山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第24回

「ファイナルファンタジーXV」の発売延期を僕は英断だと思うし、その選択が未来をきっと良くする話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

「ファイナルファンタジーXV」の発売日が11月29日に延期されました。

みなさんはどんな感想を持たれましたか?

おそらくは、残念に感じる人が多数のなか、
「いいゲームになってくれるなら、もう少し待てる!」
と前向きにとらえている人もいると思います。

僕は……

「良かった……」と、思いました。

GAME Watchでは、これまでの「FF15」に関するプレイ記事等を僕が書かせて頂いてまして、6月に開催された「E3」でのプレイレポートでは、その最後に懸念として、

「まだまだ完成度が低いところが散見され、発売日までの開発進捗に不安を感じている」という内容を書いていました。

また、今週にドイツはケルンにて開催されるゲーム品評会「Gamescom」では、当初の発売予定でマスターアップROM(製品としてディスクに収録される予定のデータ)にほぼ近い最新バージョンが出展されており、僕もそれをプレイさせて頂いてE3の時と同様にプレイレポートを書いたのですが、やはり完成度について言及せざるを得ないところはありました。(詳しくは後ほど掲載予定の記事をご覧ください)

もちろん、そのバージョンでも、少なくとも僕がプレイした範囲においてはプレイできるとは思えました。ですが、なにしろこれだけの規模のタイトルであり、「FF15」は特に期待が高まっているタイトルです。

細かな部分に調整不足を感じさせてしまう状態で発売されてしまうと、ゲーム好きのみなさんの“ゲームに期待する気持ち”が砕けてしまうのではないか、もうゲームに期待するのをやめよう……という人も出てきてしまうのではないか。そんな風に思えてしまうところすらあります。背負っているものはとても大きい。

昨今のタイトルであれば、俗に言う“Day1パッチ”……発売日に配信されるアップデートパッチでそうした細かな部分をなんとかするというのもよくあるケースで、「FF15」ももちろんDay1パッチを予定していると思いますが、ネット環境なしにアップデートせずプレイする人もいるでしょうし、Day1パッチをあてにするにしても、パッチを入れて一定のクオリティに到達するというギリギリの状況ならば、よりよい作品にするためにはそもそもにもっと時間が必要だと思えます。

ディレクターである田畑氏からは、発売延期の発表と同時に、延期の理由を説明する動画がYoutubeにて公開されました。そちらでも、やはり上記のようなお話をされています。

これまでに何度か「FF15」をプレイさせて頂いた僕の頭に、「延期できるのなら、したほうがいいのではないか」という考えが浮かんだことも正直に言うとあります。6月のE3、今週のGamescom出展バージョンのプレイレポート中にある指摘は、それがにじみ出ているところと言えます。

そんな気持ちを抱えていた僕なので、
延期の決定を知ったときには、

「良かった……」

と思ったというわけです。

“発売予定の納期よりもゲームのクオリティを優先する”というのは、ゲームファンからすると当然そうして欲しいというものなのですが、実際には難しいです。

ゲーム制作において“完成”というのはあやふやで形が決まっておらず、どこまで作り込むのか、どこで一区切りとするのか、という話になります。逆にその“完成”のラインを定めるために発売予定時期をまず決め、そこからの逆算で制作スケジュールがまとまっていくところもあります。

また、これだけの規模のタイトルで、いよいよ発売が近づいてきたというこの時期に2カ月の発売延期を決定するのは、とてつもないことだと思えます。延期したことでその対応や契約ごとに関する話し合いなど、新たに生まれる苦労もあるでしょうし、損失も大きいと思えます。

そうした事情や背景があるなか、「この状態で“完成”とする」という判断をして、予定どおり発売するという選択もあり得たと思います。むしろ発売後のアップデートをあてにして、そういう判断をするケースの方が昨今は多いのかもしれません。

でも、それでも「FF15」は発売の延期を決めたということ。

それは、「ファイナルファンタジー」というシリーズへのユーザーさんからの期待を裏切らないことを選択したと言えますし、ゲームシーン全体へのもっと将来的なものを守ることになる英断だと思います。

本当に心に残り、20年、30年と愛され続けるものを目指して妥協することなく作品を作りあげる。それは今の時代にはとても難しいことなのかもしれませんが、いつでもそれを待ち望んでいます。そうあって欲しい。

妥協せずに作り込むことを選んだこの選択は、きっと長期的にみれば大きな利益を生むはずだと、僕は信じたいです。

なお、約53分にわたる「FINAL FANTASY XV 開発最新バージョン ゲームプレイ動画」が公開されています。僕がGamescomにあわせてプレイさせて頂いたバージョンとほぼ同様で、プレイした範囲もほとんど同じものです。ネタバレを気にしないという人に限るところが若干ありますが、どのようなゲームになっているのか気になるという人はぜひご覧ください。

さてさて、8月12日には、「FF15」のテーマソング「Stand By Me」を含むミニアルバム「Songs from Final Fantasy XV」のデジタル配信が開始されました。収録曲は、

「Too Much Is Never Enough」
「Stand By Me」
「I Will Be」

と、フローレンス・アンド・ザ・マシーンによる3曲となっており、GooglePlayはこちらから、iTunesはこちらから購入できます。

PV等で公開済みだった「Stand By Me」は、有名曲でありつつも、主人公であるノクトの胸の内にもマッチする曲として紹介されていますが、そうなると他の2曲の歌詞はどうなのかが気になるところ。

「Too Much Is Never Enough」の歌詞を和訳してみると、印象的なものに「もっと時間が欲しかったのに言えなかった」、「あまりに多く、そして十分ではない」という歌詞が……ありまして……、……。違いますよ!延期の話じゃなくて!! おそらくこれも、突然に自分の置かれている立場が変わってしまうノクトの心境にリンクしている歌詞なのではないでしょうか。

あくまで僕の解釈ですが、父親であるレギスともっと話したかった、教えて欲しかったというような、ノクトの葛藤を表現している歌詞に思えます。

「I Will Be」の歌詞はというと、こちらはシンプル。「私は……になる。でもそれは言えない」(直訳だと“私は……になる。沈黙が私を包む”)」というニュアンスの4行を繰り返しています。

こちらは解釈が難しいですね。ノクトの心境でもあるかもしれませんが、ヒロインであるルナフレーナを表現しているのかも……とも思えます。

「Songs from Final Fantasy XV」のカバージャケットは、ホワイトに“15”を表わす「X」と「V」が組み合わされています

いずれも美しいボーカルの伸びをたっぷり味わえる曲になっていますので、興味のあるかたはぜひ、チェックしてみてください。

そして……、新たな発売日である11月29日を楽しみに待ちましょう。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。

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