昨今のeスポーツブームもあり、「ゲームをちゃんとプレイできる映像機器」への関心が高まっている。実際、ディスプレイ機器の売り場ではさまざまなゲーミングディスプレイが百花繚乱状態だ。そして、家庭でゲームを楽しむ場合だと、ゲーミングディスプレイ製品よりも「放送やその録画、配信サービスを多角的かつ大画面で楽しめるテレビ製品を選択したい」というニーズが依然と高い。
ただ、このテレビという製品、PCやゲーム機から画面に表示されるまでの時間について、メーカー(あるいは製品)ごとに大きな差がある。なので、テレビが映し出しているゲーム映像に絶対の信頼を置いてプレイするには、やや心許ない場合がある。
どういうことか? それは入力遅延、あるいは表示遅延ともよばれる「遅延」の大小だ。本稿では、この表示遅延の重要性を、プロゲーマーのガチくんにも協力してもらって検証していく。
表示遅延と応答速度は別モノ!
しばしば「液晶は遅延が大きいよね」と語られることがある。しかし、これは間違いだ。液晶分子自体に電圧が印加されると、遅延なく反応はする。そう、液晶画素は「この色にしてね」と赤緑青の各サブピクセルに指令が書き込まれたあと、遅延なしで反応を開始するのだ。
ただし「指定された色」になるまで数ミリ秒(ms)の時間を要する(1msは1,000分の1秒)。この所要時間は「応答速度」と呼ばれるが、遅延ではない。
秒60コマ(60fps)のゲームの場合、1フレームの表示時間は16.67(1,000/60)msなのに対し、最近の液晶パネルの応答速度はじゅうぶん速くなっており、速いもので1ms、かなり遅いものでも8msだ。日本メーカー製テレビに採用されているものであれば、3ms~5msといったところで、気にするほど遅くはない。
しかも、先ほど「遅め」として紹介した8msの液晶パネルでも応答している8msの間、画面が消えているわけではない。8msの時間の間に「指定された色」に段階的に切り替わるだけで、その変化中の画面はちゃんと表示されている。この応答速度が短ければ短いほど、表示映像の残像感が少なくなる。
この応答速度とは別に、テレビには「表示遅延」が存在する。これは厄介な問題なのだが、液晶の資質とは関係がない。この表示遅延は、映像パネル(液晶パネル)とは全く関係のないテレビ製品の基板部分で発生している。具体的には、テレビに入力された映像を高画質化するための、映像エンジン側で発生しているのだ。映像エンジンで映像高画質化処理が行なわれている間は、そもそも表示すべき映像信号が、映像パネルに到達してすらいない。逆に言うと、この映像高画質化処理が完了するまで、画面には表示されるべき映像が表示されないわけである。
これこそが「表示遅延の実態」であり、厄介なところなのだ。応答速度では「数msの時間をかけて、映像の表示を行なっている」と前述したが、「表示の取りかかり」がはじまる前の部分が表示遅延なのである。その時間たるや、多くの場合は、数msどころか数フレーム(1フレームは60fpsの場合で約17ms)発生する。高画質を謳う映像エンジンだと12フレームくらいの遅延が発生し、これは1フレーム16.67msの60fpsのゲーム映像に換算すると200ms。つまり、ゲームをプレイするさいに、本来の0.2秒前の映像を観ながらプレイすることになる。
応答速度と表示遅延は異質なものであり、表示遅延がゲームにとってとても厄介なものだということが理解できたのではないだろうか。
冒頭の「液晶は遅延が大きい」という「的を射ない指摘」は、おそらく、2000年代初頭の登場し始めの液晶テレビの液晶パネルの応答速度が遅く、なおかつ映像エンジンの表示遅延も大きかったために、「表示遅延と応答速度」を一緒くたにした誤解が発端だったのだろう。
なお、筆者は、この「表示遅延と応答速度」に関連した話題を深掘りした記事を、AV Watchに寄稿しているので、さらに深く知りたい人は当該記事「西川善司の大画面☆マニア『あなたのテレビは遅れてませんか? 知っておきたい“遅延”の話』」 を参照していただきたい。
