で宇宙人と喋って、エイリアンはバンバン喋って、こちらがうまく答えられなければつっこまれるというシステムにしたんです。

 そのころ「どこでもいっしょ」とかが流行っていて、ポスターのコピーかなんかで「なんでも知ってるヤツがいる」みたいなことが書いてあって、これは僕の発想とは違うなと思ったんです。「ちっちゃいエイリアン」では、むしろこちらが不自由なくらいの状況で意志を伝える努力をすると言うイメージが作られたんです。このアイディアは実際のゲームでは“ちゃいリアン”と遊ぶミニゲームの一つになってしまいましたが、それがゲームの根底に流れるキーポイントなんです。こういったアイディアの積み重ねから、“ちゃいリアン”の性格付けが生意気だけど憎めないと言うキャラクタになったんです。

 “ちゃいリアン”は研究ノートで説明とか見ることができますが、そこで放っておくと勝手に喋り始めるときがありますね。

田中宏和氏 会話に関してはとにかくたくさん入れようと思いました。というのも、普通のゲームでは、何度かやると同じ事を話したりするじゃないですか。それは中途半端ですよね。だからなるべくたくさんの会話ができるようにしたつもりです。

同じ“ちゃいリアン”でも腕が伸びたり足が伸びたりすることもある “ちゃいリアン”のリアクションや会話が千差万別で楽しい




 まだまだお話は続きます。後編では「ちっちゃいエイリアン」へのこだわりから、ゲームのこれからまで話題は広がりますので、お楽しみに。


(C)2001 Creatures Inc.

□関連情報
【1月19日】クリーチャーズ、新感覚“宇宙救済ゲーム”「ちっちゃいエイリアン」
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010119/creat.htm
【1月12日】次世代ワールドホビーフェア開幕
クリーチャーズがちょっと変わったゲームボーイカラー専用ソフトを展示
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20010113/whobby.htm

(2001年2月13日)

[Reported by 船津稔]


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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