世界王者ガチくんに挑戦 ~実力差をひっくり返しかねない表示遅延の大小
さあ、この表示遅延。どのくらいゲームにクリティカルなのかを、実際に見ていくことにしたい。ここで登場いただくのが、「ストリートファイターV」カプコンカップ2018年世界王者で、レッドブル・アスリートのプロゲーマーのガチくんだ。
ガチくんは、カプコンの格闘ゲーム「ストリートファイターV」を中心とした格闘ゲームをプレイする世界的に著名なプロプレイヤー。彼の腕前は、その華々しい経歴を見れば誰の目にも明らかではあるのだが、素人プレイヤーである筆者と対戦してもらうこととした。もちろん、使用するゲームは「ストリートファイターV チャンピオンエディション」だ。
「ストリートファイターV チャンピオンエディション」
PlayStation 4をレグザの43型4Kテレビの2019年モデル「レグザ 43Z730X」と接続し、対戦を行なう。「レグザ 43Z730X」は、倍速駆動パネル採用機。60fps(リフレッシュレート60Hz)のPlayStation 4と接続したとき、遅延が最も少ない「瞬速ゲームモード」時の遅延は倍速駆動パネル採用機の理論最小値である0.5フレーム(8.3ms)に対して、公称値として9.2msに収まっている(約0.9ms分が映像エンジン部の処理時間)!。これは業界最小レベルであり、1フレーム未満なので、ほぼ遅延は体感できないだろう。
ちなみに現在、「Z730Xシリーズ」の後継機種として発売されているのが「Z740Xシリーズ」になり、「瞬速ゲームモード」はそのまま搭載されており、高画質技術も進化しているので、さらにおススメである。詳細はレグザ公式HP より確認して欲しい。
なお、なぜ、倍速駆動パネル採用機では理論値0.5フレーム、8.3msの表示遅延が発生するかを知りたい方は、先にリンクを貼った筆者の解説記事を参照いただきたい。ちなみに、60fps(リフレッシュレート60Hz)のPlayStation 4と接続した時に、「Z730X」、「Z740X」シリーズより表示遅延が小さくなるレグザは、非倍速駆動パネル採用機の「M540X」シリーズ、「C340X」シリーズの2機種だ。これらのモデルの公称表示遅延値は約0.83ms。つまり60fps換算時で約0.05フレームとなる。
さて、筆者は「ストリートファイターV」にはそこそこ、腕に覚えがある。ラスベガスで開催された「EVO 2018」では一次予選のプール抜けをしたし、今やプレイヤーランクはSuper Diamondリーグで、世界ランキング上位約1%前後に至る。ガチくんをはじめとしたプロプレイヤー達は世界ランキング上位0.01%未満なワケだが(笑)。
当然、普通にプレイしたのでは、筆者はガチくんにまったく敵わないのだが、今回は、「実験」としてまず、2台用意した「レグザ 43Z730X」の内、筆者が使う方は超低遅延の「ゲームモード」とし、一方のガチくんが見る方の「レグザ 43Z730X」は、画質モード「標準」としてプレイしてもらうことにした。
「標準」モードでは、レグザの映像エンジンがフル稼動して映像の高画質化処理が行なわれる。入力された映像の11フレームを溜め込み、これから表示する映像フレームを基準にして過去5フレームと未来5フレームへ映像の相関性を解析して高画質化する。これにより映像は美しくなるが、一方で12フレームにも及ぶ遅延が発生する。12フレームは遅延時間にして約200ms。そう約0.2秒である。一瞬一瞬で適切な反応が求められる格闘ゲームで、この遅延は致命的とすら言える。
この状態でもガチくんは、持ち前の格闘ゲームプレイスキルと卓越したセンスで筆者の動きを予測するようなプレイを織り交ぜて立ち回るも、さすがに12フレームの格差があっては、筆者側の攻撃1つ1つに対する対応が間に合わない。筆者がストレート勝ちをする結果となった。
今回の実験はやや極端なものではあったが、表示遅延の大小が本来のプレイ実力差を埋めてしまうほどの要因となっていることを証明できたと思う。
表示遅延が大きいテレビでのゲームプレイは、徒競走でいえば「よーいドン」の合図を、表示遅延の小さいテレビでプレイするプレイヤーよりも遅れて出されて走り出すようなもの。この「時間差」は終始ついてまわり、プレイスキルの実力差では埋めようがない。逆に言えば、実力差が僅差であれば、表示遅延の小さいテレビを使っている側のプレイヤーの方が勝てる確率が増すことにもなるのだ。
これだけでは、筆者がハンデつきで勝って満足しただけになってしまうので、続いてガチくんにも瞬速ゲームモードを体験してもらうことにした。つまり、われわれ2人が同条件で勝負した。
さすがは世界のガチくん。筆者の使うバルログの強みを戦略的に抑え込み、さらに弱さを執拗に攻める立ち回りで、健闘も虚しく今度は逆にストレート負けを喫してしまう。とはいえ、これは想定どおりの結果なのである。
VIDEO
遅延ありと超低遅延の瞬速ゲームモードの2つを使い、ガチくんと筆者が対戦してみた
ガチくんに瞬速ゲームモードの感想を聞いてみたところ、普段利用しているゲーミングディスプレイと同等、あるいはそれ以上に遅延が少なく、これならプロも実力を遺憾なく発揮できるとのことだった。加えて、当然テレビとしても利用できるので、映画やドラマを観たりするのにも活用できるのがレグザの利点だ。
レグザは超解像4K化しても遅延に影響なし!
今回の実験では、レグザの映像エンジンがフル稼動する12フレームの格差があると、たとえプロゲーマーでも大きなハンデを背負うことがわかった。一方で、レグザの瞬速ゲームモードは、ゲーム専用に開発されたディスプレイに勝るとも劣らない低遅延であることもわかった。
じつは、世間で市販されているテレビ製品は、たとえ「ゲーム」モードにしていても、2~3フレーム分の表示遅延を伴ったものが多い(メーカーによってはもっと?)。レグザは、かれこれ12年にもわたって低遅延なゲームモードの開発研究をしていることもあり、瞬速ゲームモード時の表示遅延は、極めて理論値に近いところにまで落とし込めているため、プレイヤーの能力を遺憾なく発揮できる。なにしろ、業界で表示遅延の公称値を公開しているのはレグザだけ。絶大なる自信の現われと言えるだろう。
結論として、ゲームプレイのことを意識したテレビを選ぶ際にはレグザを選んでおけば間違いはない。
もう1つ最後に、レグザユーザーのゲームファン達に有益なTIPSを1つご提供しよう。その実現の仕組みは、上でリンクを貼った筆者の解説記事を参照いただきたいが、レグザは、追加の表示遅延なしで超解像処理を実行させることができている。つまり超解像処理を有効化しても、低遅延な「瞬速ゲーム」モードに影響を与えないのだ。
これは何を意味するか? たとえば、今回の実験で用いた「ストリートファイターV」のようなフルHD(1,920×1,080ドット)の解像度のゲーム映像に対して、超解像処理を適用し、4Kに高精細化しても、倍速駆動対応モデルならば9.2ms/0.55フレーム遅延、非倍速駆動モデルならば0.05フレーム遅延でゲームプレイが楽しめるのだ。
レグザは瞬速ゲームモードでも4K超解像処理ができる
ゲーム映像では、レグザの超解像技術のうち、特に再構成型超解像処理と自己合同性型超解像処理が効くので、4Kに対応していないはずのPlayStation 4版「ストリートファイターV」も、リアル4K映像のようにして楽しめる。ちなみに、再構成型超解像処理はテクスチャ表現の高解像化に効き、自己合同性超解像処理は輪郭線のジャギー低減に効く。
超低遅延でゲームをより快適に遊べるのに加え、高画質化も得られるのがレグザの瞬速ゲームモードの特徴なのだ。
4K超解像処理がかかった画像。文字のエッジが滑らか
こちらは意図的に超解像を切った映像。文字のエッジがギザギザなのがわかるだろう
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執筆:西川善司
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